2年生
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バレンタインのチョコを夜久伝いで貰った黒尾だが、お礼を言おう言おうと心の奥底では思うのだが、残念なことに言いだすきっかけもタイミングも掴めまま、時間だけが過ぎ去った。
そのまま雫と黒尾の関係は全く元通りにならぬまま、いつの間にか2年生をむかえていた。
ここまで腐れ縁が続いたんだから今回も同じクラスだろうと高をくくっていた黒尾。だが、張り出されたクラス替えの紙の名簿には黒尾のすぐ下に雫の名は無かった。
ここで黒尾はようやく頭をガツンと殴られた気分に陥った。どう考えても、文理でクラスが分かれるのだから理系科目が嫌と言うほど嫌いな雫とクラスが同じになるわけがない。すぐ考えればわかることなのに何故かすっかりこのことが黒尾の頭からすっぽりと抜けてしまっていたのだ。
「おはよ、香坂さん」
「おはよ、京極」
新しいクラスの席に着席した雫に気づいて、前の席に座っていた拓斗が後ろを振り返って挨拶をする。
4年間、新学期の時に雫の視界に入ったトサカヘッドの彼はもういない。今、目の前にいるのは厭味ったらしい顔をしている彼ではなく、朝に相応しい爽やかな笑顔を見せる拓斗なことに、雫は激しく既視感を覚えた。
黒尾と入れ替わるように雫と同じクラスになったのはまさかの拓斗。そして五十音順で決められる出席番号でか行で始まる苗字の彼らは前後の番号になっていた。
それをクラス分けの紙で知った黒尾は、心の奥底に渦巻く何かを感じた。この感情はいったいなんなのか??黒尾は知りたいと思うが逆に知りたくないとも思った。そしてこの感情から目を背けるように1人静かにいつも軽口を言いあっていたのになと懐かしむ反面、それを手放したのは自分自身だと自嘲しながら自分のクラスへ向かうのだった。
圧倒的に顔を合わせる頻度が減った二人は、現実逃避をするかのように没頭して部活に励んだ。
そして皮肉なことにそれに比例するように二人の成果はしっかりと現れていた。
雫たちのバンドは着々と知名度を上げていき
6月のIH予選が終わり3年生が引退したバレー部では黒尾が主将となり新たな新体制を確立していた。
無情にも時間だけが過ぎ去っていく中、ある人物の爆弾発言により再び運命が動き出す。
「黒尾~!!」
「……パス」
「えっ!?俺まだなんも言ってないんだけど」
「言われなくても木兎の言おうとしている事なんか手に取るようにわかりますー」
「そっか!!
じゃあはやくやろうぜ!!」
「はぁ…わかったわかった
やればいいんでしょ」
梟谷グループで行われる合同合宿。梟谷のエースの木兎、音駒の主将になった黒尾のこの二人のやり取りは周囲にとって日常茶飯事の光景と化していた。必ずと言っていいほど、しつこいくらい強請る木兎に折れるのはもちろん黒尾。そして、数分後には悔しそうに声を上げる木兎とウェーイと両手を上げる黒尾の姿が見られるのだ。
そして、今回の夏休み中の長期合宿中にも木兎は1年セッターの赤葦とミドルブロッカーの黒尾を巻き込みスパイク練に励んでいた。だが、唐突にその木兎の動きが止まる。普段はなんとか説得することでようやく練習を切り上げる体力馬鹿の木兎がこんな時間に動きを止めるなんてありえないと、何か考え込むように顎に手を当てて目を閉じている木兎を赤葦と黒尾は訝し気に見た。木兎の様子を待つこと数分後、彼はパッと目を開けると黒尾の方を見て、そういえば…と口を開いた。
「あの…えっーと…うーんと…
あれ!!どうなったんだ!!黒尾!!」
「…何言ってるかわかるか?赤葦??」
「黒尾さんに話が振られてるのに俺がわかるわけがないじゃないですか」
「いや、お前コイツの翻訳機みたいなもんじゃねーか
なんとかしてくれ
さっぱり言っていることの意味がわからねー」
「流石に俺にも何言っているかわからないんですが…」
唐突の木兎の言葉に、唖然と赤葦と黒尾は顔を見合わせた。咄嗟に黒尾は、いつも木兎の支離滅裂な言葉をわかりやすく言いなおしてくれる赤葦にヘルプを求めるものの、残念ながら赤葦にも今回ばかりは翻訳しようがなく首を傾げた。だが、このままだと話が進まない。なんとか拉致があかないこの状況を打破しようと赤葦は頭をフル回転させながら言葉を選んで木兎に問いかけた。
「木兎さん…
あれって、いつの話ですか??」
「たしか…去年の…」
「…去年の??」
「夏休み最後の合宿の時……」
あと少しで思い出せるんだけどなと考え老け込む木兎を横目に赤葦は本人に視線を向ける。
「黒尾さん、その時なんか木兎さんが興味を惹くような点ありましたか??」
「うーん、なんかあったかな…」
赤葦の言葉に促されるように黒尾は微かな記憶を辿り始めた。
へいへーい!!なにやってんの??黒尾
えっ、えぇ!!
