バスケに青春を懸ける
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暑い夏が終わり、WCに向けたそれぞれの練習が熱を増していく中…
東京都ではWC代表を決める予選会が行われていた。
この予選会は、IH予選時に各ブロックで決勝に進んだチーム…上位8チームのみが参戦することができる。
海常は男子も女子もIHでベスト8に入っていたのでシードを獲得し自動的にWCへの出場は決めていた。
その中、誠凛と秀徳の試合が始まるタイミングで試合会場に黄瀬が姿を現した。
なんだかんだ気になって仕方なく、黄瀬は一人この場に足を運んだのだ。一応、笠松達を誘ったのだが、全て断られてしまい、泣く泣く一人で見る覚悟で来たのだ。
「やっぱり始まっちゃってる!!もう!!青峰君のバカ…結局来てくれないし…」
試合が始まって少し経ったタイミングで、不平を漏らしながら桃井が現れた。走ってきたためハァハァと言いつつ呼吸を整える桃井。そんな彼女に黄瀬は近づいた。
「あれ??桃っちじゃん。黒子っちと緑間っちの試合観に来たんすか??」
「きーちゃん!!」
「その呼び方やめてくんないすかね??」
「だって…きーちゃんはきーちゃんでしょ??一人??」
桃井の昔からの呼び方に黄瀬は苦笑。そんな黄瀬を置いといて、キョロキョロと辺りを桃井は見渡すが、海常の人達の姿が見られなかった。
「そうっす…。先輩たち誘っても皆断られて…一人で心細いったらないっす」
口を尖らせて不平を漏らす黄瀬。それはこっちのセリフだと桃井は思わず眉を顰めた。そんな彼女に黄瀬はとある提案をする。
「そうだ…一緒にどうすか??まぁホントならうちらを負かせたチームの人と並んで観るのも変なはなしっすけど。お互いもうWC出場は決まってるしね。一時休戦ってことで」
そうだね...と桃井は賛同。一人で見なくて済むとホッとする桃井だったが、それより試合は!!っとハッと思い立ち身体を前のめりにさせコートを見渡す。そんな桃井に今まで試合を観ていた黄瀬は面白そうに口角を上げた。
「なかなか面白いことになってるっすよ」
何故なら、あれほど自ら決めるのを固守する緑間が仲間にパスをしたのだ。
あの頑固者の彼が仲間を頼った
そのプレーに黄瀬も桃井も思わず目を見張った。
どちらも一歩も引かない名勝負。
バチバチと散る火花は、観ている観客を魅了した。
観覧席で試合を見守っていた桃井は目を細めた。桃井の目線の先には秀徳の人達の輪に入っている緑間がいた。
「なんか…変わったね。みどりん」
「そうすか?」
「あと…きーちゃんも変わったよ」
「どこがすか?」
クスリと笑い黄瀬に振り向く桃井。黄瀬は怪訝な顔をするが何か思い当たる節があるのか考え込む。
「だとしたら、変わったんじゃなくて、たぶん変えさせられたんじゃないすか?」
黄瀬はコートに視線を落としたまま思い起こすように眼をスッと細めた。
「なんですかね?あの人と戦ってから周りに頼ることが弱いことがじゃなくてむしろ強さが必要なことじゃないかって思うんす」
「それだけじゃなさそうだけど」
探るような桃井の言葉に黄瀬はビクリと身体が跳ねた。
「な...何の話っすか?」
「テツくん以外にいるんでしょ?
