バスケに青春を懸ける
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「何見てんだよ」
神奈川を飛び出して、黄瀬にお誘いを受けた笠松と絢雅はIH予選の会場へ向かっていた。
だが、当の本人は目の前のスマホに夢中。痺れを切らした笠松が投げかけると黄瀬はスマホから眼を離さないまま答える。
「今朝のおは朝の録画っす
朝占い…コレの結果が良いと緑間っちもいいんす」
「あぁ…帝光の、で…何座??」
「蟹座っす、ちなみに黒子っちは水瓶座」
「そこまで聞いてね〜よ」
聞いてない情報までサラリと答える黄瀬にげんなりする笠松。そんな彼など気にもせず黄瀬はスマホに差し込んだイヤホンから今日のおは朝占いの結果を聞くのだが……
「えぇ……」
途端に足を止め落胆した声を黄瀬は出した。なぜなら、1位が蟹座で最下位が水瓶座だったからだ。
「どうしたの??」
「最悪っす」
急にどんよりとしたオーラを滲み出す黄瀬に無関心そうに見えて意外と話に耳を傾けていた絢雅が話しかける。その声に振り向いた黄瀬は、表情を曇らせていた。一気に雰囲気が変わったことに絢雅と笠松は互いに顔を見合わせて首を傾げてしまうのだった。
東京都IH予選ブロック最終日……
1日で2試合行われるのだが、このブロックには東京都の3大王者、北の正邦、東の秀徳がいた。順当にいけば決勝は正邦対秀徳、だがここで番狂わせを起こす高校が現れた。それは、黄瀬達が見に来たお目当ての誠凛高校だった。
「見に来て良かったっしょ!!」
ニコニコと笑いながら黄瀬は、目の前にあるボールに入っているお好み焼きのタネを鉄板に注ぎ込む。
激闘の誠凛対秀徳の試合を観終えた3人は、雨が降る中、近くのお好み焼き屋に入ったのだ。
「まぁそうだな、改めて再認識したよ
透明少年、お前と帝光中にいただけある…百戦錬磨だ」
膠着状態の第1クォーター、流れを持ってかれそうになった時に黒子が出した長距離パス。それは流れを引き寄せただけでなく、長距離弾丸シュートを打つ緑間を封じることにも成功した。
タイミング…判断力…度胸…
笠松は、今日の試合を見て改めて黒子という存在を高く評価したのだ。
「でしょでしょ!!」
「何、お前が嬉しそうに喋ってんだよ!!」
黒子の話になると嬉しそうに上ずった声を出す黄瀬。そんな彼を笠松は怪訝な顔で見る。
「絢雅っちは??」
黄瀬は、笠松の隣にいる絢雅に矛先を向ける。その声に顔を上げた絢雅は、素直に思った事を口にする。
「..............スッキリした」
「へぇッ???」
目を丸くして瞬きする黄瀬に、絢雅はそのまま言葉の続きを付け加える。
「火神が、緑間をぶっ飛ばした時スカッとしたの」
「ホントに絢雅は、キセキの世代嫌いなんだな」
頬杖をつき、呆れ返った笠松に絢雅は吐き捨てるように言葉を吐いた。
「あの試合を見てない兄さんには解らないよ」
涼しい顔をしていた緑間が、火神・黒子率いる誠凛に対して最後は勝利を必死に掴もうとしていた。いや、去年誠凛に対してトリプルスコアで叩きのめした秀徳勢皆そうだっただろう。王者としてのプライドにかけて誠凛に負けるわけにはいかなかったのだろう。だが、実際は誠凛が勝負をものにした。
あの試合に...いや誠凛のバスケに...絢雅は純粋に惹かれたのだ。幻滅した世界もまだまだ捨てたものじゃないだろっと言わんばかりに光が射し込んだ気がした。
「でも緑間っちって、絢雅っちが思っているキセキの世代像とはちょっと違うかも知んないっすよ」
「............そうかも知んない」
ニヤリと口角を上げ、持っているヘラを絢雅に向けて放った言葉に対して、驚いた声を出すと思いきや予想の斜め上をいき、黄瀬は目を白黒させた。
絢雅自身も真逆己の考えが180度変わるとは思っていなかっただけに内心では驚いていた。それでも、今日の試合を見て感じた。個人プレー主義なのは他のキセキの世代と変わらない。だが、バスケに対する姿勢に関しては違うのではないかと直感的に感じたのだ。洗練された綺麗なシュートの軌道に、滑らかなボールタッチ。果たしてそれは才能だけで賄えるものなのか?彼のプレー、一つ一つに絢雅は見えない努力を感じ取ったのだ。
まぁ、他にも大きな理由があるのだが...
ガラ!!
店のドアが開いたと思ったら、聞き覚えのある声。それは、15人という大所帯でやってきた誠凛高校のメンバーだった。どうやら、席を探しているらしく、笠松が気にして彼らに助け舟を出した。
「もしよかったら相席でもいいっすよ
俺たちのテーブル2つ空いてるんで」
「あぁ…どうもすいませんって…!!」
気遣いに礼を述べた伊月は、その声の主に目線を向ける。つられるように一同向くとそこには見覚えのある人物達がいて驚愕してしまう。
「黄瀬と笠松!?!?」
皆の声を代弁するように火神が驚きの声を上げた。
「呼び捨てか!!オイ!!」
「……チーッス」
「な…なんでここに」
日向が開いた口が塞がらない状態で尋ねる。
「おたくらの試合を見にね
決勝リーグ進出おめでとう」
「あぁ……どうも」
という訳で、誠凛のメンバーと相席をすることになるのだが..
「黄瀬!!もんじゃ食わねーのか??」
鉄板に出来上がったもんじゃに一向に手を付ける様子がない黄瀬にしびれを切らした笠松が声をかける。
「食いたいんスけど…何なんスカこのメンツは??
よりによって相席が黒子っちと火神っちって…
それと火神っち、なんでドロドロなんすか?」
今の黄瀬は、目の前のもんじゃよりも、同じテーブルにいるメンバーとその中の一人が泥まみれ状態なのが気になって仕方がなかった。
「あぶれたんだよ…
ドロは放っておけ
後、なになにっちつけんな!!」
不機嫌そうにいわれた本人の火神が声を上げた。
「っ!食わねーと焦げんぞ!」
「黄瀬が食べないなら…食べる」
そんな黄瀬の興味心が収まるまで、もんじゃは待ってくれない。ジワジワと黒くなりかけるもんじゃに声を上げた笠松の隣でヒョイッと絢雅の手が伸びた。
「もんじゃ焼きも美味しそうですね」
「あぁ…この店の結構イケるぞ!後、お好み焼きも美味かった」
「そうですか…悩みますね」
笠松の言葉にメニューを広げて悩み始める黒子。そんな彼に予想だにしない人物がふと声をかけた。
「...これ食べる??」
「いいんですか??」
「うん」
「黒子っちって、どんな状況でもすぐ対応できるっすよね」
小さく頷くと眼の前に広がるお好み焼きを切り取って絢雅は黒子の取皿に乗せた。
「って、そういえばお前誰だっけ!!」
微笑ましげな光景のはずが、火神は隣にいる彼女が違和感満載で思わず水を差すように声を上げるのだった。絢雅は決して影が薄いわけではない。だが、自分から話題を振ったりしないためこの濃すぎるメンバーに埋もれてしまっていたのだ。
「........名乗ってないっけ?」
「一緒にバスケしたじゃないすか
海常1年、女バスの絢雅っちっす!
