バスケに青春を懸ける
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WCは、台風の目となった誠凛が帝王の洛山を下して優勝という形で閉幕した。
3年生は引退し、受験生となり
1・2年生は新体制になり新しいチームで次のIHを目指して練習が始まった。
あっという間に月日は流れ、肌寒いが少し日差しが暖かくなった季節...
3年生は、それぞれの未来へ向けて学校を卒業した。
黄瀬はギャンギャン泣き出し、笠松から飛び蹴りを喰らい
絢雅も珍しく大衆がいる中で涙ぐんだ
「絢雅」
「は...ッ.、はい!!」
「わたし達の夢託したからね
頼んだぞ、エース」
先輩達から夢を託された
エースとしての自覚を絢雅は初めてここで意識した。
「笠松先輩」
「どうした?黄瀬」
如月達にもみくちゃにされている絢雅を遠目に見ていた黄瀬は、隣りにいた笠松の名を呼んだ。
「絢雅っち、下さい」
「あぁ?お前何言って....」
即座に黄瀬の方を向いた笠松は怒鳴り散らそうとするが、彼の真剣な顔を見て、喉から今にも出てきそうな言葉を急いで引っ込めた。
何度も何度も笠松は瞬きをしたあと、信じられないという表情を浮かべ、半信半疑で尋ねた。
「本気か?黄瀬」
「本気っすよ、笠松先輩
俺、絢雅っちの事好きっす」
「ハァ〜〜、マジか」
思わず笠松は頭を抱えた。なんとなく薄々は気づいていたのだが、こう改まって聞くとこそばゆい思いだった。
「俺は別に構わねぇーが
アイツに言ったのか??」
「........まだっす」
笠松の言葉に、暫しの沈黙後黄瀬はしょんぼりしながら返答する。それに笠松は予想通りだと大きくため息を吐いた。
「だろーな
というか、お前の気持ち気づいてないだろ?絢雅は」
「やっぱそうっすよね!!
ど...どうしたらいいすか!!」
「知らねぇーよ!馬鹿!!」
縋るように笠松に潤々とした瞳を向ける黄瀬に笠松はウザったそうに小突いた。
「まぁそうだな、俺から言えるのは
バスケ一筋の絢雅に、今想いを伝えても振り向いてもらえねぇーな
というくらいだな」
ウッと小突かれた場所を擦る黄瀬に、笠松は小さく微笑みながらアドバイスをした。それに納得したようにコクコクと頷く黄瀬に笠松は盛大に笑いながら彼の肩を叩くのだった。
「前途多難だな!!
まぁ精々頑張れよ、黄瀬」
「はいっす!!」
「でもな、うつつ抜かして練習疎かにすることだけは許さねぇーからな!!」
「そんなことしないっすよ!!」
「それならいい
頼んだぞ、エース」
互いに想いを託されたエースは、IHへなお一層練習に励んだ。
黄瀬と絢雅の関係は相変わらず
我が道を行く絢雅を黄瀬が必死に止め
テスト前に泣く泣く絢雅のスパルタ教育を黄瀬は受け
絢雅の姿を見つけた途端、嬉しそうに駆け寄り抱きつこうとする勢いがある黄瀬をヒラリと絢雅は避け
彼らの関係を知らない第三者から見たら、絢雅が毛嫌いしてるふうにしか見えない光景がもはや海常の風物詩的なものになっていた
だが、実際はそんなことはない
互いに互いをバスケにおいて信頼しあっていた
「黄瀬……
走り込みしすぎじゃない」
「そうすか??」
「何度も言ってるでしょ!!
身体を壊すほどするなって!!馬鹿黄瀬!!」
オーバーワークをしまいがちな黄瀬を、絢雅は内心ため息つきながら罵倒し
「絢雅っち……」
「え??黄瀬??」
「迎えにきたっすよ」
「もうそんな時間か……」
没頭して時間を忘れる絢雅を、黄瀬が迎えに行ったり
「黄瀬……今日いい??」
「もちろんっすよ!!