確か名前は...松井絢雅だったかな〜〜」
ニヤリと愉しげに笑みを浮かべた桃井は、黄瀬にグッと身体を近づけると顔を見上げた。
どうやら情報は筒抜けらしい
というかどっから情報を掴んでくるんだ
黄瀬は肩をガクリと落とすとそうっすよとぶっきらぼうに答えた。
「で??きーちゃんはどう思ってるの??」
「どうって??」
「絢雅さんのこと!!」
「え??」
「だって、きーちゃんがここまで一人の女のコと関わるなんて珍しいじゃない!!」
いつも女のコには困らない黄瀬。気づけはいつも黄色い歓声を浴びて囲まれてた彼は、アイドルとしての自分を求める彼女達を煙たそうに見ていた。
だからこそ桃井は、黄瀬が絢雅に対して特別な気持ちを抱いているのではないかと思ったのだ。
「どうっすかね?考えたことないっすわ」
「じゃあ、今考えて!」
うーーんと顎に手を当て黄瀬は考え込んだ。
最初は純粋に自分の誘いを嫌悪感満載で拒否った絢雅に興味を抱いた
その後、屋上で嫌いだと宣言され挙句の果てにあっさりとゲームでボールを取られてしまった
最初は、何だコイツと思ったが彼女に関わる内に純粋にバスケが大好きで決めたことに対しては意地でも貫き通す頑固者。意外と沸点が低く負けず嫌い。無関心なことには全く無反応なのに、興味を持ったものには直ぐに反応を示す。
吐き出される言葉一つ一つは刺々しいが絢雅の真っ直ぐな想いが乗っていた
その言葉が彼女なりの愛のあるムチだと気づいたのはいつだろうか…
時折見せる破顔した表情に見惚れるようになったのはいつだろうか…
一生懸命、やればできるじゃん
ちょっと見直したよ黄瀬のこと
負けたらリベンジなんて当たり前でしょ
思い切りぶつかって……勝ってこい
エースという自覚もっともて!!
どの言葉もバスケに情熱をもつ絢雅から紡がれた言葉
少しぶっきらぼうで毒があるがどれも黄瀬の胸に凄く突き刺さった
アイドルでもなく、キセキの世代というレッテル関係なしに黄瀬涼太という内面を絢雅はしっかり見てくれてた
「俺……絢雅っちのことが……好き??」
無意識に出た言葉。でもそれを口に漏らした黄瀬は納得したように口角を上げた。
その言葉がストンと気持ちよく胸に落ちたからだ。
気持ちにようやく気づいた黄瀬。その彼の耳に聞き覚えのある凛とした声が入ってきた。
「あれ?黄瀬と...桃井さん??」
その声にハッとその方向を振り向くとそこにいたのは紛れもなく絢雅だった。
「私を知ってるんですか〜!」
「帝光中バスケのマネージャーでしょ?
知ってるよ」
「うわぁー!!嬉しい!!」
満面の笑みを浮かべ桃井は絢雅に抱きついた。流石に黄瀬じゃないので躱すわけにはいかず絢雅は黙って受け止めた。
そんな彼女を黄瀬は驚いた表情で見る。
「絢雅っち、来てたんですか!!」
「しょうがないじゃない
観に来て!!って呼び出されちゃったんだから」
「誰に??」
「高尾
誠凛に絶対勝つから観に来てって...
まぁ、滅多に見られない名試合だから結果オーライかな」
大きくため息をつきながら絢雅は、今日来た経緯を話した。
その言葉は、夏祭りの会場に向かう途中半場強引に取り付けられた約束だった。
「ねぇ…緑間のこと嫌いじゃなかったの?」
一人で行くと言ったのに遠慮するなと結局、隣に歩いている高尾に向けて絢雅はずっと思っていたことを口にした。ホントは、お好み焼き騒動で出会ったときに尋ねても良かったのだがその時は外野がいるからやめたのだ。
「ん??まぁーな
そりゃあ、こてんぱんにやられた相手だしな」
中学最後の試合、高尾は緑間率いる帝光中に圧倒的な力の差で負けていたのだ。唯一最後まで試合を諦めなかった彼は、その後雪辱を誓い春休みもずっとバスケに打ち込んできた。それなのに、絶対に倒すと決めていた相手が同じ高校で高尾は一気に拍子抜けしたのだ。
「加えて、向こうは俺の事を覚えてねぇーしな」
「まぁ、いちいち負かした相手を覚えてますという人には見えないけど」
その高尾のムキになった言葉に半場呆れながら絢雅は相槌を打った。その言葉に高尾は苦笑すると、緑間に対する心の変わりようを真剣な表情で喋りだした。
「確かに最初は何クソって思ったけど、緑間と一緒に練習していく内にすげぇ〜って思うようになったんだ
だってよ、お前と同等かそれ以上に抜かりない努力を日々してるんだぜ」
そう吐き出すとニカリと歯を見せて高尾は笑った。その後、脳裏にあることを閃いたのかある提案をした。
「そうだ!!今度試合見に来いよ!
