1年生
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文化祭当日
ステージでは、1つ順番が前のバンドが演奏を始めていた。そのステージのバッグでは4人が緊張な面もちを浮かべていた。
「大丈夫だ、いつも通りやれば」
「そ、そうだよね」
皆を鼓舞するように和真が声をあげる。それに小さく紗英が頷いた。だが、紗英の表情はいつも以上に強張っていた。そんな彼女の表情を見て和真が心配そうに眉を顰めた。
「和真の言う通りだよ、僕らがいつものパフォーマンスをすればきっとここにいる皆は沸いてくれるんだから
ねぇ?お二人さん」
ポンっといつの間にか二人の背後に立っていた拓斗が彼女達の肩を叩いた。ビクッと身体を震わして背後を振り向いた二人に拓斗はいつものように爽やかに微笑むのだった。
「「………京極」」
「香坂さんが作った楽曲、野鳥さんがその曲に載せる歌声…
きっと皆の心を揺さぶれる。僕はそう確信してるよ。」
雫が作った楽曲も、紗英が歌う歌声も、最初に聞いた時から拓斗は惚れ込んでいるのだから。それは和真も同じだ。だからこそ二人はバンドにとって、紗英と雫は2枚看板といっても過言でないと思っているのだ。
「拓斗の言う通りだぜ!」
「二人に言われたらなんかそんな気がしてきた!ねぇ!雫!」
「うん!そうだね!」
拓斗の背後から強引に肩を組んだ和真が二カリと笑みを浮かべて顔を覗かせる。おっ、おい!と顔を顰める拓斗に構わず騒ぎ始める二人のいつもの様子に、紗英と雫は顔を見合わせるとクスリと微笑みあった。二人に大丈夫だとお墨付きをもらった、それにずっとこの日のために練習してきたんだから、あとは信じてやるしかないんだ。
「よし、行くか」
やっと笑みを溢した二人を見て騒いでいた二人は顔を見合わせてホッと胸を撫でおろしながら小さく頷く。そして、和真が一声を発すると同時にステージで響いていた音が止んだ。遂に自分たちの出番だと、気を引き締めなおした彼らは急いでステージへ向かうのだった。
*****
ステージに立ち自身の楽器を手に取ればコッチのものだ。大丈夫。信頼できる仲間がこの場にいるのだから。4人の視線が交叉して確かめるように小さく頷きあう。準備は整った。いつものように拓斗が手に持つスティックを叩き始める。そのリズムに合わせて、ギターとベースが音色を奏で始める。ダイナミックな音、だがその裏にはどの音の邪魔をしないようにきめ細やかな配慮がされている。イントロを目を閉じてきいていた紗英はそっと瞳を開く。そして、スゥっと小さく息を吸い込むとこの曲に命を吹き込むのだった。
1曲目が終わると同時に沸き起こるのは拍手喝采。最初の曲は、誰もが知っている曲を選曲したお蔭で彼らの熱気は上がっていた。
「どーもー!!1年トリを務めまーす!!
まずメンバーを紹介したいと思いまーす!!」
手ごたえを確かに感じつつ、和真はバンド名を名乗ってメンバーの自己紹介を意気揚々と始める。
「まず、ステージ中央を陣取るのは圧倒的な声量を誇る
ボーカルの紗英!!」
「紗英で〜す!!よろしく〜〜!!」
マイクスタンドの前に立っていた紗英が満面の笑みを振りまく。それに対して拍手が起こる中、少しばかり混じる彼女を呼ぶ声に和真は眉を顰めると、その少数の彼らに向けておちゃらけながら釘をさす。
「あぁ、ちなみに俺のだから誰も取っちゃだめだぜ」
「えぇ!!!そうなの!!」
和真がウインクしたこと、さらに衝撃的な発言をしたことで周囲からは様々な感情をもったどよめきが沸き起こる。それと同時に同じように驚くのはギターを持つ雫だ。そんな彼女に今度は和真はスポットを変える。
「さてその隣、驚きの声をあげた彼女
ギターの技量はご覧の通りピカイチ!!
だが、残念なことに非常に鈍感なのが玉に瑕!!