なにこれ女の子と2ショット!?
ってか、その子めちゃ可愛いじゃん 誰だよ!!!
黒尾の頭の片隅で唐突に木兎の言葉が思い起こされた。まさかあの時のことを掘り起こそうとしてるのか!?!?という結論に至った黒尾の顔から血の気が失せていくことを感じた。
と同時に木兎が思い出したように、あぁー!!っと大きな声を上げ黒尾に身を乗り出した。
「思い出したぞ!!黒尾!!
あの時見せてくれた可愛い女の子とはどうなったんだ??
進展あったか???」
この木兎の大きな一声は、同じ場で練習している他の者の手を止めるには十分なセリフだった。一気に静寂化した体育館で、皆の視線を集めた黒尾は激しくこの場を抜け出したいと心の底から願った。
「なぁなぁ!!」
「うっせ―!!バカ木兎!!なんてことしてくれんだよ」
「クロさん!!彼女いるなんて聞いてないすよ~」
「はぁ…お前のせいでアイツが興味示しちまったじゃねーかよ」
「その話、俺も気になりますね」
「……赤葦まで」
真っ先に喰いついたのは、女子に対する免疫が全くないにも関わらず女子マネが欲しいとせがむ黒尾の後輩である1年の山本猛虎だ。そこまでは木兎の爆弾発言により容易に予想できたが、まさか赤葦まで興味を示したのは黒尾の想定外だった。だが、ほっといて欲しい黒尾の想いに反する形で周囲の皆が群がってきた。音駒の頼れる主将の浮いた話に、残っていた音駒のメンバーが喰いつかないわけがなかった。
わちゃわちゃと矢次に説明を求める彼らに黒尾は大きくため息をついて項垂れた。
「いい加減諦めて素直に吐き出したらどうだ??」
「なに言ってんだよ、夜久パイセン~
傍観してないで助けてほしいんですが…」
「それは無理な相談だな~
なぁ?海」
「そうだね、夜久の言う通り潔く白旗上げて全部話したらどうだ?クロ」
唯一、あの時あの場を目撃していた夜久と海だが、黒尾に救済の手を差し伸べる気はさらさらなかった。そんな愉しんでる彼らに対して黒尾は殺気を飛ばして睨みつけるが、完全二人は無視。
アイツラ…他人事だと思ってッ!!
フツフツと苛立ちが湧き上がってくるのと同時に、もうサッサと訂正してこの話題を終わらすかと抵抗に諦めがつき始めた黒尾の心情などお構いなしに、またもやある人物の一声により進み始めた。
「名前なんつったけ??
聞いた気がすんだけど…思い出せねーな」
「木兎…
香坂だ。香坂雫」
天井を仰いで必死に思い出そうとポツリと漏らした木兎の言葉にすぐさま夜久が反応を示した。
あっさり名前を暴露されたことに、思考を巡らせていた黒尾はバッと顔をあげる。
この話題に関して異常に口が軽い夜久にお咎めを食らわそうとするが、もう一人思わぬ伏兵が話を進めてしまった。
「おっ…おい!!夜久!!」
「あ!!その名前聞いたことありますよ!!
軽音部の人気バンドのギターの人っすよね!!」
「なんでそんな話題には詳しいんだ…山本」
「あんな可愛い人と付き合ってるんなんて
うっ…羨ましいっす!!」
「違う!!断じて付き合ってない!!
ただの腐れ縁だ!!
話をややこしくするな!!」
拝むように手を組んで、目を輝かせる山本の言葉に黒尾は声を荒げて咄嗟に否定した。
これでようやく事態が落ち着くかと思いきや、またもや記憶を手繰り寄せた人物が声を上げた。
「えっ…そうなんすか」
「ちげーだろ!!黒尾!!
そんな関係の奴と普通海行くか??