次は誠凛に勝つからよ」
「……舐めた試合しないよね??」
「するわけねーじゃん」
「……はぁ、いいよ。今日の1件のお返しという形で行くよ」
絢雅はこの一部始終を脳裏で思い起こしていた。”キセキの世代”と評される才能を持ち合わせながらそれに甘んじること無く日々努力を積み重ねる緑間のバスケに対する姿勢に高尾は彼を認めるようになった。IH予選で観たときに絢雅が感じた直感が当たっていたと絢雅自身はこの時に知ったのだ。と同時に、緑間を嫌いという対象からすっかり外していた。高尾が認めるほど、緑間がバスケに対して真剣に向き合っているのだと誠凛戦を見て、そして高尾から紡がれる言葉で知ったからだ。
「…っ!!そういえば、高尾くんとどういう関係なんすか!!」
その黄瀬の言葉に物思いに耽っていた絢雅は現実世界に戻る。
ハッと顔を上げた絢雅の視界に切羽詰まった黄瀬の表情が映った。
「……同中なだけだけど
言ってないっけ??」
「聞いてないっすよ!!」
絢雅に対する自分の気持ちに気づいた途端、黄瀬は唐突に高尾と絢雅の関係が気になった。
お好み焼きの1件でも、夏祭りの時も、何故か自分よりも心を許している風にしか見えなかったからだ。
嫉妬とも似た感情を滲み出す黄瀬に、さっぱり気づかない絢雅はキョトンとする。対して、桃井は愉しげにこの展開を見ていた。
そんな彼らの耳に大声援が聞こえてくる。
誠凛!!誠凛!!!
秀徳!!秀徳!!!
「凄い声援…」
三人はすぐにコート上に眼を移した。
「あぁ!!もうバスケしたくなってきたっす!!」
黄瀬は思わず頭を抱え込んで叫んだ。そんな彼を横目に絢雅は小さく笑みを溢す。
「……そうだね、身体がウズウズしてくるね」
観客を巻き込むほどの白熱する試合。だが、この展開を一番楽しんでいるのは中にいる選手たちなのだ。
すぐにでもボールを持って走り出したい
黄瀬の思うことは絢雅にもビシビシと伝わってきた。
「絢雅っち!!後でやるっすよ!!」
「……いいよ、やろうかバスケ」
絢雅の言葉を期待して待っていた黄瀬は大きく目を見開く。普段なら、なんで黄瀬と……と嫌悪感満載の表情で一言二言罵倒されるのだが、今回はそれがなかったからだ。
ほんわかに表情を緩めて眼を細めて自分を見てくれた絢雅に、黄瀬は自身の感情を再確認する。
このたまに見せてくれるこの表情が好きだと……
ずっと続けばいいのにと誰もが思うほどの試合を見せた誠凛と秀徳の一戦は引き分けで幕を閉じた。
コートにいる誰もがやりきったというスッキリとした表情で互いに健闘を称え合っている様子を横目に絢雅と黄瀬はすぐさまに外へ繰り出し、近くでバスケが出来る場所に来ていた。
「早く!!絢雅っち!!1on1すよ!!」
「………いくよ、黄瀬!!」
速攻で荷物を置き支度を終えた二人は時間を忘れるほど没頭してバスケにのめり込んだ。
「はぁ…はぁ…やっぱり黄瀬は凄いなぁ」
「なに言ってるんすか…絢雅っちだって十分凄いっすよ」
互いに地面に大の字で倒れ込んだ彼らは息を整えながら、何故か互いのプレーを称え合っていた。
「なんか黄瀬に言われても嬉しくない」
「んぁ!?ホントに思ってるのに〜…」
不貞腐れたような声を出す絢雅の言葉に黄瀬はしょぼんとしてしまう。そんな黄瀬を顔を横に向けた絢雅が見ると小さく笑った。
「でも…黄瀬とのバスケは悪くない」
「……っ!!」
「楽しいよ、黄瀬とやるバスケ」
「お……俺もっすよ!!」
楽しげに笑みを零した絢雅の表情に、黄瀬は眼を奪われながらも直ぐに言葉を返した。
