虚ろの影
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「言わなくて良かったの?」
「何の話だ??」
夕焼け色に染まる空の下、珍しく一緒に帰る二人の後ろ影。
志帆が隣で歩く博臣に切り出すのはさっきの秋人との会話の話。もちろん彼はしらばっくれる。
「秋人によ…
虚ろの影のこと」
近々、この街に来ると警戒されている虚ろの影…
実体を持たない桁違いに強い妖夢のこと。
以前永久異界士5人が一分を持たなかったと噂されている。
志帆の推測だが、虚ろの影の出す妖気の影響で他の妖夢が凶暴化していると考えている。この推測はもちろん博臣も同じ。
「アッキーに言っても、余計に危険が増すだけだろ?」
「まぁそうだけど...
どっちにしろ何処からか情報が漏れるんじゃない?」
今現在、栗山未来を気にかけて一緒に行動している秋人。
一応監視対象のため、二人の後をつけている志帆は昨日の様子もしっかり遠目から見させてもらっていた。
ちなみに妖夢を倒すと、妖夢石が出る。それを鑑定士に観てもらい換金してもらうことで異界士は生計をたてている。
確か、今朝秋人は未来を馴染みの鑑定士がいる場所に連れて行っていた。
もしかしたら彼らはそこから情報を聞き出すのかもしれないのではないかと志帆は危惧していたのだが、博臣から出た言葉はサッパリとしていた。
「その時はその時だ」
「で...でも、もし秋人が虚ろの影に近づいて妖夢化してしまったら...」
「アッキーを止めるしかないな。
最悪の事態になったら俺が殺る」
前を見据えたまま、瞳を細める博臣に志帆はかける言葉を失う。
そこに居たのは、紛れもなく名瀬家幹部の異界士...名瀬博臣だったのだ。
まだまだ決意が甘い己に志帆は内心、自嘲気味に笑う。
普段と同じように冷徹に考えなければいけないのに、どうしても公私混同してしまう。
それだけ、人間としての秋人の魅力には惹かれていたからだ。
それでも、いつかは来る最悪の事態に備えなければいけないのだ。
「博臣だけには任せないよ。
その時は私も殺るから」
異界士として冷徹な発言をする博臣だが、心の底では可能性が少しでもあれば助けたいと思っている。そんな彼に、全部の重荷を背負わせたくない。だって、彼の重荷を減らすために自分がいるのだから。
「......志帆」
驚きの言葉に博臣は志帆に振り向く。
「独りで絶対に抱え込ませないから」
真剣な目で訴える志帆に、博臣は表情を崩す。
「...頼りにしてるよ」
決意を改めて固め直す二人。
対して、秋人は鑑定士のところにいた。今朝から未来に避けられている秋人。もしかしたら妖夢石の鑑定のために此処に来ていると思ったのだが、まだ来ておらず。先に自分の件を済ませようと自宅に届いたハガキを鑑定士である彩華に手渡した。
彩華は渡されたものを見ながら手に持つキセルを口元に持っていき吸うと白い煙を吐き出す。
「思念を宿らしてるみたいやね。見てみる?」
「まぁ、実の母親からの手紙だしね。」
緊張した面付きのまま秋人は頷く。
それを確認すると彩華はハガキの真っ白な裏面に手をかざした。
『ヤッピー!あっくんー、元気にしてたかな?やっちゃんだよ...』
浮かんで出てきたのは黒猫の仮装をする実の母親。
秋人はこのテンションの彼女を見るのに耐えきれずハガキをそっと手を置いて閉じる。
「無かったことに、できないだろうか。」
思わず秋人はぼやく。
一緒に眺めていた彩華が思わず呟く。
「今のが、神原君のお母さん?」
「そうだよ!昔からちょっと変わってるんだ…小学校の授業参観で生徒に混じって挙手するくらい前衛的な性格してるんだよ。」
秋人は昔の事を思い出しながら、身を乗り出しながら答える。
「秋人…並ぶもののない個性は素晴らしい財産よ。」
此処にいるはずのない人物の声に眉を顰めながらその方向を見る。案の定、そこには深紅の瞳をコチラに向ける黒髪の少女がいた。秋人はそこにいた人物を見てげんなりしながら聞く。
