バスケに青春を懸ける
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「なぁ??アンタ」
暗い廊下を歩いていた絢雅はその声と同時に肩を思い切り掴まれた。そのまま絢雅は壁に背を思い切り打ち付けられた。
「なに...」
いったい誰だとガンを飛ばすように絢雅は眼光を光らせて自分を押さえつけている人物を睨めつけた。
「りょーたの女か??」
ペロッと舌を舐めて自身を見下ろすのは、コーンロウの髪型で耳に複数のピアスをつけているガラの悪そうな青年だった。
絡まれてる...
というか、りょーたって誰??
絢雅は大きく息を付きながら疑問をぶつけた。
「はぁ???
何言ってるかさっぱりなんだけど」
「なんだ??チゲぇーのか?
アンタと同じチームの黄瀬涼太と関係あんじゃねぇーの」
不思議そうに尋ねてきた彼の言葉でようやく
りょーた=黄瀬涼太
と絢雅の頭の中で合点がいった。
「何を勘違いしてんのか知らないけど、ただのチームメイト」
「ふーん
そんな風に見えなかったがな」
「というか、アンタ誰?
黄瀬とどういう関係??」
絢雅の言葉に彼は鵜呑みせず、かんくぐるように眼光を光らせた。そんな彼に対し、絢雅は黄瀬を名前で呼ぶ眼の前の人物は一体何者だと眉を顰めた。
「元チームメイトさ、帝光中の」
「へぇ〜、というかそろそろ離れてくんない??」
彼の言葉に相槌を打った絢雅はもう目の前の彼に興味が失せ、サッサと離れろとウザそうに睨みつけた。
だが、そんな彼女の言葉を聞き入れるわけがなく、絢雅を掴む力を彼は更に強めた。
「やだね!」
そして、彼は絢雅の耳元に顔を近づけると誘うように囁いた。
「なぁ俺にしない?
涼太より俺のほうが上手いぜ」
「なんでそう言い切れるの?」
「だって、俺負けたことないし
キセキの世代と呼ばれる前はスタメンだったしな」
自信満々に堂々と言い切る彼に絢雅の頭は急降下に冷えきった。目の前の彼を呆れたように冷めた目つきで絢雅は見た。
「ふーん、でもそれって過去でしょ」
「過去??」
ピクリと眉を顰めた彼に、畳み掛けるように絢雅は苛立ちをぶつけるように啖呵を切った。
「今の黄瀬にアンタが勝てるって言いたいの??
ふざけんな
少なくともアンタに黄瀬は負けないよ
福田総合の灰崎祥吾」
「なんだ?俺のこと知ってたのかよ」
「次の海常の対戦相手だしね
まぁこの時間になんでここにいるか意味わかんないけど」
「いいねぇ…アンタ
増々興味沸いたわ」
一瞬も目線を逸らすことなく、自分に恐怖を抱くことすらなく果敢にガンを飛ばしてくる絢雅に、灰崎は愉快そうに舌をペロッと舐めた。
さて…愉しませてもらおうかと
さらに灰崎が顔を近づけようとする。だが、そのタイミングで遠くから何かが接近し来る気配を感じ取り咄嗟に灰崎は右手を横に出した。その直後に勢いよくボールが灰崎の顔面に向かってきたのだ。灰崎はあぶねぇーと思いつつそのボールを右手で受け止めるとそのボールを投げてきた張本人を睨めつけた。
「おいおい、いきなり俺にボールを投げつけてくるなんていい度胸だな…りょーた」
「なにやってるんすか、祥吾君
さっさと絢雅っちから離れてほしいんすけど」
絢雅の左肩を掴んだままの灰崎に対して、黄瀬はいつも以上に増して冷徹な瞳で睨めつける。双方バチバチと火花を散らす中、絢雅はここからさっさと抜け出さねばと、この機会を利用して目の前の彼の腹に向けて一発拳をぶちまかした。
「グッ!!」
