徐々に動き出す歯車
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「一体何があったの…博臣」
目的の場所に着いた志帆と美月が目の当たりにしたのは全身真っ白になっている博臣だった。この短い間に何があったのかと唖然とする志帆達を他所に、1人手元に持つ妖夢石を見て事情を把握した博臣はその石を投げ捨てて家から出ていった影を追い再び走り出した。
「ちょ!!ちょっと!!」
「行くよ!美月!!」
恐らく遠目で見た家から飛び出してきた人影の正体が半妖なのだろう。志帆は美月を促して博臣の背を追いかけるのだった。
「なんだよ!!もう二人いたのか!!」
「隠れても無駄だぞ!!」
逃げるように走る金色の髪を持つ少年…神原秋人は背後に追う人数が増えたことに叫ぶ。その背後にはもちろん博臣を先頭に志帆と美月がついていた。その少年の背にマフラーを手に握りしめた博臣が叫ぶように声を上げる。
「なに?博臣、してやられちゃった感じ??」
すぐに博臣の隣に追いついた志帆が、前を見据えながら軽口を飛ばす。口端を釣り上げる志帆に博臣は苦虫を潰した表情を浮かべながら、五月蝿いと悪態をつきながら背後にいる妹の美月を一瞥する。
「美月を頼んだと言ったはずなんだが?」
「…ムリムリ
何言っても美月は追いかけてくるよ」
博臣の責めるような一声に志帆は満面の笑みを浮かべて手を横に振るのだった。その志帆の態度に博臣が深く溜息を吐く中、美月が声を上げる。
「何よ!!なにがあったのよ!!」
「良いからお前は戻ってろ!!」
「なんでよ!!」
「ほらね?」
強い口調で博臣は追いかけて来る美月に催促する。が、美月は当然受けれられないと拒絶の意思を示す。その応対がわかっていたかのように志帆はおどけてみせた。
そんな志帆を博臣を睨みつけると再び美月に声を上げた。
「お前の力でどうにかできる相手じゃない!!
近づいてもしものことがあったらどうする!?」
鋭い博臣の一声に美月は言い返す事ができず表情を曇らせて視線を逸らす。その中、美月についてきていた妖夢のヤキイモが宙へ飛び上がるのだった。ヤキイモは逃走する秋人を切り裂いたのだ。ヤキイモにより周囲が風が吹き起こり土埃が発生する。その光景にハッとしながらも3人は茂みの中で血を流し座り込む秋人を見つけるのだった。秋人は伏せていた瞳を上げると真っ直ぐに敵対心を露わにする眼差しを向ける。その彼に対して博臣と志帆は構える。
「覚悟しろ」
「ちょっと待ってよ!!ただの人間じゃない!!」
「美月、下がってて」
1人戸惑う美月を放置して二人は目の前の秋人を睨む。
「人型の妖夢なんていくらでもいる
特にコイツのような知恵のあるやつは危険だ」
「待て待て待て!!
僕は妖夢じゃない!半妖だ!!」
博臣の言葉に不服な表情を浮かべた秋人は這いつくばって茂みから出てきて訂正の声を上げる。
「それが何だと言う?
半分だろうがなんだろうが妖夢であることに変わりはない」
「なんでこうも異界士ってのは同じことを言うんだ」
淡々と述べる博臣の言葉に秋人は大きく項垂れ溜息をつくと、眼光を鋭くさせるとゆっくりと立ち上がった。
「なんだ??
