終止符を
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「…!?」
弾くように飛び起きた博臣は悔し気に唇を噛みしめた。
「やられた…」
檻を張った室内には出れるはずがないのに志帆の姿は無かったのだ。壊された形跡はない。恐らく意識を失っている間に一時的に異能力を無効化して檻を解いたのだろう。
…クソッ
急いで立ち上がった博臣は外に出ようとする。しかし、扉は頑丈に閉ざされていた。
ガンッ!!
静寂な一室に大きな音が無情に響く。それは力強く握りしめられた拳が勢いよく扉を叩いた音だった。やるせない憤りをぶつけるように扉を叩いた博臣はフッと息を零しながらも口端はつり上がっていた。
たかが閉じ込められただけ…
鍵を掛けるだけではこんな箱の中に閉じ込め続けることはできないのに…
最後の最後で爪が甘い…
ホントに動きを止めこの場に拘束しておきたいならしっかりと鎖で能力を奪えばいいものを…
「随分と甘く見られたものだな」
ニヤッと柳緑色の瞳を細めた博臣の右手はユラッと青黒い色の光が揺らめいた。
「別れようか?冗談じゃない…」
思い出しただけで腸が煮えくり返りそうな彼女のセリフをボソッと呟いた博臣は軽く鼻で笑いながら、目の前のドアノブを檻で囲んだ。その檻は博臣がギュッと拳を握ることで攣縮し空間を斬り裂いた。
キラキラと青黒い星屑が散る中、ぶっ壊した扉を博臣は押し開けた。
「誰が別れるものか?
別れたいならそれ相応の口実をもってこい」
「お前が拒絶しようが関係ない…
どんな手を使ってでも引きずり戻してやるよ」
そう地を這うような低い声で呟いた博臣は未だ暗い闇に飛び出すのだった。
*****
「サッサとここを開けやがれ…」
「お前らッ!
そんなことしてただで済むとは…」
「ごちゃごちゃうるせーよ
命が惜しかったら目の前の扉を開けろ」
ある建物内の地下室。そこでは白銀色の髪を持った青年が1人の男を羽交い締めにして脅していた。その彼が発現させた淡橙色の鎖は彼の胸の奥にある臓器を掌握していた。
ヒィッッッ!!
小さな悲鳴を上げ怯えた声を漏らした男は恐怖で身体を震わしながらも青黒色に光る己の手を目の前の扉に翳した。その途端扉に淡い青い光の紋様が浮かび上がりカチャリと鍵が外れる音がする。それを確認した悠はもう用済みだと男を横に放り投げた。
「グッ…」
「悪いが、外部に情報を漏らしたくないんでね」
そう吐き捨てた悠は目の前の彼の意識を飛ばした。そして、悠は意識を目の前の扉の向こうの先にやった。
「ハッ!?
入ってこいってか?肝が座ってるな!おいっ!」
何も音沙汰がない扉の向こうの様子に反吐が出ると悠は声を荒げた。だが、それはそれで好都合だと悠は扉に手を当てた。
「いいぜ!
お望み通り俺が出向いてやるよ!」
鼻で笑い飛ばした悠は勢いそのまま扉を蹴り飛ばして開けた。
久々に見たゾットするほどの現実と切りはずされたような空間。その中央に置かれた台座には大きな椅子が置かれており、そこには1人の初老がふてぶてしく腰を下ろしていた。
その彼を正面に捉えた悠はギラついた藍色の双眸を向けた。
「よぉ?じじい
相変わらずその地位に居座るか?」
挑発するかのようにセリフを吐き出した悠は片手に淡橙色の鎖を具現化させていく。その傲慢な悠の態度に目の前の彼は動じることなく冷たい双眸で悠を見下ろしていた。
「名瀬家を守るには儂の力はまだまだ必要だ」
「何言ってんだよ?
ご隠居したなら、後は孫に任せて潔く身を引けよ」
「なんだ?
ようやく戻ってきたと思いきやこの儂に説教でもする気か??」
「ちげーよ…
アンタを強引にその場から引きずり下ろしに来たんだよ」
抑揚を掛けず淡々と喋る彼に対して嫌気がさした悠は感情のままに鎖を放った。だが、命を狙われているにも関わらず彼は一歩も動かないどころか不敵な笑みを零していた。
「そうか…
だがお前の相手は儂ではない…」
そう不可解な言葉が彼の口から言い出されたと同時に、金属と金属がぶつかりあう金属音が響き渡った。
宙でぶつかりあう鎖と鎖
一直線に向かっていった鎖は弾かれ勢いを無くすのだった。その光景に悠は信じられないと茫然と立ち尽くしていた。
「…嘘だろ」
この現状を受け入れららず動揺したまま悠はゆっくりと背後を振り返った。そこにいるのは一緒にこの部屋に入ってきた者のみだ。そして、この能力を操れるのはこの世界に二人だけ。
「どうしてだ…
どうしてだよッ!志帆ッ!」
現実を目の当たりにした悠はがむしゃらに叫び散らした。その悠の藍色の視界の先には、感情を悟らせない無情な表情で淡々と鎖を操る志帆がいた。その彼女の青い瞳は氷のように冷え切っていた。
「そんなの決まってるでしょ??」
黙りこくっていた志帆は口端を吊り上げると、床を勢いよく蹴り上げた。そして一気に距離を詰めた志帆は鉄扇を勢いよく振り下ろした。
ダンッ!!
強烈な一撃が地響きを起こす。それを感じながら志帆はゆっくりと顔を上げる。そんな彼女から少し離れた場所に攻撃を寸前で回避した悠が着地する。
「私の仕事は名瀬に害をなす者の排除だからよ」
抑揚のない声で斬り捨てた志帆は閉じていた鉄扇を広げると、間髪入れずに扇を振るった。それを防戦一方的な悠は鎖を張り巡らす。その最中、悠の視界に入ったのはゆっくりと重たい腰を上げる仇だった。
「まっ…待ちやがれ!!」
「…兄さんの相手は私だよ!」
飛び掛かろうとする悠を宙から降り立った志帆が阻止する。振り下ろされた鉄扇と瞬時に張られた鎖がぶつかりあい、カキンッと金属音が鳴り響き、円状に衝撃波が広がった。
「どけっ!!
アイツがいるからこの組織は変わんねんだ!
お前だってそう思うだろッ!!」
「……」
鍔迫り合いの最中、訴えるように悠は叫び散らした。だが、志帆は眉をピクリとも動かすことなく沈黙を貫いた。そんな彼女に説得する余地がないと判断した悠は軽く右手を横に薙ぎった。その瞬間、地面から出現した鎖が志帆に向かって襲い掛かった。
「あっそーかよ…」
ハッとした志帆は床を蹴り上げて悠から距離をとった。だがそんな彼女を逃さないと多数の鎖が伸びてきた。それを鉄扇と鎖を用いて志帆は弾き退けていく。
ぶっきらぼうに吐き捨てた悠の醸し出す空気はガラリと変貌していた。必死に説得しようとしていた兄の姿はもうなく、彼が掻きあげた白銀の前髪からは冷徹な藍色の双眸が覗いていた。
「それがお前の選択なら…
俺はお前を退けて目的を達成するまでだ…」
確固たる決意を固めていた悠は地を這う声で呟くと床を勢いよく蹴り上げるのだった。