唐突の絢雅からの拳に全く気づかなかった灰崎は受け身を取れず地味にくる鈍痛に悶絶。その隙に絢雅は黄瀬のところまで避難した。
「…絢雅っち!!平気すか」
「…うん、助かった
けど……」
絢雅の無事にとりあえずホッと胸を撫で下ろす黄瀬。そんな彼に絢雅は礼を述べるのだが、一体どうしてこの場に黄瀬が此処にいるのか気になって絢雅は仕方なかった。
「どうして此処にいるの??今アップ中じゃ…」
「…実は」
返答に言いよどむ黄瀬は視線を足元に向ける。その様子に絢雅は小さくため息をついた。影を落とす黄瀬の視線の先にあるのは彼の右足だったからだ。
「……はぁ、いいよわかったから何も言わないで」
絢雅はそう言うと視線を蹲っている彼に向けた。
「いってぇーな…」
「絢雅っちに何の用すか
それにバスケやめたはずなのに、どういう吹き回しっすか?」
睨んでいる黄瀬に、灰崎は不敵な笑みを浮かべてペロッと自分の指を舐めた。
「奪っちまおうと思ってな、キセキの世代の称号も
そして、お前が大事にしている女もな
いい女じゃねーか、よこせよ両方とも」
品定めするように絢雅の全身を舐め回すように見る灰崎の視線に反吐が出ると黄瀬は顔を顰めた。
「寄越すわけないじゃないすか
別に”キセキの世代”の名にこだわりはないすけど、アンタみたいのにホイホイ売るほど安く売ってね〜よ、祥吾くん
それに、絢雅っちのことに関しては尚更渡さねーよ」
いつも以上にドス低い声で黄瀬は言い返した。
「買わねーよ
欲しいから寄越せって言ってんだよ」
灰崎はそう言い切るとふと思いついたようにニヤリと口角を上げた。
「こうしようぜ、りょーた
俺が勝ったら両方とも頂く。負けたら大人しく手を引いてやる。
どうだ??」
「はぁ?そんなのに…」
「なんだ?怖じ気付いてるのか?」
挑発じみた灰崎の言葉に乗るわけがないと黄瀬は眉を顰める。サッサとこの場を離れようと考えるのだが、すっかり黄瀬は隣にいる彼女のことを忘れていた。
「いいよ…」
「ちょっ!!絢雅っち!!」
慌てて隣にいる絢雅を黄瀬は見る。だが、完全に今の彼女は怒りが頂点を達していた。イラッと額に青筋を立てた絢雅は全身にドス黒い殺気立ったオーラを放ち目の前の彼を睨んでいた。
「その勝負受けて勝ってやるよ、勝つのは黄瀬だ」
「いいね〜そうこなくちゃ
その言葉忘れんじゃね〜ぞ」
愉快そうに笑うと灰崎はサッとその場を離れていった。
「ちょ!!何やってるんスカ!!」
灰崎の姿が消えたのを確認した黄瀬は、即座に絢雅に詰めかかった。対して絢雅は詫びる素振りを見せずに、珍しく感情を露わにして頬を膨らました。
「だってアイツ凄くムカついたから」
「だからって喧嘩買うことないっすよ!」
切羽詰まった表情で絢雅に訴える黄瀬に、当の本人は意味がわからないと不思議そうに首を傾げた。
「なんで?別にいいじゃん
どうせこの勝負勝つのは私達だし
違う??」
「そっ、そりゃあそうすけど」
「じゃあそれでいいでしょ」
話しは終わりだと納得いかない様子の黄瀬を放置し、絢雅は彼に背を向ける。だが、そのまま観客席に向かうことなく黄瀬の方に顔を向け振り向いた。
「あんな奴に負けるなんて思ってないでしょ?」
清々しく好戦的な瞳を宿す絢雅はニヤリと笑みを浮かべた。そんな彼女に対し、黄瀬も同様の表情を浮かべて言い切った。
「とーぜんっす!!」
黄瀬と別れた絢雅はその足で観客席へ。予め取っておいた席に戻るとそこには見覚えがある人達がいた。だが、それを気にすることなく絢雅は座った。
「絢雅さん!?」