ちなみに笠松先輩の妹っすよ!」
「なんで、自分のことのように紹介するの」
「えぇ!いいじゃないすか別に」
「笠松の妹?!?!」
「厳密に言うと、従姉妹だ!
っていうか、何度も呼び捨てするな!!」
なんだかんだで、誠凛勢に飲み物が届きキャプテンの日向の音頭取りでいざ祝勝会!!というムードのさなか、ガランっと店のドアが開く。すると、そこにいたのは秀徳の緑間と高尾。店に居たメンバーを確認した緑間は店を変えようとするが、外のあまりにも激しく打ち付ける雨と強風で断念。その中、高尾が興奮気味に視界に捉えた笠松に近づき話しかけ始める。そしてそのまま奥の座敷に引っ張ろうとするのだが、彼の隣に座る人物の姿を見て高尾は固まってしまうのだった。
「………絢雅!!」
「久しぶり」
驚く高尾に対し、愛想ない挨拶を絢雅が交わしたことに逆に黄瀬と笠松は拍子抜け。
「丁度いいや!!お前も来いよ!!」
その言葉に絢雅は黙って頷いた。ただ単に、高尾の誘いを断るのに時間と体力を浪費したくないという単純な理由であるが。
その結果……
先程笠松と絢雅がいたテーブルは緑間も入れたカオスなメンツが残ってしまった。
「おまえ…これ狙ってたろ」
笠松がこの現状を作り出した張本人を探るように見る。
「えぇ〜、まっさかー!!」
そんな笠松の言葉に高尾は知らんふりをした。あくまでこれは結果論で、狙ってやったわけではないととぼくれる高尾を横目に絢雅は相変わらずだなと内心思った。こういう楽しめることをすぐさま思いつくずる賢い脳みそを持っていることを絢雅は重々知ってたからだ。
「さぁーて、俺は何を頼もうかな〜」
ニコニコとこの状況を完全に楽しんでる高尾はメニューを開く。そのメニュー表に、さり気なく白い指が乗せられた。
「コレがオススメ」
隣からさり気なく覗き込んだ絢雅が、とある料理名を指したのだ。
「うぉ!!そうなのか!!」
嬉しそうに声を上げる高尾に、絢雅はコレとかは?などと彼の好きそうなものを提示していく。
「あ!誠凛さんは何を頼みます??
色々頼んでシェアしますか?」
ふと、この現状を思い出した高尾がメニュー表から顔を上げると眼の前にいる相田と日向を見る。
「あ!そうね
ってかアンタ溶け込むの早いわね」
急に座敷に上がってきたのにいつの間にか柔軟に懐に入る高尾の対応の速さに相田は思わずツッコミを入れてしまった。
「いやぁ…緑間と付き合うにはこれくらい柔軟じゃないと」
「そうなの??」
「アイツ…色々こだわりありまくりだから」
「えぇーそうなんだ!」
「そういえば、高尾と絢雅は知り合いなのか?」
興味津々な声を上げる相田。その話に割って入るように笠松が感じた疑問をぶつける。
「あぁー
俺と絢雅、同じ中学だったんですよ
で、男女のバスケ部が交流盛んだったんでそこで知り合って」
ニコニコと笑みを絶やすこと無く高尾は答えると、相槌を求めようと絢雅に話を振る。
「まぁなんだかんだ一番仲良かったよな」
「ただ、高尾がしつこく付き纏ってきただけでしょ」
「またまた〜、そんな事言っちゃって」
ヘラヘラと冗談言うなよっと笑う高尾を横目に見て、絢雅は当時から思っていたことを口にした。
「まぁ、高尾のバスケに対する姿勢は認めてたよ」
「マジ〜!!ちょっと初耳なんだけどww」
絢雅からの衝撃な発言に最初は高尾は状況を呑み込めず目を白黒させた。だが、ようやく呑み込むと腹を抱えてサッサと言ってくれよと笑い出した。
「あの〜...」
その状況下で、恐る恐る相田が手を上げる。そして彼女は困惑しきった顔で絢雅を見た。
「えっと彼女は??」
「あぁそうだったな」
絢雅は知ってるが、誠凛側は初対面だということを完全に忘れてたと笠松は声を上げた。
「松井絢雅、海常1年の女バス
ポジションはSF、俺の従姉妹だ」
「「「笠松さんの従姉妹!?!?」」」
思わずテーブルを囲んでいたメンバーは声を揃えて驚いた。その反応にもう聴き飽きたと言わんばかりに笠松は眉を顰めた。
「そんな驚くことか?」
「いや...だって...
って、なんで教えてくんなかったんだよ!!」
言い淀んだ高尾は、直ぐに矛先を絢雅に振った。前のめりになる高尾を横目に絢雅は何も詫びる素振りなく答えた。
「聞かれたことなかったから」
「俺が月バス見てはしゃいでたの知ってただろうが!!」
「...そうだっけ?」
「あぁ!!もう!!マジかよ~」
絢雅の相変わらず興味ないことは直ぐに頭から抜ける性格に高尾はゲラゲラと笑いながら頭を抱えた。そして、相変わらず塩対応の絢雅のことなど気にすること無く高尾は気軽に声を掛け始める。
「ちょっと日向くん!!なにか話題!!」
高尾が一方的に絢雅に話を振る展開。このテーブルは何故か高尾しか声を上げてない。いや、正確には絢雅が毒と云わんばかりの一言二言は返しているのだが。それでも、相田はこの空気に耐えきれず日向に助けを求めた。
「話題って…なんで??」
「このテーブルだけ、だいぶカオスな状態が続いちゃってるじゃない!!」
「そりゃそうだろ
笠松と笠松の従姉妹の松井と高尾と監督と俺で何を話すんだよ
それにずっと高尾は松井と喋ってるしな」
「共通の話題くらいあるでしょ
いい加減気まずいのよ!」
「あっと…じゃ、笠松さん!!
あ…その…キャプテンとして気をつけてることってあるんすか」
日向のその一言に笠松は顔を視線を上げる。そして、耳に聞こえてきた高尾はピシャリと口を噤んだ。
「唐突だな」
「まぁ…なんとなく…せっかく出しみたいな?」
「んん…でもキャプテンか…
チームによって違うだろうけど、メンバーにはやりたいことをやらせて、でも最終的に統率を取って勝つこと、だろうな」
日向の投げかけに答えようと笠松が思っていることを語りだす。
「やりたいことをやらせる??」
首を傾げた日向に笠松はわかりやすいように言い直す。
「チームのバランスをとるってことだよ
特に今年、うちは黄瀬が入ったから」
「あぁ…キセキの世代が入るとね…」
すかさず、高尾が相槌を打つ。それに笠松は小さく頷くと続きを話し出す。
「キセキの世代の名は伊達じゃない
突出するプレーヤーはチームの薬にも毒にもなる
そこのバランスをちゃんととることが大事だと思ってた」
「え??思ってた??」
日向の言葉に、笠松は小さく嬉しそうに頬を緩ました。
「最近ちょっと変わってきたんだよ、黄瀬のやつ
ちょっとずつだけどな
なぁ?絢雅」
「入学時よりだいぶましになった」
話を振られた絢雅も笠松の言葉に小さく頷いた。それを確認すると、笠松は話をもう一人の人物に振る。
「で、そういうとこ秀徳はどうなんだ??」
「あれ??そこでこっちに話振ります??」
急に話題を振られた高尾は、おどけた表情をしながらもニヤニヤと笑みを零した。
「キセキの世代を獲得したのはそっちも同じだろ?
