バスケに青春を懸ける
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「絢雅!!」
珍しく練習終わりの絢雅の元を訪ねてきたのは笠松で、思わず絢雅は固まってしまう。そんな彼女に笠松はちょっと困った表情を浮かべた。笠松の様子に、何かあったのかと絢雅は身構えながら尋ねた。
「ど…どうしたの??兄さん」
「いや……実はだな、お前に頼みがあって…」
バツが悪そうに視線を泳がせて歯切れが悪い笠松に、絢雅は眉間にシワを寄せた。
「もしかして………黄瀬??」
探りを入れようと絢雅が口にした言葉。だが、見事に図星だったらしく笠松がギクリと身体を強張らせた。
「そ…そうなんだ
よくわかったな」
「兄さんが頼むの、黄瀬絡みの案件しかないでしょ?」
絢雅は大きく息をつくと、で??と先を促すように笠松を見た。
「……アイツとコレに行ってくれねーか??」
笠松はそう言うと手に持っていた紙を広げてみせた。それを訝しげに見た絢雅は更に意味がわからなくなり困惑した表情を浮かべた。
「花火大会???なんで??」
この紙は今週末に地元で行われる花火大会のチラシだったのだ。
「アイツ、オフの日も身体を休めなくてな」
黄瀬はIHの後から没頭するように過剰すぎるほど身体を酷使して練習に打ち込んでいたのだ。試合で痛めている足がまだ完治していないのにも関わらず。
それを危惧した笠松は、少しでも休ませる口実を作ろうとしていたのだ。
「イヤ…なんで私が??」
笠松の言いたいことはわかる。
最近の黄瀬の練習量は身体によくないと絢雅自身も思ってたからだ。
でも、何故矛先が自分に回ってくるのか?
笠松達が誘っていけばいいのに…と不思議そうに首を傾げる絢雅に笠松は大きく息を吐いた。
「お前もだからだよ。少しは休め」
「いや…黄瀬と比べたら……」
「如月が心配してたぞ」
その言葉に絢雅は大きく眼を見開いた。まさか、主将の名前が出てくると思わなかったからだ。
実は、笠松は最近の絢雅について相談を受けていたのだ。ある程度は、バスケ馬鹿の如月達は気持ちがわかるため眼を瞑っていた。しかし、無自覚にも絢雅の練習量は増えていた。これは、流石にマズイのではないかと心配したのだ。
「俺が言わないと絢雅は聞いてくれないって嘆いてたぞ」
「え…そ…そんなことないけど」
「無自覚か…
まぁいいや、とりあえず二人はしっかり休め!!」
バンっと笠松はチラシを絢雅の胸に押し付け、強制的に持たせるとそのままその場を立ち去ってしまった。
「絢雅っち!!楽しみっすね!!花火!!」
嬉しそうに、自分に突っかかってくる黄瀬の様子を思い出し絢雅は帰省している実家の部屋で大きく息を吐いた。
あんなに屈託のない満面の笑みを浮かべられたら無下に出来ないじゃないか……
どうしよ……
せっかくだからびっくりさせてやりたいのだが、絢雅はその器用さを持ち合わせていなかったのだ。マズイと無意識にスマホを弄った絢雅はふと映し出される名前を見て手を止め凝視した。
う…ん、頼りたくないが背に腹は変えられたい
暫し躊躇した絢雅は決意を固めると、藁にすがる思いで連絡を取るのだった。
ピンポーン!!
その音で玄関を開けると絢雅の視界に映るのはニコニコと笑みを浮かべる高尾だった。
「いやぁ…まさか絢雅から連絡をもらう日が来るとはな!!」
「……今更呼んだの後悔し始めた」
「おい!!そんな事言うならこのまま帰るぞ!!」
「…すいません、お願いします」
「高尾ちゃんに、まっかせなさい!!」
得意げに俺に任せろと云わんばかりに胸を張る高尾に頼んだ側の絢雅は今度こそ素直に自室に通すのだった。
「お??コレか!!」
部屋にお邪魔した高尾は、ベッドに無造作に置かれている着物を手に取った。その言葉に絢雅は小さく頷いた。
「いいんじゃね?似合うと思うぜ」
高尾は着物をさっと広げると絢雅の身体の前で合わせて見せた。
その後、高尾は彼女にその着物を持たせた。
「じゃ…とりあえず着替えろよ。話はそれからだな」
「えぇ??手伝ってくれないの??」
「っ!!マジカよ!!ここから!!!」
着物を持って困惑する絢雅を見て、高尾はゲラゲラと笑いながら、それを奪い取るように手に取る。
「しゃーないな」
ため息をつきながらも、高尾は手を貸した。高尾の手により着付けをしてもらった絢雅は、そのまま鏡の前に座らされた。
「さてと...」
絢雅の背後に立った高尾は、躊躇なく藤色の髪を丁寧に編み込み始めた。
おぉ!!
