1年生
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「そういえば、テストどうだったんだ??」
テストが終わり暫く経ちようやく一段落した昼休み、久しぶりに雫は晴れやかな気分であった。ルンルンと浮かれ気分で昼ごはんを食べ始める雫。だが、夜久の一言で一気に現実に引き戻されるのだった。
「え…」
「そろそろ全科目返ってきただろ??」
「あぁ…そ、そうだったね」
夜久の指摘に雫は視線を泳がせて歯切れ悪く答えた。そんな雫の様子に夜久と海はサッと顔を青ざめた。
「も…もしかして駄目だったのか?」
「あんなに頑張ってやっただろ?」
海と夜久の切羽詰まった声に雫はアハハと引きつった顔を浮かべる。このままじゃ埒が明かないと二人は矛先を別の者に向けた。
「おい…クロ」
「どうした?夜久??」
もぐもぐと咀嚼しながら黒尾は夜久に視線を向けた。
「クロは香坂のテストの結果知ってるのか??」
「もちろん知ってる
ってか、問答無用に奪い取って見たからな」
顔色一つ変えること無く淡々と答える黒尾の言葉に夜久は絶句する。が、彼ならやりかねないことだと必死に呑み込もうと努めた。
「他人のテストを勝手に見るか??普通…」
「香坂のはいつも見るぞ
こうでもしねーと結果を知れねーからな」
「それで、アイツ大丈夫なのか??」
「まぁ…頑張ったほうなんじゃね?」
夜久と海の問いに黒尾は淡々と答えると、視線を蹲る雫にやった。
「見せてやればいいじゃね〜か」
「だ…だって…」
「今更だろ
サッサと見せて安心させてやれよ」
「………」
「じゃあ、俺から教えちゃっても良いのかな??」
渋って黙り込む雫を見て、大きくため息を吐くと黒尾は最終手段を繰り出す。
「……ちょ!!ちょっと待って!!」
「誰が待つか!!ほれ!!早くしろ」
焦りだす雫に対して、黒尾がさらに急かし始める。そして、カウントダウンまで始める始末。
「10…9…8…7…6…5…4…3…2…1…」
そのカウントダウンに、雫は慌ててカバンを漁りだす。そして、カウントが0になる前にバッと机に返却されたテストを広げた。
ハァハァ…と息を荒げる雫が出した答案用紙を夜久と海が身を乗り出して覗き込む。
「……な、なるほど」
「良かったじゃないか、補習を回避できて」
机に散りばめられた答案に赤ペンで記されている点数に一先ず二人はホッと息を吐いた。雫自身がここまで見せるのを渋るものであるから、少なからず1科目補習に引っかかるくらいひどい点数を取ってしまったのかと思ったからだ。対して、二人の反応が予想と違うと雫は唖然としてしまった。そんな彼女を見て、黒尾はクスクスと小さく笑った。
「なぁ!!笑わなくっていいじゃない!!」
「いやぁ〜、あまりにも香坂の顔がだらしなくてな」
「人の顔見て笑うなんてサイテー!!」
「おいおい、恩人に対する態度か?」
「………その節はお世話になりました」
黒尾はゲラゲラと笑いつつ、顔を真っ赤にし言い寄る雫を優位ある言葉で言い沈めた。だが、しっかりと黒尾は雫に対してのフォローを忘れることなく行った。
「頑張ったな…」
頭を下げたままの雫の頭に黒尾は手を乗せると優しく撫でた。その行為に対して満更でもない様子で受け入れる雫の頬はほんのり染まっており、そんな彼女を見て黒尾は眼を細めた。
「クロは、アメとムチの使い方が上手いな…」
「ってか、あれは無意識か!!」
「そうだろうな…」
「見ててコッチが恥ずかしいわ」
完全に取り残された海と夜久はヒソヒソと思ったことを確認するように話すのだった。二人から見ては微笑ましげな光景。だが、ある一声がこの雰囲気を切り裂くのだった。
香坂さん!!!