「この快感はバスケでしか味わえない
だからバスケはやめられない」
空に浮かぶ夕日に絢雅は手を伸ばすとギュッと思い切り掴むように拳を作った。
「……絢雅っちの言ってること今ならわかるっす
俺も同じ気持ちっすよ」
「やっとわかったか…遅いよ」
黄瀬のバスケに対する気持ちの変化に絢雅は悪態を付きながらも素直に喜んだ。
そんな二人を空に浮かぶ夕日は温かい色の光で照らすのだった。
東京都ではWC代表を決める予選会が行われていた。
この予選会は、IH予選時に各ブロックで決勝に進んだチーム…上位8チームのみが参戦することができる。
海常は男子も女子もIHでベスト8に入っていたのでシードを獲得し自動的にWCへの出場は決めていた。
その中、誠凛と秀徳の試合が始まるタイミングで試合会場に黄瀬が姿を現した。
なんだかんだ気になって仕方なく、黄瀬は一人この場に足を運んだのだ。一応、笠松達を誘ったのだが、全て断られてしまい、泣く泣く一人で見る覚悟で来たのだ。
「やっぱり始まっちゃってる!!もう!!青峰君のバカ…結局来てくれないし…」
試合が始まって少し経ったタイミングで、不平を漏らしながら桃井が現れた。走ってきたためハァハァと言いつつ呼吸を整える桃井。そんな彼女に黄瀬は近づいた。
「あれ??桃っちじゃん。黒子っちと緑間っちの試合観に来たんすか??」
「きーちゃん!!」
「その呼び方やめてくんないすかね??」
「だって…きーちゃんはきーちゃんでしょ??一人??」
桃井の昔からの呼び方に黄瀬は苦笑。そんな黄瀬を置いといて、キョロキョロと辺りを桃井は見渡すが、海常の人達の姿が見られなかった。
「そうっす…。先輩たち誘っても皆断られて…一人で心細いったらないっす」
口を尖らせて不平を漏らす黄瀬。それはこっちのセリフだと桃井は思わず眉を顰めた。そんな彼女に黄瀬はとある提案をする。
「そうだ…一緒にどうすか??まぁホントならうちらを負かせたチームの人と並んで観るのも変なはなしっすけど。お互いもうWC出場は決まってるしね。一時休戦ってことで」
そうだね...と桃井は賛同。一人で見なくて済むとホッとする桃井だったが、それより試合は!!っとハッと思い立ち身体を前のめりにさせコートを見渡す。そんな桃井に今まで試合を観ていた黄瀬は面白そうに口角を上げた。
「なかなか面白いことになってるっすよ」
何故なら、あれほど自ら決めるのを固守する緑間が仲間にパスをしたのだ。
あの頑固者の彼が仲間を頼った
そのプレーに黄瀬も桃井も思わず目を見張った。
どちらも一歩も引かない名勝負。
バチバチと散る火花は、観ている観客を魅了した。
観覧席で試合を見守っていた桃井は目を細めた。桃井の目線の先には秀徳の人達の輪に入っている緑間がいた。
「なんか…変わったね。みどりん」
「そうすか?」
「あと…きーちゃんも変わったよ」
「どこがすか?」
クスリと笑い黄瀬に振り向く桃井。黄瀬は怪訝な顔をするが何か思い当たる節があるのか考え込む。
「だとしたら、変わったんじゃなくて、たぶん変えさせられたんじゃないすか?」
黄瀬はコートに視線を落としたまま思い起こすように眼をスッと細めた。
「なんですかね?あの人と戦ってから周りに頼ることが弱いことがじゃなくてむしろ強さが必要なことじゃないかって思うんす」
「それだけじゃなさそうだけど」
探るような桃井の言葉に黄瀬はビクリと身体が跳ねた。
「な...何の話っすか?」
「テツくん以外にいるんでしょ?
