2年生
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「......クロ??」
「おーい!!クロ!!」
「......」
「...返事しやがれ!!」
「いってぇーな!!」
ゴツンと頭上から叩き落とされたり鉄拳に遂に反応を示した黒尾は元凶とも言える人物を睨み付ける。が、そこには心底呆れ顔を浮かべる夜久と海がいた。
「何度も呼んでるのにお前が反応しないのが悪い」
「えっ!?そんなに呼んでたのか?」
「ホントに耳に入ってなかったんだな」
「俺達メチャクチャ呼んだんたからな!」
「そりゃあ、わりぃ」
本気で心配しだす彼らに黒尾はそんなに呼ばれてたか?と思いつつも平謝りをする。だが、それだけで彼らがいつもとおかしい黒尾に対する追求を止めるわけがなかった。
「んで???」
「なっ、ナンデショウカ?夜久パイセン?」
「授業中ですら上の空、加えて只今バレー絶不調...」
「痛いとこつくなよ」
「どんなことがあってもバレーに影響が無かったお前に何があったんだ??」
夜久の的確な指摘に黒尾は言葉を詰まらせた。雫の家に行って以降黒尾は絶不調の状態に化していた。授業中は上の空、それだけならまだしも私情を突っ込んだことがないバレーにさえ支障をきたし始めていたのだ。流石にこのままでは先行きが危ぶまれると夜久と海は口火を切り出したのだ。
「まぁだいたいは検討はつくけどな
なぁ〜、海?」
「そーだね」
「なんだよ、二人揃って」
もはや黒尾の悩みなんてわかっているかのように二人は顔を見合わせて愉しげに笑みを浮かべた。そんな彼らに黒尾は机に肘をついて不貞腐れた声を出した。
「だってな~」
「見守ってきた俺らからするとやっとかって思ってな」
「ホントだよな~
ってか、色々と拗らせすぎだっつーの!!」
「なんで夜久に叩かれなきゃいけねーんだよ!!」
夜久の拳骨を皮切りに黒尾は今まで我慢していた分のフラストレーションがピークを超える。だが、黒尾のムキになった返しに夜久はエッヘンと腰に手を当てて、黒尾にとって寝耳に水の爆弾発言を落とすのだった。
「決まってるだろ!俺は兄貴だからな」
「はぁ!?兄貴!?」
「驚くのはまだはやいぞ、クロ
これは夜久が自分で勝手に公言しているわけではないんだからな」
「そうだぞ!クロ!!
これは香坂の公認だからな!!」
「なぁ!?マジかよ…」
衝撃的な事実に黒尾はあんぐりと開いた口が塞がらない。そんな彼に夜久は今まで我慢していた分を吐き出すように悪人面を浮かべて拳を握るのだった。
「っーわけで、もう何発か殴らせろ!!
アイツを泣かせたバツだ!!」
「まっ…待て!!
ちょっと落ち着こうぜ!!夜久!」
「聞くか!バカ野郎!!」
海が微笑まし気に見つめる中、夜久の鉄拳が気が済むまで黒尾の頭上に降り注ぐのだった。
*****
「んで??ようやく想いを自覚したクロはなにウジウジしていらっしゃるのかな??」
「揶揄いたいんならご勝手にどーぞ」
ようやく気が済んだ夜久は、小さくため息をつきながら黒尾を問いただす。それにもうどうにでもなれと開き直った黒尾が手をひらひらと振る。だが、夜久と海は別にここぞとばかりに茶化したいというわけではなかった。困ったように二人は顔を見合わせて眉を顰めた。
「別に俺達は揶揄いたいわけじゃないよ。
ただ心配してるんだよ」
「海にはいいがなぁ…」
溜め息混じりに海を見ると黒尾は何か言いたげな表情で夜久に視線をやる。それに案の定、夜久が声をあげた。
「俺にはダメって言いたいのかよ」
「別にダメとは言ってないですケド?」
「だったらサッサと全部吐け!!」
意義は認めないと夜久はギラギラとした眼差しで黒尾を見る。このままでは話すまで解放してくれなそう二人に黒尾は肩をすくめるのだった。
「へぇ~なるほどなぁ
俺達が知らない間にそんなことがあったなんてな~」