ギターの雫!!!」
「えぇ…それ言っちゃう??」
呆れた口調の和真に、雫は紹介されながらも苦笑いを浮かべた。だが、時間も押しているので和真はさっさと次に行く。
「雫のことは置いといて次行きまーす
甘いルックスを持ち合わせ、誰に対しても物腰低い優等生!!
彼にウインクされたら魅了されること間違いなし!!
ドラムの拓斗!!!」
「無茶振り酷くないか??」
「いいじゃねーか!!ホントのことだし…」
ウインクしてみれば?とゲラゲラと笑いだす和真に、拓斗はクラクラと眩暈を覚えてこめかみを押さえて項垂れるのだった。
「語弊が生まれるからやめてくれ」
「最後にメンバー紹介をしてくれた彼
普段のおちゃらけ行為でチャラいと認識されてるがやる時はしっかりするバンドの頼れるリーダー!!
ベースの和真!!!」
そんな拓斗の様子にクスクスを笑いながら最後に紗英が和真のことを紹介して締めくくる。
「短い間ですが、皆さんよろしく~!!
ではさっそく次の曲いっきまーす!!」
軽い自己紹介を終わらせると、紗英が次の曲のコールをかける。それと同時に新たな曲調のメロディーが奏で始めるのだった。
*****
「すげーな」
「こんなに香坂さんが凄い人とは思わなかったな」
自分たちの鼓膜に響く迫力のあるメロディーに黒尾達は感嘆の声を漏らしていた。初めて雫のギターの腕前を見た夜久と海はキラキラと眼を輝かせる。だが、中学の文化祭で何度か雫がギターを弾くのを聞いていた黒尾は少し二人とは違った視点で見ていた。
「クロ!」
「何だよ、夜久」
「中学から香坂ってこんなに上手かったのか!?」
「そうだなぁー…」
黒尾は顎に手を当てて、かすかな記憶を呼び起こす。そして、自分の感じている違和感も照らし合わせながらゆっくりと言葉を選ぶ。
「確かに素人目線だけど、アイツのギターは凄いって思ったな」
中学1年の文化祭。半ば強制的に来てきてと言い寄られた黒尾はなんだかんだ軽音部のステージを見に行った。その時に確かに雫のギターの腕前に舌を巻いたし、二人と同様感銘を受けていたのだ。
「でも…」
「「でも??」」
「中学の時よりもなんか生き生きしている気がすんだよな」
そうなのだ。あの頃の記憶と比べて黒尾から見て雫はごく自然体に見えたのだ。中学のときよりもいいメンバーに恵まれたからなのか、ステージでスポットライトを浴びる雫は楽しそうに見えたのだ。
「「へぇ〜」」
すっかりと聞き入る黒尾に、夜久と海はニヤリと不敵な笑みを浮かべて黒尾を覗き込む。それに嫌な予感を感じた黒尾はギクリと身体を強張らすのだった。
「何だよ、お前ら揃いも揃ってそんな表情を浮かべて」
先程とは一転。目を細めていた黒尾は面倒くさそうな表情を浮かべ不機嫌そうな声を漏らした。
「べっつになんでもね〜よ、なぁ!海」
「あぁそうだな」
黒尾のコロコロと変わる表情に夜久と海は愉しげに笑う。当の本人に自覚がないんだから仕方がない。本当になんでここまで注意深く見ているのに自分の気持ちに気づいていないのだろうかと呆れてしまう。
「そぉーいえばこれらの曲、香坂が作ってんだよな」
「らしいな」
「中学からそうだったのか?」
「いや、中学の頃は既存曲を弾いてたな。俺もアイツが作っているの知ったのつい最近だしな」
既存曲は最初の1曲のみ。それ以外は作曲:香坂、作詞:京極となっていたのだ。未だに機嫌が治らない黒尾を見かねて夜久は話題を変える。だが、黒尾自身も彼女自身が作曲をしていると知ったのは本当についこないだ。その驚きの事実に二人はそうなのか?と眼を見開いて驚いた。
「ちなみにどうやって知ったんだ?」
「たまたまさ、たまたま」
海のふとした問いかけに黒尾は小さく笑みを浮かべてはぐらかした。本当に偶々だった。偶々ある日に、雫が首から滅多に外すことがない、誰かに貸すのを嫌がるヘッドホンに元々興味を示していた黒尾はふとした場面で手にした機会があったのだ。その時流れていたのが、雫自身が今製作中の楽曲だった。元々勝手に彼女のヘッドホンを拝借していたのだから、戻ってきた雫は当然慌てた。赤面しながら雫は返してと手を伸ばすが当然身長差が邪魔をしていて叶わなかった。
