1年生
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「雫〜!今日、頑張ってね」
「絶対見に行くから!!」
バレンタインデー当日、雫を見かけるたびにライブのことを知っている知り合いから声を掛けられた。リーダーである和真が言いふらしたこともあるが、しっかりと告知を地道にしていったお陰でちゃんとライブのことは周知されてたらしい。
和真のはからいにより雫たちバンドチームは、地元のライブ会場で何度か混じらせて演奏をさせてもらっていたのだ。そして今回は、初のイベントライブ。頑張って宣伝したかいがあったと雫はウキウキな気分で教室に足を踏み入れた。
だが、それも一瞬で急降下。教室中に漂う甘い匂いが鼻についたのと、キャッキャと騒ぐ女子生徒達の声が煩わしいと感じてしまったのだ。それもあるがやっぱり一番は視界に入る一空間だった。
女子生徒が一番群がっている場所…
そこに目をやるとその中央にいたのは一つ一つ、わるいなっと言いながら受け取る黒尾の姿だった。
毎年見てきた光景なのだが、今回はやけに胸が締め付けられた。そりゃあそうだ。去年までは近くでモテまくる彼を存分に冷やかしまくってたのに、今年は遠巻きに見てるばかりか声すらかけられないのだから。
やはり勇気の一歩を出せず、雫は逃げるように目を逸らし急いで席につくのだった。
「夜久くん、いますか??」
中休みの間、雫は教室を飛び出して別の教室の前に立っていた。だが、夜久以外に知り合いがいるわけがなく雫は中々教室に入る勇気が湧いてこなかった。おずおずと雫は通りかかったこの教室の人であろう人に声をかけた。
「あぁ…夜久??いるよ」
そう言うと、おーい夜久!!お前に客だぞ!!と大声を出した。そのせいで一気に教室中の注目を集めてしまい、雫はその視線が痛くて思わず俯いた。ちなみに呼ばれた本人は、雫がいることに気づきバッと立ち上がった。そして、教室中に湧き上がる冷やかしムードを一蹴しながら夜久は雫の元へ駆け寄った。
「なになに??やっくんの彼女??」
「ちげーよ!!
ほら、香坂行くぞ!!」
呼び出した本人の彼女は駆け寄ってきた夜久をニヤニヤと見るが、夜久は即座に違うと否定し、俯き固まっている雫を心配しながら場所を変えるのだった。
「それでどうしたんだ??」
「実はコレを……」
雫は不思議そうに尋ねる夜久に持っていたものを差し出した。
「おっ!!香坂のチョコじゃん!!
ありがとな
って、なぜ袋が3つ??」
嬉しそうに受け取った夜久だが、なぜか手元に3つの袋があることに疑問を抱いた。その言葉に雫は後ろめたさと申し訳無い気持ちが渦巻いた。
「えっと…残り2つをバレーメンバーに渡してほしくて…」
「自分で渡せばいいだろ??
