凪
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”境界の彼方”
それは物理的に姿を持たない妖夢。
長い年月をかけて外に放たれてしまった無数の怨嗟や心の歪みが一つの形になって生まれると言われている。放っておくと世界を破壊へを導く。疾病や自然災害・戦争などの発端もこの妖夢の影響とも言われる。
今は表層だけ出ているだけで影響は出ていない。
だが、このまま放っておくわけにはいかない。
名瀬の統括としてこの一帯を守る使命がある泉は、凪の訪れを知り本格的に行動を移すのだった。
泉は一室に女性の従事者を呼び出した。呼び出された彼女は不思議そうにしていた。その彼女に泉は歩み寄ると彼女の耳元にそっと囁くのだった。
「少し練習させてほしいの…
人に使うのは久しぶりだから」
「な…なにを…」
「少ししたら…戻して上げるわ」
そう言うと泉はある能力を発動させた。その能力の名は、”凍結界”。名瀬の中でも一部の人間しか使えないものだった。
その能力が発動されたと同時に体感温度が下がるのを志帆は感じ取った。部屋一帯に冷えた空気が白い煙となり、ガラス音をたてながら冷たい氷が張り巡らされていく。それは標的の意識を奥深く音も色もなにもない真っ暗な水面下に閉じ込めていくのだった。
「秋人に使うおつもりですか?」
意識を失った女性を内心憐れみながらも、顔に出すことなく志帆が口を開く。
「えぇそうよ
境界の彼方を倒すのなら今しか無いわ」
「ですが...栗山未来は殺すのを躊躇ってます」
強引すぎると泉の考えに志帆は珍しく異を唱えた。
「どっちにしろ放っておく訳にはいかないのよ」
「わ...わかってますが」
正論なセリフを並べる泉に志帆は狼狽しながら言いよどんだ。その彼女に凍てつく眼差しを泉は向けるのだった。
「何も出来ない貴女が先走った発言をしないで
悠なら出来たかもしれないけど、貴女にはまだまだ力が足りない。
志帆、貴女が今できるのは見守ることだけよ」
甘い考え。出来もしないのに反論するな。泉の言っていることはご尤もだと志帆は黙り込んでしまうのだった。
泉はそんな志帆に背を向けた。
「報告してくるわ
もうあがって構わないわ」
泉が去り放置された部屋で志帆は崩れ落ちた。
悠兄さん…
志帆は不甲斐ない自分を呪った。
もし彼がいたら、誰も失わずに済んだのだろうか??
だが、志帆の願いはどう頑張っても叶いそうになかった。
「…ッ!!クソ!!」
志帆は悔しさのあまり床に拳を叩きつけるのだった。
*****
ところ変わって彩華の家。
そこで秋人に届いたハガキを見てもらうのだが…
『そう!ついに凪が来るのだ。
でも、その前に言わないといけないのだ。あっくん、やっちゃんとの約束を破って虚ろな影に近付いたって聞いたのだ。やっちゃん激怒プンプンまるなのだ。向日葵の種も喉を通らないぐらいだったのだ!』
もちろんそれを見て顔を真っ青に青ざめる秋人。それに対して、他のメンバーはさほど驚くことはなく淡々と目の前に映る人物について分析する。
「……ハムスター??何これ」
「毎回、よくもここまでキャラを作ってきますよね。」
「微妙にパクってるけどね。」
即座に秋人はハガキをひっくり返すと叫ぶようにこの状況を嘆いた。
「良いから、冷静に分析するな!てか、栗山さん。その格好は何?」
そんな秋人が指摘したのは隣に座るバニー姿の未来だった。
「え…あ…バ…バイト中だったんです!!」
秋人の指摘に自分のしている格好を思い出し恥ずかしそうに未来はそっぽ向く。
「まさかこんな格好させられるなんて…
桜先に返しといて良かった」
そう小さく呟く未来の横で不審に動く音が立つ。違和感を感じた未来が振り向くとそこには己にスマホを向ける秋人の姿があった。
必死にあっちこっち視点を変えて最高のポジションを探す秋人だったが、瞬間的に己が持っていたスマホが消え不思議がった。
ゆっくりと顔を上げた秋人の視界に映ったのは自分のスマホを持った彩華。そして、ニコリと笑った彩華がもう片方の手でとるのはお金を要求する仕草だった。
「……不愉快です」
「不愉快です!!!!」
「茶番すぎる」
がめつい彩華にお金を要求される秋人が漏らした言葉、そんな二人の売買を巡った対象が己の写真だとわかりきっている未来が叫んだ言葉。全く同じセリフとこの光景に志帆は思わず思っていたことを口に漏らす。美月と博臣だって同じことを思ってはいたが見て見ぬ振り。あえて反応したって労力の無駄のため、美月はさっさと話を進めようとハガキに手を伸ばした。
