1年生
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雫の目前で繰り広げられあう言い争い。思わず雫は目をパチパチと瞬きをした。互いを敵視しつついがみ合う彼らに一体なにがあったのだと呆気にとられつつ、雫はそんな二人の攻防を苦笑いしながら見ている青年に視線をやる。
「えっと…海くんだっけ??」
「うん、そうだよ
香坂さんはいつも黒尾と一緒にいるの??」
「うーん、なんだかんだだいたい一緒にいるね」
海の言葉で改めて考えてみると、黒尾が他の男子メンバーのとこに行かない限りは一緒に昼休みを過ごすことが多い。いつからこうなったのかは定かではないがこれが当たり前になっていただけあって、雫は思わず苦笑した。
「おかしいよね…
ただの仲のいい友達なだけなのに」
「そんなことないよ」
ほんわかな表情で、口調が柔らかい海に雫は段々と緊張感が和らいでいった。
「あのさ…1つだけ質問していい??」
「いいよ」
「あの五月蠅い言い争いってなんとかならないの??」
「うーん、おそらく無理だと思うよ」
「…どうして??」
雫の目の前では鬼のような形相で睨みあう黒尾と身長がバレー部としては低い青年…夜久がいた。事情を全く知らない雫は不思議そうに尋ねる。そんな彼女に海は事の経緯を話すのだった。それはバレー部仮入部初日の話だ。顔合わせした彼らは宜しくと挨拶を交わすのだが、黒尾は夜久に見覚えがあったため顔を一気に顰めたのだ。1年の頃、黒尾は夜久がいたチームに負けていたのだ。
「へぇ〜そうなんだ」
今も変わらないが、雫は黒尾が出るバレーの試合を観に行ったことはない。仮に観に行っていたとしても観客席からしか見れないため夜久のことを覚えていたかと尋ねられたかと答えは否だ。
「ねぇ〜、大人しく食事できないの〜?
小言いって啀み合ってないで、仲良くしたらどう?」
どう考えてもしょうもなさすぎることで啀み合っているこの状況に見ていられないと雫が遂に声を上げる。昨日の敵は今日の友ということわざがあるように、そんな3年も前のことなんか忘れて同じチームメイト仲良くすればいいのにと、呆れ顔を浮かべる雫。だが、盛大に言い争いをしていた両者は、ギロッと雫の方を向くのだった。
「「外野は黙ってろ!!」」
せっかく仲裁しようとした雫の想いは二人にとってはありがた迷惑。振り向くタイミングも、言い放った言葉も全く同じで息があっていると第3者は思うが当の本人たちは全く気づく様子がなく、またさきほどと同様競い合うように言い争いを始めるのだった。
「ね?無理だよって言ったでしょ?」
一喝されてしまい唖然とする雫に、海が苦笑いを浮かべた。
「でも、息あってたよ」
「当の彼らは全く気づいてないけどね
でもさ…」
「ん???」
言葉を区切った海は、嬉しそうに目を細めて言い争いを繰り広げる二人を見つめていた。そんな彼の先の言葉が気になり雫は首を傾げながら海の方を向いた。雫の視線に気づき海が視線を戻すと、ふっと微笑むのだった。
「絶対気づいたら、いいコンビになると思うんだ
二人共バレー馬鹿ぽいし」
「…そういう海くんは?」
「俺も人のことは言えないかな」
雫の返しに最初、豆鉄砲を食らったように驚く表情を見せる海だが帰ってきた言葉はやはり雫の予想通りで、互いにクスクスと秘密ごとを共有するように笑いあった。
「いつのまに香坂と仲良くなってんだよ、海」
おかしいと感じた黒尾と夜久が、クスクスと笑う雫と海を見て怪訝な顔を向ける。そんな二人の息があった振り向きにまたもや雫と海は楽しげに静かに笑った。
「二人が啀み合ってるから、香坂さんに相手してもらってたんだよ」
「そうそう!!」
「そんな盛り上がるって、何話してたんだよ」
「そんなの秘密に決まってるでしょ!