色々大変なんじゃないのか?」
「まぁ…そうっすね
緑間は協調性ゼロだし」
その笠松の言葉に、一変して考え込んだ高尾は素直に思っていることを吐いた。
「あぁ…それは今日の試合でよくわかった」
高尾の言葉に、日向は今日の試合を思い出しながら相槌をうつ。
「でも、実際アイツが凄いことはみんな知ってるから
キャプテンがバシッとまとめてる感じっすかね」
「キャプテンの統率力か…」
「あぁ…あとうちの場合は監督が緑間の舵取りしてるかも
ワガママは一日3回までとか」
「ワガママって…」
「監督による舵取り」
思わず苦笑する笠松、そしてなるほどなぁと思った日向。そして日向は、監督である相田のほうに視線を向けるのだが、彼女がやっている行動に思わず思考が固まってしまった。
「え…あ…あれ??か…監督!?何やってるの!!」
「え…あぁ…私のことは気にしないで!!真面目トーク続けて!!お好み焼きは焼いとくから!!」
「っ!!や…焼いとくから!?」
日向は思わず頭を抱え込みたいと同時に目の前の光景が幻であってほしいと願った。だが、どんだけ眼をこすっても相田が鉄板でお好み焼きを焼いているという事実は変わらなかった。
「こういう他校との交流は大事よ〜、じゃんじゃんやって!!
お好み焼きは私に任せておけば大丈夫だから」
「………一番大丈夫じゃない」
サーッと頭から血の気が引いていく日向など目に入らない相田はニコニコと満面の笑みで得意げに焼いたお好み焼きを提供した。
「よし!!!もう食べても良さそうよ!さぁ!召し上がれ!」
「監督!!」
日向が思わず彼女の名を呼ぶ。すぐさまにコレを処分しないとマズイと思おう日向の目の前でそんなことなど知らない高尾が手を伸ばした。
「いや、悪いっすね。監督さんに焼かせちゃって
いっただきまーーーす!」
「ちょっ!!高尾!!」
日向の制止虚しく、高尾は口いっぱいにお好み焼きを頬張った。
「あむ!!あ…やっぱ、女の子に焼いてもらうと…っ!!」
「おい!!高尾どうした??顔が青く…赤く…黒くなった」
「あれ??高尾、どうしたの??」
「え!!おい!!大丈夫か!!なんで倒れるんだよ!!」
高尾の表情が一変。青ざめ、赤くなり、そして黒くなるとバタンと座敷に倒れ込んでしまった。尋常でない出来事に笠松は心配そうに声をかける。対して、絢雅の声には全くの危機感がなかった。
「えぇ!!何!?どうしたの??喉に詰まった?!」
元凶とも言える相田はもちろんこの惨劇にあためふためく。
「監督、店の人に飲み物の追加頼んできて
烏龍茶2つ!大至急!!」
「あぁ!!うん、わかった!!」
バタバタと日向の指示で相田が走り出す。その騒々しさなど知らない隣のテーブルにいた伊月が日向に顔を向ける。
「日向、追加注文するなら…あれ??なんで高尾が倒れてるんだ」
伊月は日向の真正面にいるはずの高尾が倒れ込んでいることに気づき首を傾げた。そんな彼に日向は冷静にこの状況を説明した。
「伊月‥ヤバいことになった
監督がお好み焼きを焼いてしまった」
「なぁ!!それは不味いな
不味いだけにマズイな
ちなみに今のは味覚の不味いと状況的なマズイをかけた…」
「ダジャレはいらねーから!!」
この非常に緊迫なのにダジャレを突っ込んでくる伊月に対して、日向は思わず声を荒げた。その二人の様子に、笠松は意味がわからないと声を上げた。
「おい!!どういう意味だ??」
「うちの監督すっごい料理が下手なんです」
日向の意味深な言葉に、笠松は眉を顰めた。
「料理下手って…お好み焼きは焼くだけだろ??」
「この状況でもキセキを起こしてしちまうのが料理下手のすごいところなんだ」
冷静に相田の料理を評価する日向の言葉に対して、笠松は思わず苦笑した。
「とんでもないキセキだな
で??どうすんだ、監督のお好み焼き」
「食べる」
「正気か??日向」
「私が食べようか??」
「絶対駄目だ!!!」
食べると言い切る日向の言葉に笠松は思わず眼を見開く。それに続けて、ややこしことに絢雅がお好み焼きに興味を示したことに笠松はガクリと肩を落とし、必死に彼女を止める。
日向だって、ホントは食べたくない。なのにはるか遠くに眼をやるとお好み焼きの感想を聞きたいのか期待したような眼差しを向ける相田がいたのだ。そんな日向はある秘策に打って出た。それは、この事情を知らない2つ先のテーブルにいる小金井に相田作のお好み焼きを渡すことだった。
「…このお好み焼き食べないか??俺たちもうかなり腹一杯なんだ」
「いいの!!いるいる!!」
案の定、日向の策に乗ってしまった小金井は大きく嬉しそうに頷く。そんな彼の様子に伊月と笠松は心の中で合掌する。
「押し付けた」
「キャプテンには時には残酷な判断を下さねばならん事があるからな」
「じゃあ、お前のとこのテーブルに持っていってくれ!
できるだけ急いで!!」
急かすように日向が小金井に声をかける。その言葉に小金井は大きく頷くとヘラだけを借りる。不審がる日向を横目に小金井はとんでもない行動に出るのだった。お好み焼きにヘラを差し込んだ小金井は大きな声で同席する相手の名を呼んだ。
「水戸部!!いっくよー!!」
「えぇ!!!あぁ、オイ!!」
なんとなく想像がついた日向が思わず制止の声を上げるが、気にすること無く小金井はお好み焼きを宙に投げた。これは伊月のテーブルを飛び越えて、水戸部がいるテーブルまで飛んでいく。
「ば…馬鹿!!2つ隣のテーブルに投げるなんて何考えてるんだ!!」
「平気平気!!だって水戸部だし」
「答えになってない!!」
押し問答が続く中、お好み焼きを受け取ろうと水戸部がシャキーンとヘラを構える。そして、水戸部はヘラでお好み焼きを受け止めると目の前にある鉄板にキレイに着地させた。それを確認した小金井はニコニコと笑みを浮かべながら、日向たちに礼を述べて自分の席に戻った。その様子を見ていた相田が急いで戻ってくると注文した烏龍茶を机に置き日向に追求する。その追求に平謝りした日向は難が去ったとホッと一息つく。だが、そんな訳がなく小金井が日向の名を切羽詰まった声で呼ぶのだった。
「ちょっと日向!!
なんてものくれるんだよ!!一口食べたらツッチー、倒れちゃったじゃんか!!
