1年生
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「お疲れー!!」
部活を終えた雫は未だ体育館から木漏れ出るライトを確認するとひょっこりと入り口から顔を覗かせた。
「「「お疲れ!!」」」
その声で雫が来たことを知ると3人はすぐさま手を止めて雫を見た。それに雫は大きく頷くと体育館に足を踏み入れた。そして、ボールが当たらない場所に背負っていたギターなどの私物を下ろし、首から下げているヘッドホンを取ると持ってきたシューズを履き勢いよく彼らのもとへ走り寄った。
懸命に頑張る彼らを見ていても立ってもいられずに始めたマネージャーもどきのお手伝いはなんだかんだ雫の日常の一部と化していた。飛んでくるボールを拾ったり、ボールを上げたり、飲み物を作ったりした。
また、運動神経が抜群なのを知っていた黒尾により時たま雫はバレーの手ほどきを受けていた。雫の要領がいいからなのか?もしくは黒尾の教え方が上手いからなのか?短時間で雫は一通り繋ぐことは出来るようになっていた。
「黒尾〜!もう一回!!」
「おうよ!行くぞ!香坂!」
雫の掛け声に答え黒尾がボールを叩き落とす光景が暫し続く。そんな二人を微笑ましげに見ていたのは海と夜久だ。だが、自分たちの練習をしている合間にチラチラと見えるだけに段々と鬱憤が溜まっていくのも無理はなく、夜久が大きくため息を吐いた。
「なぁにやってんだよ、アイツラ」
「まぁまぁ…」
「海は寛大すぎだろ
どう見ても、アイツラ遊んでるふうにしか見えねーぞ」
「でも、香坂さん凄く上手くなってるよ」
「そりゃあそうだけどよ」
海の指摘に対して夜久は不服そうに唇を尖らす。そんな彼を宥めるように海が肩を小さく叩いた。
「もしかして、俺役不足だったりして??」
「そんなことねーよ」
「じゃ、クロのこと心配してるのか?」
「なぁ!?!?」
「なんだ!そんなことか!!」
海の一言に、夜久は一瞬身体をギクリと強張らせる。その反応に海は図星かと小さく笑い飛ばす。笑い飛ばされたことに一気に赤面化させた夜久が思い切り海を小突く。だが、愉快そうに海は夜久に笑いかけるのだった。一方冷やかされてしまった夜久は素直に頷く事ができず、嫌悪感むき出しの表情のままそっぽ向いてしまうのだった。そんな夜久は数秒後にこの自身の行動を猛烈に反省する羽目になる。
「おーい!クロ!!」
「なんだ〜?海!!」
「おっ!オイ!!海!何呼んでんだよ!?!?」
なんと海は何を思ったか雫にボールをバシバシと打つ黒尾を大きな声で呼んだのだ。それに当然、そっぽ向いていた夜久は慌てだす。そして、向こうにいる黒尾達に聞こえないように小さな声で海を小突くのだった。
「え?呼んじゃ駄目なのか?」
「いや、だってよ」
「みんなで練習すれば解決でしょ」
「解決って香坂を巻き込むなよ」
「まぁまぁ…」
海のざっくばらんな提案に愕然とする夜久。遂には、彼の真意を理解できない前にどうしたどうした?と駆けつけてくる黒尾と雫の騒がしい声が聞こえてきて小さくため息をつくのだった。そんな夜久を放って、海は駆け寄ってきた二人にあることを持ちかけるのだった。
「二人共、ちょっと2対2やらないか?」
「「2対2!?!?」」
「俺と夜久、クロと香坂さんでさ」
「ちょっと待って!」
おっ!楽しそうじゃねーかと乗り気の黒尾。それに反して雫は真っ青な顔を浮かべていた。確かに噛じる程度にはバレーに関してルールも含めて教えてもらった。だが、どう考えても男子の本気のボールを取れるわけがない。慌ててこの案に雫は異議を唱えた。
「私にとって一番大切な腕がもげちゃう!」
「おいおい、心配するとこそこかよ」
「私、ギター担当だって知ってますよね!?みなさん!?」
「あぁ〜、そういえば香坂さんって軽音部だったね」
「初日に話したし、毎回でっかい荷物背負っているの見てるよね!?海!!」