名前を呼ばれた雫はハッと顔を上げる、それと同時に黒尾の手は雫の頭から離れた。未だに残る撫でられた感触を名残惜しいと思いながら、雫は近くに寄ってくる人物の名を不思議そうに呼んだ。
「京極、どうしたの??」
「どうしたの??じゃないでしょ
ミィーティングするって言ったよね」
拓斗は思い当たる節が見当たらないという表情をする雫に呆れながら口を開く。予め決めていたミィーティングに時間になってもこない雫を呼びに拓斗は来たのだ。本来は紗英が呼びに行ってもいいのだが、何故か彼女は和真と絶え間なく喋り続けている始末。タイミングを見計らって拓斗が尋ねると、紗英と和真は二人揃ってニヤニヤと愉しげに笑う。そして紗英は拓斗に雫を呼んできてと頼んだのだった。
「…………」
拓斗の言葉に最初は首を傾げる雫
だが、数秒後ようやく予定があることを思い出し大きな声を上げたのだった。
「あぁ!!今日だっけ??」
「……忘れてたのね」
「ご…ゴメン!!!すぐ行く!!」
慌てて雫は席を立つ。その衝撃で椅子が勢いよく音を立てる。その音で一気に視線を集めるが雫は気にすること無く、必要なものを持つと拓斗の方へ。
「はぁ…しっかりしてよね」
歩き出した拓斗は、隣にいる雫に大きくため息をつきながら言葉をかける。それにゴメンってばと申し訳無さそうな表情を雫は浮かべた。そんな雫の手から拓斗はさりげなく持っているものを掻っ攫う。えっと驚きの声を漏らす雫を見て拓斗は小さく笑みを零すと、早く行こと彼女を急かすのだった。
そんな二人の様子を、ジッと見えなくなるまで見ていたのが一人いた。
「いつまでそうしてるんだ??」
海のご指摘にハッと黒尾は視線を戻すと、なんのことだとしらばっくれた。いつもの喰えない表情を浮かべる黒尾に夜久が呆れながら口を開いた。
「……クロ」
「どうした??夜久??」
「今すげぇー怖い顔してたぞ」
「元々、悪人面なんでな」
「いや、それに拍車がかかってたぞ」
「……マジ??」
キョトンとする黒尾を見て、夜久と海は顔を見合わせて小さく息をついた。
「今にも彼を殺しそうな勢いだったぞ」
「無意識ってこえぇー」
苦笑する海とおどけて体を意図的に震わす夜久に対して、黒尾は視線をそらして頭を掻くのだった。
一方、和真と紗英のいる場所に戻った拓斗と呼び出された雫はドアを開けた途端にいつも以上に不気味に笑う紗英と和真に顔を引き攣らせるのだった。
*****
「……香坂さん」
「あ…京極」
そんなことがあって暫く経ったとある放課後、普段どおり委員会の仕事を教室でこなしていた雫の前に突如拓斗が現れた。まさかの人物の登場に驚く雫を気にせず拓斗は教室に入ってきた。
「もしかして毎度遅刻しているの怒ってる??」
不安げに雫は瞳を揺らす。そんな彼女を見て拓斗は不安を吹き飛ばすように軽快に笑い飛ばした。
「…!?
まさか!!そんなわけないだろ」
「そ…そっか
じゃあどうしてここに??」
不思議そうにコテンと首を傾げる雫に、拓斗はグッと顔を寄せる。真っ直ぐ雫を見つめたまま、拓斗はこう耳元に呟くのだった。
「ちょっとね…香坂さんと二人になりたくて」
「えぇ??」
拓斗の甘いマスクが目近に来た雫は、衝撃的なセリフにアタフタと視線を泳がした。メガネのレンズ越しに見える彼の茶色の瞳に射抜かれた雫は、普段と違う拓斗の色っぽさに挙動不審に。
「ごめん、冗談だよ
ホントは手伝いに来ただけだから」
そんな彼女の様子を見て、満足したのか拓斗は小さく笑みを浮かべて雫から離れた。
「もう!!京極までからかわないでよ!!」
「ごめんごめん
あまりにも香坂さんの反応が可愛くて
彼がからかいたくなる理由、わかる気がするよ」
不貞腐れて頬を膨らませる雫に、拓斗はクスクスと笑みを零しならが答える。
「え??」
「ねぇ、トサカヘッドの人とはどういう関係なの??」
「あぁ…黒尾のこと?
ただの同じ中学の腐れ縁の奴だよ」
「……ホントに??