これ返すから!!」
小金井は先程同様、ヘラでお好み焼きを持ち上げると日向に向けて投げつけて返した。だが、その軌道は失神している高尾にまっしぐらで絢雅を除き一同は慌てた。だが、ガバっと高尾が起き上がると目の前に置いてあるヘラをキランと光らせてお好み焼きを受け止めて鉄板に着地させたのだ。
「……間一髪」
相田達から称賛の声を浴びる中、ぜぇぜぇと息を荒げる高尾に笠松が声をかける。
「高尾…気がついたんだな」
「なんか…身の危険を感じて」
その声でようやく高尾が意識を戻していくことに気づいた絢雅が高尾に視線を向けた。
「あ…高尾、目醒ましてる」
「おい絢雅!!ちょっとは俺を心配する心遣いはないのか!!」
「……ない、高尾だし」
「隣に座ってんだからちょっとは助ける素振り見せろよ!!」
「……メリットがない」
「流石にメンタルが強い高尾ちゃんも泣いちゃう」
「勝手にすれば」
絢雅と高尾による押し問答が繰り広げられる中、小金井がふと頭の中で閃く。
「伊月!!
お前も空中でお好み焼きキャッチして見せてよ」
「ちょ!!何言い出すの!!小金井くん」
「ホークアイに出来たんならイーグルアイでもきっと出来るよ」
「どういう理屈だよ!!」
「いいからいいから…いっくよ!」
そこから座敷サイドではポンポンとお好み焼きが飛び交った。それに対して、高尾は楽しそうと加わり、笠松は呆然飛び交うお好み焼きを視線で追い、絢雅は無関心で死守しているお好み焼きを暢気に食べ続けた。だが、とある事態で笠松と絢雅の火がついてしまうのだった。
「…っ!!笠松先輩!!」
「酷い、緑間くんが避けるからお好み焼きが笠松さんに直撃しちゃったじゃないですか」
「俺のせいっぽく言うな!!」
なんと、お好み焼きを顔面に喰らった火神がそれを投げたのが緑間だと勝手に思い込み、黒子にパスを出すように指示した。仕方なく黒子が投げたお好み焼きは火神が持つヘラで叩き込まれる。だが、一直線できたお好み焼きを緑間が交わしたことでその後ろにいた笠松がとばっちりにあってしまったのだ。ダイレクトに笠松の顔面にヒットしたことで、笠松は大きく顔を歪め、それを見た絢雅は今にも誰か殺してしまいそうな凍てつくアメジスト色の瞳を緑間に向けた。
「笠松先輩!大丈夫っすか!!このハンカチ使ってくださいっす」
「…黄瀬」
慌てて黄瀬は笠松に心配そうに駆け寄ると持っていたハンカチを差し出す。それをガバっと受け取った笠松は直様顔についているお好み焼きの残骸を拭き取ると、どす低い声で黄瀬の名を呼んだ。
「はい??」
「やられたら、倍返しが基本だよな?」
ニヤリと不敵に笑みを浮かべた笠松は完全に試合モード。火がついてしまった笠松を見て黄瀬は顔を引きつらせた。
「えぇ…それはちょっと」
「兄さん…私に任せて、100倍返ししてやるから」
そんな笠松の隣でいつでもイケるとヘラを構える絢雅がいて、黄瀬はさらに顔を引き攣らせ、肩を落とした。
「絢雅っちまで…」
「キャプテンの命令だ!!いけぇ!!」
「あ…はい!!」
躊躇する黄瀬に、笠松がキャプテンという権限を酷使する。それに逆らえず黄瀬も渋々ながらお好み焼き合戦に参加する。
「俺達も行くぜ!!黒子!!」
「はぁ……」
「よーーし、俺も負けないぜ!!」
「イーグルアイはこういうのものに使うものじゃ…」
「高尾!!手を抜くなよ!!」
「へいへいっと!!」
「誰でもいい!!動きをコピーしろ!!」
「そんな無茶苦茶な!!」
「みんな、ギタギタにしてやる」
「絢雅っち!!言葉遣いが汚いっす!!」
ぎゃあぎゃあっと先程までとは比べようにならないほど場は荒れ始めた。ポンポンと飛び交うお好み焼きに、日向が元凶のお好み焼きはっとキョロキョロと見渡す。
「って…監督のお好み焼きはどこに!!」
そんな中、この事態を収束させようととある者が動き出した。
「なぁ!!なに!!
黒子が俺の投げたお好み焼きの軌道を変えた!?」
高尾が投げたお好み焼きが黒子の手により軌道を変えられたのだ。それは見事に火神の口に収まる。
「完食…って黒子!!なに…っ」
バクバクと食べ終えた火神が黒子に対して不服申立てしようと怒鳴り散らそうとするが、その口を閉ざすように問答無用に黒子がお好み焼きを次々と火神の口へ投げていく。この事態を止めるために黒子が考えたのは、元凶ともいえるお好み焼きを無くすことだったのだ。
「フン!!そんな終わり方、認めないのだよ!!」
「そうはさせません」
緑間がそう言いながらお好み焼きを投げる。だが、突如現れた黒子の手によりそのお好み焼きも火神の口の中へ。ミスディレクションを使い始めた黒子は狭いこの空間を移動しパスカットし火神の口に仲介する気満々だった。
「この狭い空間で人知れず移動する黒子が怖い!!」
「だからどうしたというのだよ、高尾!!」
「よっしゃ!!!黒子封じは俺に任せろ!!」
「俺達も負けるわけには行かねーぞ」
「……絶対勝つ」
「……勝ち負けってあるんすか?」
「黒子にお好み焼きを取られんな!!」
「もう……なんなのコレ!!」
唯一この事態に加勢している中で疑問を抱く黄瀬の悲鳴が店内に響く。その中で、次々に口に放り込まれる火神は思わず声を上げた。
「黒子!!人の話を聞け!!」
「はい」
「おぉ…やけに素直じゃねーか」
「ちょうどお好み焼きが無くなったので」
「えぇ??そうなのか?」
サッと目の前に立った黒子の言葉で火神をはじめ一同はキョロキョロと辺りを見渡す。すると、一つもお好み焼きは無くなっていた。その衝撃な事実に一同は絶句する。
「なんてやつだ
あれだけあったお好み焼きを全て食いつくしたのだよ」
「…胃袋、ブラックホールじゃねーの」
「…チッ!!ここまでか」
「次は必ず勝つ」
「いや…ここまでで良かったっすよ
それに絢雅っち、次はないっすからね」
「なんだ、もう少し食えるのにな…あぁっ
なんだこりゃ…腹が」
それぞれが反応を示す中、まだ余力があるのにと口に漏らした火神が腹を唐突に抱えて倒れ込んだ。それに気づいた黒子が心配そうに火神を覗き込んだ。
「火神くん大丈夫ですか?