『はぁー、あっくんはいつからそんな不良になってしまったのだ。友達から借りたヤバイ本のメガネヌードモデルのページを密かに破って宝物にしていた。純情可憐なあっくんはどこへ行ってしまったのだ。
そんな約束を守れない子になってしまうなんて、あっちゃん悲しいのだ。
ヘケ…ヘケケケケケ…』
そう言うと弥生は瞳に涙を溜め泣き出した。
「ヘケの使い方が違います。」
「こういうところにドジが出るわねー。」
「だから、冷静に分析するな!」
未来と美月の言葉に秋人はムッとしてまた叫ぶ。
『そ…そんな事をしていると思念が尽きてしまうのだ
では、問題に入るのだ』
ようやく真剣な面付きになった弥生の表情に、一同は息を張り詰めるのだが…
『凪が来るぞー!!凪が来るのだー!
凪が
く・
る・
の・
だー!』
一々叫ぶようにポージングを取っていく弥生の行動に、一同は冷めた眼を向けるのだった。
「熟してると腐ってるの境界線ってどこなんやろな。」
「良いから、何も言うな。」
『くれぐれも注意するのだ。やっちゃんとあっくんの約束なのだー!』
「本題そんだけー!」
凪の訪れを伝えるだけで弥生は消えてしまう。そのことに対して、秋人はもう何度目かもわからない叫び声を上げるのだった。
その後場所を喫茶店に移動する。そして一行は、愛から凪についての説明を受けるのだった。
「つまり凪というのは…妖夢の力が弱まるということなんです」
「弱まる??」
「はい!詳しいことは全然分かってないんですが、記録によると妖夢が本来持っている生命力が極端に弱まるみたいで。
だから普段倒せないような妖夢も倒せる!!って異界士の人達は大喜びだそうですよ」
「でもどうして、僕が注意しなくちゃいけないんだ?」
不思議そうに秋人が尋ねると人数分の紅茶を持ってきた彩華が口を開く。
「忘れたんか?あんたは、半妖。妖夢の力が弱まるっちゅうことは何らかの影響があるかもしれへんっちゅうことやろ。」
「影響って?」
顎に手を当て考え込む美月の疑問に、彩華は己の憶測を話した。
「まぁ、半妖の妖夢がレアすぎるやさかい。それは分からへんけど不死身の特性がのうなることは考えられるやろな。」
「なるほど
そんな時に、異界士がアッキーを見つけたら襲いかからないとも限らない」
「せやし…送ってきはたと違う??」
彩華の言葉に一同は弥生が送ってきたハガキを見つめるのだった。
*****
「正確に凪が始まるのは午前0時からって聞いたけど…
確かに心無しか空気が重く感じるわね。」
彩華の場所を出た一同は異様な空気にを感じていた。駅に向かいながら美月が周囲を見渡してポツリと呟く。それに同意と未来が頷いた。
「空気が重いというか、止まっている??」
「凪…いい意味で妙だな
こんな時は志帆と美月と肩を並べて帰ったほうが良さそうだな…」
博臣が神妙な面持ちでボヤいた。だが、その言動に対して志帆と秋人は遠い目をしていた。
「もう美月行っちゃったよ?」
「なぜだ!?」
「博臣と一緒に帰りたくないからだろ?」
「なぜだ!?」
「お前が嫌いだからだろ。」
「な…なぜだ?!」
「常にそういう態度だからだ!!」
この世の終わりとでもいわんばかりに青褪めていく博臣に冷静に淡々とツッコミを入れていた秋人は段々と苛立ちを露わに声を荒げた。
一方でそのやり取りを横目に見ていた未来は時計を見て思い出したかのように声を上げた。
「あ!!先輩
スーパーのお弁当の値下げ時間に間に合わなくなるので先に行きます」
「あ、待って私も行く」
「あぁ…わかったじゃあな」
踵を返した未来を追うように志帆も背を向けた。その二人の背に秋人は声をかけた。そして再び前を向いた秋人の横ではさっきと打って変わって真剣な面持ちをする博臣がいた。
「アッキー、甘く見るなよ。胸騒ぎがする。」
「……恋か??」
秋人ははぐらかすように博臣にニヤリと笑うと自分自身は駅の方へと足を向けるのだった。
一方で二人と離れた志帆と未来は肩を並べて歩いていた。
「……志帆先輩どうしたんですか?」
「貴女に伝えたいことがあって……」
言いよどみながら志帆が未来に向けるのは揺らぐ瞳だった。
躊躇する志帆に、未来は向き合うと彼女の両手を掴んだ。
「...教えて下さい」
未来の真剣な表情に、志帆は決意を固めるとゆっくりと口を開いた。
「妖夢の力が弱まる凪のこの時期を狙って泉様が、秋人の中にいる境界の彼方の表に出そうとしてる。だから........」
志帆はこの先の言葉を飲み込んだ。
言いたくない
未来が秋人に好意を持っているのが分かっているのに、その彼を殺る決意を固めろと現実を突きつけることなんて...