それともまだ気まずい??」
「それもあるけど…
あの女性がごった返す場に入り込めない」
「あぁ〜、あれは…まぁ…わからなくもない」
昼間の時を思い出した夜久は咄嗟に顔を顰めた。でもさ…と夜久は言葉を続けた。
「やっぱりせっかくの手作りなのに
もったいなくね??自分で直接渡さないの…」
「でも、もう渡す時間ないんだよね
授業終わったらすぐに学校でないといけなくて…」
「あぁ…そっか
わかった、渡しといてやるよ」
「ありがと…夜久」
渋々快諾した夜久に、雫は感謝の気持ちで一杯だった。
*****
「おい、お前ら!!!」
通常の部活練習を終え、さて練習するぞと張り切りだす黒尾達を夜久はちょっとこっちこいを手を招いた。
「どうした〜、夜久く〜ん??」
ニコニコと笑みを絶やさない海、それと相反しニヤニヤと口角をあげる黒尾が夜久の声で近づいてきた。
「ほら!!差し入れだ」
黒尾の表情をガン無視して夜久はカバンから取り出した2つの袋を海と黒尾に差し出した。
「どうしたんだ??そのチョコ??」
不思議に思いながら受け取る海。だが、それと対照的に黒尾はそれをあれっと受け取る手を止めて見ていた。
「おい、夜久」
「なんだ??クロ」
「これってもしかして……」
「お前が誰を想像してるかしんねぇーけど
当たってるぜ」
香坂からだ……
夜久の声で呼ばれた彼女の名前がイヤに黒尾の耳に残った。再び手元に視線を戻すと、毎年変わらない袋のデザインで包装されたチョコが入っていた。ただ違うのは、本人に直接渡されていないことだった。
「なるほどね、香坂さんか」
「たく…自分で渡せって言ったんだけどな
時間ないって頼まれちまったんだよ」
はぁ〜と大きくため息を付きながら夜久は頭を掻いた。
「そっか、今日ライブがあるんだったね」
「そうそう
練習なかったら聞きに行きたかったな
なぁ〜クロ」
海の納得した言葉に夜久が相槌を打つ。そして、そのまま完全にニヤリと口角をあげると悪人面で未だに上の空である黒尾に視線を移した。
「んん??何の話だ??」
「聞いてなかったのか??クロ??」
「わりぃ…」
やべっと現実に引き戻された黒尾は内心慌てながらも平然を装った。
「どーせ、香坂のことを考えてたんだろ〜」
「バッ…ッ!!馬鹿!!そんなんじゃねーよ」
「そう言っている時点で図星にしか聞こえないぞ、クロ」
おちょくり始めた夜久の指摘に、黒尾は慌てて否定するがその表情は赤く染まっていて説得力がないと海は苦笑するのだった。
「おい、クロ!!」
「……なっ、ナンデしょうか??」
「ちゃんとお礼言えよ!!」
「なんで俺にだけ言うのデスカ??」
「ひねくれてるクロにはしっかり釘は刺さねーと、そのまま忘れてたって誤魔化すだろ」
「アハハ、俺も夜久の意見に賛成だな」
「此処には俺をフォローしてくれる人はいねーのかよ」
完全に劣勢に立たされた黒尾は肩を落として大きく項垂れるのだった。
「よし!!覚悟決めたら
善は急げだ!!今すぐにお礼いってこい!!」
「はぁ!?!?今から!!!」
「練習少し早く切り替えていけば帰りの時間に間に合うだろ」
「確かにズルズル引きずるよりはいいんじゃないか??」
二人に言い負かされてそれはそうかと渋い顔をしながら黒尾は頷くのだった。
*****
「あっ!!忘れるとこだった!!」
無事にライブを終え外に出た一行。その時、雫は突然思い出したかのように声を上げた。そして慌ててカバンをひっくり返す勢いで目的のものを取り出した。
「じゃーん!!ハッピーバレンタイン!!」
「おっ!!俺も貰っちゃっていい感じか??雫」
「もちろんだよ、長谷川
いつもお世話になってるんだし」
「サンキュー!!」
「待ってました!!雫のチョコ!!!」
雫が持っているものに嬉しそうに飛びつくのは和真と紗英。
「で??僕のは
義理??本命??」
早速袋を開け始める二人を見ていた雫は急に死角から入ってきた拓斗の声にビクリと体を震わした。
「えっ…えっと…聞いちゃう??」
「そりゃあ聞いちゃうでしょ」
恐る恐る雫が振り向くと意外と至近距離に拓斗の顔があることに驚く。そんな彼女を見ながらクスクスと小さく拓斗は笑みを浮かべた。
そんな彼らをチョコを食べ終えた和真が、え!?っと目に映る光景に目を見張った。
「…お前ら、距離近くね〜か??
