2年生
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
♪♪♪♪…♪♪♬♬♪♪♪……♬♪♪♪♬♪♪
合宿を終えた翌日、双方部活が休みの彼らは夜久が誘ったライブスタジオ会場に着いていた。扉を開けた途端、視界に広がるのは集まった沢山の人達だった。騒ぎ出す彼らに便乗するように木兎と山本が気分を良くしてはしゃぎ出した。そんな彼らに黒尾達は大きくため息を吐いた。
暫くして場は静寂化する。それと同時に場は暗転する。そして、目の前にあるステージだけが主役だと云わんが仮にスポットライトで照らされた。
日々バレーの練習に明け暮れる彼らも、この非日常の一瞬の時間を楽しんだ。
だが、彼らの目的はあくまで黒尾曰くただの腐れ感の女友達だと自称する香坂雫の姿を一目見る事だ。彼女のバンドがステージに呼ばれた途端、見るのを楽しみにしていた木兎と山本の動きが一瞬静まった。だが、マジマジとステージ上に現れた彼女を注視し、瞬きを数回すると、飛び跳ねるように声を上げるのだった。
「実物めちゃくちゃ可愛いじゃねぇーかよ!」
「て...天使だ
是非ともお近づきになりたい...」
「ホントになんともねぇーのかよ!黒尾!!」
「ん?ねぇーよ」
「じゃ!俺に紹介してくれ!!」
「おっ、俺も!!しょっ、紹介して欲しいっす!!」
「木兎さん!!」
「山本〜!!」
ガツン!!
はしゃぎ黒尾に詰め寄る彼ら二人に自称、保護者である赤藁と夜久が拳を叩き落として黙らせる。そんな彼らを呆れた眼差しで見ながらステージに視線をやる黒尾にポツリと彼の幼馴染の孤爪が声をかける。
「クロ」
「どうした〜?」
「ホントになんとも思ってないの?」
「...あぁ」
「じゃあなんで、そんな寂しそうな顔をクロはしてるの?」
「さぁーな、なんでだろうな」
孤爪のふとした言葉に黒尾は内心ギクリとした。だが、それを悟らせないようになんとか誤魔化そうとする。それでもぶっきらぼうに返ってきた返答に、幼馴染である孤爪は隠しきれていない彼の複雑な心境を察してしまう。
「今のクロ、なんか変」
「変ってどういうことだよ」
「今のクロは、俺がゲーム出来なくて不貞腐れているときみたい」
鋭すぎる孤爪に黒尾は小さくため息をつく。正直、自分自身の気持ちには整理がついておらず、これに黒尾は名前をつけることができなかったのだ。あの頃から心の中で続くモヤモヤの正体は不明で、さらに膨らむばかり。加えて、今日来て周囲から嫌でも耳に入るのは彼女の名を呼ぶ歓声に対して心の奥底で黒い感情が渦巻く。少し前まで隣で軽口を言い合っていた彼女が凄い遠い存在に見えて仕方がなかった。
「クロ??」
「なんだ??」
「もっと自分の気持ちに素直になったらどう?」
「なにが言いたいんだ?」
「クロは複雑に考えすぎてるんじゃない?」
ほら、ゲームのボス戦のときって実際攻略の手がかりは単純に気づいていない盲点だったということがあるでしょ?
孤爪は心配そうに黒尾を見上げる。その言葉に黒尾はガツンと頭を殴られた気分に陥った。確かに複雑に考えていた気がする。複雑に考えすぎると目の前にあるはずの大事なことを見落としがちになる。それが近すぎる仲だったら猶更だ。
「後悔してもしらないからね」
「もう、おせーよ」
孤爪の現実を突きつける言葉に、黒尾は小さく嘆くように呟いた。その思いもしなかった返答に孤爪は大きく眼を見開き真意を問いただそうとするが、当の本人は先程の嘆きが嘘みたいに皆と楽しむ輪に混じっていた。それはまるで自分の本当の気持ちに気づきたくなくて、無理やり考えないように紛らわしている風に孤爪には見えたのだった。
*****
「雫ちゃん!!握手してください!!」
「ファンです!!」
「サインお願いします!!」
「よかったら連絡先を!!」
ライブを終え、控室になっている場に戻ろうとする雫は数人のファンに囲まれて身動きがとれない状況に。普段なら適当にあしらってその場をさっさと離れるのだが何故か雫は先ほどの光景に動揺しきっていてすっかり足を止めてしまっていたのだ。さっさと足を動かせばよいものの、すっかり逃げるタイミングを逃してしまい雫は小さく不甲斐なさにため息をついた。どうしようかと雫はめんどくさそうに肩をすくめる。そんな彼女を背後から近づいてきた人物が見せつけるように雫の肩をさりげなく引いた。
「ちょっと、ウチのギターを変な目で見ないでくれませんかね?」
「……京極」
「ほら、行くよ」