一部始終を黒尾から聞き終えると夜久はニヤニヤと笑い出す。まさか自分たちの知らない間にそんなことがあるとは思っていなかったのだ。あの頑固なほど探りを入れても心情に変化がなかったバレー馬鹿の黒尾がこのわずかな期間で雫と進展しているとは予想以上だ。これでこれでめでたい話だし、このままゴールインしてくれればいいのだが、残念なことに事態は上手くいかないものだ。まさか雫が黒尾自身を拒絶するとは二人は流石に想定していなかったのだ。それによって、黒尾がバレーに支障きたすまで悩むことも驚きだが。
「でもらしくないなクロ
自覚したらすぐに行動に移すと、てっきり思っていたんだが」
「そーだよな!ウジウジ悩むなんてクロらしくねぇーよな」
だが、海と夜久は首を捻る。なんにでもそうだが、黒尾は引き下がるような性分ではない。ずる賢い頭脳を駆使して欲しいものには貪欲に手を伸ばそうとする、そのためには努力も惜しまない。なのに何もアクションを起こさないまま諦めるなんて、黒尾の今までの行動を知っている二人にとっては寝耳に水だったのだ。
そんなこと誰かに言われなくても一番自分がよくわかっていると黒尾は苦虫を潰した表情を浮かべて俯いた。飄々としている彼がここまで感情を表にだして憔悴しきっているのに驚く海と夜久。だが、ここでとある話を思い出しもしかしてとピンと閃いた表情を浮かべるのだった。
「…あぁ!!そういうことか!!」
「そういえばさ京極から俺達全部聞いちまってんだよなぁ~」
アイツが僕と香坂さんのことで引け目感じてたら存分に今の話使っていいから…
もうこの展開をわかっていたかのように確信的な笑みを浮かべながら吐き捨てた拓斗の言葉が夜久と海の脳裏に蘇る。
対して、夜久から拓斗の名前が出てくるとは思わなかった黒尾は心底嫌そうな顔つきをした。
「何をだよ……」
「惚気話??」
「……!?!?」
「冗談だ!じょーだん!!そんな真に受けるな」
わざとおちょくろうと放った言葉なのに、気づく素振りも見せず異様にビクリと反応を示す黒尾に、申し訳なささが上回り慌てて夜久は訂正する。そして、夜久と海は間髪入れずに爆弾発言を突き落としていくのだった。
「まず大前提にアイツラ付き合ってねーぞ」
「は?」
「今お試し期間中らしくて
京極は、香坂さんの返事待ち
だけど、拒絶されたってことは返事も秒読みなのかな?」
「でもよ~、キスすらしたことねぇーってアイツ嘆いてたよな」
「それは嘘だろ!
バレンタインデーの時に……」
「してねーとよ。
お前を牽制するためにわざとやったらしいぜ」
夜久と海は聞いた話をそのまま伝えていく。その話に対して想像通りすぎる黒尾の反応に、この展開を見事に当ててみせた拓斗を凄いと想うと同時に恐ろしいと内心でゾッと震えるのだった。
*****
双方部活を終えて待ち合わせして入ったファミレスで、グラスに入った氷をかき回しながら拓斗は嘆くように呟いた。
「僕が言っても聞き分けてくれなそうだから…」
盛大に肩をすくめる拓斗に、夜久と海と和真は怪訝な顔を浮かべる。
「それってお前限定じゃないのか??」
「拓斗が敵意剥き出しで接するからだろ!!」
「否定はしないね」
夜久と和真の指摘に対して反論することなく拓斗は答えた。実際事実だからだ。
「ちなみにここまで事情をこじらせたのも僕だね」
「そんな平然と言うなよ」
「でもまぁ、京極が引っ掻き回さなかったら確実に事態は動かなかったから結果オーライだろ」
「僕は損な役回りに回るつもりはなかったんだけどなぁ」
黒尾と雫の仲が良いのを周知なクラスメンバーは誰一人望み薄だとそうそうに諦めていた。そんな彼らの関係を見事に拓斗は引き裂いた。でも、拓斗もまさか本人が自覚していないとは思わなかったのだ。まぁ結果的にそれは拓斗のプライドを刺激してしまい、行動を起こさせてしまったわけだが。
「まず第1に僕たちは正式には付き合っていない」
「お!ようやく秘密聞けたな」
散々聞いてははぐらかされてきた和真にとってようやく拓斗の口から聞けたことに嬉しそうに口角をあけた。そんな和真に拓斗はやれやれと苦笑いを浮かべた。
「このような事態になっちゃったからね
まぁ今更隠しても仕方ないし」
「正式には??ってどういうことだ?」
「良い質問だ、海。