「そ...そうですか」
顔を歪ます志帆の言いたいことを察した未来の瞳は揺らいだ。
「..........私も手伝う」
「な...何言ってるんですか!?」
「だって!!こんなの!!酷すぎるよ...
貴女独りに背負わさせたくない!!」
志帆は奥歯を噛みしめると、ギュと拳を握った。
「志帆先輩...」
未来は目を丸くした。
名瀬家の当主の側近としての志帆がその場に居なかったからだ。
「どうやら私は、志帆先輩の事を勘違いしてたようですね」
「え??」
「泉さんの隣りにいる志帆先輩は、いつも冷静で淡々としてたので、今回の先輩の事も感情に振り回される事ないんだろうなって思ってました」
「いつかはこうなるって覚悟は出来てた。でも、秋人の事を想っている貴女に殺らせるのはあまりにも酷で。自分が情けなくて...
でもそれと同時に栗山さんが凄いなって思った。私だったら、耐えられない」
未来の立場を自分に置き換えただけで、背筋が凍った。
無理だ。
愛しいと想う相手に刃を向けるなんて...
でもその究極の選択肢に迫られた時彼女と同じ選択肢を取るだろうと薄々思っていた。
自分と相手の生命を天秤にかけるなら、必ず犠牲にするのは自分だ。
だからこそ未来のこの選択を変える気は起こらなかった。
「あ...あの!!
志帆先輩の想っている相手って博臣先輩ですよね?」
「え...」
志帆は衝撃的な発言に固まった。まさか未来に指摘されるとは思わなかったからだ。
「...そ...そんなにわかりやすい??」
「私自身の想いに気づいたら
自然と気づいちゃったんです。
志帆先輩も苦しい想いをしてるんだって」
未来が悲痛な顔を浮かべる。
そんな顔をさせてるのが自分だとわかるだけに志帆は申し訳ないと眉をひそめた。
「負けちゃ駄目です!!
立場なんて...関係ないです!!
だって!!お二人共...ッ!!」
訴えるように志帆に詰め寄る未来。そんな彼女の言葉に志帆の心は揺れた。
「...ありがと栗山さん
逆に私が救われた気分になっちゃったよ」
目を細め小さく笑った志帆。そんな彼女のポケットからは振動音。
「志帆先輩!!携帯が!!」
「うん...ちょっとごめんね」
断りを入れた志帆は、画面を開く。電話の相手はなんと美月から。
どうしたのかと不思議に志帆は通話に出るのだが...
「もしも...」
『志帆...兄貴が...』
美月のヒソヒソとした声の裏にある動揺の色を感じ取った志帆は、眉間にシワを寄せた。
「美月...どうしたの?」
切羽詰まりながらも、冷静に起こった出来事を告げる美月のタフさに内心感心しながら志帆は耳を傾ける。
「わかった...
直ぐ向かうから...美月は何処いるの?」
安全なとこにいるだろうとその時まで思っていた志帆は、数秒後浅はかな考えだった事に気づき、慌てて通話を切った。
「栗山さん!