やるっすよ!!1on1!!」
週1単位で、互いに1on1をしたり
バスケ部のメンバーから、この二人の関係は互いに背中を預けられるほどの信頼関係を構築した相棒に見えた
バスケに真摯に向き合い
勝利に貪欲で
仲間を鼓舞させるプレーをする
彼ら二人の姿は、自然と他のメンバーの士気を高めた
"優勝"
たったその2文字を勝ち取るために2年間頑張った
だが、結果は一番良くて準優勝止まり
先輩達に託された想いを果たすことができず最後のWCを終えたのだった
「……終わっちゃったすね」
「そうだね」
WC試合後、ミーティングを終えて後輩に想いを託した二人は何故か必然的に夜道を帰っていた。他の3年のメンバーは知らない内に視界から消えていたのだ。
「絢雅っちは進学すか?」
「うん……今日から勉強しないと
どっかの誰かさんみたいにスポーツ推薦もらってないしね」
その言葉にギクっと黄瀬は身体を強張らせる。そしてバツが悪そうに頭を搔く黄瀬に、絢雅は嫌味じゃないからねとクスリと小さく笑った。そして、ひらりと背を向けると片手を上げた。
「じゃあーね、黄瀬」
そのまま帰ろうと足を踏み出すのだが、その彼女の後ろ姿を黄瀬は切羽詰まった表情で呼び止めた。
「まっ!待って!!絢雅っち!!」
「どうしたの?黄瀬」
足を止め振り向いた絢雅は、いつもと違う真剣な面付きを浮かべている黄瀬に大きく息を飲んだ。
「俺!!絢雅っちの事が...」
黄瀬は覚悟を決め、大きく深呼吸すると自分の想いを伝えようと口を開いた。だが、何故か思いとどまってしまった。ここから先の言葉が喉にへばり付いて声に出せなかった。
「あ、いや、やっぱなんでもないっすわ
勉強頑張って」
ヘラっと笑みを浮かべると黄瀬は絢雅に背を向けて去ってしまった。この表情が、絢雅から見ると取り繕った笑みに見えて思わず絢雅は顔を歪めた。
どうしてかわからないが、胸ギュッと締め付けられた。
こんな表情をさせたくない、彼にはいつも笑っていて欲しい
モヤモヤとした気持ちは消えることは無く、ただ黄瀬の最後に見せた表情が脳裏に焼き付いて離れなかった。
異様な喪失感が押し寄せてきて苦しかった
毎日毎日、バスケに明け暮れていた日々がこれからはすっかりなくなるのだから当たり前かと自己完結させようとして絢雅は無理やり寝ついた。
それでも、受験勉強をしている心の中では何かポッカリと何かが足りない気がしてならなかった
物足りない…
つまらない……
視界に入るものから途端に鮮やかさが消えていた
心にモヤモヤしたものを抱える日々を過ごす中、ほぼ強引に連絡が来取り付けられた約束で出会った人物に絢雅はその正体を突きつけられたのだ。と同時に、抱いている想いを知るのだった。
「なに辛気臭い顔してんだよ……」
問題を解く手を止め、顔を上げると頬杖をしてこっちを見る高尾がいた。何故か知らないが、一緒に勉強する羽目になったのだ。高尾もスポーツ推薦のはずなのに、何故こういう状況になってんだと思いつつ、目の前の彼に絢雅は訝しげな表情を浮かべた。
「そりゃあ…勉強相手が一向に勉強する兆しがないからに決まってるでしょ」
「えぇ~!!そんなことないぜ!これからやろうと思ってたし」
ヘラヘラと笑う高尾。だが、彼の瞳の奥には何か別のものを感じ取れて絢雅はゾッとした。自分の心が見透かされている気がしたからだ。
「絢雅、なんかあったろ??」
「…別に何もないよ」
「はい、ウソ…だって全然集中できてないぜ」
笑みを無くした高尾の表情はバスケをしている時を彷彿させるような真剣な面付きだった。PGというポジションの人は皆こうなのだろうか?いや、恐らく目の前の彼が特化しすぎてるだけだろうと自己完結させる絢雅に高尾はニコニコと笑みを滲ませた。
「絶対なんかあったろ?
