徐々に動き出す歯車
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妖夢なのか?
異界士の力なのか??
異界士だったら一体張本人は何処に潜伏しているのかさっぱりわからない状況で志帆は力で作り出した橙色の鎖を駆使して沸いて出てくる触手を引き裂け突き進んだ。
その前方では。右だ!?左だ!?と眼の前の大きな樹の幹に対して別の方向に進み見事にその幹にマフラーが引っかかったことで後方に思い切り引っ張り返されて地面に背を打ち付ける博臣と秋人がいた。
何やってんだと呆れつつ志帆は、二人の目の前に立ち鎖の壁を形成する。
「何やってるの…」
「仕方ないだろ!
それよりお前は早くそれを外せ!!」
呆れた口調の志帆を一瞥すると博臣は秋人にマフラーを外すように急かし、檻を形成する。檻が張られたことを確認すると志帆は力を解いて秋人の背後に回り込みマフラーを取る手助けをした。
「はぁ…なんでこんなに固く!?」
「取るからジッとしてて!!」
硬い結び目を志帆は焦りながらも解いていく。
「まだか!!さっさとしろ!!」
「もう少しだから待って!!」
「…ったく」
触手の攻撃を檻で受け流しながらまだかと博臣が声を荒げる。そんな博臣の様子に秋人は怪訝な表情を向ける。
「さっきから何イライラしてるんだよ」
「誰がだ!?」
「お前だよ!!
さっきから…つうか来たときから」
ジト目で見つめる秋人の言葉に博臣は視線を前に向けたまま鼻を鳴らした。
「フン!
長い間ずっとイライラしてきたのはお前だろ」
その言葉に秋人は抱えていたわだかまりを見透かされていたのかとハッとした。その二人のやり取りに志帆は頬を緩ませながら最後の硬い結び目を解いた。
「解けた!!」
「…よし」
ここから反撃だと口角を上げる二人。だが、その檻の元に駆け寄ってきた美月が現れた。美月はあの時空から降ってきたカプセルについて知らせようとしていたのだ。だが、その無防備な美月に触手が攻撃の矛先を変えた。
「「美月!?!?」」
同時に声を上げた二人は博臣が檻を解いたのと同時に駆け出した。そして迫りくる触手をそれぞれ切り裂くと、博臣は両手を広げて美月と秋人に檻を張った。対して、志帆は彼の前方に立ち前から迫りくる触手を防ぐ鎖の壁を作った。
「…クッ!!」
双方の檻を締め上げる触手の力強さに博臣が苦痛そうに表情を歪める。その声に志帆は後ろを振り向きかける。
「…博臣!?」
「いいからお前はそのまま続けろ!!」
その力強い言葉に志帆は振り向くことを許されなかった。今、この場を離れたら二人を守って無防備な状態の博臣が触手の格好の餌食にされてしまうからだ。
いつまで続くかわからない触手の攻撃に対して防戦一方の二人。だが、その彼らの足元の地面がグラリと揺れ動いた。ハッとした瞬間に地面にヒビが入りそこから触手が現れたのだった。気づいた志帆は咄嗟の判断で鎖の壁を解き背後を振り向いた。すると博臣の背後には2本の触手が襲いかかろうとしていた。
間に合うか?間に合わないか??
志帆は博臣の背後に回り込み必死に鎖を形成しようとする。が、志帆の前に秋人が両手を広げて飛び出してくるのだった。身を張った秋人は触手に貫かれてそこからは血しぶきが飛び散った。
「「…神原」」
唖然とする二人の目の前で秋人は何本もの触手に貫かれて宙へ。青ざめた二人は必死に彼の名を呼んだ。その光景に檻の中にいた美月が声を上げる。
「私はいいから二人は行って!!」
その美月の言葉に小さく頷くと志帆は苦虫を潰した表情を浮かべる博臣を促すように肩を叩き走り出す。博臣も美月の檻を解いて彼女の後に続くのだった。
だが、これ以上触手が襲いかかってくることがなく、秋人は宙から落とされて触手は引いていった。
*****
「これが…」
「半妖…」
不死身だから大丈夫だと言い残して意識を失った秋人。だが、彼の内側に眠っていた妖夢が表面に現れてしまった。先程とは雰囲気がガラリと変わった秋人の姿に間合いをとった博臣と志帆は呆気にとられた。が、息つくまもなく半妖の片手からは凄まじい力を持った炎が作り出され二人を襲う。咄嗟に二人は壁を作り防御するが、瞬時に間合いを詰めてきた半妖の拳で呆気なくパリンと割れてしまう。
間合いを詰められた二人に至近距離で炎が襲い掛かるが、寸前で二人は宙へ跳んで回避した。それに気づいた半妖は二人めがけて飛びかかってきた。それを向かい打とうとする博臣と志帆。だが、半妖の威力ある攻撃に逆に吹き飛ばされてしまった。
「「…ガァ!!」」
空から叩き落された衝撃と、半妖からの一手からくる激痛に二人は咳き込みながら苦痛で顔を歪めた。その地面に倒れ込んで身動きがとれない博臣の足元に半妖が降り立つ。が、半妖は少し離れた場所に突き飛ばされた志帆に目もくれることなく眼の前の博臣の背に長くて鋭利な爪を突き刺すのだった。
その光景を目の当たりにした志帆は身体の痛みを忘れて飛び跳ねるように体を起こした。
咆哮を上げる半妖を他所に志帆は博臣の元へ力を振り絞って駆け寄った。
一方で、応援に駆けつけた彩華の結界に守られていた美月は、手に握りしめたカプセルを持って檻を張りながら半妖の元へ一歩ずつ踏み出していた。先程後回しにされたが、美月の頭の中にもう一つ別の言葉が流れ込んできていたのだ。
もし、秋人って人が襲われて大変なことになったらこの血を使って
その言葉を信じ、美月はカプセルを小さな檻で囲い半妖に向けて投げ込んだ。そのカプセルは半妖の身体の中に入り弾け跳んだ。
その美月の一手によりこの事態は収束し、秋人自身も正気に戻るのだった。
*****
混沌からゆっくりと意識を浮上させた少年は重たい瞼を開ける。すると視界に広がるのは見覚えのない木製の天井。それと同時に身体に感じるのはズキッとする背中の激痛と、己のお腹に凭れ掛かる重さだった。
少年は上半身だけを起こす。するとお腹に感じた重さの正体は、少女の頭だった。そっと少年は少女に手を伸ばす。そして伸ばした手で彼女の長い銀色の髪をかき分けて少女の顔を覗き込むのだが、その瞬間に少年は表情を歪めた。なぜなら固く閉じられた瞼は赤く腫れていたからだ。泣きじゃくったのがまるわかりの少女の瞼に少年は指を滑らせた。
「…泣かせちまったな」
少年は、切なげな声音で嘆くように口に漏らすと彼女の頭を撫で始める。すると少女が声を漏らして身じろぐ。その少女の姿に少年はフッと息を溢して頬を緩ました。
目の前に彼女がいる。それだけで満たされる幸福感を噛みしめながら少年は柳緑色の瞳を細めた。
わかっている…
異界士の名門に生まれた長男。側近の立場の少女と結ばれることはない。
それでも、愛おしいと思うこの気持ちは日に日に増していく。
離れたくない、守ってあげたい
でも、今の自分のままでは決してその願いは叶わない。
だからこそ少年はある決意を胸に、彼女の銀色の髪を掬いあげてそっと唇を落とした。
異界士としても、男としても強くなると
そして才ある姉を超え、古い風習を断ち切ってやる
守りたい者を守り、少女と結ばれる未来を掴み取るために