隣に絢雅が座ったことに驚いて思わず声を上げたのは黒子。その声でようやく気づいたのか火神達が同様に驚きを見せたのだった。
同時刻、海常と福田総合の試合が始まった。
灰崎に対する絢雅の第一印象は最悪。だが、試合が始まってからさらに彼に対する印象は悪化した。
チーム精神の欠片もない個人プレー
相手・味方関係なく突っ走る
ミスを味方のせいにし、苛立ちをぶつけるように手を上げ
味方へのパスをカットしボールを奪ったり
そのプレーに対し、嫌悪感を持ったのはもちろん絢雅だけではなかった。一番キライなタイプだと吐き捨てるようにコート上にいる笠松も額に青筋を立てた。
「うちに来てれば一からしつけ直してやったんだがな」
「いいえ…今すぐにでも」
そして、絢雅の後ろに座っていた日向と相田が殺気立つオーラを出しながら拳をゴキゴキと鳴らし、クラッチングタイムに入っていたのだった。
この心理状況の中で絢雅は、灰崎のプレースタイルに対し既視感を覚えた。灰崎も相手がしたプレーを即座にそのまま真似してお返ししているのだ。そこまでならまだいい。だが、灰崎にマネされた技を所持していた選手が出来なくなってしまっていたのだ。通常では、考えられないくらい笠松を始め海常の皆は全不調でチグハグなプレーになっていたのだ。
「ねぇ…黒子、アイツは何をしたの?」
「黄瀬と灰崎の能力は少し違うと言ってたがどういうことだ?」
ふとした絢雅の疑問に続けるように、火神も訝しげに黒子に尋ねた。
「黄瀬くんは灰崎くんとほぼ入れ替わりでレギュラー入りしました
灰崎くんは練習をサボりがちでいつも手を抜いていましたし、実践を見てないから黄瀬くんが知らないのも無理はありません
灰崎くんは黄瀬くん同様見た技を一瞬で自分の物にする
ですが、リズムやテンポだけ我流に変えてしまうんです
見た目が全く同じで、リズムがかすかに違う技を見せられた相手は無意識に自分本来のリズムを崩されその技を使えなくなる
コピーでなく、灰崎くんは技を奪う」
「性格だけでなく、能力までもムカつく」
「…絢雅さん、なんかありました??」
普段感情をそこまで露わにしない絢雅から異様に伝わる苛立ちに黒子が気づきふと尋ねた。その言葉に対して、絢雅は目線をコートに向けながら答えた。
「さっき絡まれた…」
「…なんか、すみません」
「別に誰かに絡まれるのはたまにあるからいいんだけど、とりあえず自分勝手で非常にムカついた」
「……絡まれるのがたまにあるって駄目だろ」
元チームメイトの行いに対して謝る黒子に絢雅は小さく首を横に振る。だが、その会話を聞いていた火神は絢雅のワンフレーズにたまらず呆れ気味にツッコミを入れてしまうのだった。
10分のインターバルが明け少しずつ灰崎の能力の効果が出始める。慎重に黄瀬は持っている技を選んで使っていくが、どんどん灰崎に強奪されていっていたためだ。
徐々に引き離されていく点差。それだけでなく、無理している身体にも影響が及び始めた。
「黄瀬の動きがおかしい、いつものアイツじゃねぇ」
「…絢雅さん、黄瀬くんの足」
「…完全に治ってないんだ」
その言葉に誠凛一同は驚愕した。結局、あれほど言ったのにオーバーワークを続けたため、黄瀬の身体は万全の状態まで回復できなかったのだ。
ストックが切れかけているだけでなく、痛めていた足にも違和感を覚え始めた黄瀬は、一瞬鈍痛に顔を歪めた。
「そういえば中房のときもそうして這いつくばっていたな
そうだそうだ、しかも女も俺が取っちまったんだっけ?