僕にはそう見えなかったけど」
スゥと眼を細め勘くぐるように見つめる拓斗の視線に雫は心の奥底を見透かされている気がした。間髪入れずにワンオクターブ低くなった声で探りを入れられていることに、雫の心臓の拍動は速くなっていた。バクバクと音を立てる心臓の鼓動を聞きながら乾ききってしまった口をゆっくりと開くのだった。
「京極は、何を…言いたいの??」
「おせっかいかもしんないけど
僕には好意を寄せている風に見えたからさ」
ようやく声にした雫の言葉に、拓斗は少し淋しげに笑い呟いた。そんな彼の表情は言い当てられてしまって動揺している今の雫には気づくことが出来なかった。
「図星…みたいだね」
「はぁ…敵わないな」
雫の様子に拓斗は察する。乾いた笑いを発しながら拓斗が漏らした言葉に、雫は言い逃れできないなと諦めて自嘲気味に笑った。そのまま拓斗に雫は背を向ける。そんな彼女にポツリと拓斗は呟くのだった。
「言わないの??」
「……言わないよ、言えるわけがないよ」
「どうして??」
「目標に向かって頑張るアイツの邪魔になりたくないからだよ。」
拓斗の言葉に、雫は今にも震えそうな声を懸命に抑えながら口にした。想いがあるからって本人に簡単に告げられるわけがない。自分は必死に想いに蓋をしようとしてるのに、軽々しくそんな風に言われても困る。
「ふーん、そっか…」
予想を上回る返しに拓斗は歯切れが悪そうに返答した。純粋に興味を抱いてしまったから、ふと聞いてしまった。だが、これでますます踏ん切りがつかなくなってしまった。彼女の口から告げられる想いには、彼に対する気持ちが十分に伝わってきた。仮に彼女が想いを告げてくれればこの気持ちに諦めがつくのにと。最初から叶わぬ想いを抱いてしまった自分はどこに吐け口を見い出せばいいのだろうと、内心自嘲気味に笑った。
「ほら、サッサとこれ終わらせて部活いこ」
「え…あ…うん。そうだね
って、それ私の仕事!!」
雫は拓斗の言葉にそれもそうだと、振り向く。が、そこにいたのは先程まで束になっていた紙を整理し始める拓斗がいた。それに慌てて雫が声を上げて拓斗のもとに駆け寄る。そんな彼女に拓斗は爽やかな笑みを浮かべるのだった。
「一緒にやったほうが、早く終わるから手伝うよ」
「えっ…でも」
「香坂さんがいないと全体練習できないでしょ」
「うっ、それもそうだけど」
「ねぇ?早くやろ」
拓斗のご尤もな正論に雫は喉に言葉を詰まらせた。反論の隙間も与えられなかった雫は、促す拓斗の言葉に小さく頷くと先程の半分に量が減った束を拓斗から受け取るのだった。
静かになった教室には、微かに木々にいる蝉達の合唱が響いた。少しずつ、確実に、夏は近づいてきているのだった。
テストが終わり暫く経ちようやく一段落した昼休み、久しぶりに雫は晴れやかな気分であった。ルンルンと浮かれ気分で昼ごはんを食べ始める雫。だが、夜久の一言で一気に現実に引き戻されるのだった。
「え…」
「そろそろ全科目返ってきただろ??」
「あぁ…そ、そうだったね」
夜久の指摘に雫は視線を泳がせて歯切れ悪く答えた。そんな雫の様子に夜久と海はサッと顔を青ざめた。
「も…もしかして駄目だったのか?」
「あんなに頑張ってやっただろ?」
海と夜久の切羽詰まった声に雫はアハハと引きつった顔を浮かべる。このままじゃ埒が明かないと二人は矛先を別の者に向けた。
「おい…クロ」
「どうした?夜久??」
もぐもぐと咀嚼しながら黒尾は夜久に視線を向けた。
「クロは香坂のテストの結果知ってるのか??」
「もちろん知ってる
ってか、問答無用に奪い取って見たからな」
顔色一つ変えること無く淡々と答える黒尾の言葉に夜久は絶句する。が、彼ならやりかねないことだと必死に呑み込もうと努めた。
「他人のテストを勝手に見るか??普通…」
「香坂のはいつも見るぞ
こうでもしねーと結果を知れねーからな」
「それで、アイツ大丈夫なのか??」
「まぁ…頑張ったほうなんじゃね?」
夜久と海の問いに黒尾は淡々と答えると、視線を蹲る雫にやった。
「見せてやればいいじゃね〜か」
「だ…だって…」
「今更だろ
サッサと見せて安心させてやれよ」
「………」
「じゃあ、俺から教えちゃっても良いのかな??」
渋って黙り込む雫を見て、大きくため息を吐くと黒尾は最終手段を繰り出す。
「……ちょ!!ちょっと待って!!」
「誰が待つか!!ほれ!!早くしろ」
焦りだす雫に対して、黒尾がさらに急かし始める。そして、カウントダウンまで始める始末。
「10…9…8…7…6…5…4…3…2…1…」