内心関心しながらも、高尾の手によりセットアップされていく己の髪を絢雅は鏡越しで見た。
「...完成っと!!」
最後にラベンダーの髪飾りを付けた高尾は半歩下がると出来上がりに満足気な表情を浮かべ、腰に手を当てるのだった。
「................ありがと」
鏡越しで見える自分の背後にいる高尾に、絢雅は微笑した。そんな彼女の様子に内心驚きながらも、高尾はそれを隠すようにニヤニヤとしだし目を細め彼女を伺うように覗き込んだ。
「もっとその表情出せばいいのに」
「うっ...うるさいな」
「アハハ!!
誰の影響か知らねぇーけど、今のお前の方が全然いいぜ!」
珍しくほんのりと頬を赤くし言い返す絢雅に対して、高尾はゲラゲラと笑い出す。その表情が嘘偽りがない。純粋に喜んでいる。それは分かっているが、絢雅はイラッとして高尾の腹部に鉄拳を喰らわすのだった。
「じゃあ行きますか」
鉄拳をもらった高尾は復活するとサラッと口にした言葉に絢雅は首を傾げた。
「どこに??」
「どこに?ってww
花火大会の会場に決まってるだろ!!」
「高尾も行くの??」
「おう!真ちゃんに呼び出されてな!
で、ついでに絢雅を送り届けて上げようかなって」
「別に一人で...」
「素直にここは甘えなさいって
一人で歩いてたら狙われるぜ」
「..........そんなことない」
「お前、もうちょい自分の容姿確認したほうがいいぜ」
「......興味ない」
一刀両断する絢雅に高尾は大きくため息をついた。言い始めたら頑なに意見を変えない絢雅の事を理解してるからこそ、高尾は強行突破に出る。ここで一人で行かせて何かあったら後味が悪い。それに、待ち合わせ相手が絢雅の姿を見たときの反応を見てみたいという気持ちが少なからず高尾にはあったのだ。
「まぁ、いいや
とりあえず行くぞ!!」
「えぇ....ちょ、ちょっと!!」
高尾は、絢雅の背を押し部屋の外へ出るように促したのだ。
「絢雅っち、まだっすかね」
一足先に来た黄瀬はキョロキョロと辺りを見渡した。流石に人...人...人で、黄瀬の存在に周囲がざわめくことが無いことに黄瀬は内心ホッとしていた。せっかくのオフ、加えて笠松のご厚意により叶った絢雅との花火大会。黄瀬は、その話を聞いてからウキウキとしていたのだ。
カラン
黄瀬の背後近くで下駄の音が鳴る。ハッとして振り向くとそこには浴衣姿の絢雅とその隣でよっと手を挙げる高尾がいた。
「.............高尾くん?!」
「どーも!!高尾ちゃん宅配便でーす!!」
きょとんとする黄瀬にお構いなく、高尾は絢雅を黄瀬の胸元めがけて押し出す。当然、背中を急に押された絢雅は慣れない下駄でバランスを崩す。それを慌てて黄瀬は受け止めた。
すんなり胸元に収まった絢雅に、黄瀬は内心ドキリとした。そんな彼に高尾は悪面ヅラでとあることを耳打ちすると、サッと半歩下がる。
「じゃ!お邪魔虫は退散しまーすっと!!」
さっきの表情はウソのようにニコニコと満面の笑みを浮かべた高尾はサッと踵を返し、仏頂面で待ち合わせ場所に突っ立っているであろう人物のもとへ走るのだった。
嵐のようだった......
黄瀬はパチパチと瞬きしながら、空を見つめていた。
「今日の絢雅、メッチャ可愛いっしょ?