もしかしてっ!!いつの間にかくっついたのか!?」
「残念ハズレ
ただ今、絶賛アプローチ中で…
返事待ち」
「はぁ!?!?
待てお前ら!!いつからそんなに急展開な話しになってんだ!?
ちょっ、もうちょいくわ…」
「はーい!!か〜ずま!!
おじゃま虫は退散しようか」
拓斗の言葉に驚きの声を上げながら喰い付きはじめる彼を事情を知っている紗英がやんわりと静止する。そして、そのまま紗英は和真を引きずる形で二人に手を振ってこの場を離れるのだった。
「はぁ〜〜…心臓に悪い」
二人がいなくなり静かになった場で雫は大きくため息を吐きながら項垂れた。
そんな雫に拓斗は平謝りする。
「ゴメンゴメン、つい口が滑っちゃったよ
で??それ僕貰って良いんだよね」
「あ…うん
どうぞ」
拓斗が指差したのは、未だに雫の手元に残ってる1つの袋。確かにそれは拓斗に用意したものであるため雫は小さく頷くとそれを拓斗の手に置くのだった。
「ん…ありがと」
ニコリと微笑んで受け取った拓斗はすぐさま袋からチョコを取り出して口に含む。おいしいっと呟くと拓斗はそのまま雫の肩を掴んで自分の方へ引き寄せた。
「えっ…って、うわぁ!!」
急な拓斗の行動に受け身を取れず雫はそのまま拓斗の胸に身を預けるハメになってしまった。ギュッと抱きしめられたことに雫は戸惑いながら拓斗を見上げようとした。
「…京極??」
「このまま付き合っちゃう??」
「……!?!?」
僅かに体を身じろぐ雫の動きを止めるかのように、拓斗は雫の耳元に小さく囁いた。これが本気なのかわからない雫はどう答えたらいいかわからず、ただ鼓膜を揺らす拓斗の甘い言葉に赤面した。
完全に硬直状態になってしまった雫を抱きしめる力を拓斗は緩めて彼女の顔を覗き込んだ。予想通りの反応に拓斗はクスリと笑うとやんわりと先程の言葉を否定した。
「冗談冗談、嘘だよ
ちゃんと香坂さんの気持ちが決まるまで待つからさ
だから今日は……」
これで我慢しとくよ……
彼のいつもより小さく低い声とともに落とされたのはリップ音。雫は頬にキスされたと気づいたと拓斗が離れたことで気づくとハッと拓斗の方を見上げた。そこには口元に弧を描きしてやったりの顔を浮かべる拓斗がいた。だが、彼の瞳はある1点を見ていた。いや正確にはコチラ側を見ていたある人物がたまたま視界に入ったため、どうだっと目を光らせたのだった。そうとは知らず訝しべに自分を見る雫を見て、気づかれないうちに拓斗は視線をずらした。
「さて、帰ろうか
駅まで送るよ」
ようやく離してくれた拓斗の言葉に頷くと雫は歩きだした。雫は、彼の視線の先になにがあるのか気になったが、すでに歩き始めてしまった拓斗から距離が離れてはマズイと少し駆け足で拓斗の隣へいった。
この運命の悪戯は、雫にあえて見せようとしなかったのかもしれない。チョコのお礼を言いに練習をはやめに切り上げてここまできた彼が呆然と立ち尽くす姿を。
ガサガサ...
少女は歩きながら、
青年は脳裏に焼き残る光景を思い起こしながら、
二人は同じタイミングで袋からチョコを取り出し口へ放り込んだ。
いい加減私はこの恋に終止符を打たないといけないのに.....
これが最善だとこの結果を俺は望んでいたはずなのに......
嫌だ、諦めたくないと私の心は叫んでる
どうしてだか心がモヤモヤして、すごく胸が苦しい
何故あいつの隣にいるのが俺ではないのだろうと俺は思ってるのだろうか?
