2年生
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「珍しいね〜、京極が雫を私に押し付けちゃうんなんてさ」
「そ…そうだね」
いつもの昼休み。だが、今回はバンドメンバーの男子勢が2人揃ってこの場にはいなかった。チャイムが鳴ったと同時に拓斗は紗英に耳打ちをしてさっさと教室を出ていってしまったのだ。この状況に疑問を抱きながらも紗英は、目の前で反応が薄い雫を怪訝な眼で見ていた。だが雫は目の前の紗英の様子に気づく状態ではなく、曖昧に相槌をウチながら手を動かしていた。
「ねぇ〜、雫〜」
「………」
「雫ってば!!」
「えっ、な…なに??」
紗英の声にハッとして雫が顔を上げる。そんな彼女に紗英は呆れ顔を浮かべていた。
「何があったの??」
「べ…別になにもないよ」
「雫、嘘下手くそ過ぎない??」
しらばっくれようとする雫を紗英が逃すはずがなく、鋭い眼差しを雫に紗英は向けた。
「夏祭りで会った知り合いって黒尾くんなんでしょ」
「………どうしてそう思うの??」
「私の勘がそう言ってる」
「紗英の勘当たるの??」
「失礼な!そこそこいい勘持ってんだよ!私」
紗英の口から発せられた名前に雫はドキッとする。が、かろうじて平然を装った。紗英が確証を持っているはずがなかったから。案の定、確証を持っていない紗英は女の勘だと得意げに笑う。そんな紗英の言葉に自然と雫は笑みをこぼすようになっていた。
「まぁ無理には聞いても無駄だと思うので……」
紗英は笑みをこぼすようになった雫にホッと胸を撫で下ろすと、自身の机からおもむろに何かを取り出す。その行動に雫は不思議に思いながら何が出てくるのかと見守った。
「はい!!じゃじゃーん!!」
「……ただのルーズリーフじゃん」
「それだけじゃない!!」
「………普通のペンだよね???」
紗英がもったいぶって出したのはルーズリーフとごく普通の黒いペン。何をしたいのだと怪訝な表情を浮かべる雫に、紗英は得意げに大きく頷く。
「そのとおり!!紙とペンです!!
これを雫に贈呈します!!」
「いや、私それくらいなら持ってるけど……」
紗英の真意がわからず、遂に紗英がおかしくなってしまったのかと雫は眉間にシワを寄せる。そんな雫にお構いなく紗英は強引に取り出したルーズリーフを雫の目の前に置き、ペンを持たせた。
「………紗英??」
強引にだが紗英の手はとても優しく、雫はまじまじと紗英を見つめ返してしまった。そんな雫の視線に耐えきれず紗英はゴホンと小さく咳き込んだ。
「そんなに見つめられたら照れちゃうじゃない??」
「…紗英は私に何をしてほしいの??」
「私はただ雫がちゃんとこれだって思える選択をしてほしいだけだよ」
紗英は両肘を机につくと、まっすぐ雫を見つめ返した。気持ちの整理がついていなくどうすればいいのかわからぬ迷っている雫自身が心を決めて最善の行動ができるようにと、紗英は思っていた。
「うだうだとさ、考え込んでも仕方ないでしょ
だからさ、紙に綴ったらどうかなって」
「紙に綴る??」
「そうそう!!どう想っているか拙くてもいいから書き殴るの!!
雫の率直な気持ちをさ!!」
未だにピンときていない雫に紗英は前のめりになる。これはなんとかして紗英がひねり出した策だった。誰かに悩みを打ち明けられないほど雫の気持ちが定まっていないなら、しっかりと雫が自分の気持ちに向き合えばいいのではないかと。
「………やってみようかな」
「ホントに!?!?」
「…うん」
雫は小さく頷くと大事そうに、受け取ったペンとルーズリーフを抱え込むのだった。
*****
バン!!!
黒尾の目の前にとあるプリント類が突きつけられる。それに目を白黒させると黒尾はこのプリント類の束を机に無造作に置いた人物を怪訝な顔で見上げた。
「……何の御用で??」
「何だと思う??」
「さっぱりわからねぇんだけど」
「あっそ」
黒尾にプリントを叩きつけた拓斗は、ポカンとする黒尾に冷たくそう言い放つと彼の前の開いている席を無造作に引いて座った。
「んで??これなんだよ?」
怪訝な顔をしながら黒尾は机に置かれたプリントを手に取る。が、どう見ても自分に必要なものにはどう考えてもみえなかった。そんな黒尾の様子に拓斗は、実はさ…と話を切り出すのだった。
「これをさ、ある人物に届けてほしいんだよね」
「…自分で届ければいいだろ
ってか、なんで俺?」
「実は僕行く時間なくてさ…代わりに届けてほしいんだ
それに家の方向真反対だからさ」
どう見てもこのプリントは軽音部関連。そして、拓斗と自身はこのような頼みごとができる間柄ではない。それなのに、どうしてこいつがわざわざ届け物を頼みに来るのだろうか?
「おい、どういう風の吹き回しだ」
「なんのことかな??」
「どうしてこれを俺に届けさせようとさせるんだ??」
しらばっくれる拓斗に黒尾は眼光を光らせる。拓斗の口からの数少ない情報からでも、これを何処に送り届けるのかは流石の黒尾にも検討がついた。
「どうしてだと思う??」
「わかんねーから聞いてんだが…」
だがどうしても拓斗のこの行動の真意をつかめずにいた。
「別になにも謀ってないよ……」
「は??」
「実は今日、来てないんだよね」
「誰が??」
「誰がって…、香坂さんだよ
わかっているくせにわざわざ聞かないでくれない??」
大きく面倒くさそうに拓斗は息をついた。そして、己のメガネを押しあげると話の続きをしようと口を開く。
「香坂さんは今日休み」
「アイツ体調悪いのか??」
「普通、体調悪い以外に学校休む理由ある??」
「いや、アイツ学校休んだことなかったから驚いただけだ」
「ふーん」
黒尾の言葉に面白くなさそうに拓斗は反応を示す。が、今の黒尾にはこの衝撃な事実に驚きを隠せずにいた。
「心配でしょ??」
「……べ、別にそういうわけでは」
「まぁまぁそう言わずに届けるついでに彼女の様子も見てきてよ
それとも何か後ろめたいことでもあるのかな??」
「そんなもんねーよ」
「じゃ、よ・ろ・し・く」
拓斗の確信を得た言葉に黒尾は喉を詰まらす。が、黒尾の心情は拓斗には筒抜けであり小さく笑みを浮かべるのだった。そして、もう用済みと言わんばかりに席から立ち上がると教室から出ていってしまうのだった。
一方的に押し付けられてしまった黒尾は、机に残されたプリントの束と拓斗が出て行ってしまった入り口を交互に見ると小さく息をつく。結局、彼自身の真意を掴むことが出来なかった。本当に用事があっていけないのか?それともわざと仕向けたのか?どっちが理由であれ、プリントを届けに行かなければと黒尾は机に置かれたプリントの束を掴みカバンにしまうのだった。