「これ、なんって曲なの?」
「えっ!?」
黒尾のふと漏らした一声に手を懸命に伸ばしていた雫の手は固まる。信じられないと己の耳を疑ったくらいだ。
「えっと、なんて言った?」
「今かかっている曲、なんて名前なの?」
俺この曲気に入ったわ
軽快に笑う黒尾の発せられた一声は、今度はしっかりと雫の耳に届く。これは夢ではないかと何度も瞬きを繰り返した。でも、これは現実だ。逆に急に挙動不審になりだす雫に黒尾は不思議そうに首を傾げる。
「おーい、雫ちゃん?聞こえてますか〜」
黒尾は雫の目の前まで歩み寄り、何度も確かめるようにヒラヒラと手を彼女の眼の前で横に振って確かめる。それにハッとした雫は慌てて口を開いた。
「き、聞こえてる!聞こえてるよ!」
「じゃぁ、反応を示せよ。たく…」
ようやく反応を示した雫に、黒尾は腰に手を当てて呆れた口調を漏らした。そんな彼に雫はアハハと愛想笑いを浮かべた。
「いやぁ…実はね…」
雫はこの曲は自分が作成中の曲であり名前はまだないことを包み隠さずに話した。本当はいうつもりがなかった。でも、バンドメンバーの3人に打ち明けた時と同じ表情を黒尾自身がしていたので、言っても大丈夫だろうと雫は思ったのだ。そして思ったとおり黒尾は、えっ、マジで!?と驚きの表情を示すのだった。
「これ、香坂が作ったの!?」
「うん。まだ途中なんだけどね」
「すげぇーじゃん」
「ほんとに??」
「あぁ」
黒尾の素直な言動に雫は思わず笑みをこぼした。こうして自分が作った曲が誰かに認められる、褒められるのは嬉しい。特にその評価をしてくれたのが己の好きな人ならなおさらだ。嬉しそうに頬を染め、嬉しいと頬を緩ます雫を見て、黒尾自身も無意識のうちに頬を緩ますのだった。
「なぁ?」
「なに??」
「俺たちのためにも作ってくんね?」
ごく自然に黒尾の口から出た言葉。その言葉に雫はまたもや耳を疑った。そんな彼女にもう一度黒尾は、確かめるように尋ねるのだった。
「今はまだ全然駄目だけど…
もっと練習頑張って、上目指すからさ…
俺たちバレー部に曲作ってよ」
やっぱり、駄目だよな…
無茶振り過ぎたかと後頭部を掻く黒尾に、雫は大きく首を横に振る。このお願いは雫にとっては願ったり叶ったりだ。自分の曲が彼らのためになるのなら喜んで作りたい。懸命にバレーに向き合う彼らを雫は応援したいのだから。
「黒尾…」
「ん??」
「私、作りたい。
黒尾達バレー部のために、曲作らせて欲しい」
「…!?いいのか?」
「約束!!」
満面の笑みを浮かべた雫は片手を差し出した。
絶対、彼らの源になるような曲を作る
必ず、全国制覇した姿を見せてみせる
両者は新たな決意を固めながら約束を契るのだった。
「で?その手はなんだ??」
「そろそろそれ、か・え・し・て」
ニコニコと笑みを浮かべた雫は、未だに自分の元に帰ってこないヘッドホンを指差す。サッサと返せと目線で訴えながら、右手を出す。が、黒尾は満面の胡散臭い笑みを浮かべたまま。
「いやだね」
「はぁ!?!?」
「もう少し聞いてたいし」
「そろそろ返してよ〜
それないと生きていけないの!!」
「全然ピンピンとしてんじゃねーかよ」
形相な表情で必死に取り返そうと手を伸ばす雫をサラリと交わすと黒尾がゲラゲラと笑いながら逃げ始める。そしてまたもや始まった彼らの攻防戦は暫く続くのだった。
*****
「うわぁ〜!楽しかったね!」
「ウンウン!ホントだね!」
文化祭での演奏を無事にやりきった彼らは余韻に浸っていた。すっごく達成感もあり、手応えがあったのは彼らにとってこの舞台が初めてだったのだ。
「にしてもやっぱり雫の曲サイコーだったな」