口内に広がるのはいつもと同じはずなのに、何故か今回はほろ苦く感じた。
「絶対見に行くから!!」
バレンタインデー当日、雫を見かけるたびにライブのことを知っている知り合いから声を掛けられた。リーダーである和真が言いふらしたこともあるが、しっかりと告知を地道にしていったお陰でちゃんとライブのことは周知されてたらしい。
和真のはからいにより雫たちバンドチームは、地元のライブ会場で何度か混じらせて演奏をさせてもらっていたのだ。そして今回は、初のイベントライブ。頑張って宣伝したかいがあったと雫はウキウキな気分で教室に足を踏み入れた。
だが、それも一瞬で急降下。教室中に漂う甘い匂いが鼻についたのと、キャッキャと騒ぐ女子生徒達の声が煩わしいと感じてしまったのだ。それもあるがやっぱり一番は視界に入る一空間だった。
女子生徒が一番群がっている場所…
そこに目をやるとその中央にいたのは一つ一つ、わるいなっと言いながら受け取る黒尾の姿だった。
毎年見てきた光景なのだが、今回はやけに胸が締め付けられた。そりゃあそうだ。去年までは近くでモテまくる彼を存分に冷やかしまくってたのに、今年は遠巻きに見てるばかりか声すらかけられないのだから。
やはり勇気の一歩を出せず、雫は逃げるように目を逸らし急いで席につくのだった。
「夜久くん、いますか??」
中休みの間、雫は教室を飛び出して別の教室の前に立っていた。だが、夜久以外に知り合いがいるわけがなく雫は中々教室に入る勇気が湧いてこなかった。おずおずと雫は通りかかったこの教室の人であろう人に声をかけた。
「あぁ…夜久??いるよ」
そう言うと、おーい夜久!!お前に客だぞ!!と大声を出した。そのせいで一気に教室中の注目を集めてしまい、雫はその視線が痛くて思わず俯いた。ちなみに呼ばれた本人は、雫がいることに気づきバッと立ち上がった。そして、教室中に湧き上がる冷やかしムードを一蹴しながら夜久は雫の元へ駆け寄った。
「なになに??やっくんの彼女??」
「ちげーよ!!
ほら、香坂行くぞ!!」
呼び出した本人の彼女は駆け寄ってきた夜久をニヤニヤと見るが、夜久は即座に違うと否定し、俯き固まっている雫を心配しながら場所を変えるのだった。
「それでどうしたんだ??」
「実はコレを……」
雫は不思議そうに尋ねる夜久に持っていたものを差し出した。
「おっ!!香坂のチョコじゃん!!
ありがとな
って、なぜ袋が3つ??」
嬉しそうに受け取った夜久だが、なぜか手元に3つの袋があることに疑問を抱いた。その言葉に雫は後ろめたさと申し訳無い気持ちが渦巻いた。
「えっと…残り2つをバレーメンバーに渡してほしくて…」
「自分で渡せばいいだろ??