必死に止めようとする雫の心配点の着目点が違くないかと逆に心配する黒尾。対して、発案者の海は珍しく彼女をからかっていた。そんな海に雫はムキになっていく。徐々にうわづっていく雫の声。そんな雫の肩を落ち着けといわんばかりにずっと黙っていた夜久が小さく叩いた。それに気づいた雫は、直様夜久に助け舟を求める。
「あ!夜久もなんとか言ってよ〜
私じゃ、練習の邪魔になるからさ!」
「まぁまぁ、ちょっと落ち着けって」
「えっ!でも!!」
「よく考えてみろ?香坂」
いつの間にか反対の理由が、腕が大変なことになるという己の心配でなく、その裏に隠されていた理由にすり変わっている。ちなみに平常心でなくなっている雫自身はそのことに気づいていない。無意識に本音を漏らしてしまうくらい興奮気味の雫に、夜久は小さくため息を吐くとちょぃちょぃと彼女を手招く。それに雫は不思議に思いながら夜久に歩み寄る。夜久は近づいてきた彼女の耳元に顔を近づけるとヒソヒソ声で諭すような口調で話し始めた。
「この案の発案者は誰だ?」
「えっと、海」
「だろ?」
「それがどうしたの?」
「あの海だぜ
突発的に言い出すかわからない、掴みどころがなく、胡散臭い笑みを浮かべて、常に悪巧みを考えていそうなクロじゃないんだぞ」
「……た、たしかに」
「だろ?ということは、何かしら海はなんかいい考えを持っているって考えられないか?」
最初は何を言い出すんだと思っていた雫だが、夜久の言っていることはご尤もだといつの間にか、聞き入ってしまいコクコクと頷いていた。海に最初は反論していた夜久だが、冷静になり考える時間をもらったことにより抱いている考えが変わったのだ。よく考えてみると、今回の発案者は良からぬ事を考えていそうな黒尾じゃないのだ。ちゃんと雫の力量を考慮した上で発言してくれそうな海だ。信じて見てもいいんじゃないかと夜久は思ったのだ。
「どう?香坂さん??」
「海の考えているやり方を知りたいなぁ〜」
「おっ!夜久さんのお陰で香坂がやる気になった」
「どうだ!俺にかかればこんなもんさ」
「おまえなぁ!!」
自慢気に腰に手を置く夜久。対して、夜久が雫にかけた言葉は不運にも注意深く聞いていた黒尾の耳に入っていてそれに対して黒尾は額に青筋を浮かばせて盛大に彼を小突いた。じゃれあいのように言い合いを始める彼らを放って、雫は海からルールを聞くのだった。
「それなら私もなんとかなりそう!!」
「でしょ!」
「「何の話だ!?!?」」
二人の言い争いを止めたのは、雫の興奮しきった声。ピタリと動きを止め、声する方向を向いた黒尾と夜久は一先ずこれは終わりと言い争いを止めるのだった。
「おい、海」
「俺らにもルール説明してくれよ」
「もちろんだよ」
二人の言葉に海は小さく頷くと、先程同様、雫に話した内容を話し出すのだった。
「1球目は、どんな場所にスパイクが来てもクロが取る」
「はぁ!?!?」
「で、2球目だけ香坂さんが参加する。」
「なんとか上げるくらいなら、腕もげないから私でもできそう〜」
「それで、上がったボールをクロがなんとかする」
あっ、別にブロックやりたければやってもいいぞと付け加える海の連連と告げられる驚愕の事実に当事者が一番顔を歪ませた。対して、当事者でない夜久はめちゃくちゃいい案だと高笑いをするのだった。
「俺、なんかしました?海さん」
「どうした?クロ?香坂さんも参加できて凄くいい案だと思うんだが?」
「鬼畜な罰ゲームにしか聞こえないのは俺だけ??」
「気のせいだよ!」
「どう見ても気の所為じゃねーだろ!
俺の負担でかくないか!?」
「いやいや、クロ逆によく考えてみろ、凄く練習になるじゃねーか」
「おまえ、他人事だと思って!!」
ぎゃあぎゃあと騒ぎ出す黒尾。だが、この4人で反対しているのは黒尾だけ。圧倒的にこの案を却下するには劣勢の状況で黒尾は早々に言い返すことを諦めた。そんな黒尾はその後肩を小さく竦めながらも、躍起になってコートを駆け回ってボールを取りまくるのだった。
海の発案は見事に雫自身を混じえることができる良い練習ということで全会一致。よってこの日だけでなく、体育館を閉める前に一回はやる恒例の練習スタイルになるのだった。