顔が真っ青、で赤く、いえ黒くなってます」
「うっ…うわ」
「どうしたんですか?火神くん」
「まったく…あれだけお好み焼きを食べたらお腹も痛くなるでしょ
少しそこで休みなさい
ほら!!みんなも馬鹿な勝負は終わり!!雨が止むまでおとなしくしてなさい!!」
「はーーーい」
という具合で、相田のお好み焼きを食べた火神は見事に失神。その原因が自分自身だと知らない相田は場を収めようと彼らを一喝したのだった。
神奈川を飛び出して、黄瀬にお誘いを受けた笠松と絢雅はIH予選の会場へ向かっていた。
だが、当の本人は目の前のスマホに夢中。痺れを切らした笠松が投げかけると黄瀬はスマホから眼を離さないまま答える。
「今朝のおは朝の録画っす
朝占い…コレの結果が良いと緑間っちもいいんす」
「あぁ…帝光の、で…何座??」
「蟹座っす、ちなみに黒子っちは水瓶座」
「そこまで聞いてね〜よ」
聞いてない情報までサラリと答える黄瀬にげんなりする笠松。そんな彼など気にもせず黄瀬はスマホに差し込んだイヤホンから今日のおは朝占いの結果を聞くのだが……
「えぇ……」
途端に足を止め落胆した声を黄瀬は出した。なぜなら、1位が蟹座で最下位が水瓶座だったからだ。
「どうしたの??」
「最悪っす」
急にどんよりとしたオーラを滲み出す黄瀬に無関心そうに見えて意外と話に耳を傾けていた絢雅が話しかける。その声に振り向いた黄瀬は、表情を曇らせていた。一気に雰囲気が変わったことに絢雅と笠松は互いに顔を見合わせて首を傾げてしまうのだった。
東京都IH予選ブロック最終日……
1日で2試合行われるのだが、このブロックには東京都の3大王者、北の正邦、東の秀徳がいた。順当にいけば決勝は正邦対秀徳、だがここで番狂わせを起こす高校が現れた。それは、黄瀬達が見に来たお目当ての誠凛高校だった。
「見に来て良かったっしょ!!」
ニコニコと笑いながら黄瀬は、目の前にあるボールに入っているお好み焼きのタネを鉄板に注ぎ込む。
激闘の誠凛対秀徳の試合を観終えた3人は、雨が降る中、近くのお好み焼き屋に入ったのだ。
「まぁそうだな、改めて再認識したよ
透明少年、お前と帝光中にいただけある…百戦錬磨だ」
膠着状態の第1クォーター、流れを持ってかれそうになった時に黒子が出した長距離パス。それは流れを引き寄せただけでなく、長距離弾丸シュートを打つ緑間を封じることにも成功した。
タイミング…判断力…度胸…
笠松は、今日の試合を見て改めて黒子という存在を高く評価したのだ。
「でしょでしょ!!」
「何、お前が嬉しそうに喋ってんだよ!!」
黒子の話になると嬉しそうに上ずった声を出す黄瀬。そんな彼を笠松は怪訝な顔で見る。
「絢雅っちは??」
黄瀬は、笠松の隣にいる絢雅に矛先を向ける。その声に顔を上げた絢雅は、素直に思った事を口にする。
「..............スッキリした」
「へぇッ???」
目を丸くして瞬きする黄瀬に、絢雅はそのまま言葉の続きを付け加える。
「火神が、緑間をぶっ飛ばした時スカッとしたの」
「ホントに絢雅は、キセキの世代嫌いなんだな」
頬杖をつき、呆れ返った笠松に絢雅は吐き捨てるように言葉を吐いた。
「あの試合を見てない兄さんには解らないよ」
涼しい顔をしていた緑間が、火神・黒子率いる誠凛に対して最後は勝利を必死に掴もうとしていた。いや、去年誠凛に対してトリプルスコアで叩きのめした秀徳勢皆そうだっただろう。王者としてのプライドにかけて誠凛に負けるわけにはいかなかったのだろう。だが、実際は誠凛が勝負をものにした。
あの試合に...いや誠凛のバスケに...絢雅は純粋に惹かれたのだ。幻滅した世界もまだまだ捨てたものじゃないだろっと言わんばかりに光が射し込んだ気がした。
「でも緑間っちって、絢雅っちが思っているキセキの世代像とはちょっと違うかも知んないっすよ」
「............そうかも知んない」
ニヤリと口角を上げ、持っているヘラを絢雅に向けて放った言葉に対して、驚いた声を出すと思いきや予想の斜め上をいき、黄瀬は目を白黒させた。
絢雅自身も真逆己の考えが180度変わるとは思っていなかっただけに内心では驚いていた。それでも、今日の試合を見て感じた。個人プレー主義なのは他のキセキの世代と変わらない。だが、バスケに対する姿勢に関しては違うのではないかと直感的に感じたのだ。洗練された綺麗なシュートの軌道に、滑らかなボールタッチ。果たしてそれは才能だけで賄えるものなのか?彼のプレー、一つ一つに絢雅は見えない努力を感じ取ったのだ。
まぁ、他にも大きな理由があるのだが...
ガラ!!
店のドアが開いたと思ったら、聞き覚えのある声。それは、15人という大所帯でやってきた誠凛高校のメンバーだった。どうやら、席を探しているらしく、笠松が気にして彼らに助け舟を出した。
「もしよかったら相席でもいいっすよ
俺たちのテーブル2つ空いてるんで」
「あぁ…どうもすいませんって…!!」
気遣いに礼を述べた伊月は、その声の主に目線を向ける。つられるように一同向くとそこには見覚えのある人物達がいて驚愕してしまう。
「黄瀬と笠松!?!?」
皆の声を代弁するように火神が驚きの声を上げた。
「呼び捨てか!!オイ!!」
「……チーッス」
「な…なんでここに」
日向が開いた口が塞がらない状態で尋ねる。
「おたくらの試合を見にね
決勝リーグ進出おめでとう」
「あぁ……どうも」
という訳で、誠凛のメンバーと相席をすることになるのだが..
「黄瀬!!もんじゃ食わねーのか??」
鉄板に出来上がったもんじゃに一向に手を付ける様子がない黄瀬にしびれを切らした笠松が声をかける。
「食いたいんスけど…何なんスカこのメンツは??
よりによって相席が黒子っちと火神っちって…
それと火神っち、なんでドロドロなんすか?」
今の黄瀬は、目の前のもんじゃよりも、同じテーブルにいるメンバーとその中の一人が泥まみれ状態なのが気になって仕方がなかった。
「あぶれたんだよ…
ドロは放っておけ
後、なになにっちつけんな!!」
不機嫌そうにいわれた本人の火神が声を上げた。
「っ!食わねーと焦げんぞ!」
「黄瀬が食べないなら…食べる」
そんな黄瀬の興味心が収まるまで、もんじゃは待ってくれない。ジワジワと黒くなりかけるもんじゃに声を上げた笠松の隣でヒョイッと絢雅の手が伸びた。
「もんじゃ焼きも美味しそうですね」
「あぁ…この店の結構イケるぞ!後、お好み焼きも美味かった」
「そうですか…悩みますね」
笠松の言葉にメニューを広げて悩み始める黒子。そんな彼に予想だにしない人物がふと声をかけた。
「...これ食べる??」
「いいんですか??」
「うん」
「黒子っちって、どんな状況でもすぐ対応できるっすよね」
小さく頷くと眼の前に広がるお好み焼きを切り取って絢雅は黒子の取皿に乗せた。
「って、そういえばお前誰だっけ!!」
微笑ましげな光景のはずが、火神は隣にいる彼女が違和感満載で思わず水を差すように声を上げるのだった。絢雅は決して影が薄いわけではない。だが、自分から話題を振ったりしないためこの濃すぎるメンバーに埋もれてしまっていたのだ。
「........名乗ってないっけ?」
「一緒にバスケしたじゃないすか
海常1年、女バスの絢雅っちっす!