男のロマン溢れる海だぞ海!!」
「ぼーくーと〜ッ!!」
余計なことしか言わない彼に遂に黒尾の沸点が切れた。そして木兎を羽交い締めにし始める。
そんな彼らの押し問答にやれやれと痺れを切らした赤葦がダメ押しで黒尾に近づくと再確認をした。
「ホントに違うんですか??」
「……あぁ、違う」
「そうですか…
ほら、木兎さん…本人がそう言ってるんですから」
赤葦は未だに納得がいかない様子の木兎を説得する。もう先輩と後輩の関係が逆転している赤葦と木兎の関係に周囲は慣れているため何も口を挟むことはしなかった。
「わかりましたか?木兎さん」
「………ハイ」
「すみません、黒尾さん」
「イヤイヤ…
わかればいいのよわかれば」
「そういえば…
この合宿が終わった次の日って梟谷も休みだよな」
「休みですね
それがどうしたんですか??夜久さん??」
「その日さ、ライブがあるんだよ
よかったら木兎達も来るか??」
思い出したかのように夜久が意味深な声を上げる。その問いかけに赤葦は首を傾げた。周囲もどういうことかと夜久の次の言葉を待つ。一気に視線を集めた夜久は、どこからかある紙を取り出した。見せつけるように取り出されたその紙には、ライブの日時と場所、そして参加バンドの名前が書かれていた。
「ライブ〜!?!?」
「気になるだろ??
コイツを骨抜きにした相手…」
すぐに喰らいついたのはもちろん木兎。ヒラヒラと紙を持った手を振った夜久はここ一番の悪人面で口角を上げていた。
「行きて〜〜!!行く行く!!」
「はぁ…木兎さんが暴走しないように俺も行きます」
「もちろん、俺も行っていいっすよね!!」
一目散に名乗り上げる木兎と山本。そしてしかたないと赤葦も声を上げた。
「よし!!決定〜!!
もちろん、クロも参加だよな」
ニヤリと夜久は視線を黒尾に向けた。その嫌味ったらしい顔に、黒尾は思わず顔を顰めた。
「何がしてーんだ?夜久??」
「別に…
ただ皆で聞きに行こうぜって俺は言ってるだけだろ??」
それとも何か行きたくない理由とかあるのか??と完全に挑発じみた夜久の言葉に黒尾は降参っと手を上げた。
「じゃあ決まりだな!!」
ニヤリと事をうまく運んだ夜久は人知れず海と視線を混じ合わせるのだった。
そのまま雫と黒尾の関係は全く元通りにならぬまま、いつの間にか2年生をむかえていた。
ここまで腐れ縁が続いたんだから今回も同じクラスだろうと高をくくっていた黒尾。だが、張り出されたクラス替えの紙の名簿には黒尾のすぐ下に雫の名は無かった。
ここで黒尾はようやく頭をガツンと殴られた気分に陥った。どう考えても、文理でクラスが分かれるのだから理系科目が嫌と言うほど嫌いな雫とクラスが同じになるわけがない。すぐ考えればわかることなのに何故かすっかりこのことが黒尾の頭からすっぽりと抜けてしまっていたのだ。
「おはよ、香坂さん」
「おはよ、京極」
新しいクラスの席に着席した雫に気づいて、前の席に座っていた拓斗が後ろを振り返って挨拶をする。
4年間、新学期の時に雫の視界に入ったトサカヘッドの彼はもういない。今、目の前にいるのは厭味ったらしい顔をしている彼ではなく、朝に相応しい爽やかな笑顔を見せる拓斗なことに、雫は激しく既視感を覚えた。
黒尾と入れ替わるように雫と同じクラスになったのはまさかの拓斗。そして五十音順で決められる出席番号でか行で始まる苗字の彼らは前後の番号になっていた。
それをクラス分けの紙で知った黒尾は、心の奥底に渦巻く何かを感じた。この感情はいったいなんなのか??黒尾は知りたいと思うが逆に知りたくないとも思った。そしてこの感情から目を背けるように1人静かにいつも軽口を言いあっていたのになと懐かしむ反面、それを手放したのは自分自身だと自嘲しながら自分のクラスへ向かうのだった。
圧倒的に顔を合わせる頻度が減った二人は、現実逃避をするかのように没頭して部活に励んだ。
そして皮肉なことにそれに比例するように二人の成果はしっかりと現れていた。
雫たちのバンドは着々と知名度を上げていき
6月のIH予選が終わり3年生が引退したバレー部では黒尾が主将となり新たな新体制を確立していた。
無情にも時間だけが過ぎ去っていく中、ある人物の爆弾発言により再び運命が動き出す。
「黒尾~!!」
「……パス」
「えっ!?俺まだなんも言ってないんだけど」
「言われなくても木兎の言おうとしている事なんか手に取るようにわかりますー」
「そっか!!