「ホントに!?!?」
「そうだね。皆盛り上がってたよ」
「イヤイヤ、京極がいい歌詞を書いてくれたおかげだよ」
「そんなことないよ。
僕はただ曲を聞きながら、歌詞をおこしただけだしね」
「「だけねぇ〜〜」」
ここで紗英と和真の声が重なる。ニヤニヤとした彼らが視線を向けるのはもちろん拓人だ。そのいやらしい視線に唯一雫だけ首を傾げる。
「どうしたの?」
「なに?二人揃って勘くぐるようなその眼差しは?」
「何でもない、なんでもない!」
「さて!余韻に浸るのはここまでにして俺たちも仕事手伝うぞ」
愉しげに紗英が笑い飛ばす。それにさらに拓人は眉間にシワを寄せた。そんな拓人の反応に和真は小さく笑いながらこの場を締めた。自分たちの番は終わったがまだまだやることはたくさんあるのだから。その彼の一声に小さく頷くと持ち場に向かって散らばり始める。
「ねぇ、香坂さん」
「どうしたの?」
「話したい事あるから後でここにきて」
「??わかった」
別れ際、拓人は雫を呼び止めると一枚の紙切れを手渡した。それを雫は話ってなんだろう?と、不思議そうに受け取った。
その数時間後、雫は衝撃的な事実を思い知るとはこの時はなんとも思わなかった。
ステージでは、1つ順番が前のバンドが演奏を始めていた。そのステージのバッグでは4人が緊張な面もちを浮かべていた。
「大丈夫だ、いつも通りやれば」
「そ、そうだよね」
皆を鼓舞するように和真が声をあげる。それに小さく紗英が頷いた。だが、紗英の表情はいつも以上に強張っていた。そんな彼女の表情を見て和真が心配そうに眉を顰めた。
「和真の言う通りだよ、僕らがいつものパフォーマンスをすればきっとここにいる皆は沸いてくれるんだから
ねぇ?お二人さん」
ポンっといつの間にか二人の背後に立っていた拓斗が彼女達の肩を叩いた。ビクッと身体を震わして背後を振り向いた二人に拓斗はいつものように爽やかに微笑むのだった。
「「………京極」」
「香坂さんが作った楽曲、野鳥さんがその曲に載せる歌声…
きっと皆の心を揺さぶれる。僕はそう確信してるよ。」
雫が作った楽曲も、紗英が歌う歌声も、最初に聞いた時から拓斗は惚れ込んでいるのだから。それは和真も同じだ。だからこそ二人はバンドにとって、紗英と雫は2枚看板といっても過言でないと思っているのだ。
「拓斗の言う通りだぜ!」
「二人に言われたらなんかそんな気がしてきた!ねぇ!雫!」
「うん!そうだね!」
拓斗の背後から強引に肩を組んだ和真が二カリと笑みを浮かべて顔を覗かせる。おっ、おい!と顔を顰める拓斗に構わず騒ぎ始める二人のいつもの様子に、紗英と雫は顔を見合わせるとクスリと微笑みあった。二人に大丈夫だとお墨付きをもらった、それにずっとこの日のために練習してきたんだから、あとは信じてやるしかないんだ。
「よし、行くか」
やっと笑みを溢した二人を見て騒いでいた二人は顔を見合わせてホッと胸を撫でおろしながら小さく頷く。そして、和真が一声を発すると同時にステージで響いていた音が止んだ。遂に自分たちの出番だと、気を引き締めなおした彼らは急いでステージへ向かうのだった。
*****
ステージに立ち自身の楽器を手に取ればコッチのものだ。大丈夫。信頼できる仲間がこの場にいるのだから。4人の視線が交叉して確かめるように小さく頷きあう。準備は整った。いつものように拓斗が手に持つスティックを叩き始める。そのリズムに合わせて、ギターとベースが音色を奏で始める。ダイナミックな音、だがその裏にはどの音の邪魔をしないようにきめ細やかな配慮がされている。イントロを目を閉じてきいていた紗英はそっと瞳を開く。そして、スゥっと小さく息を吸い込むとこの曲に命を吹き込むのだった。
1曲目が終わると同時に沸き起こるのは拍手喝采。最初の曲は、誰もが知っている曲を選曲したお蔭で彼らの熱気は上がっていた。
「どーもー!!1年トリを務めまーす!!