ちなみに笠松先輩の妹っすよ!」
「なんで、自分のことのように紹介するの」
「えぇ!いいじゃないすか別に」
「笠松の妹?!?!」
「厳密に言うと、従姉妹だ!
っていうか、何度も呼び捨てするな!!」
なんだかんだで、誠凛勢に飲み物が届きキャプテンの日向の音頭取りでいざ祝勝会!!というムードのさなか、ガランっと店のドアが開く。すると、そこにいたのは秀徳の緑間と高尾。店に居たメンバーを確認した緑間は店を変えようとするが、外のあまりにも激しく打ち付ける雨と強風で断念。その中、高尾が興奮気味に視界に捉えた笠松に近づき話しかけ始める。そしてそのまま奥の座敷に引っ張ろうとするのだが、彼の隣に座る人物の姿を見て高尾は固まってしまうのだった。
「………絢雅!!」
「久しぶり」
驚く高尾に対し、愛想ない挨拶を絢雅が交わしたことに逆に黄瀬と笠松は拍子抜け。
「丁度いいや!!お前も来いよ!!」
その言葉に絢雅は黙って頷いた。ただ単に、高尾の誘いを断るのに時間と体力を浪費したくないという単純な理由であるが。
その結果……
先程笠松と絢雅がいたテーブルは緑間も入れたカオスなメンツが残ってしまった。
「おまえ…これ狙ってたろ」
笠松がこの現状を作り出した張本人を探るように見る。
「えぇ〜、まっさかー!!」
そんな笠松の言葉に高尾は知らんふりをした。あくまでこれは結果論で、狙ってやったわけではないととぼくれる高尾を横目に絢雅は相変わらずだなと内心思った。こういう楽しめることをすぐさま思いつくずる賢い脳みそを持っていることを絢雅は重々知ってたからだ。
「さぁーて、俺は何を頼もうかな〜」
ニコニコとこの状況を完全に楽しんでる高尾はメニューを開く。そのメニュー表に、さり気なく白い指が乗せられた。
「コレがオススメ」
隣からさり気なく覗き込んだ絢雅が、とある料理名を指したのだ。
「うぉ!!そうなのか!!」
嬉しそうに声を上げる高尾に、絢雅はコレとかは?などと彼の好きそうなものを提示していく。
「あ!誠凛さんは何を頼みます??
色々頼んでシェアしますか?」
ふと、この現状を思い出した高尾がメニュー表から顔を上げると眼の前にいる相田と日向を見る。
「あ!そうね
ってかアンタ溶け込むの早いわね」
急に座敷に上がってきたのにいつの間にか柔軟に懐に入る高尾の対応の速さに相田は思わずツッコミを入れてしまった。
「いやぁ…緑間と付き合うにはこれくらい柔軟じゃないと」
「そうなの??」
「アイツ…色々こだわりありまくりだから」
「えぇーそうなんだ!」
「そういえば、高尾と絢雅は知り合いなのか?」
興味津々な声を上げる相田。その話に割って入るように笠松が感じた疑問をぶつける。
「あぁー
俺と絢雅、同じ中学だったんですよ
で、男女のバスケ部が交流盛んだったんでそこで知り合って」
ニコニコと笑みを絶やすこと無く高尾は答えると、相槌を求めようと絢雅に話を振る。
「まぁなんだかんだ一番仲良かったよな」
「ただ、高尾がしつこく付き纏ってきただけでしょ」
「またまた〜、そんな事言っちゃって」
ヘラヘラと冗談言うなよっと笑う高尾を横目に見て、絢雅は当時から思っていたことを口にした。
「まぁ、高尾のバスケに対する姿勢は認めてたよ」
「マジ〜!!ちょっと初耳なんだけどww」
絢雅からの衝撃な発言に最初は高尾は状況を呑み込めず目を白黒させた。だが、ようやく呑み込むと腹を抱えてサッサと言ってくれよと笑い出した。
「あの〜...」
その状況下で、恐る恐る相田が手を上げる。そして彼女は困惑しきった顔で絢雅を見た。
「えっと彼女は??」
「あぁそうだったな」
絢雅は知ってるが、誠凛側は初対面だということを完全に忘れてたと笠松は声を上げた。
「松井絢雅、海常1年の女バス
ポジションはSF、俺の従姉妹だ」
「「「笠松さんの従姉妹!?!?」」」
思わずテーブルを囲んでいたメンバーは声を揃えて驚いた。その反応にもう聴き飽きたと言わんばかりに笠松は眉を顰めた。
「そんな驚くことか?」
「いや...だって...
って、なんで教えてくんなかったんだよ!!」
言い淀んだ高尾は、直ぐに矛先を絢雅に振った。前のめりになる高尾を横目に絢雅は何も詫びる素振りなく答えた。
「聞かれたことなかったから」
「俺が月バス見てはしゃいでたの知ってただろうが!!」
「...そうだっけ?」
「あぁ!!もう!!マジかよ~」
絢雅の相変わらず興味ないことは直ぐに頭から抜ける性格に高尾はゲラゲラと笑いながら頭を抱えた。そして、相変わらず塩対応の絢雅のことなど気にすること無く高尾は気軽に声を掛け始める。
「ちょっと日向くん!!なにか話題!!」
高尾が一方的に絢雅に話を振る展開。このテーブルは何故か高尾しか声を上げてない。いや、正確には絢雅が毒と云わんばかりの一言二言は返しているのだが。それでも、相田はこの空気に耐えきれず日向に助けを求めた。
「話題って…なんで??」
「このテーブルだけ、だいぶカオスな状態が続いちゃってるじゃない!!」
「そりゃそうだろ
笠松と笠松の従姉妹の松井と高尾と監督と俺で何を話すんだよ
それにずっと高尾は松井と喋ってるしな」
「共通の話題くらいあるでしょ
いい加減気まずいのよ!」
「あっと…じゃ、笠松さん!!
あ…その…キャプテンとして気をつけてることってあるんすか」
日向のその一言に笠松は顔を視線を上げる。そして、耳に聞こえてきた高尾はピシャリと口を噤んだ。
「唐突だな」
「まぁ…なんとなく…せっかく出しみたいな?」
「んん…でもキャプテンか…
チームによって違うだろうけど、メンバーにはやりたいことをやらせて、でも最終的に統率を取って勝つこと、だろうな」
日向の投げかけに答えようと笠松が思っていることを語りだす。
「やりたいことをやらせる??」
首を傾げた日向に笠松はわかりやすいように言い直す。
「チームのバランスをとるってことだよ
特に今年、うちは黄瀬が入ったから」
「あぁ…キセキの世代が入るとね…」
すかさず、高尾が相槌を打つ。それに笠松は小さく頷くと続きを話し出す。
「キセキの世代の名は伊達じゃない
突出するプレーヤーはチームの薬にも毒にもなる
そこのバランスをちゃんととることが大事だと思ってた」
「え??思ってた??」
日向の言葉に、笠松は小さく嬉しそうに頬を緩ました。
「最近ちょっと変わってきたんだよ、黄瀬のやつ
ちょっとずつだけどな
なぁ?絢雅」
「入学時よりだいぶましになった」
話を振られた絢雅も笠松の言葉に小さく頷いた。それを確認すると、笠松は話をもう一人の人物に振る。
「で、そういうとこ秀徳はどうなんだ??」
「あれ??そこでこっちに話振ります??」
急に話題を振られた高尾は、おどけた表情をしながらもニヤニヤと笑みを零した。
「キセキの世代を獲得したのはそっちも同じだろ?