じゃあはやくやろうぜ!!」
「はぁ…わかったわかった
やればいいんでしょ」
梟谷グループで行われる合同合宿。梟谷のエースの木兎、音駒の主将になった黒尾のこの二人のやり取りは周囲にとって日常茶飯事の光景と化していた。必ずと言っていいほど、しつこいくらい強請る木兎に折れるのはもちろん黒尾。そして、数分後には悔しそうに声を上げる木兎とウェーイと両手を上げる黒尾の姿が見られるのだ。
そして、今回の夏休み中の長期合宿中にも木兎は1年セッターの赤葦とミドルブロッカーの黒尾を巻き込みスパイク練に励んでいた。だが、唐突にその木兎の動きが止まる。普段はなんとか説得することでようやく練習を切り上げる体力馬鹿の木兎がこんな時間に動きを止めるなんてありえないと、何か考え込むように顎に手を当てて目を閉じている木兎を赤葦と黒尾は訝し気に見た。木兎の様子を待つこと数分後、彼はパッと目を開けると黒尾の方を見て、そういえば…と口を開いた。
「あの…えっーと…うーんと…
あれ!!どうなったんだ!!黒尾!!」
「…何言ってるかわかるか?赤葦??」
「黒尾さんに話が振られてるのに俺がわかるわけがないじゃないですか」
「いや、お前コイツの翻訳機みたいなもんじゃねーか
なんとかしてくれ
さっぱり言っていることの意味がわからねー」
「流石に俺にも何言っているかわからないんですが…」
唐突の木兎の言葉に、唖然と赤葦と黒尾は顔を見合わせた。咄嗟に黒尾は、いつも木兎の支離滅裂な言葉をわかりやすく言いなおしてくれる赤葦にヘルプを求めるものの、残念ながら赤葦にも今回ばかりは翻訳しようがなく首を傾げた。だが、このままだと話が進まない。なんとか拉致があかないこの状況を打破しようと赤葦は頭をフル回転させながら言葉を選んで木兎に問いかけた。
「木兎さん…
あれって、いつの話ですか??」
「たしか…去年の…」
「…去年の??」
「夏休み最後の合宿の時……」
あと少しで思い出せるんだけどなと考え老け込む木兎を横目に赤葦は本人に視線を向ける。
「黒尾さん、その時なんか木兎さんが興味を惹くような点ありましたか??」
「うーん、なんかあったかな…」
赤葦の言葉に促されるように黒尾は微かな記憶を辿り始めた。
へいへーい!!なにやってんの??黒尾
えっ、えぇ!!
なにこれ女の子と2ショット!?
ってか、その子めちゃ可愛いじゃん 誰だよ!!!
黒尾の頭の片隅で唐突に木兎の言葉が思い起こされた。まさかあの時のことを掘り起こそうとしてるのか!?!?という結論に至った黒尾の顔から血の気が失せていくことを感じた。
と同時に木兎が思い出したように、あぁー!!っと大きな声を上げ黒尾に身を乗り出した。
「思い出したぞ!!黒尾!!
あの時見せてくれた可愛い女の子とはどうなったんだ??
進展あったか???」
この木兎の大きな一声は、同じ場で練習している他の者の手を止めるには十分なセリフだった。一気に静寂化した体育館で、皆の視線を集めた黒尾は激しくこの場を抜け出したいと心の底から願った。
「なぁなぁ!!」
「うっせ―!!バカ木兎!!なんてことしてくれんだよ」
「クロさん!!彼女いるなんて聞いてないすよ~」
「はぁ…お前のせいでアイツが興味示しちまったじゃねーかよ」
「その話、俺も気になりますね」
「……赤葦まで」
真っ先に喰いついたのは、女子に対する免疫が全くないにも関わらず女子マネが欲しいとせがむ黒尾の後輩である1年の山本猛虎だ。そこまでは木兎の爆弾発言により容易に予想できたが、まさか赤葦まで興味を示したのは黒尾の想定外だった。だが、ほっといて欲しい黒尾の想いに反する形で周囲の皆が群がってきた。音駒の頼れる主将の浮いた話に、残っていた音駒のメンバーが喰いつかないわけがなかった。
わちゃわちゃと矢次に説明を求める彼らに黒尾は大きくため息をついて項垂れた。
「いい加減諦めて素直に吐き出したらどうだ??」
「なに言ってんだよ、夜久パイセン~
傍観してないで助けてほしいんですが…」
「それは無理な相談だな~
なぁ?海」
「そうだね、夜久の言う通り潔く白旗上げて全部話したらどうだ?クロ」
唯一、あの時あの場を目撃していた夜久と海だが、黒尾に救済の手を差し伸べる気はさらさらなかった。そんな愉しんでる彼らに対して黒尾は殺気を飛ばして睨みつけるが、完全二人は無視。
アイツラ…他人事だと思ってッ!!