まずメンバーを紹介したいと思いまーす!!」
手ごたえを確かに感じつつ、和真はバンド名を名乗ってメンバーの自己紹介を意気揚々と始める。
「まず、ステージ中央を陣取るのは圧倒的な声量を誇る
ボーカルの紗英!!」
「紗英で〜す!!よろしく〜〜!!」
マイクスタンドの前に立っていた紗英が満面の笑みを振りまく。それに対して拍手が起こる中、少しばかり混じる彼女を呼ぶ声に和真は眉を顰めると、その少数の彼らに向けておちゃらけながら釘をさす。
「あぁ、ちなみに俺のだから誰も取っちゃだめだぜ」
「えぇ!!!そうなの!!」
和真がウインクしたこと、さらに衝撃的な発言をしたことで周囲からは様々な感情をもったどよめきが沸き起こる。それと同時に同じように驚くのはギターを持つ雫だ。そんな彼女に今度は和真はスポットを変える。
「さてその隣、驚きの声をあげた彼女
ギターの技量はご覧の通りピカイチ!!
だが、残念なことに非常に鈍感なのが玉に瑕!!
ギターの雫!!!」
「えぇ…それ言っちゃう??」
呆れた口調の和真に、雫は紹介されながらも苦笑いを浮かべた。だが、時間も押しているので和真はさっさと次に行く。
「雫のことは置いといて次行きまーす
甘いルックスを持ち合わせ、誰に対しても物腰低い優等生!!
彼にウインクされたら魅了されること間違いなし!!
ドラムの拓斗!!!」
「無茶振り酷くないか??」
「いいじゃねーか!!ホントのことだし…」
ウインクしてみれば?とゲラゲラと笑いだす和真に、拓斗はクラクラと眩暈を覚えてこめかみを押さえて項垂れるのだった。
「語弊が生まれるからやめてくれ」
「最後にメンバー紹介をしてくれた彼
普段のおちゃらけ行為でチャラいと認識されてるがやる時はしっかりするバンドの頼れるリーダー!!
ベースの和真!!!」
そんな拓斗の様子にクスクスを笑いながら最後に紗英が和真のことを紹介して締めくくる。
「短い間ですが、皆さんよろしく~!!