ほら?高尾ちゃんに話してみなさいって
スッキリするかもしんないぜ」
こういう表情をする高尾と対面してるときは、凄く神経をすり減らされる気分に陥る。
ジリジリと猛獣に追い詰められる獲物になった心地だ。背に冷や汗を感じ押し黙る絢雅の様子に高尾は大きく息を吐いた。
「ハァ...やっぱ気づいてねぇんだな」
高尾が息をついたことで一気にこの場の緊張感が和らいだ。重い空気が無くなったことにホッと胸を撫で下ろす絢雅だったが、意味深な彼の言葉に首を傾げた。
「なぁ、絢雅」
「なに?」
「俺と付き合ってみるか?」
真っ直ぐな彼の言葉にはからかい混じりの声はなく、真剣味を帯びていた。だが、絢雅は考え込む事無く直ぐに返事を返した。
「0.000001%もありえない」
絢雅の返答に高尾はキョトンとしながら瞬きを繰り返す。そして絢雅の言葉を呑み込むと涙目を浮かばせながら腹を抱えて笑い出した。
「ギャハハwwww
即答かよ!!流石にメンタル強い高尾ちゃんでも泣いちゃう」
「だって、高尾とはこのままの関係が心地いいから」
「ふーん…じゃあさ、黄瀬は??」
一気に表情を引っ込めた高尾は肘を机につき確信をつく言葉を投げかけた。含んだ笑みを浮かべ探るような高尾の眼差しに絢雅はドクンと心臓が高鳴った。
黄瀬とはどうしたいのだろう…
渦巻きはじめる感情に、絢雅は戸惑い出す。そんな彼女を見かねて呆れながら高尾は、決定打を突きつけた。
「好きなんじゃねぇーの?黄瀬の事」
恋沙汰については鈍感すぎるバスケ馬鹿である絢雅にはここまで言わないと気づかないだろうと思っていた高尾なのだが、予想通りいやそれ以上過ぎてやれやれと内心大きくため息をついた。
……涼ちゃん、不憫すぎるぜ
何度か泣きつかれたことがある
いやそれ以前に高尾の絢雅に対する気持ちを勘くぐるように疑われたりもした
だが、あくまでも高尾は絢雅を大切な友人としてしか見ていない
それに今では黄瀬も高尾にとっては大切な友人の一人になっていた
だからこそ、彼らには幸せになってほしい
告れなかったと、WCの後に黄瀬に泣きつかれたときは、ヘタレと思ったが、いざ手助けしてやろうかと絢雅と対面することでようやく黄瀬が言いよどんだ意味を察したのだ。
サッサと気づいてやれよ
フッと息をつくと高尾は見守るように柔らかく眼を細めるのだった。
好き………………か
確かに黄瀬のバスケは好きだ
誰よりもまっすぐでキラキラと輝きを放つ彼のプレーに恋い焦がれた。
激しく心が打たれ、毎度惹きつけたれた
だが、それ以上に絢雅はよくよく思い返すことで思ったことがあった。
バスケしている時の真剣な表情、笑っている表情が好き…
でも、悲しそうな表情や淋しげな表情は見ていられなかった…
いつからだろうか
無意識のうちに彼の存在を眼で追うようになったのは
弱音をさらけ出すようになったのは
支えたい、隣で笑っていてほしいと思うようになったのは
黄瀬と過ごす時間が当たり前になり気づかなかった、知らないうちに懐に入り込んだ彼の存在がとてつもなく大きなものになっていることに
心にポッカリと開いた穴の正体は、ただバスケできなくなっただけではなかった。隣にいつもいた、どんな時も一緒にいてくれた黄瀬ともう日常を過ごせないという喪失感だった。
ハッとようやく抱いている気持ちに気づいた絢雅は、この議題を焚き付けた張本人を凝視した。その様子に高尾はやっとかと呆れ返りながら口を開く。
「やっと気づいたか…おせーよ」
「……高尾のおせっかい」
「恋のキューピッド役の俺に言うセリフか??