中々返事を貰えなかったから、お試し期間を設けようって持ちかけたんだ」
「それに香坂は頷いたってことだな」
「まぁそういうことだね」
「んで??後、拓斗は何やらかしちゃってんだ??」
海達の質問に答える拓斗の言葉を暫し黙って聞いていた和真が他には?と問いただす。だが、和真の表情は真剣な面持ちではなく何かネタを見つけたような愉しがっているように見受けられて拓斗は顔を顰めた。
「言い方酷くないか??」
「事実だろ」
バッサリと切り捨てられてしまった言葉に、反論する余地もなく拓斗はアハハと小さく乾笑を漏らした。
「まぁそうとも取れるか
後はね、バレンタインデーの時くらいかな??」
「あぁ!!もしかして黒尾が礼言わなかったのお前のせいか!!」
顎に手を当てて記憶をひねり出した言葉の内容に、夜久が思わず上半身を前のめりにさせた。散々発破をかけて行かせたのに、翌日問いただすとお礼を言えていないと言われたことに何故だ!?とずっと気がかりだったのだ。一方で、バレンタインデーの時になにかあったっけ??と和真は首を捻る。
「なに??いつそんなタイミングあった??」
「ライブが終わる時間に間に合うように俺たち、黒尾に発破かけて練習を切り上げさせて向かわせたんだ」
海の丁寧な説明で、そういえばあの後紗英とサッサと二人を残して帰ったなと和真は気づく。結局、自身の目で拓斗が何をしたかは目撃してないことに気づくと和真はニヤリと目を細めた。
「へぇ〜、それで拓斗は黒尾が見ている前で何したんだ?」
「ただ彼女の頬にキスしただけだよ
まぁ彼からは普通にキスしているように工夫したかな
牽制のつもりでね」
淡々と言いのける拓斗の対応に対して、海と夜久はたまらず縮み上がった。
「お前、おっかねーな」
「敵に回したくないな」
「お褒めの言葉どうも」
「お前!!褒めてねーからな!それ!!」
衝撃的な事実に驚きながらも拓斗ならやりかえないと和真がケラケラと笑う声が店内で暫く止むことはなかった。
*****
「結論から言うと、黒尾が引く必要はないってことだな」
「そうそう。だからサッサ行動しないと今度こそ持ってかれるぜ」
あの時の拓斗から聞かされたときのことを思い出しながらも、二人は結論を突きつけた。確実に今言えるのは、このままアクションを起こさなかったら雫は拓斗と付き合うことになるだろうということ。だが、傷つけた罪悪感からなのか中々黒尾は普段のふてぶてしいやつに戻らなかった。
そんな彼に痺れを切らした夜久がいい加減にしろとバンっと音を立てて立ち上がった。
「おまえいきなり割り込んできたやつに盗られて良いのかよ!!
アイツのこと好きなんなら今度はお前が追いかけて捕まえろよ
たまにはがむしゃらに思いの丈をぶつけてみろよ!!
最初から諦めるなんて俺は許さないからな!!」
声を荒げて夜久は目を醒ませと黒尾を睨みつける。そんな夜久に黒尾は目を丸くする。どうして目の前の彼らはここまで自分の背中を嫌というほど押してくれるのだろうかと。
「いい加減シャキッとしてくれませんかね?黒尾さんよ」
「俺たちは純粋にただ二人の仲を応援したいだけだよ」
やれやれと首を横に振り呆れた表情を浮かべる夜久の隣にいた海が黒尾の疑問に答えるように笑いかける。俺たちのしていることはただのお節介だからと言葉を添えて。
そんな彼らのお節介に黒尾は久々に笑い声を漏らす。ウジウジと悩んでいたことが馬鹿らしくなってきたのだ。急に笑い出す黒尾に対して夜久と海はとうとう頭が可笑しくなったかと眉を顰める。そんな二人に黒尾は久々に清々しい表情を浮かべるのだった。
「お前ら…ホントいいヤツ!!」
「サッサと元のプレーできるようになってほしいだけだっつーの!主将さんよ」
「ハハ!夜久は素直じゃないなぁ〜」
「それはお前だろ!!」
軽口を言い合いながら黒尾はお節介な彼らに内心で礼を言う。結局は何かを言い訳にしてずっと逃げていたのだ。でももう逃げるのはやめる。アイツの心が離れようとしているのなら今度は俺が引き止める。ようやく彼の心の中で覚悟が決まるのだった。。