急に聞こえる拓斗のいつもより低い声、そして肩に感じる力強い大きな手に、雫はハッとして顔を上げた。するとそこにいたのは眉間に皺を寄せる嫌悪感満載の拓斗がいた。拓斗はというと、周囲に群がる彼らに睨みを利かせて黙らすと、彼女の肩を抱いたまま控室のドアを開けるのだった。
「また絡まれてたのか〜、雫」
「雫なんか凄く人気あるよね〜」
「二人共傍観してないで、助けに入れ」
控室に入りホッとしたのも束の間、先に戻って帰り支度をしていた和真と紗英の冷やかしが飛んだ。それに当然拓斗は呆れ顔を浮かべた。そんな拓斗の様子に和真と紗英は小さく笑った。
「だって、俺らがしなくても拓人がなんとかするだろ!」
「そうそう!京極は雫に超過保護だからね」
「はぁ……好きな奴に過保護になってなにが悪いんだ?」
「ちょ!京極!!」
「まぁ!それもそうか!」
ため息交じりに当たり前だと呟く拓斗の言葉に、雫は驚きの声をあげる。そんな彼らのやり取りに和真は相変わらずだなと軽く鼻で笑った。だが、そういえばとふとした疑問を彼らに和真は投げかける。
「そういえば、お前ら今どういう関係なんだ?」
「決まってるだろ?秘密さ」
「ねぇ!そろそろ帰ろうよ~」
クスクスと和真の疑問に拓斗は不敵な笑みを浮かべた。こんな拓斗の艷やかな表情を見たら彼のファンは一瞬でハートを射抜かれてしまうだろう。この仕草をライブでしろと思いつつ、なんだよと不服そうな表情を和真が浮かべる。一方で当の本人である雫は完全に蚊帳の外でアタフタ。そんな彼らのやり取りに紗英が退屈そうな声をあげ終止符を打ったことによりこの場はお開きとなった。
「雫、平気??」
「えっ!?なにが??」
支度を始める雫にさりげなく紗英が声をかけた。それに雫は挙動不審になりながらも平然を装う。が、紗英には雫が強がっているのは筒抜けだった。こんな様子になったのはライブを終えてから、そして紗英にはその理由に心当たりがあった。
「…楽しんでたね、黒尾君達」
「……!?!?」
「あんなにノッてくれると、歌いがいがあるよ」
紗英の口から出た名前に雫はビクリと肩を震わした。そんな雫に紗英は優しく語り掛ける。
「ねぇ、雫??」
「な…なに??」
「今の雫、迷子の子猫みたいだね」
ビクビクと自分の一声一声に身体を震わせる、そして不安げに瞳を揺らす今の雫にはこの言葉がピッタリだと紗英は思った。雫の捨てきれない気持ちも今の現状を知っているからこそ紗英は雫のことが心配だった。ようやく諦めが尽きそうな時に突如彼が目の前に現れてしまったのだから、揺れ動くのは当然だろう。
「雫のペースでいいからゆっくり考えなさいよ」
ポンポンと紗英は雫の肩を小さく叩くと自分の荷物が置いている場へ。そしてようやく雫は1人考える時間を与えられた。荷物を片す手を動かしながら雫は頭の中を整理しようとする。が、溢れ出すのは心の奥底にそっと蓋をした想い。ギターを弾いている時に視線を前にやったときに一気にもってかれてしまった。どうしてここにいるの?どうしてそんな瞳で見つめるの?アイツの揺らぐ黄土色の瞳とあんなに距離が離れているのにかち合った気がして雫はならなかった。もう決別したはずなのに、この気持ちをきっぱり忘れて前に進んでいこうと決めたのに、どうしてこんなに心を乱されてしまうのだろうか?
「……雫」
ふと声が聞こえて雫が顔を上げるとそこには心配そうに己を覗き込む拓斗がいた。
「支度終わった?あの二人さっさと出ちゃったから早く追いかけよう?」
「…そ、そうだね」
周囲を見渡すといつの間にか騒がしい二人の姿は消えていて、拓斗とふたりっきりだった。歯切れが悪い雫に拓斗は表情を曇らせる。
「まだ忘れられない?」
「ご…ごめん」
「いいよ、別に
無理に頼んだのは、僕の方だしね」
拓斗は小さく首を横に振った。雫の想いを知っている、それを踏まえて拓斗はいつでも振っていいからお試しで付き合って欲しいと頼んだのだ。わがままだと思った。それでも、雫は小さく頷いて拓斗の提示を受け入れた。いつまでも失恋の気持ちを引きずったままだとダメだし、真剣に考えてくれている拓斗に失礼だと思ったからだ。
「…行こうか、拓斗」
ギターケースを背負い、ヘッドホンを首にかけて立ち上がった雫はふんわりと笑いかけた。その表情に拓斗は少し顔を顰めた。この表情は苦し紛れで自分が好きな彼女の笑い方ではなかったからだ。
僕ではやっぱりダメなのか…
拓斗は雫の心を独占する彼を羨ましいと思うと同時に悔しいと思うのだった。