1年生
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仮入部期間が終わり、正式に雫は軽音部に、黒尾はバレー部に入部をした。
愛用のギターが入ったケースをヨッと背負い、雫は急いで軽音部の活動場所へ急いだ。そのさなか、己の肩を勢いよく叩かれ雫はビッくと驚き振り向く。するとそこにはニコニコと笑みを浮かべてゆらりとポニーテールを揺らす女子生徒がいた。
「え…えっと…」
「あ!!いきなりごめんごめん!!
それ持ってるってことは軽音部でしょ!!私もなんだ!!」
驚きで呆気に取られる雫に間髪入れずに彼女は喋りだした。最初は彼女の勢いに押され気味だった雫だが、彼女の一声に雫の不信感は一気に吹っ飛んだ。
「うん!!!
私、香坂雫!!貴女は??」
「雫ね!!!私は、野鳥紗英!!よろしく!!」
「よろしく〜!!
紗英は経験者??」
「そうだよ!!ポーカルやってた!!
雫は、ベース??ギター??」
「私はギターだよ!!」
「おっ!!ビンゴ!!
ねぇ、雫!!一緒にバンド組まない??」
「いいの??組も組も!!」
廊下でたまたま声をかけられた雫、声をかけた紗英は意気投合してしまった。短時間で居心地の良さを感じてしまった両者はバンドを組むことに決めたのだった。
「あ!!そうだ!!
ベースはもう決まってるから」
紗英はスマホで誰かに連絡をとった後に雫にそう漏らした。その衝撃な事実に雫は驚きながら尋ねた。
「え…??紗英の友達??」
「幼馴染!!」
「そうなんだ…じゃあ後はドラムだね」
ニコニコと笑みを絶やさない紗英の言葉に納得する。後は、ドラムだけかとポツリと声を漏らす雫。だが、その言葉に紗英は首を振った。
「ううん…もうメンバーは揃ってるよ」
「……どういうこと??紗英」
「和真…あっ、和真ってさっき言った私の幼馴染なんだけど
その子がドラムの子見つけてくれたらしいんだ」
トントン拍子で話が進む展開に雫は頭が追いつかず、唖然としてしまった。
「おっ!!いたいた!!」
「あ!!和真!!お待たせ」
部室に入ると早速奥側にいる黒髪の男子生徒が大きく手を振る。それに答えるように紗英も手を振った。その男子生徒の隣には焦げ茶髪で黒縁メガネを掛けている男子生徒がいた。
「あ、紗英が言ってたギターの子??」
「はい、香坂雫といいます」
「同い年なんだしタメ口で頼むぜ
俺は長谷川和真、よろしくな香坂」
「そうだね
よろしくね、長谷川くん」
「で??和真…ドラムの子は彼??」
紗英の言葉に答えるように和真は隣にいた青年の首に己の腕を回した。
「そ…そうそう!!コイツ!!」
「コイツって言うなよ、たく…」
ニコニコと笑みを絶やさない和真に対して、青年はため息を吐きながらさり気なく和真の腕を外した。そして、一歩前に出ると彼は爽やかな笑みを浮かべた。
「和真に誘われたドラムの京極拓斗です
よろしく香坂さんと、えっと…」
言いよどんだ拓斗は、困ったように紗英を見た。それに感づいた紗英は笑みを崩さず自己紹介をした。
「ポーカルの野鳥紗英よ
よろしく!!京極くん」
「よろしくね、京極くん」
雫も紗英のあとに拓斗と握手を交わすのであった。
*****
「っーことで、バンド結成祝いにカンパーイ!!」
「「「カンパーイ!!」」」
初日の部活を終えた雫達は、和真の一言により近くのファミレスに足を運んでいた。
「いやぁ…でも上手くいったな」
目の前の飲み物に手を出しながら和真が口を開く。それに大きく頷くのは紗英。対して、雫と拓斗はその言葉にイマイチ頭にピンと来ず顔を顰めた。
「ねぇ…京極くん、どういうこと??」
「さぁ??僕にもさっぱり??」
恐る恐る雫が目の前に座る拓斗に話を振るのだが、拓斗は苦笑いを浮かべるだけだった。そして、拓斗は目線を雫から隣でヘラヘラと笑みを浮かべる和真に移す。ニヤリと不敵な笑みを浮かべた拓斗は、和真の頭上に拳を落とした。
「いってぇーな!!なんだよ、拓斗!!」
突然の頭の痛みに和真は後頭部を擦りながら拓斗を訝しげに見た。そんな和真に拓斗は薄っぺらい笑みを浮かべた。
「何が上手くいったんだ?
僕達にもわかるように説明してくれないか??和真」
拓斗の表情の裏にドス黒いオーラを出していることに気づきながらも和真はあれっと首を傾げた。
「あれ??言ってなかったっけ??」
「少なくとも僕の記憶にはないんだけど…
香坂さんもだろ??」
そんな和真に呆れながらも拓斗は雫に話を振った。
「…うん、どういうこと??紗英」
「あ…言ってなかったっけ??」
「聞いてないよ」
「それはゴメンゴメン!!
実はね……」
紗英は和真と企てていた計画を二人に打ち明けた。それは至ってシンプルな作戦。各々一人ずつ、軽音部かつ経験者らしき人を仲間に引きずり込むことだったのだ。
「なに??