色々大変なんじゃないのか?」
「まぁ…そうっすね
緑間は協調性ゼロだし」
その笠松の言葉に、一変して考え込んだ高尾は素直に思っていることを吐いた。
「あぁ…それは今日の試合でよくわかった」
高尾の言葉に、日向は今日の試合を思い出しながら相槌をうつ。
「でも、実際アイツが凄いことはみんな知ってるから
キャプテンがバシッとまとめてる感じっすかね」
「キャプテンの統率力か…」
「あぁ…あとうちの場合は監督が緑間の舵取りしてるかも
ワガママは一日3回までとか」
「ワガママって…」
「監督による舵取り」
思わず苦笑する笠松、そしてなるほどなぁと思った日向。そして日向は、監督である相田のほうに視線を向けるのだが、彼女がやっている行動に思わず思考が固まってしまった。
「え…あ…あれ??か…監督!?何やってるの!!」
「え…あぁ…私のことは気にしないで!!真面目トーク続けて!!お好み焼きは焼いとくから!!」
「っ!!や…焼いとくから!?」
日向は思わず頭を抱え込みたいと同時に目の前の光景が幻であってほしいと願った。だが、どんだけ眼をこすっても相田が鉄板でお好み焼きを焼いているという事実は変わらなかった。
「こういう他校との交流は大事よ〜、じゃんじゃんやって!!
お好み焼きは私に任せておけば大丈夫だから」
「………一番大丈夫じゃない」
サーッと頭から血の気が引いていく日向など目に入らない相田はニコニコと満面の笑みで得意げに焼いたお好み焼きを提供した。
「よし!!!もう食べても良さそうよ!さぁ!召し上がれ!」
「監督!!」
日向が思わず彼女の名を呼ぶ。すぐさまにコレを処分しないとマズイと思おう日向の目の前でそんなことなど知らない高尾が手を伸ばした。
「いや、悪いっすね。監督さんに焼かせちゃって
いっただきまーーーす!」
「ちょっ!!高尾!!」
日向の制止虚しく、高尾は口いっぱいにお好み焼きを頬張った。
「あむ!!あ…やっぱ、女の子に焼いてもらうと…っ!!」
「おい!!高尾どうした??顔が青く…赤く…黒くなった」
「あれ??高尾、どうしたの??」
「え!!おい!!大丈夫か!!なんで倒れるんだよ!!」
高尾の表情が一変。青ざめ、赤くなり、そして黒くなるとバタンと座敷に倒れ込んでしまった。尋常でない出来事に笠松は心配そうに声をかける。対して、絢雅の声には全くの危機感がなかった。
「えぇ!!何!?どうしたの??喉に詰まった?!」
元凶とも言える相田はもちろんこの惨劇にあためふためく。
「監督、店の人に飲み物の追加頼んできて
烏龍茶2つ!大至急!!」
「あぁ!!うん、わかった!!」
バタバタと日向の指示で相田が走り出す。その騒々しさなど知らない隣のテーブルにいた伊月が日向に顔を向ける。
「日向、追加注文するなら…あれ??なんで高尾が倒れてるんだ」
伊月は日向の真正面にいるはずの高尾が倒れ込んでいることに気づき首を傾げた。そんな彼に日向は冷静にこの状況を説明した。
「伊月‥ヤバいことになった
監督がお好み焼きを焼いてしまった」
「なぁ!!それは不味いな
不味いだけにマズイな
ちなみに今のは味覚の不味いと状況的なマズイをかけた…」
「ダジャレはいらねーから!!」
この非常に緊迫なのにダジャレを突っ込んでくる伊月に対して、日向は思わず声を荒げた。その二人の様子に、笠松は意味がわからないと声を上げた。
「おい!!どういう意味だ??」
「うちの監督すっごい料理が下手なんです」
日向の意味深な言葉に、笠松は眉を顰めた。
「料理下手って…お好み焼きは焼くだけだろ??」
「この状況でもキセキを起こしてしちまうのが料理下手のすごいところなんだ」
冷静に相田の料理を評価する日向の言葉に対して、笠松は思わず苦笑した。
「とんでもないキセキだな
で??どうすんだ、監督のお好み焼き」
「食べる」
「正気か??日向」
「私が食べようか??」
「絶対駄目だ!!!」
食べると言い切る日向の言葉に笠松は思わず眼を見開く。それに続けて、ややこしことに絢雅がお好み焼きに興味を示したことに笠松はガクリと肩を落とし、必死に彼女を止める。
日向だって、ホントは食べたくない。なのにはるか遠くに眼をやるとお好み焼きの感想を聞きたいのか期待したような眼差しを向ける相田がいたのだ。そんな日向はある秘策に打って出た。それは、この事情を知らない2つ先のテーブルにいる小金井に相田作のお好み焼きを渡すことだった。
「…このお好み焼き食べないか??俺たちもうかなり腹一杯なんだ」
「いいの!!いるいる!!」
案の定、日向の策に乗ってしまった小金井は大きく嬉しそうに頷く。そんな彼の様子に伊月と笠松は心の中で合掌する。
「押し付けた」
「キャプテンには時には残酷な判断を下さねばならん事があるからな」
「じゃあ、お前のとこのテーブルに持っていってくれ!
できるだけ急いで!!」
急かすように日向が小金井に声をかける。その言葉に小金井は大きく頷くとヘラだけを借りる。不審がる日向を横目に小金井はとんでもない行動に出るのだった。お好み焼きにヘラを差し込んだ小金井は大きな声で同席する相手の名を呼んだ。
「水戸部!!いっくよー!!」
「えぇ!!!あぁ、オイ!!」
なんとなく想像がついた日向が思わず制止の声を上げるが、気にすること無く小金井はお好み焼きを宙に投げた。これは伊月のテーブルを飛び越えて、水戸部がいるテーブルまで飛んでいく。
「ば…馬鹿!!2つ隣のテーブルに投げるなんて何考えてるんだ!!」
「平気平気!!だって水戸部だし」
「答えになってない!!」
押し問答が続く中、お好み焼きを受け取ろうと水戸部がシャキーンとヘラを構える。そして、水戸部はヘラでお好み焼きを受け止めると目の前にある鉄板にキレイに着地させた。それを確認した小金井はニコニコと笑みを浮かべながら、日向たちに礼を述べて自分の席に戻った。その様子を見ていた相田が急いで戻ってくると注文した烏龍茶を机に置き日向に追求する。その追求に平謝りした日向は難が去ったとホッと一息つく。だが、そんな訳がなく小金井が日向の名を切羽詰まった声で呼ぶのだった。
「ちょっと日向!!
なんてものくれるんだよ!!一口食べたらツッチー、倒れちゃったじゃんか!!
