1年生
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ふわぁ……眠い
ヘッドホンから流れる音楽を聞きつつ雫は小さなアクビを噛み締める。今日は日曜日だが、文化祭の日程が少しずつ差し迫っている今はそんな事を言ってるわけにも行かず練習もために、雫は学校への道を歩いていたのだ。そんな彼女の背に追いつきとある人物がトントンと肩を叩いた。それに驚き振り向いた雫の瞳に映ったのは爽やかな笑みを浮かべる拓斗だった。
「おはよ、香坂さん」
「ふわぁ〜〜…おはよ、京極」
「眠そうだね」
「うん、凄く眠い」
拓斗の登場に慌てて雫はヘッドホンを首にかけ直す。そして、互いに挨拶を済ますと並んで学校へ歩き出した。ポツポツと話す間の途中途中でアクビを漏らす雫の様子に、拓斗は思わずクスリと笑みを浮かべる。そんな彼に言い返すことはなく雫はアクビのしすぎで出る涙を拭いながらも肯定の意志を示すように小さく頷いた。
こんな失態するならサッサとベッドに潜ればよかった…
昨晩の行いに秘かに反省する雫。そんな彼女の耳に静かな朝に響く掛け声と独特のボールの音が聞こえてきた。その方向に目をやると普段、部活帰りに顔を出す体育館があった。
「こんな朝はやくから活動している部活があるんだね」
「そういえば、今日って…」
足を止めた雫に習うように止まった拓斗がポツリと漏らした言葉を横耳にはさみながら雫は思考を巡らした。
8月の最終日の日曜日ってなんかあったような……
「そういえば、黒尾っていつ予定空いてるの??」
「あぁ…えっとだな」
夏休み前に、予定を合わせるべくふと雫は尋ねる。それに完全に頭から抜けていた黒尾はスマホを取り出してカレンダーを開き、雫に見えるように見せた。
「わぁ…合宿沢山あるんだね」
「まぁーな」
長期休みの夏休みにあるのはわかるが、他の日程を見せてもらうとところどころの土曜・日曜に定期的に合宿の文字が入っていた。梟谷学園グルーブに属している音駒高校は、他の3校と頻繁に集まって合同合宿を行っているのだ。
どの高校も強いチームらしくそのことを熱く語り始める黒尾の話に雫は耳を傾けながら相槌をうった。普段は喰えない性格で腹の底がさっぱりわからない黒尾だが、バレーの話をする時は表情がコロコロ変わるのだ。そんな表情を見てるとホントに彼はバレーが大好きなんだと実感せずにはいられなかった。
「京極、先行ってていいよ」
黒尾の予定表には確か、この日は音駒高校で合同合宿と書いてあった気がすると思った雫は時間を確認すると、拓斗に一声かけ体育館へ行こうとする。が、拓斗はそのまま部室へ行こうとはしなかった。
「僕も行くよ」
「えぇ??」
「ただ単に僕も興味を抱いたからさ」
驚き言葉を失う雫に拓斗は笑いかけるとほら早く行こと雫を促し、二人は音のする体育館へ向かうのだった。
「どっか開いてるかな」
「流石に熱中症防止のために1箇所くらい開けてるんじゃない?」
体育館の近くまで来た二人は、どこからか中を覗ける場所がないかと探していた。
「あっ!!みっけ!!」
ようやく開いている場所を見つけると雫は嬉しそうにそこへ駆け寄った。高鳴る心臓を抑えつつ雫は、練習の邪魔にならないようにそっと顔を出して体育館内を覗き見た。
雫の視界に広がったのは、2箇所に設置されているバレーのネットを挟んで、1つのボールを落とさぬように自コートで拾い、相手コートに叩き込み、そのボールをブロックする人たちだった。流石に4校集まっているだけあって、人が沢山いて彼らの熱気が充満していた。