じゃあ、僕と仲良くなったのは意図的なわけ??」
「違うって!!拓斗はたまたまだって!!」
全ての話を聞き終えた拓斗は、苛立ちを滲ませながら和真を睨みつけた。その言葉に和真は慌てて誤解だと手を横に振った。その様子を見ていた雫は、自分もなのか??と紗英に目線を向けた。
「あ…
実はね、雫に目星付けてたんだ」
アハハと苦笑いを浮かべながら紗英は答えた。
「いつもヘッドホンを付けてるし…
今日はギターケース背負ってたから
あ…これはいい人みっけって思って声掛けたんだ」
「あぁ…なるほどね」
紗英の説明に雫は納得した表情を浮かべた。
「あっ、でも
声掛けるのヒヤヒヤしたんだよ!!
雫はもうメンバー決まってるのかなってさ」
「なんで〜??」
「だって、いつも朝一緒にいる人と組むのかなって思ってさ」
紗英の言葉に雫はキョトンとするが、数秒後何か思い当たりがあるのか雫は大きく声を上げた。
「もしかして…紗英が言ってる人って
顔相悪いトサカヘッドの子??」
「そうそう!!その人!!」
「あ…そういう仲じゃないし
ってか、アイツはもう心に決めてる部活あるから」
雫は紗英の言葉に慌てて手を横に振り否定した。黒尾とはただの中学時代からの腐れ縁って仲だということも添えて。
「ふーん…そうなんだ」
「ねぇ??そういえば曲、どうする??」
勘くぐるような紗英の眼差しに耐えきれなくなった雫は慌てて別の話題に切り替えた。
「曲な〜〜、どうしよっか??」
その切り返しに和真が即座に反応した。
「だいたい、既存曲やればいいんじゃない??」
「それもいいけど、何か面白みないよね…」
「じゃ、紗英なんか作ってよ」
「そんな無茶振りしないでよ!!」
「だって面白みないって言ったの、紗英じゃん!!」
「ねぇ…、その話なんだけどさ」
その雫の一言に和真と紗英はいい問答を止める。そして、3人の視線が注目する中、雫は意を決して口を開いた。
「作曲なら出来るんだけど……」
「えぇ!!ホント!!雫!!」
雫の言葉に紗英が眼をキラキラさせる。そんな彼女を横目に雫はカバンを漁りだす。
「気にいるといいんだけど……」
趣味の一環として作ったものを雫は3人に聞かせた。誰にも聞かせたことがないものだからこそ、3人の反応が気になり雫は緊張した面付きで今か今かと待った。
「…いいんじゃね?俺結構好きだぜ」
「凄い!!雫!!こんなのあるならもっと早く言ってよ!!」
聞き終えた和真と紗英の反応に雫はフゥッと大きく息をついた。それでも、まだ一人からの反応がなかかったため、緊張した面付きを残したまま雫は彼に視線をやった。
「おい!!拓斗!!なんか言ってやれよ!!」
「えっ…あ!!
ごめんごめん、つい聞き入っちゃった。」
和真に小突かれたことで、ようやく顔を上げた拓斗は苦笑した。拓斗は曲を聞くのに没頭しすぎて、皆の視線を集めていることに気づかなかったのだ。ほんのりと頬を染め、照れ笑いしていた拓斗だが、雫に視線を移すと真剣な面付きを浮かべた。
「ねぇ、香坂さん」
「あ!!もしかして、曲調気に入らなかった??」
サッと表情を青ざめた雫。だが、その表情を見て拓斗はアタフタとしだした。
「違う違う!!むしろどストライクだよ
凄く良かった」
必死に誤解を解こうと拓斗は口を開いた。その表情は柔らかく、お世辞でないく本心で言ってるのだろうとわかったため、雫はやっと表情を崩した。
「そっか!!それは良かった」
「だからこそ、お願いがあるんだけど
香坂さん、これ僕が歌詞書いていいかな」
「え!?!?」
「なんだよ、拓斗!!できるのか!!」
「歌えるの!!ヤッタ〜!!」
「君たち二人はとりあえず黙って」
拓斗の頼みに、雫は驚き唖然とする中、話を黙って聞いていた和真と紗英が嬉しそうにはしゃぎ出した。それをピシャリと拓斗は黙らせると、真っ直ぐ雫を見た。
「どうかな?」
「むしろ、逆にお願いしていいの!!」
「もちろんだよ
絶対いいものにして見せるから」
眼を輝かす雫に拓斗は大きく頷く。それを横目に見ていた和真は、サラッと口を挟んだ。
「じゃ、俺はコレを譜面に起こそうかな」
「………私は!!私に役回りないの!!」
皆がそれぞれ役割を決めていくなか、紗英は自分に何かできることはないかと前のめりになって和真を見た。
「じゃあ紗英は俺のを手伝って」
「わかった!!」
「香坂、この音源人数分頼める〜??」
テキパキと先程のおちゃらけた表情はウソのように和真は紗英と雫に指示を出していった。
「もちろんだよ!!長谷川くん
歌詞のほうよろしくね、京極くん」
和真の言葉に雫は大きく頷くと、拓斗の方を向いた。そんな彼女の表情に拓斗はほんのりと頬を染めた。
そんな拓斗のわずかな表情の変化に気づかない和真と紗英は上ずった声で興奮気味に喋りだした。
「うわぁ!!なんか楽しくなってきた!!」
「いやぁ…俺ら良いメンバー引いたな!!」
「ホントだよね〜」
ニコニコと満面の笑みを浮かべる紗英と和真。そんな二人に対して、拓斗と雫は苦笑いを浮かべた。それでも、拓斗も雫も二人と意見は同じだった。
「…いいメンバーに恵まれたよね」
「まぁ、そうだね」
雫も言葉に呆れながらも拓斗も肯定の意志を示すのだった。