2年生
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「雫!!どう??」
「凄く似合ってるよ!紗英」
「ありがと、そういう雫もお似合いだよ」
互いに褒めあった二人はクスクスと笑みを漏らした。そんな彼女たちが着ているのは浴衣。普段は静かな夜の時間、なのに今日は一段と賑わっていた。それもそのはず、今日はこの地域一帯で毎年行われている夏祭りなのだ。
「はやく行こ!!」
「そうだね、待たせるわけにはいかないもんね」
もちろんこの二人も夏祭りの会場に向けて歩きだす。夏祭りに行こうと発案した言い出しっぺはもちろん和真と紗英だ。バンドメンバーで行こうとそこまでノリ気でなかった二人を半ば強引に誘ったのだ。このような展開は毎度だが、今回は珍しく拓斗が賛同の意志を示したのだ。よって3対1となって劣勢の状況に立たされてしまった雫は、まぁたまにはいいかと開き直ったのだった。
カラン、コロン…
二人は不慣れな下駄を鳴らしながら楽しげに、どの屋台を回るか?二人はどんな格好してくるか?等、道中楽しげに談笑をするのだった。
「あ!着いた着いた」
「二人はどこにいるかな」
「こんなに人がいたんじゃ探せないよ」
集合場所に到着した雫と紗英は辺りをキョロキョロと見渡す。 が、どこを見渡しても人、人、人…。顔の判別がつかないほどこの場所はごった返していたのだ。二人して無理だと諦め顔を浮かべ、紗英はスマホを探り出す。
「連絡すらきてないんですけど」
不平を漏らす紗英の手元にある画面を雫が覗くとそこには和真とのLINEが表示されていた。
「まぁまぁ、すぐ来るって…」
「まぁそうだね!気楽に待とうか!」
「わりぃ!待たせた」
「お待たせ」
言っている傍らから来る二人にタイミングを伺っていたのかと雫と紗英は怪訝な顔を浮かべるが、どうやら違うらしく少し息が上がっていた。二人の背後から現れた和真と拓斗は実際は彼女たちより早めに到着していたのだが、見事に逆ナン。その後必死に撒き、慌てて二人の姿を探し回っていたのだ。
「おっそーい!」
「だからゴメンって!色々とあったんだよ」
「色々って何よ!」
毎度の展開に拓斗と雫は苦笑い。で、実際は??と雫が拓斗に口火を切る。
「??何があったの?」
「実はファンです!っていう人達に囲まれちゃってさ」
「それは大変だったね」
「ホントだよ。すっごく疲れた。」
はぁと大きくため息を吐く拓斗にお疲れ様と雫は声をかける。それにありがとと拓斗は呟くと、ホッとしたかのように雫に微笑むのだった。
「まぁでも良かったよ、香坂さん達無事で」
「どういうこと?」
「今日の二人はいつも以上に可愛いからさ
攫われてないか心配で」
まぁ僕にとって一番は雫だけどね
耳元に囁かれた拓人の言葉に雫は一気に赤面する。そんな彼女の反応に対して拓人は満足げにクスクス笑うとそっと離れるのだった。
「ほら、二人共何時までも夫婦漫才してないでよ」
「どこが夫婦漫才よ!/だよ!」
「ハイハイ。二人が仲いいのはわかってるからこれ以上はやめようか。見てるコッチが恥ずかしい」
やれやれと頭を抱えた拓斗は、未だに言い争いを繰り広げる紗英と和真を何とか宥めようとする。が、そんなわけないと紗英と和真は頑固否定する。そんな彼らの息があった返しに拓斗は大きく項垂れ、雫は小さく苦笑いを浮かべるのだった。
*****
「あれ???」
雫は辺りをキョロキョロと見渡す。周囲はザワザワと賑やかに談笑する人たちが行き来する。そして、通路の両端には金魚すくい、射的、たこ焼き、焼きそば等ずらりと屋台が立ち並んでいた。しかし、この場がどこなのか?自分はなんでここにあるのか?雫にはわからなかった。ごった返している場で絶対にはぐれないと決めていたのに。知らないうちに雫は3人とはぐれてしまったのだ。
どうしよ…迷子になっちゃった!?