「…す、凄い」
いつも3人の練習サポートしかしてない雫にとって、初めて目近で見る本格的なバレーの試合だった。単純に拾って繋げて打つだけの動作なのに、瞬く間に雫は惹きつけられた。
「へぇ〜、他の高校もいるんだ」
「定期的に梟谷グループで合同合宿してるんだって
確か、東京の私立高校の梟谷学園と、埼玉の私立高校の森然、神奈川の私立高校の生川だったかな」
「いろんなことから集まってんだね」
雫の頭上から覗き込んだ事情を知らない拓斗に雫は、黒尾に教えてもらった知識をフル活用して説明した。
「……あれ??」
「どうしたの?香坂さん」
「あ…い…いや」
ある一点を見つめて表情を曇らせる雫。不思議に思い拓斗は雫の視線の方へ眼をやった。そこには音駒の選手達がいて、当然いつもクラスに居るときに雫の近くにいる彼ら3人の姿も捉えられた。でも、3人はコート上でボールを追いかけ回しているわけではなかった。マネージャーがいないためか、その仕事をしつつ試合の応援をしていたのだ。
「あ…もしかしてレギュラーに入ってると思ってたの??」
「うん…それもあるけど…」
拓斗の鋭い指摘に雫は戸惑いながら頷いた。素人目線になってしまうが、雫から見るとどうしてもコート上にいる人達は黒尾達と比べて劣っているように見えてしまったのだ。
その事を雫は拓斗に伝わるように頭で整理しながら伝えた。雫の言葉に口を挟むこと無く真剣に聞いていた拓斗は、聞き終えるとそういえばと口を開いた。
「ウチの高校のバレー部、れっきとした体育会系らしいよ
先輩後輩の上下関係がはっきりしてるんだって」
まぁ噂で聞いた話だけど、雫の話とこの状況を照らし合わせると事実ぽいねと拓斗は苦笑いを浮かべた。
「そ…そうだったんだ」
あんなに懸命に練習している3人の姿を見ていててっきりバリバリレギュラーとして活躍していると勝手に雫は解釈していたのだと気づいた。頭をガツンと殴られた心地に陥った。まさかの逆だった。まともに練習できない環境だからこそ彼らは残って自分たちで考えて練習をしていたのだ。
「やっぱ、凄いなぁ…
尚更邪魔できないや」
ポツリと淋しげに呟いた雫の声は、練習試合をする選手たちの声にかき消されるように消え去り、近くにいた拓斗の耳にすら入らなかったのだった。
*****
合宿2日目、早朝から始まった練習に目の前の試合に掛け声を掛けつつ飲み物を用意したりとマネージャーの仕事もこなしていた黒尾はふと無意識に1箇所だけ開いている扉に眼をやった。
え……
黒尾の視界の端に映ったのは、見に覚えのある亜麻色の髪。風に吹かれて靡いた亜麻色の髪は太陽に照らされキラキラと輝いて見えた。こんな特徴のある髪色を持つ人物を黒尾は一人しか知らない。だが、彼女の隣には一人の人物がいた。思わず黒尾は顔を顰めた。シルエットだけでしか識別できないが、黒尾の脳裏にある人物が浮かび上がった。名前は知らないし話したことすらない。だが、何故か黒尾は急にムシャクシャした気持ちに陥った。
楽しげに言葉を掛け合いながら視界から消えていく二人の背を黒尾は見えなくなるまで追っていた。そんな彼を見て近くにいた夜久が不審に思いたまらず小突いた。
「おい、クロ何してんだよ」
「えっ、あ…わりぃ」
「サッサと仕事片付けねーと怒声浴びる羽目になるぞ」
「わっかーてるって」
小さく黒尾にだけ聞こえるように耳打ちされた夜久の言葉に黒尾は苛立ちを滲ませる。
んっ??