それともまだ気まずい??」
「それもあるけど…
あの女性がごった返す場に入り込めない」
「あぁ〜、あれは…まぁ…わからなくもない」
昼間の時を思い出した夜久は咄嗟に顔を顰めた。でもさ…と夜久は言葉を続けた。
「やっぱりせっかくの手作りなのに
もったいなくね??自分で直接渡さないの…」
「でも、もう渡す時間ないんだよね
授業終わったらすぐに学校でないといけなくて…」
「あぁ…そっか
わかった、渡しといてやるよ」
「ありがと…夜久」
渋々快諾した夜久に、雫は感謝の気持ちで一杯だった。
*****
「おい、お前ら!!!」
通常の部活練習を終え、さて練習するぞと張り切りだす黒尾達を夜久はちょっとこっちこいを手を招いた。
「どうした〜、夜久く〜ん??」
ニコニコと笑みを絶やさない海、それと相反しニヤニヤと口角をあげる黒尾が夜久の声で近づいてきた。
「ほら!!差し入れだ」
黒尾の表情をガン無視して夜久はカバンから取り出した2つの袋を海と黒尾に差し出した。
「どうしたんだ??そのチョコ??」
不思議に思いながら受け取る海。だが、それと対照的に黒尾はそれをあれっと受け取る手を止めて見ていた。
「おい、夜久」
「なんだ??クロ」
「これってもしかして……」
「お前が誰を想像してるかしんねぇーけど
当たってるぜ」
香坂からだ……
夜久の声で呼ばれた彼女の名前がイヤに黒尾の耳に残った。再び手元に視線を戻すと、毎年変わらない袋のデザインで包装されたチョコが入っていた。ただ違うのは、本人に直接渡されていないことだった。
「なるほどね、香坂さんか」
「たく…自分で渡せって言ったんだけどな
時間ないって頼まれちまったんだよ」
はぁ〜と大きくため息を付きながら夜久は頭を掻いた。
「そっか、今日ライブがあるんだったね」
「そうそう
練習なかったら聞きに行きたかったな
なぁ〜クロ」
海の納得した言葉に夜久が相槌を打つ。そして、そのまま完全にニヤリと口角をあげると悪人面で未だに上の空である黒尾に視線を移した。
「んん??何の話だ??」
「聞いてなかったのか??クロ??」
「わりぃ…」
やべっと現実に引き戻された黒尾は内心慌てながらも平然を装った。
「どーせ、香坂のことを考えてたんだろ〜」
「バッ…ッ!!馬鹿!!そんなんじゃねーよ」
「そう言っている時点で図星にしか聞こえないぞ、クロ」
おちょくり始めた夜久の指摘に、黒尾は慌てて否定するがその表情は赤く染まっていて説得力がないと海は苦笑するのだった。
「おい、クロ!!」
「……なっ、ナンデしょうか??」
「ちゃんとお礼言えよ!!」
「なんで俺にだけ言うのデスカ??」
「ひねくれてるクロにはしっかり釘は刺さねーと、そのまま忘れてたって誤魔化すだろ」
「アハハ、俺も夜久の意見に賛成だな」
「此処には俺をフォローしてくれる人はいねーのかよ」
完全に劣勢に立たされた黒尾は肩を落として大きく項垂れるのだった。
「よし!!覚悟決めたら
善は急げだ!!今すぐにお礼いってこい!!」
「はぁ!?!?今から!!!」
「練習少し早く切り替えていけば帰りの時間に間に合うだろ」
「確かにズルズル引きずるよりはいいんじゃないか??」
二人に言い負かされてそれはそうかと渋い顔をしながら黒尾は頷くのだった。
*****
「あっ!!忘れるとこだった!!」
無事にライブを終え外に出た一行。その時、雫は突然思い出したかのように声を上げた。そして慌ててカバンをひっくり返す勢いで目的のものを取り出した。
「じゃーん!!ハッピーバレンタイン!!」
「おっ!!俺も貰っちゃっていい感じか??雫」
「もちろんだよ、長谷川
いつもお世話になってるんだし」
「サンキュー!!」
「待ってました!!雫のチョコ!!!」
雫が持っているものに嬉しそうに飛びつくのは和真と紗英。
「で??僕のは
義理??本命??」
早速袋を開け始める二人を見ていた雫は急に死角から入ってきた拓斗の声にビクリと体を震わした。
「えっ…えっと…聞いちゃう??」
「そりゃあ聞いちゃうでしょ」
恐る恐る雫が振り向くと意外と至近距離に拓斗の顔があることに驚く。そんな彼女を見ながらクスクスと小さく拓斗は笑みを浮かべた。
そんな彼らをチョコを食べ終えた和真が、え!?っと目に映る光景に目を見張った。
「…お前ら、距離近くね〜か??
もしかしてっ!!いつの間にかくっついたのか!?」
「残念ハズレ
ただ今、絶賛アプローチ中で…
返事待ち」
「はぁ!?!?