これ返すから!!」
小金井は先程同様、ヘラでお好み焼きを持ち上げると日向に向けて投げつけて返した。だが、その軌道は失神している高尾にまっしぐらで絢雅を除き一同は慌てた。だが、ガバっと高尾が起き上がると目の前に置いてあるヘラをキランと光らせてお好み焼きを受け止めて鉄板に着地させたのだ。
「……間一髪」
相田達から称賛の声を浴びる中、ぜぇぜぇと息を荒げる高尾に笠松が声をかける。
「高尾…気がついたんだな」
「なんか…身の危険を感じて」
その声でようやく高尾が意識を戻していくことに気づいた絢雅が高尾に視線を向けた。
「あ…高尾、目醒ましてる」
「おい絢雅!!ちょっとは俺を心配する心遣いはないのか!!」
「……ない、高尾だし」
「隣に座ってんだからちょっとは助ける素振り見せろよ!!」
「……メリットがない」
「流石にメンタルが強い高尾ちゃんも泣いちゃう」
「勝手にすれば」
絢雅と高尾による押し問答が繰り広げられる中、小金井がふと頭の中で閃く。
「伊月!!
お前も空中でお好み焼きキャッチして見せてよ」
「ちょ!!何言い出すの!!小金井くん」
「ホークアイに出来たんならイーグルアイでもきっと出来るよ」
「どういう理屈だよ!!」
「いいからいいから…いっくよ!」
そこから座敷サイドではポンポンとお好み焼きが飛び交った。それに対して、高尾は楽しそうと加わり、笠松は呆然飛び交うお好み焼きを視線で追い、絢雅は無関心で死守しているお好み焼きを暢気に食べ続けた。だが、とある事態で笠松と絢雅の火がついてしまうのだった。
「…っ!!笠松先輩!!」
「酷い、緑間くんが避けるからお好み焼きが笠松さんに直撃しちゃったじゃないですか」
「俺のせいっぽく言うな!!」
なんと、お好み焼きを顔面に喰らった火神がそれを投げたのが緑間だと勝手に思い込み、黒子にパスを出すように指示した。仕方なく黒子が投げたお好み焼きは火神が持つヘラで叩き込まれる。だが、一直線できたお好み焼きを緑間が交わしたことでその後ろにいた笠松がとばっちりにあってしまったのだ。ダイレクトに笠松の顔面にヒットしたことで、笠松は大きく顔を歪め、それを見た絢雅は今にも誰か殺してしまいそうな凍てつくアメジスト色の瞳を緑間に向けた。
「笠松先輩!大丈夫っすか!!このハンカチ使ってくださいっす」
「…黄瀬」
慌てて黄瀬は笠松に心配そうに駆け寄ると持っていたハンカチを差し出す。それをガバっと受け取った笠松は直様顔についているお好み焼きの残骸を拭き取ると、どす低い声で黄瀬の名を呼んだ。
「はい??」
「やられたら、倍返しが基本だよな?」
ニヤリと不敵に笑みを浮かべた笠松は完全に試合モード。火がついてしまった笠松を見て黄瀬は顔を引きつらせた。
「えぇ…それはちょっと」
「兄さん…私に任せて、100倍返ししてやるから」
そんな笠松の隣でいつでもイケるとヘラを構える絢雅がいて、黄瀬はさらに顔を引き攣らせ、肩を落とした。
「絢雅っちまで…」
「キャプテンの命令だ!!いけぇ!!」
「あ…はい!!」
躊躇する黄瀬に、笠松がキャプテンという権限を酷使する。それに逆らえず黄瀬も渋々ながらお好み焼き合戦に参加する。
「俺達も行くぜ!!黒子!!」
「はぁ……」
「よーーし、俺も負けないぜ!!」
「イーグルアイはこういうのものに使うものじゃ…」
「高尾!!手を抜くなよ!!」
「へいへいっと!!」
「誰でもいい!!動きをコピーしろ!!」
「そんな無茶苦茶な!!」
「みんな、ギタギタにしてやる」
「絢雅っち!!言葉遣いが汚いっす!!」
ぎゃあぎゃあっと先程までとは比べようにならないほど場は荒れ始めた。ポンポンと飛び交うお好み焼きに、日向が元凶のお好み焼きはっとキョロキョロと見渡す。
「って…監督のお好み焼きはどこに!!」
そんな中、この事態を収束させようととある者が動き出した。
「なぁ!!なに!!
黒子が俺の投げたお好み焼きの軌道を変えた!?」
高尾が投げたお好み焼きが黒子の手により軌道を変えられたのだ。それは見事に火神の口に収まる。
「完食…って黒子!!なに…っ」
バクバクと食べ終えた火神が黒子に対して不服申立てしようと怒鳴り散らそうとするが、その口を閉ざすように問答無用に黒子がお好み焼きを次々と火神の口へ投げていく。この事態を止めるために黒子が考えたのは、元凶ともいえるお好み焼きを無くすことだったのだ。
「フン!!そんな終わり方、認めないのだよ!!」
「そうはさせません」
緑間がそう言いながらお好み焼きを投げる。だが、突如現れた黒子の手によりそのお好み焼きも火神の口の中へ。ミスディレクションを使い始めた黒子は狭いこの空間を移動しパスカットし火神の口に仲介する気満々だった。
「この狭い空間で人知れず移動する黒子が怖い!!」
「だからどうしたというのだよ、高尾!!」
「よっしゃ!!!黒子封じは俺に任せろ!!」
「俺達も負けるわけには行かねーぞ」
「……絶対勝つ」
「……勝ち負けってあるんすか?」
「黒子にお好み焼きを取られんな!!」
「もう……なんなのコレ!!」
唯一この事態に加勢している中で疑問を抱く黄瀬の悲鳴が店内に響く。その中で、次々に口に放り込まれる火神は思わず声を上げた。
「黒子!!人の話を聞け!!」
「はい」
「おぉ…やけに素直じゃねーか」
「ちょうどお好み焼きが無くなったので」
「えぇ??そうなのか?」
サッと目の前に立った黒子の言葉で火神をはじめ一同はキョロキョロと辺りを見渡す。すると、一つもお好み焼きは無くなっていた。その衝撃な事実に一同は絶句する。
「なんてやつだ
あれだけあったお好み焼きを全て食いつくしたのだよ」
「…胃袋、ブラックホールじゃねーの」
「…チッ!!ここまでか」
「次は必ず勝つ」
「いや…ここまでで良かったっすよ
それに絢雅っち、次はないっすからね」
「なんだ、もう少し食えるのにな…あぁっ
なんだこりゃ…腹が」
それぞれが反応を示す中、まだ余力があるのにと口に漏らした火神が腹を唐突に抱えて倒れ込んだ。それに気づいた黒子が心配そうに火神を覗き込んだ。
「火神くん大丈夫ですか?
顔が真っ青、で赤く、いえ黒くなってます」
「うっ…うわ」
「どうしたんですか?火神くん」
「まったく…あれだけお好み焼きを食べたらお腹も痛くなるでしょ
少しそこで休みなさい
ほら!!みんなも馬鹿な勝負は終わり!!雨が止むまでおとなしくしてなさい!!」
「はーーーい」
という具合で、相田のお好み焼きを食べた火神は見事に失神。その原因が自分自身だと知らない相田は場を収めようと彼らを一喝したのだった。