ねぇ!海くん!」
「香坂さんの言う通りだね
これは俺たちだけの秘密だよ」
夜久の純粋な問に二人は言えるわけがないと秘密ということにした。どうせ今言ったって、せっかく静まった言い争いが再熱しかねない。理解してもらえないとわかっているからこそあえて言わなかった。
二人の想いと反面、気に入らない、気に食わない、絶対に馬が合うわけがないと思う黒尾と夜久。だが、ある1件でその考えは180度変わってしまうのだった。
*****
「んん〜!!終わった終わった!!」
「この後、用事なかったらどっか寄ってくか??」
「お!!良いね良いね!!」
部活を終えて大きく伸びをする雫。その隣で並んで歩いていた和真が4人に案を提示。それにのっかるのはもちろん紗英。いつもなら、雫もその案にノリ良く答えるのだが、雫は視界に映った一角に吸い寄せられていた。
「どうしたの?香坂さん??」
「なになに??なにか見えた??」
「あの方角って、体育館しかないだろ」
雫の様子に不思議に思った拓斗が声をかける。その声にようやく雫に違和感を覚えた紗英と和真が雫の視線の先を確認する。だが、その先にあるのは光が漏れる体育館しかなかった。一体どうしたのだろう?と首を傾げる3人。そんな彼らの視線に雫はようやく気づくとゆっくりと顔を向ける。そして3人を見渡し終えるとアハハと愛想笑いを浮かべるのだった。
「ごめん!今回パス!!」
「えっ〜!!なんでよ!!」
「どうしても外せない用事を思い出してしまいまして…」
完全に見え透いた嘘をでっち上げる雫に、紗英以外の2人は唖然。だが、無理強いしてもしかたがないと和真と拓斗は顔を合わせて肩をすくめるのだった。
「だったら仕方がねーな」
「気をつけて帰ってね、香坂さん」
唯一理解しておらず不服そうに頬を膨らまして駄々こねる紗英を和真が引っ張り、拓斗は雫自身を気遣うセリフを言い残し3人はその場を後に。一方、3人を見届け終えると雫は急いで光が漏れる体育館に向かうのだった。そして、ゆっくりと雫は体育館の入口を開け中を覗き込む。すると、案の定そこには予想通りの3人がいたため雫は思い切り音を立てて中に入るのだった。
「ヤッホー!!3人共!精が出ますね〜」
突然の雫の乱入に、体育館に響いていたボール音と掛け声が止まる。一斉に、中にいた3人は入り口の方にバッと振り向いた。
「おぉ〜!香坂じゃないか!」
「部活お疲れ!!」
入り口にいるのが雫だと確認すると、陽気な声で黒尾と夜久が声を上げる。そして、すぐさま二人は声を掛け合い練習を再開した。そんな彼ら二人の様子に雫は目を白黒させた。啀み合っていた昼の様子が嘘みたいだと、横目でコート内を見ながら雫はニコニコとする海の元へ。
「この短時間でどういう心境の変化があったの?彼らは?」
「んん…それはね…」
勿体ぶる海からさっさと雫は知りたいがために小突いてみせる。そんな彼女からの小突きを受けながら海の中では数時間前の部活の映像が鮮明に浮かび上がっていたのだった。
「えー
恒例で1年に目標を言って貰う。
ちなみにチームとしての今年の目標は都大会ベスト8
じゃあ…1年一人ずつ」
部活の練習が始まる前、主将の一声で整列させられた1年は各々目標を言うように言われた。それに対し、一人一人と言われたはずなのに二人は同時に一歩前に出ると声高々と宣言をするのだった。
「「全国制覇っス!!!」」
発するタイミングも、口火を切るセリフも全く同じ。声が重なったことを確認した両者は、最初は啀み合うように顔を見合わせた。だが、同じ目標を持っていることに気づいた二人は互いに認めたようにニヤリと笑うと真っ直ぐ前を見据えるのだった。そんな彼らの様子にホッと胸を撫で下ろした海はゆっくりと彼らの横に並ぶ。
「右に同じです」
1年の思わぬ目標に2,3年生が言葉を失う中、黒尾と夜久と海の3人だけは強い眼差しを宿しているのだった。
「ねぇ〜、海くん!!」
痺れを切らした雫が先の言葉を催促する。思考を戻された海は視線を黒尾と夜久から隣に立つ雫に戻す。すると、そこには不満げな表情を浮かべる雫がいた。そんな彼女に海は、愉しげに眼を細めるのだった。
「………秘密かな」
「え??」
「でもそうだな、強いて言うなら」
海はあえて雫にこの事を口にしなかった。なぜだかわからないが、自分たちが抱いている目標をわざわざ言葉にしなくても雫にはわかってもらえているように思えたのだ。だからこそこの大きな目標を成し遂げるのを雫に見届けて欲しいと密かに海は思うのだった。
「俺らはホントにバレー馬鹿ってことで一致したって感じかな」
含みのある笑みで笑いかける海は、拍子抜けしてしまった雫を置き去りにして2人の練習に混ざり始める。一方、置き去りにされてしまった雫は楽しげにバレーに打ち込む彼らを見てクスリを小さく笑うのだった。
「バレー馬鹿…か」
何がきっかけで互いにいがみ合うのをやめたのかはわからない。それでも、バレー関連なのだろうと色々と疎い雫にでもわかった。いつの間にか海はコートにいる二人の練習に加わっていた。コート上に雫が眼をやると、そこにはがむしゃらにひたむきにバレーに向き合っている3人がいた。そんな彼らが輝いて見えて雫はすっと眼を細めた。ちょっとだけ羨ましいと感じたのは彼女だけの秘密。そして静かに邪魔にならないように見守っていた雫の身体は無意識の内に散らばったボールを拾いに動き出すのだった。