一気に雫の顔から血の気が失せる。慌てて誰かに連絡を取ろうとスマホを取り出す。が、電源が入ることがなかった。
「え!?電池切れてる!?」
嘘であってほしいと思ったが何度もやっても結果は同じ。画面は黒いまま。よくよく考えてみると昨日、さっきまでの行動を思い起こすと音楽をひたすら聞いていた記憶しかなく充電をした覚えは全くなかった。
「充電し忘れちゃったよ…」
ガックリと雫は項垂れるがこの状況が一転することはない。連絡することは早々に諦めて、雫はこの場を移動することに決めた。いつまでもここにいても彼らを見つけることは不可能だろう。きっと歩いていれば合流できるし、せっかくお祭り会場に来たのに楽しまないのはもったいない!雫は心を入れ替えて意気揚々と歩き出した。
「ねぇねぇ、可愛いお嬢さん?」
「連れいないの??一人??」
「俺たちと一緒に回らない??」
歩いて暫く雫は数人の男性に絡まれていた。雫は面倒臭そうに小さくため息をつくと、そのまま立ち去ろうとするが、彼らがそれを許すことはなかった。
「なんだよ連れないなぁ〜」
「1人なんでしょ?一緒に回ったほうが楽しいじゃん?」
「連れはいるんで結構です」
「まぁまぁそんなこと言わないでさぁ〜」
「連れと合流するまででいいからさぁ」
ガシッと手首を捕まれ、逃げ出すにも逃げ出せない。嫌悪感から雫は彼らを睨みつけるが全く彼らにとって痛くも痒くもなかった。
「離してください」
「ヤダね」
「折角だから楽しもうよ〜」
「ちょっ!!だから離してって!」
「.......おい!」
突如第3者の声が頭上から聞こえてきて、彼らは動きを止めた。恐る恐る見上げるとそこに居たのは真っ黒いオーラを出す真っ赤な赤色のジャージを着る人物だった。
「ソイツ、俺の連れなんだけど」
「だったらなんだよ!!」
「ご返却してくれませんかね?」
彼は雫を指差すとサッサと返せと催促する。最初は絡んでいた彼らは対抗心を燃やして歯向かっていた。が、彼の無言の圧力に怖気づいてしまうのだった。
「チッ!こんな奴要らねぇーよ!
サッサと連れてどっか行きやがれ!」
雫の手首を掴んでいた人物は盛大な舌打ちをすると、勢いよく投げつけるように雫の身体を押した。その衝撃で雫はバランスを崩し転びかけるが、その寸前で介入してくれた彼が受け止めた。
「ハイハイ、そうさせて頂きますよ」
雫を受け止めた彼は、彼らにに向けて一瞬ガンを飛ばす。そしてすぐさま元の表情に戻ると震えている雫の身体を抱き寄せその場を急いで立ち去るのだった。
「......黒尾」
「.......だいじょーぶか?」
「うん、ありがと」
「たく、何絡まれてんだよ」
「好きで絡まれているわけじゃないし」
その場を離れてようやく落ち着きを取り戻した雫が彼の名を呼ぶ。これは夢ではないかと半信半疑だったが頭上からかけられたのは自分を心配する優しい声だった。今、直ぐ手を伸ばしたところに彼がいる。それだけで雫の心はポカポカと温まった。
「黒尾はバレー部の人と来てるの?」
「まぁーな
でも、いつの間にかアイツラどっかいっちまってさ
で、探してたらぐーぜん絡まれてる雫ちゃんを見つけちゃったわけ」
小さくため息をつき黒尾は肩をすくめる。いつもと同じく部活を終えた黒尾達は、夜久の一声によって夏祭り会場を訪れていたのだ。
だが、少し目を離したすきに彼らとはぐれてしまったのだ。その代わりに黒尾の視界が捕らえたのは亜麻色の髪だったのだ。嫌でも目につく見慣れた髪色。無意識に黒尾の足はそちらに向いたのだ。
「それはそれは、すいませんでしたね」
「全然感謝されてない気がするのはきのせい??」
「じゅーぶん感謝してますよ?」
揶揄する黒尾に、対抗するように雫は軽くあしらう。そんな彼女の対応に黒尾は小さく笑みをこぼした。