取り敢えず警戒はしといて!!」
「はい
志帆先輩もお気をつけて」
未来の言葉に小さく頷くと志帆は、今までにないくらい全速力で駆け出すのだった。
それは物理的に姿を持たない妖夢。
長い年月をかけて外に放たれてしまった無数の怨嗟や心の歪みが一つの形になって生まれると言われている。放っておくと世界を破壊へを導く。疾病や自然災害・戦争などの発端もこの妖夢の影響とも言われる。
今は表層だけ出ているだけで影響は出ていない。
だが、このまま放っておくわけにはいかない。
名瀬の統括としてこの一帯を守る使命がある泉は、凪の訪れを知り本格的に行動を移すのだった。
泉は一室に女性の従事者を呼び出した。呼び出された彼女は不思議そうにしていた。その彼女に泉は歩み寄ると彼女の耳元にそっと囁くのだった。
「少し練習させてほしいの…
人に使うのは久しぶりだから」
「な…なにを…」
「少ししたら…戻して上げるわ」
そう言うと泉はある能力を発動させた。その能力の名は、”凍結界”。名瀬の中でも一部の人間しか使えないものだった。
その能力が発動されたと同時に体感温度が下がるのを志帆は感じ取った。部屋一帯に冷えた空気が白い煙となり、ガラス音をたてながら冷たい氷が張り巡らされていく。それは標的の意識を奥深く音も色もなにもない真っ暗な水面下に閉じ込めていくのだった。
「秋人に使うおつもりですか?」
意識を失った女性を内心憐れみながらも、顔に出すことなく志帆が口を開く。
「えぇそうよ
境界の彼方を倒すのなら今しか無いわ」
「ですが...栗山未来は殺すのを躊躇ってます」
強引すぎると泉の考えに志帆は珍しく異を唱えた。
「どっちにしろ放っておく訳にはいかないのよ」
「わ...わかってますが」
正論なセリフを並べる泉に志帆は狼狽しながら言いよどんだ。その彼女に凍てつく眼差しを泉は向けるのだった。
「何も出来ない貴女が先走った発言をしないで
悠なら出来たかもしれないけど、貴女にはまだまだ力が足りない。
志帆、貴女が今できるのは見守ることだけよ」
甘い考え。出来もしないのに反論するな。泉の言っていることはご尤もだと志帆は黙り込んでしまうのだった。
泉はそんな志帆に背を向けた。
「報告してくるわ
もうあがって構わないわ」
泉が去り放置された部屋で志帆は崩れ落ちた。
悠兄さん…
志帆は不甲斐ない自分を呪った。
もし彼がいたら、誰も失わずに済んだのだろうか??
だが、志帆の願いはどう頑張っても叶いそうになかった。
「…ッ!!クソ!!」
志帆は悔しさのあまり床に拳を叩きつけるのだった。
*****
ところ変わって彩華の家。
そこで秋人に届いたハガキを見てもらうのだが…
『そう!ついに凪が来るのだ。
でも、その前に言わないといけないのだ。あっくん、やっちゃんとの約束を破って虚ろな影に近付いたって聞いたのだ。やっちゃん激怒プンプンまるなのだ。向日葵の種も喉を通らないぐらいだったのだ!』
もちろんそれを見て顔を真っ青に青ざめる秋人。それに対して、他のメンバーはさほど驚くことはなく淡々と目の前に映る人物について分析する。
「……ハムスター??何これ」
「毎回、よくもここまでキャラを作ってきますよね。」
「微妙にパクってるけどね。」
即座に秋人はハガキをひっくり返すと叫ぶようにこの状況を嘆いた。
「良いから、冷静に分析するな!てか、栗山さん。その格好は何?」
そんな秋人が指摘したのは隣に座るバニー姿の未来だった。
「え…あ…バ…バイト中だったんです!!」
秋人の指摘に自分のしている格好を思い出し恥ずかしそうに未来はそっぽ向く。
「まさかこんな格好させられるなんて…
桜先に返しといて良かった」
そう小さく呟く未来の横で不審に動く音が立つ。違和感を感じた未来が振り向くとそこには己にスマホを向ける秋人の姿があった。
必死にあっちこっち視点を変えて最高のポジションを探す秋人だったが、瞬間的に己が持っていたスマホが消え不思議がった。
ゆっくりと顔を上げた秋人の視界に映ったのは自分のスマホを持った彩華。そして、ニコリと笑った彩華がもう片方の手でとるのはお金を要求する仕草だった。
「……不愉快です」
「不愉快です!!!!」
「茶番すぎる」
がめつい彩華にお金を要求される秋人が漏らした言葉、そんな二人の売買を巡った対象が己の写真だとわかりきっている未来が叫んだ言葉。全く同じセリフとこの光景に志帆は思わず思っていたことを口に漏らす。美月と博臣だって同じことを思ってはいたが見て見ぬ振り。あえて反応したって労力の無駄のため、美月はさっさと話を進めようとハガキに手を伸ばした。