確か名前は...松井絢雅だったかな〜〜」
ニヤリと愉しげに笑みを浮かべた桃井は、黄瀬にグッと身体を近づけると顔を見上げた。
どうやら情報は筒抜けらしい
というかどっから情報を掴んでくるんだ
黄瀬は肩をガクリと落とすとそうっすよとぶっきらぼうに答えた。
「で??きーちゃんはどう思ってるの??」
「どうって??」
「絢雅さんのこと!!」
「え??」
「だって、きーちゃんがここまで一人の女のコと関わるなんて珍しいじゃない!!」
いつも女のコには困らない黄瀬。気づけはいつも黄色い歓声を浴びて囲まれてた彼は、アイドルとしての自分を求める彼女達を煙たそうに見ていた。
だからこそ桃井は、黄瀬が絢雅に対して特別な気持ちを抱いているのではないかと思ったのだ。
「どうっすかね?考えたことないっすわ」
「じゃあ、今考えて!」
うーーんと顎に手を当て黄瀬は考え込んだ。
最初は純粋に自分の誘いを嫌悪感満載で拒否った絢雅に興味を抱いた
その後、屋上で嫌いだと宣言され挙句の果てにあっさりとゲームでボールを取られてしまった
最初は、何だコイツと思ったが彼女に関わる内に純粋にバスケが大好きで決めたことに対しては意地でも貫き通す頑固者。意外と沸点が低く負けず嫌い。無関心なことには全く無反応なのに、興味を持ったものには直ぐに反応を示す。
吐き出される言葉一つ一つは刺々しいが絢雅の真っ直ぐな想いが乗っていた
その言葉が彼女なりの愛のあるムチだと気づいたのはいつだろうか…
時折見せる破顔した表情に見惚れるようになったのはいつだろうか…
一生懸命、やればできるじゃん
ちょっと見直したよ黄瀬のこと
負けたらリベンジなんて当たり前でしょ
思い切りぶつかって……勝ってこい
エースという自覚もっともて!!
どの言葉もバスケに情熱をもつ絢雅から紡がれた言葉
少しぶっきらぼうで毒があるがどれも黄瀬の胸に凄く突き刺さった
アイドルでもなく、キセキの世代というレッテル関係なしに黄瀬涼太という内面を絢雅はしっかり見てくれてた
「俺……絢雅っちのことが……好き??」
無意識に出た言葉。でもそれを口に漏らした黄瀬は納得したように口角を上げた。
その言葉がストンと気持ちよく胸に落ちたからだ。
気持ちにようやく気づいた黄瀬。その彼の耳に聞き覚えのある凛とした声が入ってきた。
「あれ?黄瀬と...桃井さん??」
その声にハッとその方向を振り向くとそこにいたのは紛れもなく絢雅だった。
「私を知ってるんですか〜!」
「帝光中バスケのマネージャーでしょ?
知ってるよ」
「うわぁー!!嬉しい!!」
満面の笑みを浮かべ桃井は絢雅に抱きついた。流石に黄瀬じゃないので躱すわけにはいかず絢雅は黙って受け止めた。
そんな彼女を黄瀬は驚いた表情で見る。
「絢雅っち、来てたんですか!!」
「しょうがないじゃない
観に来て!!って呼び出されちゃったんだから」
「誰に??」
「高尾
誠凛に絶対勝つから観に来てって...
まぁ、滅多に見られない名試合だから結果オーライかな」
大きくため息をつきながら絢雅は、今日来た経緯を話した。
その言葉は、夏祭りの会場に向かう途中半場強引に取り付けられた約束だった。
「ねぇ…緑間のこと嫌いじゃなかったの?」
一人で行くと言ったのに遠慮するなと結局、隣に歩いている高尾に向けて絢雅はずっと思っていたことを口にした。ホントは、お好み焼き騒動で出会ったときに尋ねても良かったのだがその時は外野がいるからやめたのだ。
「ん??まぁーな
そりゃあ、こてんぱんにやられた相手だしな」
中学最後の試合、高尾は緑間率いる帝光中に圧倒的な力の差で負けていたのだ。唯一最後まで試合を諦めなかった彼は、その後雪辱を誓い春休みもずっとバスケに打ち込んできた。それなのに、絶対に倒すと決めていた相手が同じ高校で高尾は一気に拍子抜けしたのだ。
「加えて、向こうは俺の事を覚えてねぇーしな」
「まぁ、いちいち負かした相手を覚えてますという人には見えないけど」
その高尾のムキになった言葉に半場呆れながら絢雅は相槌を打った。その言葉に高尾は苦笑すると、緑間に対する心の変わりようを真剣な表情で喋りだした。
「確かに最初は何クソって思ったけど、緑間と一緒に練習していく内にすげぇ〜って思うようになったんだ
だってよ、お前と同等かそれ以上に抜かりない努力を日々してるんだぜ」
そう吐き出すとニカリと歯を見せて高尾は笑った。その後、脳裏にあることを閃いたのかある提案をした。
「そうだ!!今度試合見に来いよ!