フツフツと苛立ちが湧き上がってくるのと同時に、もうサッサと訂正してこの話題を終わらすかと抵抗に諦めがつき始めた黒尾の心情などお構いなしに、またもやある人物の一声により進み始めた。
「名前なんつったけ??
聞いた気がすんだけど…思い出せねーな」
「木兎…
香坂だ。香坂雫」
天井を仰いで必死に思い出そうとポツリと漏らした木兎の言葉にすぐさま夜久が反応を示した。
あっさり名前を暴露されたことに、思考を巡らせていた黒尾はバッと顔をあげる。
この話題に関して異常に口が軽い夜久にお咎めを食らわそうとするが、もう一人思わぬ伏兵が話を進めてしまった。
「おっ…おい!!夜久!!」
「あ!!その名前聞いたことありますよ!!
軽音部の人気バンドのギターの人っすよね!!」
「なんでそんな話題には詳しいんだ…山本」
「あんな可愛い人と付き合ってるんなんて
うっ…羨ましいっす!!」
「違う!!断じて付き合ってない!!
ただの腐れ縁だ!!
話をややこしくするな!!」
拝むように手を組んで、目を輝かせる山本の言葉に黒尾は声を荒げて咄嗟に否定した。
これでようやく事態が落ち着くかと思いきや、またもや記憶を手繰り寄せた人物が声を上げた。
「えっ…そうなんすか」
「ちげーだろ!!黒尾!!
そんな関係の奴と普通海行くか??
男のロマン溢れる海だぞ海!!」
「ぼーくーと〜ッ!!」
余計なことしか言わない彼に遂に黒尾の沸点が切れた。そして木兎を羽交い締めにし始める。
そんな彼らの押し問答にやれやれと痺れを切らした赤葦がダメ押しで黒尾に近づくと再確認をした。
「ホントに違うんですか??」
「……あぁ、違う」
「そうですか…
ほら、木兎さん…本人がそう言ってるんですから」
赤葦は未だに納得がいかない様子の木兎を説得する。もう先輩と後輩の関係が逆転している赤葦と木兎の関係に周囲は慣れているため何も口を挟むことはしなかった。
「わかりましたか?木兎さん」
「………ハイ」
「すみません、黒尾さん」
「イヤイヤ…
わかればいいのよわかれば」
「そういえば…
この合宿が終わった次の日って梟谷も休みだよな」
「休みですね
それがどうしたんですか??夜久さん??」
「その日さ、ライブがあるんだよ
よかったら木兎達も来るか??」
思い出したかのように夜久が意味深な声を上げる。その問いかけに赤葦は首を傾げた。周囲もどういうことかと夜久の次の言葉を待つ。一気に視線を集めた夜久は、どこからかある紙を取り出した。見せつけるように取り出されたその紙には、ライブの日時と場所、そして参加バンドの名前が書かれていた。
「ライブ〜!?!?」
「気になるだろ??
コイツを骨抜きにした相手…」
すぐに喰らいついたのはもちろん木兎。ヒラヒラと紙を持った手を振った夜久はここ一番の悪人面で口角を上げていた。
「行きて〜〜!!行く行く!!」
「はぁ…木兎さんが暴走しないように俺も行きます」
「もちろん、俺も行っていいっすよね!!」
一目散に名乗り上げる木兎と山本。そしてしかたないと赤葦も声を上げた。
「よし!!決定〜!!
もちろん、クロも参加だよな」
ニヤリと夜久は視線を黒尾に向けた。その嫌味ったらしい顔に、黒尾は思わず顔を顰めた。
「何がしてーんだ?夜久??」
「別に…
ただ皆で聞きに行こうぜって俺は言ってるだけだろ??」
それとも何か行きたくない理由とかあるのか??と完全に挑発じみた夜久の言葉に黒尾は降参っと手を上げた。
「じゃあ決まりだな!!」
ニヤリと事をうまく運んだ夜久は人知れず海と視線を混じ合わせるのだった。