だから片時も目を離すんじゃねーぞ
これでも一応、友達として気にかけてんだ
だから絢雅になにかあったら、黄瀬の事許さねぇーから」
陽気そうな高尾から発せられたとは思えないくらいドス低い声に、黄瀬は背筋がゾッと凍った。そんな彼の言葉が脳裏で反芻する中、黄瀬の胸の中でモゾモゾと絢雅が身じろぎだす。
「………黄瀬」
「あぁ!!ごめんっす!!絢雅っち!!」
絢雅の声でようやくこの状況を思い出した黄瀬は慌てて彼女から離れた。
「謝ることない、全部高尾のせいだから」
やれやれと大きく肩をすくめる絢雅。だが、黄瀬にそんな彼女の言葉は耳に入らず、代わりに視界に映る情報を整理することに頭がいっぱいになっていた。全く反応を見せない黄瀬に対し、絢雅は困惑した表情を浮かべて彼を覗き込んだ。
「どうした??黄瀬」
「えぇ…あぁ…な…なんでもないっす」
「少しでも黄瀬を驚かせようと、高尾にやってもらったんだが駄目だった??」
小さく不安気に首を傾げる絢雅に黄瀬は火照った顔でブンブンと横に振り否定した。
「そんなことないっす!!めっちゃ可愛いっす!!」
「……それは良かった」
「じゃ、屋台で適当になんか買って花火見るっすよ!!」
小さく表情を崩した絢雅に、黄瀬は照れを隠すように声をかけると、この人混みの中、彼女と離れないように手を繋ぎ先導して歩き出す。確かに高尾の言う通り、一瞬でも眼を話したら襲われかねないと思ったのと同時に、彼女がトラブルメーカーだと思い出す。
どっかで気に食わない相手に対して挑発しかねないと……
こりゃあ大変なことになりそうだと早くも顔を引き攣らせる黄瀬に、手を引っ張られていた絢雅が声をかける。
「黄瀬」
「なんすか??絢雅っち」
「りんご飴食べたい」
珍しく自分の要望を言った絢雅に黄瀬はパァッと表情を明るくする。途端に稀有していたことは黄瀬の脳から消え去ってしまう。
「わかったっす!!じゃありんご飴買いに行くっすよ!!」
嬉しそうに黄瀬は歩くスピードを速める。急に力強く手を引かれることに素直に従っていた絢雅は焦りだす。
「ちょ!!黄瀬っ!!はしゃぎすぎ!!」
「いいじゃないっすか〜!!
せっかく絢雅っちが綺麗な格好してるのに楽しまないなんて損っすからね」
ウキウキとした黄瀬の勢いは歯止めがきくわけがなく、もう駄目だと絢雅は内心息をついた。でも、黄瀬の言うことは一理あるわり、この時間を楽しまないなんてもったいないと絢雅は切り替えたのだった。
大はしゃぎの黄瀬
そんな彼に振り回される絢雅
この時間だけ二人は屈託のない自然な笑みを溢していた。
「たまには良いもんだね」
絢雅は余分に買っておいたりんご飴を口にしながらポツリと呟いた。そんな彼女の目に映るのは大きく打ち上がる色鮮やかな打ち上げ花火だった。
「えぇ??」
「こうやってバスケをしない時間もたまには悪くないなってね」
驚く黄瀬を横目に絢雅はポツリポツリと呟いた。誰かとバスケなしではしゃぐなんて久しぶりだし、花火大会も久々だった。だからこそ絢雅は視界いっぱいに映る花火に心を奪われていた。
「そうっすね、笠松先輩に感謝っすわ」
「......ヤバい」
その言葉に、いや笠松という名に絢雅はビクリと反応した。すっかり目的を忘れてたが、本来黄瀬の足を休ませるためのオフ。だが、互いにはしゃぎすぎて結局走ってしまったのだ。
「何がヤバいんすか?」
唯一、このオフの真意を知らない黄瀬は珍しく青ざめる絢雅を不思議そうに見つめた。絢雅はそんな黄瀬の視線を感じつつ、ゆっくりとりんご飴の棒を口から出すと、ギラッと眼光を光らせ黄瀬に向き直った。
「ッ...黄瀬!!」
「は...はいっす!!」
急に大きな声で呼ばれた名に黄瀬はピシッと背筋を伸ばし返事をした。
「……体調管理しっかりしろ!基礎中の基礎でしょ!!
練習で足壊して試合で全力出せませんでしたなんてありえないから」
「はぁい……??」
いきなり罵声を浴びせられた黄瀬は意味がイマイチ理解できずキョトンとする。そんな彼にダメ押しをするように絢雅は声を荒げた。
「だーかーら!!オフの時は走んな!!しっかり休めって言ってるの!!」
「え……知ってたんすか」
腰に手を当てた絢雅は黄瀬にグッと顔を近づけて耳元で怒鳴り散らした。その言葉に黄瀬は眼を見開き驚いた。
「みんな知ってる」
「あ…‥アハハ、そ…そうだったんすね」
ようやく黄瀬は事情を全て理解し、乾笑いをした。部活の先輩たちのそして絢雅のさり気ない心遣いにジワッと嬉しさがこみ上げた。そのせいで思い切り破顔した状態の黄瀬を、絢雅はだらしなく思い思い切りド突いた。
「エースという自覚もっと持て!!」
その絢雅の言葉が黄瀬の胸の奥に強く響いた。彼女の罵声とも取れる言葉は決して一方的に非難してるのではなく、自身の背中を強く押してくれるのだ。
「りょーかいっす!!」
絢雅の言葉に答えようと黄瀬は力強く返事をした。それに小さく笑みを浮かべると絢雅は再び大輪の華が咲く夜空に視線を戻す。つられるように黄瀬も空を見上げた。
「勝つよ…WC」
「とーぜんっす!!」
互いに視線を交わさぬまま二人は拳を静かに合わせるのだった。