「お前、連れは?」
「はぐれちゃった」
「なんだよ、俺と一緒じゃねーか」
「五月蠅いな」
黒尾の指摘に雫は不貞腐れたようにそっぽむく。だが、黒尾は気にすることなく続けて声をかける。
「連絡したのか?」
「………なんと充電切れです」
「マジかよ!!」
その黒尾の問に雫は、今はただの箱と化した自身のスマホを取り出して見せた。その予想外の雫の返しに黒尾は盛大に吹き出して笑い出した。
「そんな笑わなくていいでしょ!!」
「だってどうせ、音楽の聞きすぎで充電し忘れたんだろ?」
「………」
「ほら、図星」
ゲラゲラと笑い声を出して、涙目になりだす黒尾の放った的確すぎる指摘に雫は何も言えずに押し黙る。そんな彼女に相変わらずだなぁと黒尾はようやく笑い声を落ち着かせると自身のスマホを取り出し操作し始める。
「しゃーないから長谷川につないでやるよ」
「………待って」
どうせ雫の連れはバンドメンバーだろうと察しがついていた黒尾は同じクラスメートの和真に連絡を入れようとする。が、その黒尾の行動を雫はさりげなく黒尾の裾を引っ張ることで静止させた。
「どうした??」
スマホから視線を外した黒尾は引っ張られる裾の先を見る。そこには、顔を俯かせて下を向く雫がいた。ふと手が出てしまった雫は、数秒なにやってんだと己の心情を整理するのに時間を要した。ようやく心落ち着かせた雫はゆっくりと口を開いた。
「……………二人で回りたい」
でも、口走ってしまった言葉に雫はやってしまったと青ざめる。慌てて顔を上げると、そこにはハッと息を呑み、驚きで目を見開く黒尾がいた。バレー部の人たちと来ている黒尾が私と二人っきりで回るわけがないじゃないかと慌てて言葉を付け足す。
「ゴメン!!バレー部の人達と回りたいよね
私、何言い出してんだろ」
「いいぜ」
「え???」
アハハと笑いながら冗談だと訂正しようとする雫だが、黒尾の一声に雫は聞き間違えではないかと固まってしまう。そんな雫に黒尾は愉快げに口角を上げる。
「遂に音楽聞きすぎでお耳も悪くなっちゃったか??」
「…!?聴力はちゃんと正常です~!!」
「へぇ~、そりゃあよかったな」
「あっ、ちょっ!?手!!」
「またはぐれでもしたら探すの面倒だからな」
迷子予防と不敵な笑みを浮かべる黒尾。そんな彼があの時海に行ったときの彼の表情と被って雫は見えた。
「じゃあ、離さないでね」
「ハイハイ」
だが、前回と違い雫は黒尾の言葉に盛大な反応を示すことなくギュッと握り返した。その手の感触に黒尾が逆に驚くものの、顔に出すことなく平然を装った。
「香坂、スマホ貸せ」
「え??どうして??」
暫く歩いて、そうだと黒尾は思い出したかのように足を止め手を差し出した。その手と黒尾の顔を交互に見て雫は不思議そうに首をかしげる。そんな彼女に黒尾はため息交じりの言葉をかけるのだった。
「俺の充電器使わせてやる」
「おっ!気が利く~」
「ついでに誰でもいいから連絡入れとけ」
「はーい」
すっかり忘れていたと、雫は目を輝かせて黒尾から充電器を受け取る。そして慌てて充電器をさしスマホの電源を入れるとそこにはおびただしい数のLINEの通知と電話を知らせるものが表示されていた。雫は申し訳ないと思いつつ、紗英とのトーク画面を開いて、いくつか文字を打つ。自分自身は無事であることと、知り合いにあったからその人と一緒に回ることを伝えると雫はすぐに画面を暗くし、黒尾にはいっと充電器にさしたままのスマホを差し出した。
「ん??」
「黒尾のバッグについでにいれといて!」
「たく、しゃあないな」
今浴衣姿の雫が持っているのは巾着袋。充電器にさしたままのスマホをしまうのは無理だった。それを瞬時に把握すると仕方がないと黒尾はスマホを受け取り、自身が肩にかけているショルダーバッグにしまうのだった。