むしろ感謝して欲しいくらいなんすけど」
不貞腐れて頬を膨らます絢雅に、高尾はニヤニヤと不敵な笑みを浮かべながら正論を言う。それに言い返すことが出来ず、絢雅はウッと唸った後、大きく息をついた。
「ハァ…そうだね
帰りの道中になんかお礼として何か奢るよ」
「………やけに今日は素直だな」
驚きでキョトンとしながらポツリと本音を溢す高尾に、絢雅は眉をピクリと動かした。
「あ…いらない??高尾がいらないなら別にいいんだけど…」
「そんなことねーよ!
ありがたく頂きます!!」
慌てて絢雅の機嫌をなだめようとする高尾に絢雅は小さく笑みを零した。その表情は、高尾が見た中で一番やわらかい微笑みに感じられた。
「でも、ありがとね
スッキリしたから勉強に本腰が入るよ」
気付かせてくれた高尾に率直にお礼を述べると絢雅は、机に置いていた教材に向き直った。先程とは違いスラスラとシャーペンを走らせる絢雅に高尾は疑うように眼を見張った。
「お前のことだから、直ぐに行動に移すと思ったらしねーんだな」
「目の前のことをとりあえず片さないとね
ってか、邪魔するなら帰ってよ」
その言葉に対して、柔らかく微笑むのだがさっきと打って変わるように高尾を邪険の眼で見た。
「っえ!!奢ってくれるって言ってたじゃねーか!!」
「そんなこと言った??」
「おいコラ!!しらばっくれんなよ〜!!」
まさかの邪魔という一言にさっきの約束はと慌てだす高尾に対し、すでにその事を完全に忘れていた絢雅は知らないと言い返した。当然声を荒げる高尾に、絢雅はただ首を傾げるのだった。
3年生は引退し、受験生となり
1・2年生は新体制になり新しいチームで次のIHを目指して練習が始まった。
あっという間に月日は流れ、肌寒いが少し日差しが暖かくなった季節...
3年生は、それぞれの未来へ向けて学校を卒業した。
黄瀬はギャンギャン泣き出し、笠松から飛び蹴りを喰らい
絢雅も珍しく大衆がいる中で涙ぐんだ
「絢雅」
「は...ッ.、はい!!」
「わたし達の夢託したからね
頼んだぞ、エース」
先輩達から夢を託された
エースとしての自覚を絢雅は初めてここで意識した。
「笠松先輩」
「どうした?黄瀬」
如月達にもみくちゃにされている絢雅を遠目に見ていた黄瀬は、隣りにいた笠松の名を呼んだ。
「絢雅っち、下さい」
「あぁ?お前何言って....」
即座に黄瀬の方を向いた笠松は怒鳴り散らそうとするが、彼の真剣な顔を見て、喉から今にも出てきそうな言葉を急いで引っ込めた。
何度も何度も笠松は瞬きをしたあと、信じられないという表情を浮かべ、半信半疑で尋ねた。
「本気か?黄瀬」
「本気っすよ、笠松先輩
俺、絢雅っちの事好きっす」
「ハァ〜〜、マジか」
思わず笠松は頭を抱えた。なんとなく薄々は気づいていたのだが、こう改まって聞くとこそばゆい思いだった。
「俺は別に構わねぇーが
アイツに言ったのか??」
「........まだっす」
笠松の言葉に、暫しの沈黙後黄瀬はしょんぼりしながら返答する。それに笠松は予想通りだと大きくため息を吐いた。
「だろーな
というか、お前の気持ち気づいてないだろ?絢雅は」
「やっぱそうっすよね!!
