凪
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「泉さんは魅力的な女性なのに。」
立ち去る悠にボソリと呟くと藤真は寄り添う二人に振り返った。その視線に気づいた美月は慌てて檻を張る。
「さてと...」
藤真は身体から触手を発生させそれを一気に美月へ放つ。
「キャァ!!」
張り巡らされた檻は意図も簡単に触手に破られ、美月は衝撃で吹っ飛ぶ。
「...み、美月!!...クソ!」
「駆けつけた泉さんは、どんな表情してくれますかね?」
愉快げに藤真は高笑いして二人を見下ろした。そんな聞きたくない笑い声に博臣はたまらず顔を歪めた。そして博臣は力を奮い起こして美月の前に出て立ち上がった。
「...ッ!!妹に、手を出すな!!」
「おおー、立ち上がりますか?
すごいですね?でも...」
芝居かかったような仕草をする藤真だが、言葉に反して彼の目は鋭かった。その藤真の言葉の裏に隠された真意を察した博臣はギリッと歯を食いしばった。そんな博臣の様子をあざ笑うように見下した藤真は軽く肩を押す。すると案の定博臣は簡単に地面に倒れ込んだ。
「立つのがやっとみたいですね?」
予想通りとニヤリと笑うと藤真は博臣の胸ぐらをつかみ宙に浮かせる。
「...ウッ!!」
「ご要望通り、貴方を存分に傷めつけてからにしましょうか?」
愉快げに笑う藤真は手に込める力を強め、身体から触手をジワジワと出現させていく。その様子を美月は歯がゆい思いで見ていた。
「...お兄ちゃん!!!」
美月が泣き叫ぶと同時に両者の間にとてつもない土埃が舞い上がる。
一歩仰け反る様に、博臣から手をパッと離し後方に藤真は避難し攻撃をかわす。
土埃が目に入らぬよう目を腕で覆い隠す藤真はその隙間から誰が来たのかと目を凝らす。細めのシルエットで、下ろしている銀色の髪が煌びやかに舞う。その風貌とは対照的に銀色の髪から覗く青色の双眸は氷のように冷たく、それに射すくめられた藤間の背筋はゾッと粟立った。が、感じたものを表情に出すことなく藤真は鉄扇を構える彼女にほぉ〜と感嘆の声を漏らした。
「貴女でしたか。瀬那志帆さん?」
「...ッ...志帆...」
「ゴメン、来るのが遅くなった」
辛うじて微かに開く瞳から見えた人物の名を博臣は小さく呟く。その声に志帆は一瞬背後を一瞥。視界に入ったボロボロで地面にうつ伏せで倒れる博臣を見て、志帆は顔を歪めた。
「お兄ちゃん!!志帆!!」
起き上がった美月が二人に駆け寄ってくる。
「美月、博臣の事よろしくね」
志帆は美月にそう言うと、目の前の敵に全神経を注ぐ。その凍てつく瞳がさきほどまでいた彼と重なって見えて、藤真は目を細めた。彼の言葉を借りるとすれば、”彼らも血を争えない”くらい纏わせる空気は似ている。その感情を出させたのが、兄の悠にとっては両親の死別、妹の彼女にとっては大切なものを傷つけたせいという違いがあるものの。では、彼女が悠と同じように真実を知ったらどれほど目の前の彼女の表情は絶望の色に染まってくれるだろうか。考えるだけでゾクゾクすると藤真は口端を吊り上げた。
「いいですね~
貴方のその視線、とてもゾクゾクしますよ」
その藤真の不敵な笑みに志帆は嫌そうに眉間に皺を寄せた。そして志帆は言葉を返すのも汚らわしいと鉄扇の扇を勢いよく開いて横に薙ぎった。途端に巻き起こる旋風。それに対して藤真は触手を身体を守るように出す。その触手は風によりブチブチとどんどん切断されていった。
「やりますね~」
「その何か企んでいるような飄々とした貴方の態度が気に入りませんね」
