1年生
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「雫〜!!
ちょっ!!ちょっとこれ!!どうしたらいいッ!!」
ドタドタと切羽詰まった紗英の声が響き渡る。それに雫は呆れ気味に彼女の手元を覗き込んだ。
「なーにしてるの…」
「だ…だって〜」
「どうしたらこうなるか説明してほしいね」
盛大にため息を吐いた雫は、もうチョコとは言えない代物を白い目で見た。
時の流れは早いもので、年を越して2月を迎えていた。この時期になると街は甘い匂いに包まれる。
暫くふさぎ込んでいた雫だったが、それが嘘のように元通りになっていた。
そんな彼女は料理がこれきしの紗英に泣きつかれて紗英の家でチョコレート作りの手伝いをしていた。
「毎年どうしてたの??」
「料理が出来る友達に手伝ってもらってた」
怪訝な眼で肩を落として落ち込む紗英を雫は見た。料理が苦手なのは話で知ってたし、バンドメンバーの和真が盛大に茶化しながら笑い話にしてたのも記憶に新しい。だがこれは予想以上過ぎて、雫は中学時代の友達と紗英自身を憐れんだ。
「長谷川は料理できるの?」
「…妬ましいくらい出来る」
「はぁ…それは良かった
長谷川に料理頼めば大丈夫だね」
「そういう問題じゃない!!!」
雫の見当違いの発言に紗英は顔を真っ赤にして大きな声を上げた。そんな紗英を雫は宥めようと手を大きく横に振った。
「わかってるって!!そんな怒らないでよ…」
「雫がそんなこと言うから!!」
「まぁまぁ…これあげるから」
頬を膨らませ不貞腐れる紗英に雫は持ってきたものを差し出した。それを見た途端紗英は目を輝かせて身を乗り出した。
「うわぁ!!美味しそ!!
流石雫!!気が利く!!」
さきほどのが嘘のように上機嫌になると紗英はルンルンと鼻歌を歌いながら食器類を用意し始めた。
「ほら!!雫も食べよ!!」
サッサと食べる気満々の紗英は、呆気に取られる雫を手招く。それに苦笑しながらも雫は紗英の元へ行くのだった。
*****
「んで??雫は誰にあげるの??」
もぐもぐと食べていた紗英は開口一番に雫に言い放った。それにビクッと雫は体を震わせた。実は雫はどうしようかと怒涛に迷っていたのだ。
「…まだ決めてないや
そういう紗英は??」
「そんなの決まってるでしょ!!」
矛先をなんとか変えようと紗英に同じ質問をオウム返し。それに紗英は気にすること無くえっへんと云わんばかりに両手を腰にあてた。
「あーぁ、そっか…
紗英にはいるもんね
でも、イヤじゃない??」
「何が??」
「だって長谷川だってモテるでしょ
絶対、他の女子からチョコ貰うでしょ」
「貰うね、それも大量に…」
「嫉妬しないの??」
「するけど…
包み隠さず見せてくれるし、一緒に食べようって言ってくれるからそんな気にしないかな…」
紗英は嬉しそうに頬を染めながら、他にもあーだこーだと色々と一方的に喋りだした。そんな幸せそうに話す紗英を見て、雫はいいなぁと羨ましそうに相槌を打っていた。
「話戻すけど………
雫はいないの??いい人…」
「ウッ………」
「ほら、京極とはいつもいい感じだし〜〜
あと、腐れ縁って言ってた人とかは〜〜」
愉しげに笑う紗英から出てきた二人の事に、雫は現状から目を逸らしたくて、紗英から視線を反らす。
「...別にいないよ」
「絶対はぐらかしてるでしょ!
最近の二人可笑しいし、なんかあったでしょ!」
だが、バンド仲間として雫と拓人の様子が可笑しいと気づいていた紗英がココで声を上げた。少なくとも雫と拓人の間に何かあったと紗英は踏んでいたのだ。
「ほらほら、私に話してみなさいって
一人で抱え込むより絶対いいよ」
ねぇ?っと、覗き込むのは心配そうな紗英の顔。犬のようにシュンとしている紗英を見て雫は心が痛んだ。自分のせいで周囲にまで迷惑をかけていると。
「ほらほら!冴えない顔してないでさ!」
「……紗英」
「もっと甘えてほしいなぁって…思ってたりするんだよね」
「じゃ、甘えようかな」
紗英の優しさが染み渡った雫は頬を緩ました。そしてゆっくり、ゆっくりとココ最近あった話しを話し始めるのだった。それを黙って聞いていた紗英は、この短期間の怒涛の展開に内心驚いていた。だって誰もこんな展開なんて予想できるはずがない。拓斗が告白するのは秒読みだろうと捉えていたが、雫が想っているのは腐れ縁の彼。だが、当の本人は雫のことを友達として思っていた。
……すごい三角関係だ
「でもさ、雫だめじゃない」
「えっ!?!?」
「その黒尾くんの返事聞いてないじゃない」
紗英は驚きながらも、雫の行動を指摘する。確かに雫からしたらショックだったかもしれない。それでも受け止めることも必要だ。
「ウッ…でも」
聞いたって結果は同じじゃん
聞きたくなくて逃げてしまった雫は紗英を視線を合わせられずそっぽを向いた。だが、逃げては駄目だと紗英は無理やり彼女の顔を見た。紗英の黒曜石のように光る瞳に雫は吸い込まれるような感覚を覚えた。
「好きなんでしょ」
「………うん」
「じゃあ諦めても逃げても駄目」
有無を言わせない、紗英は少し強い口調で雫に言い聞かせた。そして、空気を和まそうと紗英は少しおどけてみせるのだった。
「結果なんて聞かないとわかんないでしょ。それにただ気づいてないだけかもしれないしね」
紗英は昔の自分を思い浮かべていた。友達、幼馴染…。距離が近ければ近いほど関係性がわからないものなのだから。
「……紗英は、そうだったの??」
「アハハ…まぁーね」
紗英は苦笑いを浮かべた。
「私ね、和真のことずっと幼馴染だと思ってた」
お隣同士のご近所付き合い。窓を開ければすぐに部屋の移動は可能だった。気づけば隣にはいつも和真がいた。だからこそ、和真に告白されたときは本当に驚いた。そこからようやく、和真との関係性について真剣に考え始めたのだ。だからこそ、雫に言えることが紗英にはある。
「距離が近いほどさ、わかんないんだよ
相手のことをどう思っているかなんてさ
んで、真剣に考え始めてようやく気づくんだよ。」
「……紗英は気づいたんだ」
「すっごく時間貰ったし、迷惑かけちゃったけどね」
アハハと笑いながら紗英はそう締めくくった。凄く遠回りしたけど、気づいてよかったと思っている。今が最高に幸せなのだから。
「恋って難しい…」
「難しいね。でもしょうがないよ
相手の気持ちなんて言葉にしないと伝わらないし、わからないんだからさ」
「ありがと、紗英
ちょっと勇気出た」
「当日、ちゃんと渡すんだよ」
紗英はもうひと押しと雫の背を強く叩いた。どうか、彼女の片思いが報われるように…と願いを込めて。