惨めだな〜つくづく。まぁやったらすぐ捨てちまったけど」
黄瀬の姿を見て、灰崎は中学時代の事を思い出し嘲笑うようにヘラヘラと笑った。
どうすれば…
突破口が思いつかず絶望の渦に飲まれかける黄瀬。だが、彼をその渦から救う一筋の光が耳から入ってきた。
「信じてますから!!黄瀬くん」
「黄瀬!!」
観客席からいても立ってもいられず衝動で立ち上がった黒子と絢雅が発した声だった。
その力強い声に黄瀬は思わず口角を上げた。
『セミファイナルで待ってます』
『勝つのは黄瀬だ!』
黒子も絢雅も自分が勝つと信じてくれている
次のステージで彼らと戦うためにも、絢雅の想いに答えるためにもここで立ち止まっていちゃ駄目だ
黄瀬はゆっくりと立ち上がると灰崎の言葉をやんわりと訂正する。
「祥吾くんさ、勝つ前に言っとくけど勘違いしてるよあの子のこととか
勝手に付き纏われて彼女名乗られてウンザリしてたんすよ正直
プライド高くて自慢話ばっか
モデルと付き合っているっていうステータスが欲しかっただけなんすよあれは」
雰囲気をガラリと変えた黄瀬の言葉に呆気に取られる灰崎。そんな彼に黄瀬は眼を向けるとワントーン低い声を発した。
「見た目で群がってくる馬鹿女達を一人取ったくらいで調子に乗ってんじゃね〜よ」
そして、黄瀬は笠松からボールを受け取るとニヤリと口角を上げ、シュート体制に入った。その構えは、ある人物のシュート体制に酷似していた。
高く宙に上がるボール。それは綺麗な弧を描きゴールネットを揺らした。
緑間の高弾道3Pシュート
この光景に茫然と突っ立つ灰崎に黄瀬は腹の底から吐き出すように声を発した。
「女だの肩書だの、欲しければいくらでもやるよ
でもな、絢雅っちは絶対に誰にもやらねー!!
それに大事な約束があるんすよ俺には
必ずそこへ行く…邪魔すんじゃね〜よ!!」
黄金色の瞳を煌めかすと黄瀬はどんどんキセキの世代の模倣を繰り出した。
青峰程の最高速度を出せない代わりに彼よりも最低速度を下げることによって青峰のチェンジ・オブ・ペースを
予測とジャンプ力によって紫原のディフェンスの守備範囲を
利き腕でシュートまでのタメを更に溜めることによって緑間の高弾道3Pシュートの飛距離を出し
それぞれの技を再現していたのだ
見た技を瞬時に奪うことが出来る灰崎。だが、どんだけ見ても黄瀬の動きを奪うことが出来ない。キセキの世代の技を灰崎は強奪できないのだ。
「祥吾くん、さっき言ってたすね
『”キセキの世代”の座を奪っちまおうと思って』だっけ
調子はどうすか?」
顔を歪める灰崎に黄瀬はそう問いかけると笠松からもらったボールをゴールに向けシュートを放った。そのシュートは、福田総合との点差をひっくり返す逆転シュートだった。
黄瀬との実力差をはっきりと痛感した灰崎。だが、もうこうなったらどうでもいいと灰崎はとある行動に出た。
「気づいてないとでも思ったのかよ
足を痛めてるってよ」
黄瀬の右足を思い切り踏みつけたのだ。そのまま灰崎はボールをゴールへレイアップしようとする。しかし、黄瀬はそのシュートをみすみす見逃すはずがなかった。
「言ったはずっすよ、邪魔すんじゃねーって
勝つのは俺だ!!!」
そのまま黄瀬は弾いたボールを逆サイドまで運び、決定打とも言えるダンクシュートを決めた。
試合を見届けた絢雅はいち早く席を立つ。そして、たった今明日の試合相手になった彼らに敵意剥き出しな力強い瞳を向けた。
「明日は勝たせてもらうからね、誠凛さん」
その言葉にもちろん彼らは言い返した。
「何言ってんだ…勝つのは…」
「僕たちです」
数秒間…火花を散らしあった彼ら。先に目線をそらしたのは絢雅。絢雅はフッと息をつき笑みを浮かべるとある言葉を言い残し踵を返した。
「楽しみにしてる」
そのまま観客席を後にした絢雅がその足でとある場所に向かう。その先はもちろん海常の控室。問答無用に絢雅は扉を開ける。突然の彼女の登場に中にいた海常のメンバーは呆気に取られた。だが、彼らの様子に眼が入らない絢雅は気にすることなく一目散に目的の人物の元へ。そのまま絢雅は彼の目の前に立つとギュッと抱きついた。
「えぇ…絢雅っち…」
一番驚愕したのはもちろん抱きつかれた本人である黄瀬。そんな彼の様子に気づかない絢雅は抱きつく力を強めた。
「ヒヤヒヤさせんな!!馬鹿!!」
顔を埋めている絢雅に黄瀬はゴメンと彼女の頭をそっと撫でた。
そんな二人の様子に固まっていた他のメンバーが一番は驚愕だがその他にも渦巻くごちゃまぜの感情が渦巻く。それを彼らは脳内で整理することなく騒ぎ出したのは言うまでもない
暗い廊下を歩いていた絢雅はその声と同時に肩を思い切り掴まれた。そのまま絢雅は壁に背を思い切り打ち付けられた。
「なに...」
いったい誰だとガンを飛ばすように絢雅は眼光を光らせて自分を押さえつけている人物を睨めつけた。
「りょーたの女か??」
ペロッと舌を舐めて自身を見下ろすのは、コーンロウの髪型で耳に複数のピアスをつけているガラの悪そうな青年だった。
絡まれてる...