巻き起こした風が止んでみると結局は藤真の身体に傷の一つすらつけられていないことに志帆は舌打ちをした。全く表情を変えることなく賞賛の言葉をかけられても皮肉としか志帆には捉えられなかったのだ。
「…おっと」
「大人しく一発殴られてください」
志帆は藤真の足元から淡い橙色の鎖を出現させる。それは勢いよく伸びて藤真の四肢を拘束した。そして志帆はというと鉄扇を持ち直して勢いよく飛び上がり先端を藤真に目掛けて振り下ろした。だが、目の前の彼は攻撃の手が迫っているにも関わらず厭らしい笑みを溢していた。
「折角のお誘いですがそれは遠慮させていただきますね」
視線を上げて目を細めた藤真の身体は、触手で溢れ薄紫色の光を神々しく放ち始めていた。その光景に志帆は目を大きく見開くと、慌てて扇を開いて風を起こして宙に浮く身体を遠くに移動させた。その咄嗟の志帆の機転は正しかった。
藤真の身体は爆弾のように閃光を放って爆発したからだ。
「…ッ!!」
爆風に受け身を取りながら志帆は体の前に鎖の壁を張る。そして着地をした志帆は眩しい光に対して目を腕で覆った。
一瞬光で真っ白になるものの、光が落ち着いたことで瞼越しの視界が普段通りに戻ったことを確認すると志帆はゆっくりと目を開いた。だが、既にそこには藤真の姿は綺麗さっぱりと消えていたのだった。代わりにあるのは銀色に光る一つの鍵だった。
「逃げられた……」
あんな太々しい態度を取る藤真がそう簡単にくたばるはずがない。恐らくさっきまで戦っていた彼はいつの間にかすり替わったダミーだったのだろう。
弄ばれた気がして志帆は収まらない苛立ちに表情を歪めていた。そんな彼女の背に向けて美月が志帆!!と叫んだ。それにハッとした志帆は地面に落ちている鍵を拾い取り二人の元に駆け寄った。
「...博臣!!!」
「どうしてココがわかったんだ?」
駆け寄った志帆は座り込んだままの博臣の背後に回りこんだ。背後でガチャガチャとする音を聞きながら博臣は疑問を投げかけた。その問いに対して、手錠を外した志帆は博臣の背後越しから美月に向けて柔らかい笑みを溢した。
「美月が連絡をしてくれてすっ飛んで来たんだ」
その言葉にハッとした博臣は目尻を下げた。
「そうか、ありがとな美月。
でも、次はこんな無茶しちゃ駄目だぞ」
「いやよ、兄貴に危機が迫ってるのに指を咥えて見てるなんて」
優しい声音で紡がれる言葉。だが、美月は当然最後の言葉に対しては大きく首を横に振った。そんな美月の反応に博臣は渋い顔をする。
「だがな…」
「まぁまぁ」
いつまでも守られる側の立場の美月は不貞腐れた表情をする。そんな美月に一言二言言おうとする博臣を見て、志帆は苦笑いしながら慌てて仲裁に入った。
そしてようやく落ち着いた博臣は改めて二人に向き直った。
「今回は、俺の不注意のせいだ。すまない、心配かけた」
「ホントよ!連絡受けた時、どんだけ心臓が飛び出そうになったと思ってるのよ!バカ!!」
ガバっと勢いよく志帆は頭を下げた博臣に抱きついた。その勢いに倒れそうになりかけるが博臣は飛び込んできた志帆の身体を受け止めた。
いつもと立場が逆転しているなと自嘲しながら、今回は志帆の気が済むまでどんな言葉でも受け止めようと博臣は思うのだが、それはいい意味で裏切られた。
「でも、良かった無事で...」
博臣の肩に顔を乗せた志帆が漏らしたのは安堵の言葉。その言葉に拍子抜けした博臣は志帆の身体は微かに震えていることに気づくと、目を細め安心させようとそっと彼女の背に手を回すのだった。