新たな脅威
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「言うまでもないことだが、彼女が呪われた血の一族であることに変わりはない。その血が失われた記憶を呼び起こす可能性もあるんだぞ。そうなったら、どうするつもりだ?」
桜と未来が立ち去った場から、4人は駅構内に場所を移動する。俯く秋人を他所に3人は神妙な面持ちを浮かべていた。先程はその場凌ぎで未来に対して秋人に言われたとおりに渋々と未来に対して嘘を偽ってしまった。そのことに対して3人はこれをこのまま続けていくつもりかと秋人に投げかけた。
だが、秋人はこの考えを変えるつもりはなかった。視線を下に向けたまま秋人は重たい口を開く。
「その記憶は偽りであって、真実ではない。
そう言い続けるだけだ。」
「それで、騙し続けるつもり?」
「あー」
「それは良いことなのか?そうやって騙し続けることが、記憶を戻さないようにすることが。」
「全て忘れられるんだぞ。
自分の宿命を忘れ、人間として生きていけるんだ。
それは、幸せなことだ。」
ギュッと拳を握りしめて秋人は言葉を紡いだ。確かに秋人が言いたい気持ちもわからなくもない。未来は”呪われた血”を持っていることも、異界士として生きていくことも嫌っていた。もし可能ならば普通の人として生きたいと願っていた。それを、”半妖”として生きてきた秋人は痛いほどわかったのだ。だからこそ、記憶を失った今このまま普通の人として生活していって欲しいと秋人は願ったのだ。だが、これは秋人のただの自己満足にすぎない。博臣は窘めるように言葉を選んで秋人に投げかけた。
「アッキー
栗山さんがそう言ったのか?
それは、他人が決めて押し付けることではないんじゃないのか?」
「分かってる」
「分かってないわよ!
分かってるなら…
分かってるなら、もっとちゃんとしてよ!」
”わかっている”
その言葉を軽々しく言っているふうにしか見えず、いい加減我慢できないと美月が叫ぶように声を上げた。苦しそうに顔を歪ます未来のことを思い浮かべ、重要なことに関しては蚊帳の外に置かれる自分自身に重ねた美月の表情は歪み、彼女の赤い瞳からは涙がポタポタと流れた。その涙を美月は強引に腕で拭うとその場から逃げるように立ち去ってしまった。
そんな彼女の背に視線を投げていた博臣は秋人を一瞥すると彼に背を向ける。
「…行くぞ、志帆」
だが、博臣の言葉に反して志帆は一歩も動くことをしなかった。そんな彼女を足を止めた博臣は不思議そうに振り返って見た。
「博臣様、お先に戻ってて下さい」
感情が先走っている気がした。それでも、志帆は今の秋人を放っておけなかった。その確固たる決意を歪める気配がない志帆の様子に、博臣はヤレヤレと肩を竦めた。
「……早く戻ってこいよ」
「承知しました」
小さく一礼した志帆は、クルリと身体を反転させると秋人の手を掴んで歩き出すのだった。
*****
志帆…
志帆!!!
ズンズンと歩く志帆。その彼女に手を引っ張られる形で歩いていた秋人は必死に彼女の名を呼んだ。
「秋人…」
ようやく通じたのか志帆は秋人の手を離して彼に向き直った。
ジッと見つめる志帆の青い瞳。その凍てつく青い瞳に耐え切れず、秋人は後ろめたそうに視線を外した。そんな彼に志帆は困ったように眉尻を下げた。
「秋人はホントにこのままでいいと思ってるの?」
「あぁ…」
「そう思うなら視線を逸らさないよね」
小さな声で返す秋人に対し、鋭い一声を志帆は掛けた。それにしまったと顔を上げる秋人の視界に映るのは表情に影を滲ませる志帆だった。
「志帆、あ…あのさ」
「私ね、秋人の気持ちも少なからずわかるんだ」
何も知ることもなく普通の人間として暮らすことを確かに未来は望んでいた。だが、それは秋人に会う前の栗山未来だ。
「でも、秋人が半妖じゃなかったら…
栗山さんが呪われた血の一族じゃなかったら…
二人は出会うことはなかったんだよ」
どちらの条件が欠けても二人が出会うことはなかっただろう。だが、偶然が重なりあって二人は出会ったのだ。
「そ…そうだけど…」
「今の秋人の行動はそれを真っ向から否定しているのと同じだよ」
「ち…ちが…」
「違くないよ」
淡々と志帆は秋人の言葉を遮った。その一声に口を噤む秋人に志帆は言葉を続ける。
「嘘をついてまで唯一の繋がりを言おうとしない秋人はサイテーだよ。
栗山さんにとっての幸せは彼女自身にしかわかんないんだから。」
秋人だったらどう?
もし栗山さんの立場になったらさ?
偽られたまま半妖じゃないことを忘れて普通の人間として生活できることを幸せだって思う??
苦しそうに表情を歪ませて志帆は敢えて秋人にキツイ言葉を言い捨てるのだった。
「そんなこと言われても
どれを選ぶのが正解なのか僕は…わからない」
1人ポツンと立ち尽くし、秋人は志帆の後ろ姿に向け悔し気に言葉を吐きだすのだった。