というか、りょーたって誰??
絢雅は大きく息を付きながら疑問をぶつけた。
「はぁ???
何言ってるかさっぱりなんだけど」
「なんだ??チゲぇーのか?
アンタと同じチームの黄瀬涼太と関係あんじゃねぇーの」
不思議そうに尋ねてきた彼の言葉でようやく
りょーた=黄瀬涼太
と絢雅の頭の中で合点がいった。
「何を勘違いしてんのか知らないけど、ただのチームメイト」
「ふーん
そんな風に見えなかったがな」
「というか、アンタ誰?
黄瀬とどういう関係??」
絢雅の言葉に彼は鵜呑みせず、かんくぐるように眼光を光らせた。そんな彼に対し、絢雅は黄瀬を名前で呼ぶ眼の前の人物は一体何者だと眉を顰めた。
「元チームメイトさ、帝光中の」
「へぇ〜、というかそろそろ離れてくんない??」
彼の言葉に相槌を打った絢雅はもう目の前の彼に興味が失せ、サッサと離れろとウザそうに睨みつけた。
だが、そんな彼女の言葉を聞き入れるわけがなく、絢雅を掴む力を彼は更に強めた。
「やだね!」
そして、彼は絢雅の耳元に顔を近づけると誘うように囁いた。
「なぁ俺にしない?
涼太より俺のほうが上手いぜ」
「なんでそう言い切れるの?」
「だって、俺負けたことないし
キセキの世代と呼ばれる前はスタメンだったしな」
自信満々に堂々と言い切る彼に絢雅の頭は急降下に冷えきった。目の前の彼を呆れたように冷めた目つきで絢雅は見た。
「ふーん、でもそれって過去でしょ」
「過去??」
ピクリと眉を顰めた彼に、畳み掛けるように絢雅は苛立ちをぶつけるように啖呵を切った。
「今の黄瀬にアンタが勝てるって言いたいの??
ふざけんな
少なくともアンタに黄瀬は負けないよ
福田総合の灰崎祥吾」
「なんだ?俺のこと知ってたのかよ」
「次の海常の対戦相手だしね
まぁこの時間になんでここにいるか意味わかんないけど」
「いいねぇ…アンタ
増々興味沸いたわ」
一瞬も目線を逸らすことなく、自分に恐怖を抱くことすらなく果敢にガンを飛ばしてくる絢雅に、灰崎は愉快そうに舌をペロッと舐めた。
さて…愉しませてもらおうかと
さらに灰崎が顔を近づけようとする。だが、そのタイミングで遠くから何かが接近し来る気配を感じ取り咄嗟に灰崎は右手を横に出した。その直後に勢いよくボールが灰崎の顔面に向かってきたのだ。灰崎はあぶねぇーと思いつつそのボールを右手で受け止めるとそのボールを投げてきた張本人を睨めつけた。
「おいおい、いきなり俺にボールを投げつけてくるなんていい度胸だな…りょーた」
「なにやってるんすか、祥吾君
さっさと絢雅っちから離れてほしいんすけど」
絢雅の左肩を掴んだままの灰崎に対して、黄瀬はいつも以上に増して冷徹な瞳で睨めつける。双方バチバチと火花を散らす中、絢雅はここからさっさと抜け出さねばと、この機会を利用して目の前の彼の腹に向けて一発拳をぶちまかした。
「グッ!!」
唐突の絢雅からの拳に全く気づかなかった灰崎は受け身を取れず地味にくる鈍痛に悶絶。その隙に絢雅は黄瀬のところまで避難した。
「…絢雅っち!!平気すか」
「…うん、助かった
けど……」
絢雅の無事にとりあえずホッと胸を撫で下ろす黄瀬。そんな彼に絢雅は礼を述べるのだが、一体どうしてこの場に黄瀬が此処にいるのか気になって絢雅は仕方なかった。
「どうして此処にいるの??今アップ中じゃ…」