『はぁー、あっくんはいつからそんな不良になってしまったのだ。友達から借りたヤバイ本のメガネヌードモデルのページを密かに破って宝物にしていた。純情可憐なあっくんはどこへ行ってしまったのだ。
そんな約束を守れない子になってしまうなんて、あっちゃん悲しいのだ。
ヘケ…ヘケケケケケ…』
そう言うと弥生は瞳に涙を溜め泣き出した。
「ヘケの使い方が違います。」
「こういうところにドジが出るわねー。」
「だから、冷静に分析するな!」
未来と美月の言葉に秋人はムッとしてまた叫ぶ。
『そ…そんな事をしていると思念が尽きてしまうのだ
では、問題に入るのだ』
ようやく真剣な面付きになった弥生の表情に、一同は息を張り詰めるのだが…
『凪が来るぞー!!凪が来るのだー!
凪が
く・
る・
の・
だー!』
一々叫ぶようにポージングを取っていく弥生の行動に、一同は冷めた眼を向けるのだった。
「熟してると腐ってるの境界線ってどこなんやろな。」
「良いから、何も言うな。」
『くれぐれも注意するのだ。やっちゃんとあっくんの約束なのだー!』
「本題そんだけー!」
凪の訪れを伝えるだけで弥生は消えてしまう。そのことに対して、秋人はもう何度目かもわからない叫び声を上げるのだった。
その後場所を喫茶店に移動する。そして一行は、愛から凪についての説明を受けるのだった。
「つまり凪というのは…妖夢の力が弱まるということなんです」
「弱まる??」
「はい!詳しいことは全然分かってないんですが、記録によると妖夢が本来持っている生命力が極端に弱まるみたいで。
だから普段倒せないような妖夢も倒せる!!って異界士の人達は大喜びだそうですよ」
「でもどうして、僕が注意しなくちゃいけないんだ?」
不思議そうに秋人が尋ねると人数分の紅茶を持ってきた彩華が口を開く。
「忘れたんか?あんたは、半妖。妖夢の力が弱まるっちゅうことは何らかの影響があるかもしれへんっちゅうことやろ。」
「影響って?」
顎に手を当て考え込む美月の疑問に、彩華は己の憶測を話した。
「まぁ、半妖の妖夢がレアすぎるやさかい。それは分からへんけど不死身の特性がのうなることは考えられるやろな。」
「なるほど
そんな時に、異界士がアッキーを見つけたら襲いかからないとも限らない」
「せやし…送ってきはたと違う??」
彩華の言葉に一同は弥生が送ってきたハガキを見つめるのだった。
*****
「正確に凪が始まるのは午前0時からって聞いたけど…
確かに心無しか空気が重く感じるわね。」
彩華の場所を出た一同は異様な空気にを感じていた。駅に向かいながら美月が周囲を見渡してポツリと呟く。それに同意と未来が頷いた。
「空気が重いというか、止まっている??」
「凪…いい意味で妙だな
こんな時は志帆と美月と肩を並べて帰ったほうが良さそうだな…」
博臣が神妙な面持ちでボヤいた。だが、その言動に対して志帆と秋人は遠い目をしていた。
「もう美月行っちゃったよ?」
「なぜだ!?」
「博臣と一緒に帰りたくないからだろ?」
「なぜだ!?」
「お前が嫌いだからだろ。」
「な…なぜだ?!」
「常にそういう態度だからだ!!」
この世の終わりとでもいわんばかりに青褪めていく博臣に冷静に淡々とツッコミを入れていた秋人は段々と苛立ちを露わに声を荒げた。
一方でそのやり取りを横目に見ていた未来は時計を見て思い出したかのように声を上げた。
「あ!!先輩
スーパーのお弁当の値下げ時間に間に合わなくなるので先に行きます」
「あ、待って私も行く」
「あぁ…わかったじゃあな」
踵を返した未来を追うように志帆も背を向けた。その二人の背に秋人は声をかけた。そして再び前を向いた秋人の横ではさっきと打って変わって真剣な面持ちをする博臣がいた。
「アッキー、甘く見るなよ。胸騒ぎがする。」
「……恋か??」
秋人ははぐらかすように博臣にニヤリと笑うと自分自身は駅の方へと足を向けるのだった。
一方で二人と離れた志帆と未来は肩を並べて歩いていた。
「……志帆先輩どうしたんですか?」
「貴女に伝えたいことがあって……」
言いよどみながら志帆が未来に向けるのは揺らぐ瞳だった。
躊躇する志帆に、未来は向き合うと彼女の両手を掴んだ。
「...教えて下さい」
未来の真剣な表情に、志帆は決意を固めるとゆっくりと口を開いた。
「妖夢の力が弱まる凪のこの時期を狙って泉様が、秋人の中にいる境界の彼方の表に出そうとしてる。だから........」
志帆はこの先の言葉を飲み込んだ。
言いたくない
未来が秋人に好意を持っているのが分かっているのに、その彼を殺る決意を固めろと現実を突きつけることなんて...