ではさっそく次の曲いっきまーす!!」
軽い自己紹介を終わらせると、紗英が次の曲のコールをかける。それと同時に新たな曲調のメロディーが奏で始めるのだった。
*****
「すげーな」
「こんなに香坂さんが凄い人とは思わなかったな」
自分たちの鼓膜に響く迫力のあるメロディーに黒尾達は感嘆の声を漏らしていた。初めて雫のギターの腕前を見た夜久と海はキラキラと眼を輝かせる。だが、中学の文化祭で何度か雫がギターを弾くのを聞いていた黒尾は少し二人とは違った視点で見ていた。
「クロ!」
「何だよ、夜久」
「中学から香坂ってこんなに上手かったのか!?」
「そうだなぁー…」
黒尾は顎に手を当てて、かすかな記憶を呼び起こす。そして、自分の感じている違和感も照らし合わせながらゆっくりと言葉を選ぶ。
「確かに素人目線だけど、アイツのギターは凄いって思ったな」
中学1年の文化祭。半ば強制的に来てきてと言い寄られた黒尾はなんだかんだ軽音部のステージを見に行った。その時に確かに雫のギターの腕前に舌を巻いたし、二人と同様感銘を受けていたのだ。
「でも…」
「「でも??」」
「中学の時よりもなんか生き生きしている気がすんだよな」
そうなのだ。あの頃の記憶と比べて黒尾から見て雫はごく自然体に見えたのだ。中学のときよりもいいメンバーに恵まれたからなのか、ステージでスポットライトを浴びる雫は楽しそうに見えたのだ。
「「へぇ〜」」
すっかりと聞き入る黒尾に、夜久と海はニヤリと不敵な笑みを浮かべて黒尾を覗き込む。それに嫌な予感を感じた黒尾はギクリと身体を強張らすのだった。
「何だよ、お前ら揃いも揃ってそんな表情を浮かべて」
先程とは一転。目を細めていた黒尾は面倒くさそうな表情を浮かべ不機嫌そうな声を漏らした。
「べっつになんでもね〜よ、なぁ!海」
「あぁそうだな」
黒尾のコロコロと変わる表情に夜久と海は愉しげに笑う。当の本人に自覚がないんだから仕方がない。本当になんでここまで注意深く見ているのに自分の気持ちに気づいていないのだろうかと呆れてしまう。
「そぉーいえばこれらの曲、香坂が作ってんだよな」
「らしいな」
「中学からそうだったのか?」
「いや、中学の頃は既存曲を弾いてたな。俺もアイツが作っているの知ったのつい最近だしな」
既存曲は最初の1曲のみ。それ以外は作曲:香坂、作詞:京極となっていたのだ。未だに機嫌が治らない黒尾を見かねて夜久は話題を変える。だが、黒尾自身も彼女自身が作曲をしていると知ったのは本当についこないだ。その驚きの事実に二人はそうなのか?と眼を見開いて驚いた。
「ちなみにどうやって知ったんだ?」
「たまたまさ、たまたま」
海のふとした問いかけに黒尾は小さく笑みを浮かべてはぐらかした。本当に偶々だった。偶々ある日に、雫が首から滅多に外すことがない、誰かに貸すのを嫌がるヘッドホンに元々興味を示していた黒尾はふとした場面で手にした機会があったのだ。その時流れていたのが、雫自身が今製作中の楽曲だった。元々勝手に彼女のヘッドホンを拝借していたのだから、戻ってきた雫は当然慌てた。赤面しながら雫は返してと手を伸ばすが当然身長差が邪魔をしていて叶わなかった。
「これ、なんって曲なの?」
「えっ!?」
黒尾のふと漏らした一声に手を懸命に伸ばしていた雫の手は固まる。信じられないと己の耳を疑ったくらいだ。
「えっと、なんて言った?」
「今かかっている曲、なんて名前なの?」
俺この曲気に入ったわ
軽快に笑う黒尾の発せられた一声は、今度はしっかりと雫の耳に届く。これは夢ではないかと何度も瞬きを繰り返した。でも、これは現実だ。逆に急に挙動不審になりだす雫に黒尾は不思議そうに首を傾げる。
「おーい、雫ちゃん?聞こえてますか〜」
黒尾は雫の目の前まで歩み寄り、何度も確かめるようにヒラヒラと手を彼女の眼の前で横に振って確かめる。それにハッとした雫は慌てて口を開いた。
「き、聞こえてる!聞こえてるよ!」
「じゃぁ、反応を示せよ。たく…」