「…実は」
返答に言いよどむ黄瀬は視線を足元に向ける。その様子に絢雅は小さくため息をついた。影を落とす黄瀬の視線の先にあるのは彼の右足だったからだ。
「……はぁ、いいよわかったから何も言わないで」
絢雅はそう言うと視線を蹲っている彼に向けた。
「いってぇーな…」
「絢雅っちに何の用すか
それにバスケやめたはずなのに、どういう吹き回しっすか?」
睨んでいる黄瀬に、灰崎は不敵な笑みを浮かべてペロッと自分の指を舐めた。
「奪っちまおうと思ってな、キセキの世代の称号も
そして、お前が大事にしている女もな
いい女じゃねーか、よこせよ両方とも」
品定めするように絢雅の全身を舐め回すように見る灰崎の視線に反吐が出ると黄瀬は顔を顰めた。
「寄越すわけないじゃないすか
別に”キセキの世代”の名にこだわりはないすけど、アンタみたいのにホイホイ売るほど安く売ってね〜よ、祥吾くん
それに、絢雅っちのことに関しては尚更渡さねーよ」
いつも以上にドス低い声で黄瀬は言い返した。
「買わねーよ
欲しいから寄越せって言ってんだよ」
灰崎はそう言い切るとふと思いついたようにニヤリと口角を上げた。
「こうしようぜ、りょーた
俺が勝ったら両方とも頂く。負けたら大人しく手を引いてやる。
どうだ??」
「はぁ?そんなのに…」
「なんだ?怖じ気付いてるのか?」
挑発じみた灰崎の言葉に乗るわけがないと黄瀬は眉を顰める。サッサとこの場を離れようと考えるのだが、すっかり黄瀬は隣にいる彼女のことを忘れていた。
「いいよ…」
「ちょっ!!絢雅っち!!」
慌てて隣にいる絢雅を黄瀬は見る。だが、完全に今の彼女は怒りが頂点を達していた。イラッと額に青筋を立てた絢雅は全身にドス黒い殺気立ったオーラを放ち目の前の彼を睨んでいた。
「その勝負受けて勝ってやるよ、勝つのは黄瀬だ」
「いいね〜そうこなくちゃ
その言葉忘れんじゃね〜ぞ」
愉快そうに笑うと灰崎はサッとその場を離れていった。
「ちょ!!何やってるんスカ!!」
灰崎の姿が消えたのを確認した黄瀬は、即座に絢雅に詰めかかった。対して絢雅は詫びる素振りを見せずに、珍しく感情を露わにして頬を膨らました。
「だってアイツ凄くムカついたから」
「だからって喧嘩買うことないっすよ!」
切羽詰まった表情で絢雅に訴える黄瀬に、当の本人は意味がわからないと不思議そうに首を傾げた。
「なんで?別にいいじゃん
どうせこの勝負勝つのは私達だし
違う??」
「そっ、そりゃあそうすけど」
「じゃあそれでいいでしょ」
話しは終わりだと納得いかない様子の黄瀬を放置し、絢雅は彼に背を向ける。だが、そのまま観客席に向かうことなく黄瀬の方に顔を向け振り向いた。
「あんな奴に負けるなんて思ってないでしょ?」
清々しく好戦的な瞳を宿す絢雅はニヤリと笑みを浮かべた。そんな彼女に対し、黄瀬も同様の表情を浮かべて言い切った。
「とーぜんっす!!」
黄瀬と別れた絢雅はその足で観客席へ。予め取っておいた席に戻るとそこには見覚えがある人達がいた。だが、それを気にすることなく絢雅は座った。
「絢雅さん!?」
隣に絢雅が座ったことに驚いて思わず声を上げたのは黒子。その声でようやく気づいたのか火神達が同様に驚きを見せたのだった。
同時刻、海常と福田総合の試合が始まった。