待てお前ら!!いつからそんなに急展開な話しになってんだ!?
ちょっ、もうちょいくわ…」
「はーい!!か〜ずま!!
おじゃま虫は退散しようか」
拓斗の言葉に驚きの声を上げながら喰い付きはじめる彼を事情を知っている紗英がやんわりと静止する。そして、そのまま紗英は和真を引きずる形で二人に手を振ってこの場を離れるのだった。
「はぁ〜〜…心臓に悪い」
二人がいなくなり静かになった場で雫は大きくため息を吐きながら項垂れた。
そんな雫に拓斗は平謝りする。
「ゴメンゴメン、つい口が滑っちゃったよ
で??それ僕貰って良いんだよね」
「あ…うん
どうぞ」
拓斗が指差したのは、未だに雫の手元に残ってる1つの袋。確かにそれは拓斗に用意したものであるため雫は小さく頷くとそれを拓斗の手に置くのだった。
「ん…ありがと」
ニコリと微笑んで受け取った拓斗はすぐさま袋からチョコを取り出して口に含む。おいしいっと呟くと拓斗はそのまま雫の肩を掴んで自分の方へ引き寄せた。
「えっ…って、うわぁ!!」
急な拓斗の行動に受け身を取れず雫はそのまま拓斗の胸に身を預けるハメになってしまった。ギュッと抱きしめられたことに雫は戸惑いながら拓斗を見上げようとした。
「…京極??」
「このまま付き合っちゃう??」
「……!?!?」
僅かに体を身じろぐ雫の動きを止めるかのように、拓斗は雫の耳元に小さく囁いた。これが本気なのかわからない雫はどう答えたらいいかわからず、ただ鼓膜を揺らす拓斗の甘い言葉に赤面した。
完全に硬直状態になってしまった雫を抱きしめる力を拓斗は緩めて彼女の顔を覗き込んだ。予想通りの反応に拓斗はクスリと笑うとやんわりと先程の言葉を否定した。
「冗談冗談、嘘だよ
ちゃんと香坂さんの気持ちが決まるまで待つからさ
だから今日は……」
これで我慢しとくよ……
彼のいつもより小さく低い声とともに落とされたのはリップ音。雫は頬にキスされたと気づいたと拓斗が離れたことで気づくとハッと拓斗の方を見上げた。そこには口元に弧を描きしてやったりの顔を浮かべる拓斗がいた。だが、彼の瞳はある1点を見ていた。いや正確にはコチラ側を見ていたある人物がたまたま視界に入ったため、どうだっと目を光らせたのだった。そうとは知らず訝しべに自分を見る雫を見て、気づかれないうちに拓斗は視線をずらした。
「さて、帰ろうか
駅まで送るよ」
ようやく離してくれた拓斗の言葉に頷くと雫は歩きだした。雫は、彼の視線の先になにがあるのか気になったが、すでに歩き始めてしまった拓斗から距離が離れてはマズイと少し駆け足で拓斗の隣へいった。
この運命の悪戯は、雫にあえて見せようとしなかったのかもしれない。チョコのお礼を言いに練習をはやめに切り上げてここまできた彼が呆然と立ち尽くす姿を。
ガサガサ...
少女は歩きながら、
青年は脳裏に焼き残る光景を思い起こしながら、
二人は同じタイミングで袋からチョコを取り出し口へ放り込んだ。
いい加減私はこの恋に終止符を打たないといけないのに.....
これが最善だとこの結果を俺は望んでいたはずなのに......
嫌だ、諦めたくないと私の心は叫んでる
どうしてだか心がモヤモヤして、すごく胸が苦しい
何故あいつの隣にいるのが俺ではないのだろうと俺は思ってるのだろうか?
口内に広がるのはいつもと同じはずなのに、何故か今回はほろ苦く感じた。