そのカウントダウンに、雫は慌ててカバンを漁りだす。そして、カウントが0になる前にバッと机に返却されたテストを広げた。
ハァハァ…と息を荒げる雫が出した答案用紙を夜久と海が身を乗り出して覗き込む。
「……な、なるほど」
「良かったじゃないか、補習を回避できて」
机に散りばめられた答案に赤ペンで記されている点数に一先ず二人はホッと息を吐いた。雫自身がここまで見せるのを渋るものであるから、少なからず1科目補習に引っかかるくらいひどい点数を取ってしまったのかと思ったからだ。対して、二人の反応が予想と違うと雫は唖然としてしまった。そんな彼女を見て、黒尾はクスクスと小さく笑った。
「なぁ!!笑わなくっていいじゃない!!」
「いやぁ〜、あまりにも香坂の顔がだらしなくてな」
「人の顔見て笑うなんてサイテー!!」
「おいおい、恩人に対する態度か?」
「………その節はお世話になりました」
黒尾はゲラゲラと笑いつつ、顔を真っ赤にし言い寄る雫を優位ある言葉で言い沈めた。だが、しっかりと黒尾は雫に対してのフォローを忘れることなく行った。
「頑張ったな…」
頭を下げたままの雫の頭に黒尾は手を乗せると優しく撫でた。その行為に対して満更でもない様子で受け入れる雫の頬はほんのり染まっており、そんな彼女を見て黒尾は眼を細めた。
「クロは、アメとムチの使い方が上手いな…」
「ってか、あれは無意識か!!」
「そうだろうな…」
「見ててコッチが恥ずかしいわ」
完全に取り残された海と夜久はヒソヒソと思ったことを確認するように話すのだった。二人から見ては微笑ましげな光景。だが、ある一声がこの雰囲気を切り裂くのだった。
香坂さん!!!
名前を呼ばれた雫はハッと顔を上げる、それと同時に黒尾の手は雫の頭から離れた。未だに残る撫でられた感触を名残惜しいと思いながら、雫は近くに寄ってくる人物の名を不思議そうに呼んだ。
「京極、どうしたの??」
「どうしたの??じゃないでしょ
ミィーティングするって言ったよね」
拓斗は思い当たる節が見当たらないという表情をする雫に呆れながら口を開く。予め決めていたミィーティングに時間になってもこない雫を呼びに拓斗は来たのだ。本来は紗英が呼びに行ってもいいのだが、何故か彼女は和真と絶え間なく喋り続けている始末。タイミングを見計らって拓斗が尋ねると、紗英と和真は二人揃ってニヤニヤと愉しげに笑う。そして紗英は拓斗に雫を呼んできてと頼んだのだった。
「…………」
拓斗の言葉に最初は首を傾げる雫
だが、数秒後ようやく予定があることを思い出し大きな声を上げたのだった。
「あぁ!!今日だっけ??」
「……忘れてたのね」
「ご…ゴメン!!!すぐ行く!!」
慌てて雫は席を立つ。その衝撃で椅子が勢いよく音を立てる。その音で一気に視線を集めるが雫は気にすること無く、必要なものを持つと拓斗の方へ。
「はぁ…しっかりしてよね」
歩き出した拓斗は、隣にいる雫に大きくため息をつきながら言葉をかける。それにゴメンってばと申し訳無さそうな表情を雫は浮かべた。そんな雫の手から拓斗はさりげなく持っているものを掻っ攫う。えっと驚きの声を漏らす雫を見て拓斗は小さく笑みを零すと、早く行こと彼女を急かすのだった。
そんな二人の様子を、ジッと見えなくなるまで見ていたのが一人いた。
「いつまでそうしてるんだ??」
海のご指摘にハッと黒尾は視線を戻すと、なんのことだとしらばっくれた。いつもの喰えない表情を浮かべる黒尾に夜久が呆れながら口を開いた。
「……クロ」
「どうした??夜久??」
「今すげぇー怖い顔してたぞ」
「元々、悪人面なんでな」
「いや、それに拍車がかかってたぞ」
「……マジ??」
キョトンとする黒尾を見て、夜久と海は顔を見合わせて小さく息をついた。
「今にも彼を殺しそうな勢いだったぞ」
「無意識ってこえぇー」
苦笑する海とおどけて体を意図的に震わす夜久に対して、黒尾は視線をそらして頭を掻くのだった。
一方、和真と紗英のいる場所に戻った拓斗と呼び出された雫はドアを開けた途端にいつも以上に不気味に笑う紗英と和真に顔を引き攣らせるのだった。
*****
「……香坂さん」
「あ…京極」
そんなことがあって暫く経ったとある放課後、普段どおり委員会の仕事を教室でこなしていた雫の前に突如拓斗が現れた。まさかの人物の登場に驚く雫を気にせず拓斗は教室に入ってきた。
「もしかして毎度遅刻しているの怒ってる??」
不安げに雫は瞳を揺らす。そんな彼女を見て拓斗は不安を吹き飛ばすように軽快に笑い飛ばした。
「…!?
