凪
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
やはり3年という月日は伊達ではない…
目の前の博臣を見据えながら悠は感傷に浸っていた。最後に見たのは彼が中学3年生の頃。その時はまだ背も高い印象はなく、幼さが残っていた。だが、今の彼はどうだろう?自分とほぼ変わらないくらい身長はグッと伸びている。そして感情のままに突っ込む姿勢は変わらないものの風貌は一端の異界士だ。状況を冷静に見極めながらも、黒い前髪から覗く柳緑色の双眸はギラついていた。殺気を身に留め鋭く尖らせ、機会を伺う様子はまるで獲物を狩ろうとする猛獣だ。気を一瞬でも抜いたらすぐにでも博臣が醸す空気に呑まれてしまいそうで、泉と対峙しているかのような錯覚にとらわれた悠は無意識の内に口角を上げていた。
「やはり血は争えねぇーな
良い面構えできるようになったじゃねーか」
ビシビシと痺れるような殺気を受けながら、悠は目の前の彼の成長を率直に喜んでいた。
「…目的はなんだ??」
「なんだと思う??」
直球で切り込んだ博臣に対して悠は試すように疑問で返した。その素振りに気づいた博臣は顔を曇らせて黙り込んだ。さっぱり思い当たらないのだ。悠が藤真と手を組んでまで楯突こうとする原因が。だが、そのキッカケとなったのは紛れもなく3年前に起こった事故なのだろうことだけはわかった。
「まぁ、わからねぇーだろうな」
「悠さん
感動の再会のところ悪いんですが…」
「なんだよ、邪魔すんじゃねーよ藤真」
傍観していた藤真に出端を挫かれた悠は不機嫌そうに眉間に皺を寄せて藤真を睨んだ。
「連れてきてくれたことは感謝する
が、互いに互いのことに関して干渉しないことが契約だろ?」
「そーですけど、時間かけすぎやしませんか?」
サッサと真実を突きつければいいものを、となんだかんだ切り捨てられていない甘い感情を持つ悠に藤真は肩を竦めた。そんな藤真に悠はピクリと眉を顰めて睨みつけた。
「はぁ?お前のせいだろ?
俺は、博臣だけを連れてこいと言ったはずだぜ?」
尾行されるとはなと呆れる悠に藤真はなんのことかと目を瞬かせた。そんな藤真にやはり気づいていなかったかと肩を竦めると悠は博臣の脇の空間に視線を投げた。
「そろそろ出てきたらどうだ?美月??」
そのうたうような悠の抑揚のある声に博臣は小さく舌打ちをし、藤真は素っ頓狂な表情を浮かべた。それとともに檻を解いて美月が姿を現した。
「…悠兄さん」
「おやま?いつの間に紛れ込んでましたか?」
「久しぶりだな
見ない間に力をだいぶつけたみたいだな」
神妙な面持ちを浮かべる美月に対して愉しげに悠は話しかけた。
「…いつ気づいたの??」
「ついさっきさ
動揺で空間が微妙に歪んでだぜ」
それが無かったら気づかなかっただろうなと悠はおどけてみせた。そんな悠に美月は博臣を守るように彼の前に立った。
「......ッ!美月!!
もういい!お前だけでも逃げろ!!」
「いやよ!!
こんな状態の兄貴を放って逃げられるわけないじゃないの!」
博臣の鋭い一声に対して涙を浮かべながら声を張り上げた美月は檻を張る。
「やめろ...美月。」
懇願する様な嗄れる声を出す博臣。
必死に手を伸ばそうとしても、後ろ手で拘束されているため、無駄にガシャンと金属音が鳴るだけ。何もできない自分に、歯がゆさを感じ苛立ちがこみ上げる。
「どうしてこんなことをするの?悠兄さん」
その博臣の目の前では背を向けた美月が信じられないような目で悠を見据えた。藤真は、お芝居を見ているかのようにあくまで傍観して茶々を挟んだ。
「いやぁ素晴らしい兄妹愛ですね〜」
そんな藤真をギロリと悠は睨みつけ黙らせる。そして悠は渋い顔を浮かべて美月に視線を戻した。
「……美月
これを見て見ぬ振りをして大人しく帰ってくれねーか」
「わかった…
とでも言うと思う??」
「だよな〜〜」
美月の我を貫き通す姿勢に折れる気はないと悟った悠はガクリと項垂れた。本当はまだ美月の耳に入れたくない。だから遠ざけたかったのだがどうやら無理らしい。仕方ないかと悠は能力を展開させた。ギュッと悠が作り出した鎖により美月が作り出した檻は呆気なく星屑のように消え去った。
「……!?」
「復讐さ」
空間に散りばめられた青色の星屑が視界に映り込む。その中央に佇む悠はポツリとか細い声で二人にとって信じられないような言葉を吐いた。
「どういうことだよ、悠兄」
「復讐ってどういうこと??」
「3年前に俺は目の前で両親を失ったんだよ
全て名瀬のせいでな」
動揺する二人に悠は凍てつく殺気を向けて言い放った。だが、二人に言い放った悠の表情は複雑だった。表面に出ているのは両親を奪われた怒り、だがその裏に隠れ見えるのはやるせない気持ちだった。
「でもそれは事故じゃ...」
「ちげぇーんだ。
お前らには伏せられてるが、これは紛れもなく名瀬が裏で糸を引いた事件だ」
「志帆はそのことを知ってるのか?」
「知らないだろうな、
アイツラは志帆の耳になんとしても入れさせようとしないだろうからな」
側近の職務を全うさせるためには不必要な情報なのだから。言うわけがない。悟らせるわけがないのだ。
「それが仮にホントだとしても
そう簡単に信じられないな」
「だろーな」
遠い目をする悠に博臣は鋭い一声を上げた。その声に視線を流した悠は溜息混じりに笑ってみせた。
「知ってるよ
だからそれが事実かどうかはお前自身で決めろ
俺は俺で突き進む
俺自身の目的のためにな」
そう言い捨てると悠は踵を返し、指を鳴らした。それは悠が能力を解除する動作だった。壁に繋がれていた博臣は支えを失い座り込んだ。その彼に美月は慌てて駆け寄った。
その彼らを横目で見ながら藤真は立ち去る悠に言葉を投げかけた。
「あれ??
もう帰るんですか?」
「……今日はやめとく」
「ありゃま?
やはり慣れ親しんだ相手を敵に回したくないですか?」
冷やかしを混じえる藤真に、悠はギロリと藍色の眼差しで睨みつけ黙らせた。その今にも殺されかねない眼差しに藤真はヤレヤレと肩を竦めた。
「この二人で、泉さん来ますかね?」
「そりゃあ来るだろ?
大切な弟と妹だからな。
ってか、ホントにお前の頭の中は泉でいっぱいだな」
悠は振り向くと、呆れ返った表情を浮かべ藤真を見る。
「もちろんですよ」
「あいつのどこがいいんだが」
悠は独り言を呟くようにボソリと吐き捨てると、そそくさとその場を後にするのだった。