次は誠凛に勝つからよ」
「……舐めた試合しないよね??」
「するわけねーじゃん」
「……はぁ、いいよ。今日の1件のお返しという形で行くよ」
絢雅はこの一部始終を脳裏で思い起こしていた。”キセキの世代”と評される才能を持ち合わせながらそれに甘んじること無く日々努力を積み重ねる緑間のバスケに対する姿勢に高尾は彼を認めるようになった。IH予選で観たときに絢雅が感じた直感が当たっていたと絢雅自身はこの時に知ったのだ。と同時に、緑間を嫌いという対象からすっかり外していた。高尾が認めるほど、緑間がバスケに対して真剣に向き合っているのだと誠凛戦を見て、そして高尾から紡がれる言葉で知ったからだ。
「…っ!!そういえば、高尾くんとどういう関係なんすか!!」
その黄瀬の言葉に物思いに耽っていた絢雅は現実世界に戻る。
ハッと顔を上げた絢雅の視界に切羽詰まった黄瀬の表情が映った。
「……同中なだけだけど
言ってないっけ??」
「聞いてないっすよ!!」
絢雅に対する自分の気持ちに気づいた途端、黄瀬は唐突に高尾と絢雅の関係が気になった。
お好み焼きの1件でも、夏祭りの時も、何故か自分よりも心を許している風にしか見えなかったからだ。
嫉妬とも似た感情を滲み出す黄瀬に、さっぱり気づかない絢雅はキョトンとする。対して、桃井は愉しげにこの展開を見ていた。
そんな彼らの耳に大声援が聞こえてくる。
誠凛!!誠凛!!!
秀徳!!秀徳!!!
「凄い声援…」
三人はすぐにコート上に眼を移した。
「あぁ!!もうバスケしたくなってきたっす!!」
黄瀬は思わず頭を抱え込んで叫んだ。そんな彼を横目に絢雅は小さく笑みを溢す。
「……そうだね、身体がウズウズしてくるね」
観客を巻き込むほどの白熱する試合。だが、この展開を一番楽しんでいるのは中にいる選手たちなのだ。
すぐにでもボールを持って走り出したい
黄瀬の思うことは絢雅にもビシビシと伝わってきた。
「絢雅っち!!後でやるっすよ!!」
「……いいよ、やろうかバスケ」
絢雅の言葉を期待して待っていた黄瀬は大きく目を見開く。普段なら、なんで黄瀬と……と嫌悪感満載の表情で一言二言罵倒されるのだが、今回はそれがなかったからだ。
ほんわかに表情を緩めて眼を細めて自分を見てくれた絢雅に、黄瀬は自身の感情を再確認する。
このたまに見せてくれるこの表情が好きだと……
ずっと続けばいいのにと誰もが思うほどの試合を見せた誠凛と秀徳の一戦は引き分けで幕を閉じた。
コートにいる誰もがやりきったというスッキリとした表情で互いに健闘を称え合っている様子を横目に絢雅と黄瀬はすぐさまに外へ繰り出し、近くでバスケが出来る場所に来ていた。
「早く!!絢雅っち!!1on1すよ!!」
「………いくよ、黄瀬!!」
速攻で荷物を置き支度を終えた二人は時間を忘れるほど没頭してバスケにのめり込んだ。
「はぁ…はぁ…やっぱり黄瀬は凄いなぁ」
「なに言ってるんすか…絢雅っちだって十分凄いっすよ」
互いに地面に大の字で倒れ込んだ彼らは息を整えながら、何故か互いのプレーを称え合っていた。
「なんか黄瀬に言われても嬉しくない」
「んぁ!?ホントに思ってるのに〜…」
不貞腐れたような声を出す絢雅の言葉に黄瀬はしょぼんとしてしまう。そんな黄瀬を顔を横に向けた絢雅が見ると小さく笑った。
「でも…黄瀬とのバスケは悪くない」
「……っ!!」
「楽しいよ、黄瀬とやるバスケ」
「お……俺もっすよ!!」
楽しげに笑みを零した絢雅の表情に、黄瀬は眼を奪われながらも直ぐに言葉を返した。
「この快感はバスケでしか味わえない
だからバスケはやめられない」
空に浮かぶ夕日に絢雅は手を伸ばすとギュッと思い切り掴むように拳を作った。
「……絢雅っちの言ってること今ならわかるっす
俺も同じ気持ちっすよ」
「やっとわかったか…遅いよ」
黄瀬のバスケに対する気持ちの変化に絢雅は悪態を付きながらも素直に喜んだ。
そんな二人を空に浮かぶ夕日は温かい色の光で照らすのだった。