さっきと明らかに様子が可笑しい黒尾の様子に夜久は検討がつかず、動かせてを止めること無く眉間にシワを寄せる。そんな彼を放って仕事に戻る黒尾。一方、疑問を抱いた夜久は黒尾が視線を外した場所を慌てて覗き見た。すると、そこにあったのは仲睦まじく、雫と拓斗が並んで歩いている光景だった。
「へぇ〜」
夜久はまたからかうネタが増えたと愉しげに笑みを浮かべる。そんな彼に海が違和感を覚えてゆっくりと近づく。
「夜久?どうしたんだ?」
「いや、さっさとアイツラくっつけばいいのになって思ってさ」
「アイツラ??」
「俺らにとってアイツラって言ったら1組しかないだろ?」
「まぁ、そうだね」
黒尾が近くにいないことを確認すると夜久が心の声を漏らした。見ていてじれったくてしょうがないあのコンビ。海も脳裏に思い浮かべて思わず苦笑いをした。だが、外野が何を言っても意味ないだろうと夜久の肩を小さく叩いて宥めるのだった。そんな彼らは知る由もなかった。少しずつ歯車が噛み合わず、狂い始めていることに。
ヘッドホンから流れる音楽を聞きつつ雫は小さなアクビを噛み締める。今日は日曜日だが、文化祭の日程が少しずつ差し迫っている今はそんな事を言ってるわけにも行かず練習もために、雫は学校への道を歩いていたのだ。そんな彼女の背に追いつきとある人物がトントンと肩を叩いた。それに驚き振り向いた雫の瞳に映ったのは爽やかな笑みを浮かべる拓斗だった。
「おはよ、香坂さん」
「ふわぁ〜〜…おはよ、京極」
「眠そうだね」
「うん、凄く眠い」
拓斗の登場に慌てて雫はヘッドホンを首にかけ直す。そして、互いに挨拶を済ますと並んで学校へ歩き出した。ポツポツと話す間の途中途中でアクビを漏らす雫の様子に、拓斗は思わずクスリと笑みを浮かべる。そんな彼に言い返すことはなく雫はアクビのしすぎで出る涙を拭いながらも肯定の意志を示すように小さく頷いた。
こんな失態するならサッサとベッドに潜ればよかった…
昨晩の行いに秘かに反省する雫。そんな彼女の耳に静かな朝に響く掛け声と独特のボールの音が聞こえてきた。その方向に目をやると普段、部活帰りに顔を出す体育館があった。
「こんな朝はやくから活動している部活があるんだね」
「そういえば、今日って…」
足を止めた雫に習うように止まった拓斗がポツリと漏らした言葉を横耳にはさみながら雫は思考を巡らした。
8月の最終日の日曜日ってなんかあったような……
「そういえば、黒尾っていつ予定空いてるの??」
「あぁ…えっとだな」
夏休み前に、予定を合わせるべくふと雫は尋ねる。それに完全に頭から抜けていた黒尾はスマホを取り出してカレンダーを開き、雫に見えるように見せた。
「わぁ…合宿沢山あるんだね」
「まぁーな」
長期休みの夏休みにあるのはわかるが、他の日程を見せてもらうとところどころの土曜・日曜に定期的に合宿の文字が入っていた。梟谷学園グルーブに属している音駒高校は、他の3校と頻繁に集まって合同合宿を行っているのだ。
どの高校も強いチームらしくそのことを熱く語り始める黒尾の話に雫は耳を傾けながら相槌をうった。普段は喰えない性格で腹の底がさっぱりわからない黒尾だが、バレーの話をする時は表情がコロコロ変わるのだ。そんな表情を見てるとホントに彼はバレーが大好きなんだと実感せずにはいられなかった。
「京極、先行ってていいよ」
黒尾の予定表には確か、この日は音駒高校で合同合宿と書いてあった気がすると思った雫は時間を確認すると、拓斗に一声かけ体育館へ行こうとする。が、拓斗はそのまま部室へ行こうとはしなかった。
「僕も行くよ」
「えぇ??」
「ただ単に僕も興味を抱いたからさ」
驚き言葉を失う雫に拓斗は笑いかけるとほら早く行こと雫を促し、二人は音のする体育館へ向かうのだった。
「どっか開いてるかな」
「流石に熱中症防止のために1箇所くらい開けてるんじゃない?」
体育館の近くまで来た二人は、どこからか中を覗ける場所がないかと探していた。
「あっ!!みっけ!!」
ようやく開いている場所を見つけると雫は嬉しそうにそこへ駆け寄った。高鳴る心臓を抑えつつ雫は、練習の邪魔にならないようにそっと顔を出して体育館内を覗き見た。
雫の視界に広がったのは、2箇所に設置されているバレーのネットを挟んで、1つのボールを落とさぬように自コートで拾い、相手コートに叩き込み、そのボールをブロックする人たちだった。流石に4校集まっているだけあって、人が沢山いて彼らの熱気が充満していた。