ど...どうしたらいいすか!!」
「知らねぇーよ!馬鹿!!」
縋るように笠松に潤々とした瞳を向ける黄瀬に笠松はウザったそうに小突いた。
「まぁそうだな、俺から言えるのは
バスケ一筋の絢雅に、今想いを伝えても振り向いてもらえねぇーな
というくらいだな」
ウッと小突かれた場所を擦る黄瀬に、笠松は小さく微笑みながらアドバイスをした。それに納得したようにコクコクと頷く黄瀬に笠松は盛大に笑いながら彼の肩を叩くのだった。
「前途多難だな!!
まぁ精々頑張れよ、黄瀬」
「はいっす!!」
「でもな、うつつ抜かして練習疎かにすることだけは許さねぇーからな!!」
「そんなことしないっすよ!!」
「それならいい
頼んだぞ、エース」
互いに想いを託されたエースは、IHへなお一層練習に励んだ。
黄瀬と絢雅の関係は相変わらず
我が道を行く絢雅を黄瀬が必死に止め
テスト前に泣く泣く絢雅のスパルタ教育を黄瀬は受け
絢雅の姿を見つけた途端、嬉しそうに駆け寄り抱きつこうとする勢いがある黄瀬をヒラリと絢雅は避け
彼らの関係を知らない第三者から見たら、絢雅が毛嫌いしてるふうにしか見えない光景がもはや海常の風物詩的なものになっていた
だが、実際はそんなことはない
互いに互いをバスケにおいて信頼しあっていた
「黄瀬……
走り込みしすぎじゃない」
「そうすか??」
「何度も言ってるでしょ!!
身体を壊すほどするなって!!馬鹿黄瀬!!」
オーバーワークをしまいがちな黄瀬を、絢雅は内心ため息つきながら罵倒し
「絢雅っち……」
「え??黄瀬??」
「迎えにきたっすよ」
「もうそんな時間か……」
没頭して時間を忘れる絢雅を、黄瀬が迎えに行ったり
「黄瀬……今日いい??」
「もちろんっすよ!!
やるっすよ!!1on1!!」
週1単位で、互いに1on1をしたり
バスケ部のメンバーから、この二人の関係は互いに背中を預けられるほどの信頼関係を構築した相棒に見えた
バスケに真摯に向き合い
勝利に貪欲で
仲間を鼓舞させるプレーをする
彼ら二人の姿は、自然と他のメンバーの士気を高めた
"優勝"
たったその2文字を勝ち取るために2年間頑張った
だが、結果は一番良くて準優勝止まり
先輩達に託された想いを果たすことができず最後のWCを終えたのだった
「……終わっちゃったすね」
「そうだね」
WC試合後、ミーティングを終えて後輩に想いを託した二人は何故か必然的に夜道を帰っていた。他の3年のメンバーは知らない内に視界から消えていたのだ。
「絢雅っちは進学すか?」
「うん……今日から勉強しないと
どっかの誰かさんみたいにスポーツ推薦もらってないしね」
その言葉にギクっと黄瀬は身体を強張らせる。そしてバツが悪そうに頭を搔く黄瀬に、絢雅は嫌味じゃないからねとクスリと小さく笑った。そして、ひらりと背を向けると片手を上げた。
「じゃあーね、黄瀬」
そのまま帰ろうと足を踏み出すのだが、その彼女の後ろ姿を黄瀬は切羽詰まった表情で呼び止めた。
「まっ!待って!!絢雅っち!!」
「どうしたの?黄瀬」
足を止め振り向いた絢雅は、いつもと違う真剣な面付きを浮かべている黄瀬に大きく息を飲んだ。
「俺!!絢雅っちの事が...」
黄瀬は覚悟を決め、大きく深呼吸すると自分の想いを伝えようと口を開いた。だが、何故か思いとどまってしまった。ここから先の言葉が喉にへばり付いて声に出せなかった。
「あ、いや、やっぱなんでもないっすわ
勉強頑張って」
ヘラっと笑みを浮かべると黄瀬は絢雅に背を向けて去ってしまった。この表情が、絢雅から見ると取り繕った笑みに見えて思わず絢雅は顔を歪めた。