灰崎に対する絢雅の第一印象は最悪。だが、試合が始まってからさらに彼に対する印象は悪化した。
チーム精神の欠片もない個人プレー
相手・味方関係なく突っ走る
ミスを味方のせいにし、苛立ちをぶつけるように手を上げ
味方へのパスをカットしボールを奪ったり
そのプレーに対し、嫌悪感を持ったのはもちろん絢雅だけではなかった。一番キライなタイプだと吐き捨てるようにコート上にいる笠松も額に青筋を立てた。
「うちに来てれば一からしつけ直してやったんだがな」
「いいえ…今すぐにでも」
そして、絢雅の後ろに座っていた日向と相田が殺気立つオーラを出しながら拳をゴキゴキと鳴らし、クラッチングタイムに入っていたのだった。
この心理状況の中で絢雅は、灰崎のプレースタイルに対し既視感を覚えた。灰崎も相手がしたプレーを即座にそのまま真似してお返ししているのだ。そこまでならまだいい。だが、灰崎にマネされた技を所持していた選手が出来なくなってしまっていたのだ。通常では、考えられないくらい笠松を始め海常の皆は全不調でチグハグなプレーになっていたのだ。
「ねぇ…黒子、アイツは何をしたの?」
「黄瀬と灰崎の能力は少し違うと言ってたがどういうことだ?」
ふとした絢雅の疑問に続けるように、火神も訝しげに黒子に尋ねた。
「黄瀬くんは灰崎くんとほぼ入れ替わりでレギュラー入りしました
灰崎くんは練習をサボりがちでいつも手を抜いていましたし、実践を見てないから黄瀬くんが知らないのも無理はありません
灰崎くんは黄瀬くん同様見た技を一瞬で自分の物にする
ですが、リズムやテンポだけ我流に変えてしまうんです
見た目が全く同じで、リズムがかすかに違う技を見せられた相手は無意識に自分本来のリズムを崩されその技を使えなくなる
コピーでなく、灰崎くんは技を奪う」
「性格だけでなく、能力までもムカつく」
「…絢雅さん、なんかありました??」
普段感情をそこまで露わにしない絢雅から異様に伝わる苛立ちに黒子が気づきふと尋ねた。その言葉に対して、絢雅は目線をコートに向けながら答えた。
「さっき絡まれた…」
「…なんか、すみません」
「別に誰かに絡まれるのはたまにあるからいいんだけど、とりあえず自分勝手で非常にムカついた」
「……絡まれるのがたまにあるって駄目だろ」
元チームメイトの行いに対して謝る黒子に絢雅は小さく首を横に振る。だが、その会話を聞いていた火神は絢雅のワンフレーズにたまらず呆れ気味にツッコミを入れてしまうのだった。
10分のインターバルが明け少しずつ灰崎の能力の効果が出始める。慎重に黄瀬は持っている技を選んで使っていくが、どんどん灰崎に強奪されていっていたためだ。
徐々に引き離されていく点差。それだけでなく、無理している身体にも影響が及び始めた。
「黄瀬の動きがおかしい、いつものアイツじゃねぇ」
「…絢雅さん、黄瀬くんの足」
「…完全に治ってないんだ」
その言葉に誠凛一同は驚愕した。結局、あれほど言ったのにオーバーワークを続けたため、黄瀬の身体は万全の状態まで回復できなかったのだ。
ストックが切れかけているだけでなく、痛めていた足にも違和感を覚え始めた黄瀬は、一瞬鈍痛に顔を歪めた。
「そういえば中房のときもそうして這いつくばっていたな
そうだそうだ、しかも女も俺が取っちまったんだっけ?