ようやく反応を示した雫に、黒尾は腰に手を当てて呆れた口調を漏らした。そんな彼に雫はアハハと愛想笑いを浮かべた。
「いやぁ…実はね…」
雫はこの曲は自分が作成中の曲であり名前はまだないことを包み隠さずに話した。本当はいうつもりがなかった。でも、バンドメンバーの3人に打ち明けた時と同じ表情を黒尾自身がしていたので、言っても大丈夫だろうと雫は思ったのだ。そして思ったとおり黒尾は、えっ、マジで!?と驚きの表情を示すのだった。
「これ、香坂が作ったの!?」
「うん。まだ途中なんだけどね」
「すげぇーじゃん」
「ほんとに??」
「あぁ」
黒尾の素直な言動に雫は思わず笑みをこぼした。こうして自分が作った曲が誰かに認められる、褒められるのは嬉しい。特にその評価をしてくれたのが己の好きな人ならなおさらだ。嬉しそうに頬を染め、嬉しいと頬を緩ます雫を見て、黒尾自身も無意識のうちに頬を緩ますのだった。
「なぁ?」
「なに??」
「俺たちのためにも作ってくんね?」
ごく自然に黒尾の口から出た言葉。その言葉に雫はまたもや耳を疑った。そんな彼女にもう一度黒尾は、確かめるように尋ねるのだった。
「今はまだ全然駄目だけど…
もっと練習頑張って、上目指すからさ…
俺たちバレー部に曲作ってよ」
やっぱり、駄目だよな…
無茶振り過ぎたかと後頭部を掻く黒尾に、雫は大きく首を横に振る。このお願いは雫にとっては願ったり叶ったりだ。自分の曲が彼らのためになるのなら喜んで作りたい。懸命にバレーに向き合う彼らを雫は応援したいのだから。
「黒尾…」
「ん??」
「私、作りたい。
黒尾達バレー部のために、曲作らせて欲しい」
「…!?いいのか?」
「約束!!」
満面の笑みを浮かべた雫は片手を差し出した。
絶対、彼らの源になるような曲を作る
必ず、全国制覇した姿を見せてみせる
両者は新たな決意を固めながら約束を契るのだった。
「で?その手はなんだ??」
「そろそろそれ、か・え・し・て」
ニコニコと笑みを浮かべた雫は、未だに自分の元に帰ってこないヘッドホンを指差す。サッサと返せと目線で訴えながら、右手を出す。が、黒尾は満面の胡散臭い笑みを浮かべたまま。
「いやだね」
「はぁ!?!?」
「もう少し聞いてたいし」
「そろそろ返してよ〜
それないと生きていけないの!!」
「全然ピンピンとしてんじゃねーかよ」
形相な表情で必死に取り返そうと手を伸ばす雫をサラリと交わすと黒尾がゲラゲラと笑いながら逃げ始める。そしてまたもや始まった彼らの攻防戦は暫く続くのだった。
*****
「うわぁ〜!楽しかったね!」
「ウンウン!ホントだね!」
文化祭での演奏を無事にやりきった彼らは余韻に浸っていた。すっごく達成感もあり、手応えがあったのは彼らにとってこの舞台が初めてだったのだ。
「にしてもやっぱり雫の曲サイコーだったな」
「ホントに!?!?」
「そうだね。皆盛り上がってたよ」
「イヤイヤ、京極がいい歌詞を書いてくれたおかげだよ」
「そんなことないよ。
僕はただ曲を聞きながら、歌詞をおこしただけだしね」
「「だけねぇ〜〜」」
ここで紗英と和真の声が重なる。ニヤニヤとした彼らが視線を向けるのはもちろん拓人だ。そのいやらしい視線に唯一雫だけ首を傾げる。
「どうしたの?」
「なに?二人揃って勘くぐるようなその眼差しは?」
「何でもない、なんでもない!」
「さて!余韻に浸るのはここまでにして俺たちも仕事手伝うぞ」
愉しげに紗英が笑い飛ばす。それにさらに拓人は眉間にシワを寄せた。そんな拓人の反応に和真は小さく笑いながらこの場を締めた。自分たちの番は終わったがまだまだやることはたくさんあるのだから。その彼の一声に小さく頷くと持ち場に向かって散らばり始める。
「ねぇ、香坂さん」
「どうしたの?」
「話したい事あるから後でここにきて」
「??わかった」
別れ際、拓人は雫を呼び止めると一枚の紙切れを手渡した。それを雫は話ってなんだろう?と、不思議そうに受け取った。
その数時間後、雫は衝撃的な事実を思い知るとはこの時はなんとも思わなかった。