どうしてかわからないが、胸ギュッと締め付けられた。
こんな表情をさせたくない、彼にはいつも笑っていて欲しい
モヤモヤとした気持ちは消えることは無く、ただ黄瀬の最後に見せた表情が脳裏に焼き付いて離れなかった。
異様な喪失感が押し寄せてきて苦しかった
毎日毎日、バスケに明け暮れていた日々がこれからはすっかりなくなるのだから当たり前かと自己完結させようとして絢雅は無理やり寝ついた。
それでも、受験勉強をしている心の中では何かポッカリと何かが足りない気がしてならなかった
物足りない…
つまらない……
視界に入るものから途端に鮮やかさが消えていた
心にモヤモヤしたものを抱える日々を過ごす中、ほぼ強引に連絡が来取り付けられた約束で出会った人物に絢雅はその正体を突きつけられたのだ。と同時に、抱いている想いを知るのだった。
「なに辛気臭い顔してんだよ……」
問題を解く手を止め、顔を上げると頬杖をしてこっちを見る高尾がいた。何故か知らないが、一緒に勉強する羽目になったのだ。高尾もスポーツ推薦のはずなのに、何故こういう状況になってんだと思いつつ、目の前の彼に絢雅は訝しげな表情を浮かべた。
「そりゃあ…勉強相手が一向に勉強する兆しがないからに決まってるでしょ」
「えぇ~!!そんなことないぜ!これからやろうと思ってたし」
ヘラヘラと笑う高尾。だが、彼の瞳の奥には何か別のものを感じ取れて絢雅はゾッとした。自分の心が見透かされている気がしたからだ。
「絢雅、なんかあったろ??」
「…別に何もないよ」
「はい、ウソ…だって全然集中できてないぜ」
笑みを無くした高尾の表情はバスケをしている時を彷彿させるような真剣な面付きだった。PGというポジションの人は皆こうなのだろうか?いや、恐らく目の前の彼が特化しすぎてるだけだろうと自己完結させる絢雅に高尾はニコニコと笑みを滲ませた。
「絶対なんかあったろ?
ほら?高尾ちゃんに話してみなさいって
スッキリするかもしんないぜ」
こういう表情をする高尾と対面してるときは、凄く神経をすり減らされる気分に陥る。
ジリジリと猛獣に追い詰められる獲物になった心地だ。背に冷や汗を感じ押し黙る絢雅の様子に高尾は大きく息を吐いた。
「ハァ...やっぱ気づいてねぇんだな」
高尾が息をついたことで一気にこの場の緊張感が和らいだ。重い空気が無くなったことにホッと胸を撫で下ろす絢雅だったが、意味深な彼の言葉に首を傾げた。
「なぁ、絢雅」
「なに?」
「俺と付き合ってみるか?」
真っ直ぐな彼の言葉にはからかい混じりの声はなく、真剣味を帯びていた。だが、絢雅は考え込む事無く直ぐに返事を返した。
「0.000001%もありえない」
絢雅の返答に高尾はキョトンとしながら瞬きを繰り返す。そして絢雅の言葉を呑み込むと涙目を浮かばせながら腹を抱えて笑い出した。
「ギャハハwwww
即答かよ!!流石にメンタル強い高尾ちゃんでも泣いちゃう」
「だって、高尾とはこのままの関係が心地いいから」
「ふーん…じゃあさ、黄瀬は??」
一気に表情を引っ込めた高尾は肘を机につき確信をつく言葉を投げかけた。含んだ笑みを浮かべ探るような高尾の眼差しに絢雅はドクンと心臓が高鳴った。
黄瀬とはどうしたいのだろう…
渦巻きはじめる感情に、絢雅は戸惑い出す。そんな彼女を見かねて呆れながら高尾は、決定打を突きつけた。
「好きなんじゃねぇーの?黄瀬の事」