「…す、凄い」
いつも3人の練習サポートしかしてない雫にとって、初めて目近で見る本格的なバレーの試合だった。単純に拾って繋げて打つだけの動作なのに、瞬く間に雫は惹きつけられた。
「へぇ〜、他の高校もいるんだ」
「定期的に梟谷グループで合同合宿してるんだって
確か、東京の私立高校の梟谷学園と、埼玉の私立高校の森然、神奈川の私立高校の生川だったかな」
「いろんなことから集まってんだね」
雫の頭上から覗き込んだ事情を知らない拓斗に雫は、黒尾に教えてもらった知識をフル活用して説明した。
「……あれ??」
「どうしたの?香坂さん」
「あ…い…いや」
ある一点を見つめて表情を曇らせる雫。不思議に思い拓斗は雫の視線の方へ眼をやった。そこには音駒の選手達がいて、当然いつもクラスに居るときに雫の近くにいる彼ら3人の姿も捉えられた。でも、3人はコート上でボールを追いかけ回しているわけではなかった。マネージャーがいないためか、その仕事をしつつ試合の応援をしていたのだ。
「あ…もしかしてレギュラーに入ってると思ってたの??」
「うん…それもあるけど…」
拓斗の鋭い指摘に雫は戸惑いながら頷いた。素人目線になってしまうが、雫から見るとどうしてもコート上にいる人達は黒尾達と比べて劣っているように見えてしまったのだ。
その事を雫は拓斗に伝わるように頭で整理しながら伝えた。雫の言葉に口を挟むこと無く真剣に聞いていた拓斗は、聞き終えるとそういえばと口を開いた。
「ウチの高校のバレー部、れっきとした体育会系らしいよ
先輩後輩の上下関係がはっきりしてるんだって」
まぁ噂で聞いた話だけど、雫の話とこの状況を照らし合わせると事実ぽいねと拓斗は苦笑いを浮かべた。
「そ…そうだったんだ」
あんなに懸命に練習している3人の姿を見ていててっきりバリバリレギュラーとして活躍していると勝手に雫は解釈していたのだと気づいた。頭をガツンと殴られた心地に陥った。まさかの逆だった。まともに練習できない環境だからこそ彼らは残って自分たちで考えて練習をしていたのだ。
「やっぱ、凄いなぁ…
尚更邪魔できないや」
ポツリと淋しげに呟いた雫の声は、練習試合をする選手たちの声にかき消されるように消え去り、近くにいた拓斗の耳にすら入らなかったのだった。
*****
合宿2日目、早朝から始まった練習に目の前の試合に掛け声を掛けつつ飲み物を用意したりとマネージャーの仕事もこなしていた黒尾はふと無意識に1箇所だけ開いている扉に眼をやった。
え……
黒尾の視界の端に映ったのは、見に覚えのある亜麻色の髪。風に吹かれて靡いた亜麻色の髪は太陽に照らされキラキラと輝いて見えた。こんな特徴のある髪色を持つ人物を黒尾は一人しか知らない。だが、彼女の隣には一人の人物がいた。思わず黒尾は顔を顰めた。シルエットだけでしか識別できないが、黒尾の脳裏にある人物が浮かび上がった。名前は知らないし話したことすらない。だが、何故か黒尾は急にムシャクシャした気持ちに陥った。
楽しげに言葉を掛け合いながら視界から消えていく二人の背を黒尾は見えなくなるまで追っていた。そんな彼を見て近くにいた夜久が不審に思いたまらず小突いた。
「おい、クロ何してんだよ」
「えっ、あ…わりぃ」
「サッサと仕事片付けねーと怒声浴びる羽目になるぞ」
「わっかーてるって」
小さく黒尾にだけ聞こえるように耳打ちされた夜久の言葉に黒尾は苛立ちを滲ませる。
んっ??
さっきと明らかに様子が可笑しい黒尾の様子に夜久は検討がつかず、動かせてを止めること無く眉間にシワを寄せる。そんな彼を放って仕事に戻る黒尾。一方、疑問を抱いた夜久は黒尾が視線を外した場所を慌てて覗き見た。すると、そこにあったのは仲睦まじく、雫と拓斗が並んで歩いている光景だった。
「へぇ〜」
夜久はまたからかうネタが増えたと愉しげに笑みを浮かべる。そんな彼に海が違和感を覚えてゆっくりと近づく。
「夜久?どうしたんだ?」
「いや、さっさとアイツラくっつけばいいのになって思ってさ」
「アイツラ??」
「俺らにとってアイツラって言ったら1組しかないだろ?」
「まぁ、そうだね」
黒尾が近くにいないことを確認すると夜久が心の声を漏らした。見ていてじれったくてしょうがないあのコンビ。海も脳裏に思い浮かべて思わず苦笑いをした。だが、外野が何を言っても意味ないだろうと夜久の肩を小さく叩いて宥めるのだった。そんな彼らは知る由もなかった。少しずつ歯車が噛み合わず、狂い始めていることに。