惨めだな〜つくづく。まぁやったらすぐ捨てちまったけど」
黄瀬の姿を見て、灰崎は中学時代の事を思い出し嘲笑うようにヘラヘラと笑った。
どうすれば…
突破口が思いつかず絶望の渦に飲まれかける黄瀬。だが、彼をその渦から救う一筋の光が耳から入ってきた。
「信じてますから!!黄瀬くん」
「黄瀬!!」
観客席からいても立ってもいられず衝動で立ち上がった黒子と絢雅が発した声だった。
その力強い声に黄瀬は思わず口角を上げた。
『セミファイナルで待ってます』
『勝つのは黄瀬だ!』
黒子も絢雅も自分が勝つと信じてくれている
次のステージで彼らと戦うためにも、絢雅の想いに答えるためにもここで立ち止まっていちゃ駄目だ
黄瀬はゆっくりと立ち上がると灰崎の言葉をやんわりと訂正する。
「祥吾くんさ、勝つ前に言っとくけど勘違いしてるよあの子のこととか
勝手に付き纏われて彼女名乗られてウンザリしてたんすよ正直
プライド高くて自慢話ばっか
モデルと付き合っているっていうステータスが欲しかっただけなんすよあれは」
雰囲気をガラリと変えた黄瀬の言葉に呆気に取られる灰崎。そんな彼に黄瀬は眼を向けるとワントーン低い声を発した。
「見た目で群がってくる馬鹿女達を一人取ったくらいで調子に乗ってんじゃね〜よ」
そして、黄瀬は笠松からボールを受け取るとニヤリと口角を上げ、シュート体制に入った。その構えは、ある人物のシュート体制に酷似していた。
高く宙に上がるボール。それは綺麗な弧を描きゴールネットを揺らした。
緑間の高弾道3Pシュート
この光景に茫然と突っ立つ灰崎に黄瀬は腹の底から吐き出すように声を発した。
「女だの肩書だの、欲しければいくらでもやるよ
でもな、絢雅っちは絶対に誰にもやらねー!!
それに大事な約束があるんすよ俺には
必ずそこへ行く…邪魔すんじゃね〜よ!!」
黄金色の瞳を煌めかすと黄瀬はどんどんキセキの世代の模倣を繰り出した。
青峰程の最高速度を出せない代わりに彼よりも最低速度を下げることによって青峰のチェンジ・オブ・ペースを
予測とジャンプ力によって紫原のディフェンスの守備範囲を
利き腕でシュートまでのタメを更に溜めることによって緑間の高弾道3Pシュートの飛距離を出し
それぞれの技を再現していたのだ
見た技を瞬時に奪うことが出来る灰崎。だが、どんだけ見ても黄瀬の動きを奪うことが出来ない。キセキの世代の技を灰崎は強奪できないのだ。
「祥吾くん、さっき言ってたすね
『”キセキの世代”の座を奪っちまおうと思って』だっけ
調子はどうすか?」
顔を歪める灰崎に黄瀬はそう問いかけると笠松からもらったボールをゴールに向けシュートを放った。そのシュートは、福田総合との点差をひっくり返す逆転シュートだった。
黄瀬との実力差をはっきりと痛感した灰崎。だが、もうこうなったらどうでもいいと灰崎はとある行動に出た。
「気づいてないとでも思ったのかよ
足を痛めてるってよ」
黄瀬の右足を思い切り踏みつけたのだ。そのまま灰崎はボールをゴールへレイアップしようとする。しかし、黄瀬はそのシュートをみすみす見逃すはずがなかった。
「言ったはずっすよ、邪魔すんじゃねーって
勝つのは俺だ!!!」
そのまま黄瀬は弾いたボールを逆サイドまで運び、決定打とも言えるダンクシュートを決めた。
試合を見届けた絢雅はいち早く席を立つ。そして、たった今明日の試合相手になった彼らに敵意剥き出しな力強い瞳を向けた。
「明日は勝たせてもらうからね、誠凛さん」
その言葉にもちろん彼らは言い返した。
「何言ってんだ…勝つのは…」
「僕たちです」
数秒間…火花を散らしあった彼ら。先に目線をそらしたのは絢雅。絢雅はフッと息をつき笑みを浮かべるとある言葉を言い残し踵を返した。
「楽しみにしてる」
そのまま観客席を後にした絢雅がその足でとある場所に向かう。その先はもちろん海常の控室。問答無用に絢雅は扉を開ける。突然の彼女の登場に中にいた海常のメンバーは呆気に取られた。だが、彼らの様子に眼が入らない絢雅は気にすることなく一目散に目的の人物の元へ。そのまま絢雅は彼の目の前に立つとギュッと抱きついた。
「えぇ…絢雅っち…」
一番驚愕したのはもちろん抱きつかれた本人である黄瀬。そんな彼の様子に気づかない絢雅は抱きつく力を強めた。
「ヒヤヒヤさせんな!!馬鹿!!」
顔を埋めている絢雅に黄瀬はゴメンと彼女の頭をそっと撫でた。
そんな二人の様子に固まっていた他のメンバーが一番は驚愕だがその他にも渦巻くごちゃまぜの感情が渦巻く。それを彼らは脳内で整理することなく騒ぎ出したのは言うまでもない