恋沙汰については鈍感すぎるバスケ馬鹿である絢雅にはここまで言わないと気づかないだろうと思っていた高尾なのだが、予想通りいやそれ以上過ぎてやれやれと内心大きくため息をついた。
……涼ちゃん、不憫すぎるぜ
何度か泣きつかれたことがある
いやそれ以前に高尾の絢雅に対する気持ちを勘くぐるように疑われたりもした
だが、あくまでも高尾は絢雅を大切な友人としてしか見ていない
それに今では黄瀬も高尾にとっては大切な友人の一人になっていた
だからこそ、彼らには幸せになってほしい
告れなかったと、WCの後に黄瀬に泣きつかれたときは、ヘタレと思ったが、いざ手助けしてやろうかと絢雅と対面することでようやく黄瀬が言いよどんだ意味を察したのだ。
サッサと気づいてやれよ
フッと息をつくと高尾は見守るように柔らかく眼を細めるのだった。
好き………………か
確かに黄瀬のバスケは好きだ
誰よりもまっすぐでキラキラと輝きを放つ彼のプレーに恋い焦がれた。
激しく心が打たれ、毎度惹きつけたれた
だが、それ以上に絢雅はよくよく思い返すことで思ったことがあった。
バスケしている時の真剣な表情、笑っている表情が好き…
でも、悲しそうな表情や淋しげな表情は見ていられなかった…
いつからだろうか
無意識のうちに彼の存在を眼で追うようになったのは
弱音をさらけ出すようになったのは
支えたい、隣で笑っていてほしいと思うようになったのは
黄瀬と過ごす時間が当たり前になり気づかなかった、知らないうちに懐に入り込んだ彼の存在がとてつもなく大きなものになっていることに
心にポッカリと開いた穴の正体は、ただバスケできなくなっただけではなかった。隣にいつもいた、どんな時も一緒にいてくれた黄瀬ともう日常を過ごせないという喪失感だった。
ハッとようやく抱いている気持ちに気づいた絢雅は、この議題を焚き付けた張本人を凝視した。その様子に高尾はやっとかと呆れ返りながら口を開く。
「やっと気づいたか…おせーよ」
「……高尾のおせっかい」
「恋のキューピッド役の俺に言うセリフか??
むしろ感謝して欲しいくらいなんすけど」
不貞腐れて頬を膨らます絢雅に、高尾はニヤニヤと不敵な笑みを浮かべながら正論を言う。それに言い返すことが出来ず、絢雅はウッと唸った後、大きく息をついた。
「ハァ…そうだね
帰りの道中になんかお礼として何か奢るよ」
「………やけに今日は素直だな」
驚きでキョトンとしながらポツリと本音を溢す高尾に、絢雅は眉をピクリと動かした。
「あ…いらない??高尾がいらないなら別にいいんだけど…」
「そんなことねーよ!
ありがたく頂きます!!」
慌てて絢雅の機嫌をなだめようとする高尾に絢雅は小さく笑みを零した。その表情は、高尾が見た中で一番やわらかい微笑みに感じられた。
「でも、ありがとね
スッキリしたから勉強に本腰が入るよ」
気付かせてくれた高尾に率直にお礼を述べると絢雅は、机に置いていた教材に向き直った。先程とは違いスラスラとシャーペンを走らせる絢雅に高尾は疑うように眼を見張った。
「お前のことだから、直ぐに行動に移すと思ったらしねーんだな」
「目の前のことをとりあえず片さないとね
ってか、邪魔するなら帰ってよ」
その言葉に対して、柔らかく微笑むのだがさっきと打って変わるように高尾を邪険の眼で見た。
「っえ!!奢ってくれるって言ってたじゃねーか!!」
「そんなこと言った??」
「おいコラ!!しらばっくれんなよ〜!!」
まさかの邪魔という一言にさっきの約束はと慌てだす高尾に対し、すでにその事を完全に忘れていた絢雅は知らないと言い返した。当然声を荒げる高尾に、絢雅はただ首を傾げるのだった。