「そ...そうですか」
顔を歪ます志帆の言いたいことを察した未来の瞳は揺らいだ。
「..........私も手伝う」
「な...何言ってるんですか!?」
「だって!!こんなの!!酷すぎるよ...
貴女独りに背負わさせたくない!!」
志帆は奥歯を噛みしめると、ギュと拳を握った。
「志帆先輩...」
未来は目を丸くした。
名瀬家の当主の側近としての志帆がその場に居なかったからだ。
「どうやら私は、志帆先輩の事を勘違いしてたようですね」
「え??」
「泉さんの隣りにいる志帆先輩は、いつも冷静で淡々としてたので、今回の先輩の事も感情に振り回される事ないんだろうなって思ってました」
「いつかはこうなるって覚悟は出来てた。でも、秋人の事を想っている貴女に殺らせるのはあまりにも酷で。自分が情けなくて...
でもそれと同時に栗山さんが凄いなって思った。私だったら、耐えられない」
未来の立場を自分に置き換えただけで、背筋が凍った。
無理だ。
愛しいと想う相手に刃を向けるなんて...
でもその究極の選択肢に迫られた時彼女と同じ選択肢を取るだろうと薄々思っていた。
自分と相手の生命を天秤にかけるなら、必ず犠牲にするのは自分だ。
だからこそ未来のこの選択を変える気は起こらなかった。
「あ...あの!!
志帆先輩の想っている相手って博臣先輩ですよね?」
「え...」
志帆は衝撃的な発言に固まった。まさか未来に指摘されるとは思わなかったからだ。
「...そ...そんなにわかりやすい??」
「私自身の想いに気づいたら
自然と気づいちゃったんです。
志帆先輩も苦しい想いをしてるんだって」
未来が悲痛な顔を浮かべる。
そんな顔をさせてるのが自分だとわかるだけに志帆は申し訳ないと眉をひそめた。
「負けちゃ駄目です!!
立場なんて...関係ないです!!
だって!!お二人共...ッ!!」
訴えるように志帆に詰め寄る未来。そんな彼女の言葉に志帆の心は揺れた。
「...ありがと栗山さん
逆に私が救われた気分になっちゃったよ」
目を細め小さく笑った志帆。そんな彼女のポケットからは振動音。
「志帆先輩!!携帯が!!」
「うん...ちょっとごめんね」
断りを入れた志帆は、画面を開く。電話の相手はなんと美月から。
どうしたのかと不思議に志帆は通話に出るのだが...
「もしも...」
『志帆...兄貴が...』
美月のヒソヒソとした声の裏にある動揺の色を感じ取った志帆は、眉間にシワを寄せた。
「美月...どうしたの?」
切羽詰まりながらも、冷静に起こった出来事を告げる美月のタフさに内心感心しながら志帆は耳を傾ける。
「わかった...
直ぐ向かうから...美月は何処いるの?」
安全なとこにいるだろうとその時まで思っていた志帆は、数秒後浅はかな考えだった事に気づき、慌てて通話を切った。
「栗山さん!
取り敢えず警戒はしといて!!」
「はい
志帆先輩もお気をつけて」
未来の言葉に小さく頷くと志帆は、今までにないくらい全速力で駆け出すのだった。