半分妖夢だから背中から襲おうが騙そうが構わないってことか!?」
「…ッ!当たり前だ!!貴様ら妖夢は…」
「半分は人間だって言ってるだろ!!!」
博臣の言葉を遮るように秋人は心の声を叫んだ。その叫び声に一同は口を噤んだ。その中、神妙な面持ちを浮かべた美月が重たい口を開いた。
「ねぇ?貴方、私達と一緒にこない??」
「…ッ!?美月?お前」
「確かにそれが一番妥当かな?」
「志帆!?」
掌を翻した二人の言動に博臣が驚く中、志帆は淡々と言葉を呟く。
「今回の任は、倒すか保護するか
名瀬の管轄で保護すれば、異界士に襲われることもないし、彼の人としての人権も安全・衣食住も保証できる
代わりに私達は常に彼のことを監視できる」
そう言って博臣を黙らせた志帆は、秋人に笑いかけた。だが、秋人はその投げかけに対して眉間に皺を寄せる。
「どう??悪くない話だと思うけど?」
「いきなり不意打ちして人を散々妖夢呼ばわりして
挙げ句に一緒に来いだ?行くわけ無いだろ…」
そう言い残すと秋人は静かに立ち去る。その敵対心露わな秋人を見て志帆は溜息を零して隣りにいる博臣に非難の眼差しを向けた。
「…なんだ?何か言いたそうだな?」
「博臣が勝手に突っ込んだせいで信用度ゼロじゃない」
その言葉に博臣は言葉を詰まらせて黙り込んだ。その彼を放置して志帆は急いで彼を追いかけるのだった。
*****
「なんだよ!?」
「言ったろ?保護するんだよ…強制的にな」
先程の家に場を移した一行。だが、秋人は3人の申し出を頑固拒否。だったら強引に連れて行くまでだと最終手段を取る。博臣は縁側に足を一歩踏み入れると持っていたマフラーを縄のように扱い秋人の首元をキツく締め上げた。
「おい!だからやめろ!!」
「嫌なら素直についてこい
名瀬家として身の安全は保証してやる」
「断る」
背を向けたまま動こうとしないの秋人の様子に博臣は小さく息をつくと、握りしめていたマフラーを思い切り引っ張り歩き出す。それに繋がられた秋人は家の外に引きずり出された。が、このままみすみす連れ出されるわけにはいかないと秋人は身体に力を入れて反抗する。その行動に博臣は背後を振り返り一言ボヤいた。
「…強情だな」
「…どっちがだよ」
声を荒げた秋人は近くにあった石を顔面に向けて投げつける。それを博臣は寸前で交わす。が、その一瞬の隙をついて秋人は首に締め付けられていたマフラーを手元に引っ張り上げた。それにより博臣の手元からマフラーの端が離れ宙に舞う。しかし、博臣はそのマフラーを掴み取った。
作戦が上手くいかなかったことに小さく舌打ちする秋人を博臣はマフラーを手繰り寄せ直しながら見下ろす。
「それなりに知恵があるようだな」
「人を猿みたいに言うな!?」
声を上げる少年を尻目に博臣はこのまま連れて行こうとする。が、秋人は丁度仕掛けておいたものを引っ張る。すると地面の上で張られていた縄が博臣の足元を掬い、彼は派手に尻もちをついた。秋人は形勢逆転と立ち上がると家の方へ戻ろうとする。
「やめろ!!引っ張るな!!」
「うっせ!!じゃ帰れ!!」
「そういうわけにはいかん!!」
ついには両者共にマフラーをそれぞれ引っ張り合う始末。その低レベルな押し問答に美月と志帆は呆れた眼差しを向けていた。
「「貴方達馬鹿でしょ」」
綱引きともいえる状況を見ながらこの場をどう収束させようかと考えていた志帆。だが、突如感じたものに咄嗟に声を荒げた。
「なにかくる!!」
志帆が切羽詰まった声を上げた瞬間、博臣と秋人の間を切り裂くように地面から紫色の触手が現れたのだった。咄嗟に志帆は美月を庇う中、触手はある1人の人物めがけて動き出す。それを見た博臣は歯を食いしばってマフラーを手元に引っ張った。その瞬間、秋人がいいた場所は触手により土埃が舞い上がった。
紛れもなく襲ってきた触手の標的は秋人だったのだ。
それを瞬時に悟った博臣は志帆とアイコンタクトを取る。そしてすぐに秋人を連れて森の中へ入るのだった。その背を追うように志帆も庭に降りると背後にいる美月に叫んだ。
「美月はこの場に居て!!いい!!」
そして訳がわからないと困惑する美月を置いて志帆も後に続くのだった。