まさか!!そんなわけないだろ」
「そ…そっか
じゃあどうしてここに??」
不思議そうにコテンと首を傾げる雫に、拓斗はグッと顔を寄せる。真っ直ぐ雫を見つめたまま、拓斗はこう耳元に呟くのだった。
「ちょっとね…香坂さんと二人になりたくて」
「えぇ??」
拓斗の甘いマスクが目近に来た雫は、衝撃的なセリフにアタフタと視線を泳がした。メガネのレンズ越しに見える彼の茶色の瞳に射抜かれた雫は、普段と違う拓斗の色っぽさに挙動不審に。
「ごめん、冗談だよ
ホントは手伝いに来ただけだから」
そんな彼女の様子を見て、満足したのか拓斗は小さく笑みを浮かべて雫から離れた。
「もう!!京極までからかわないでよ!!」
「ごめんごめん
あまりにも香坂さんの反応が可愛くて
彼がからかいたくなる理由、わかる気がするよ」
不貞腐れて頬を膨らませる雫に、拓斗はクスクスと笑みを零しならが答える。
「え??」
「ねぇ、トサカヘッドの人とはどういう関係なの??」
「あぁ…黒尾のこと?
ただの同じ中学の腐れ縁の奴だよ」
「……ホントに??
僕にはそう見えなかったけど」
スゥと眼を細め勘くぐるように見つめる拓斗の視線に雫は心の奥底を見透かされている気がした。間髪入れずにワンオクターブ低くなった声で探りを入れられていることに、雫の心臓の拍動は速くなっていた。バクバクと音を立てる心臓の鼓動を聞きながら乾ききってしまった口をゆっくりと開くのだった。
「京極は、何を…言いたいの??」
「おせっかいかもしんないけど
僕には好意を寄せている風に見えたからさ」
ようやく声にした雫の言葉に、拓斗は少し淋しげに笑い呟いた。そんな彼の表情は言い当てられてしまって動揺している今の雫には気づくことが出来なかった。
「図星…みたいだね」
「はぁ…敵わないな」
雫の様子に拓斗は察する。乾いた笑いを発しながら拓斗が漏らした言葉に、雫は言い逃れできないなと諦めて自嘲気味に笑った。そのまま拓斗に雫は背を向ける。そんな彼女にポツリと拓斗は呟くのだった。
「言わないの??」
「……言わないよ、言えるわけがないよ」
「どうして??」
「目標に向かって頑張るアイツの邪魔になりたくないからだよ。」
拓斗の言葉に、雫は今にも震えそうな声を懸命に抑えながら口にした。想いがあるからって本人に簡単に告げられるわけがない。自分は必死に想いに蓋をしようとしてるのに、軽々しくそんな風に言われても困る。
「ふーん、そっか…」
予想を上回る返しに拓斗は歯切れが悪そうに返答した。純粋に興味を抱いてしまったから、ふと聞いてしまった。だが、これでますます踏ん切りがつかなくなってしまった。彼女の口から告げられる想いには、彼に対する気持ちが十分に伝わってきた。仮に彼女が想いを告げてくれればこの気持ちに諦めがつくのにと。最初から叶わぬ想いを抱いてしまった自分はどこに吐け口を見い出せばいいのだろうと、内心自嘲気味に笑った。
「ほら、サッサとこれ終わらせて部活いこ」
「え…あ…うん。そうだね
って、それ私の仕事!!」
雫は拓斗の言葉にそれもそうだと、振り向く。が、そこにいたのは先程まで束になっていた紙を整理し始める拓斗がいた。それに慌てて雫が声を上げて拓斗のもとに駆け寄る。そんな彼女に拓斗は爽やかな笑みを浮かべるのだった。
「一緒にやったほうが、早く終わるから手伝うよ」
「えっ…でも」
「香坂さんがいないと全体練習できないでしょ」
「うっ、それもそうだけど」
「ねぇ?早くやろ」
拓斗のご尤もな正論に雫は喉に言葉を詰まらせた。反論の隙間も与えられなかった雫は、促す拓斗の言葉に小さく頷くと先程の半分に量が減った束を拓斗から受け取るのだった。
静かになった教室には、微かに木々にいる蝉達の合唱が響いた。少しずつ、確実に、夏は近づいてきているのだった。