「いつからいた…」
「”どうしても、女子高生が付けてた眼鏡をビニールに入れて吸引するのをやめられないんですー”の辺りかしら?」
そう言い放ったの少女は名瀬美月。
隣には何故か未来もいた。
実は、未来はここに来るのに迷子になっていた。そうなったのは今朝と違う人避けの結界が張られていたからなのだが。
それに気づけず途方に暮れる未来に偶然通りかかった美月が見つけ、ここまで連れてきたのだ。
「そんな会話はしていない!」
美月の発言に秋人はすかさずに突っ込む。
一方、彩華は美月の隣にいる未来に視線が行く。
「その眼鏡の子が栗山さんやね?」
「は、はい!」
「新堂彩華や。妖夢やけど、襲わんとうてーね。」
「はっ…」
表情を強張らせる未来を横目に秋人は話題を逸らそうとする。
「ちょうど良かった。栗山さんの妖夢の鑑定もあるし手紙は後で…」
ハガキに手を置きゆっくりと自分の元へ持っていこうとする秋人。だが、それを美月はその手を押さえることで阻止する。
「私は聞きたいわ、ぜひ。」
「そやねー。」
美月の言葉に彩華も賛同する。
「僕にも羞恥心はあるんだ。」
「あかんで、確かに猫型妖夢は頭が悪いけど。実の母親を恥ずかしいやなんて。」
「待て。僕の母は妖夢じゃない。異界士だ。妖夢なのは父だ。前にも話しただろう。」
「じゃあ、あの耳は?」
秋人と彩華との話に割って未来も加わる。
「付け耳だろう。」
「妙に本物っぽかたですが?」
「…こだわり派なんだよ」
げんなりとする秋人に止めと言わんばかりの美月の言葉が突き刺さる。
「蛙の子は蛙ってことね」
「あぁー!!もういい!!
話せば話すだけ無駄だ!!とっとと終わらせてくれ!!」
遂に秋人は頭を抱え込み悲鳴を上げる。
「潔ええのは好きやよ神原くん。」
その言葉に躊躇せずに彩華がハガキをひっくり返す。
すると今度出てきたのはお尻をフリフリと振る秋人の母親。
『今日は大事な話があるから最後まで聞いてほしいにゃー。』
「お尻を出した子一等賞くらい前衛的やね。」
「そろそろ、母の話題はやめにしないか。」
秋人は思わず目の前に光景に蒼ざめる。
『あー、その前にちゃんと食べてるかにゃ?たまには自炊しないと栄養がかたよって体に悪いぞー。』
見るのに耐えきれず秋人はすぐにハガキを裏返す。
「後生だ・・・」
項垂れる秋人にハガキを押さえる手に添え美月が一言。
「秋人、死になさい。」
「やめろー!」
「ほいっと。」
彩華がハガキをすっと秋人の手から引き抜くとハガキをひっくり返し戻す。
『大事な話っていうのは、強い妖夢がそっちに近付いているって話にゃ。虚ろな影って聞いたことあるかにゃ?』
そのフレーズに反応したのは未来。
ゴクリと唾を飲む未来に隣にいた美月が気づく。
『虚ろな影は実態を持たない妖夢にゃ。だから、絶対に手を出したらダメにゃ。あっくんは、いい子だから分かってると思うけどくれぐれも近付いちゃだめにゃ。やっちゃんとあっくんの約束にゃー!』
「頭のネジ緩そうな巨乳のお母さんって素敵やねー。」
見終えて、彩華が最後のトドメを指すようにキセルで吸った煙を口から出す。
「もういっさい何も言うな。それより虚ろな影ってのは?」
もうその頃には秋人は顔を真っ青にした状態で仰向けに大の字になり倒れ込んでいた。
「聞いたとおり実態を持たへん強力な妖夢やね。以前、永久異界士5人は5分ともたんとやられたって話やけど。」
「永久の異界士が…」
「どうすんだよ。そんなのがきたら。」
「去っていくのを待つしかないやね。」
サラリと言う彩華。
ようやく秋人は上体を起こすと顎に手をつけ考え込む。
「もしかして、昨日妖夢が凶暴かしたのも…」
「その可能性はあるね。特に下級の妖夢は妖気の影響を受けやすいし。」
「…そういうことか」
という形で秋人は虚ろの影の接近について知ることになる。と、同時に未来は他の人達とは違う思いでその事を聞いていた。
この二人が起こす今後の行動が、志帆達の考えていた最悪の事態を巻き起こすになる。