徐々に動き出す歯車
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目の前の餌を食おうとした矢先での第3者の乱入。彼は不機嫌さを露呈させながら盛大に舌打ちすると大きな音を立てて立ち上がった。
「立て込み中なんだけど…
今じゃないとダメかな?名瀬のお坊ちゃん」
「…何が立て込み中だ
志帆を返してもらおうか」
爆音とともに姿を現したのは博臣。探し回った博臣は肩で息をしながらあの時出会った不審人物を睨みつけた。そんな博臣の視界に映るのは彼の背後で身体を震わす志帆だった。彼女の銀色の髪は乱れていて、着ている制服は肌蹴ていた。
「志帆に触れた落とし前…つけさせてもらうぞ!!」
志帆の姿を見た途端博臣は目の色を変えて、彼の懐に飛び込んだ。
「へぇ~やれるもんならやってみろよ!!」
彼はニヤリと好戦的な眼差しを向けると同様に飛び掛かった。その瞬間に二人の攻撃の一手がぶつかり合い、その衝撃波が円状に広がった。
「何が目的だ!?」
「偉ぶってる名瀬にちょっかいでも出そうかなと思ってたんだが…」
憤りをぶつける様に睨みを利かす博臣に対して青年は不敵な笑みを溢す。
「考えが変わった
あの子俺にくんねぇ?」
よくよく間近で見たらめちゃ美人じゃん。俺、欲しくなっちゃった。と、クスクスと笑みを溢す青年の言葉に博臣はゾクリと背筋が粟立つのを感じた。
「…ざけんな」
どんな言葉よりも先に博臣の口から出たのはその言葉だった。怒りを押し殺し、振り絞られたその声は自分が出したとは思えないほど重たく低い声だった。その怒りを滲ませている声音に青年は冷や汗を感じながら口端を釣り上げた。
「へぇ~そんなに大事な奴なのか??」
「あぁ」
「じゃあ猶更返したくねーな」
即答する博臣に青年は愉し気に喉を鳴らした。
「だったら力づくで奪い返すまでだ!!」
そう言い切った博臣はマフラーを薙ぎ振るった。その威勢の良さに青年は口笛を吹きながら宙に跳びあがり回避した。
「へへ…ちょっとは楽しめそうだな」
好戦的な眼差しを宿した青年は口角を上げると、建物の側面の壁を蹴り上げて一気に間合いを詰める。ビリビリと電気を纏わす青年に対して博臣は咄嗟に檻を張る。
「…電気!?」
「あぁ…そっか自己紹介がまだだったな」
驚きと困惑を滲ませる表情を浮かべる博臣に、青年は攻撃の手をやめると彼に向き合った。
「太古の昔に名瀬によって歴史の闇に葬られた数多の一族の中の末裔……雷迅蓮だ!」
声を張り上げて言い切った蓮は、未だに困惑する博臣にあっそっかと剽軽な声を溢した。
「雷迅一族は、ご覧の通り雷を扱う一族さ」
そう言うと蓮はパチンっと指を鳴らし、ビリッと電気を指に纏わせてみせた。その蓮の言い方は誇らし気。だがその一方で彼の表情は影を落としていた。
「歴史に葬られたってどういうことだ?」
「なんだ?お前知らねーの??」
意味が分からないと顔を顰める博臣に、蓮は心底驚いた表情を浮かべた。
「名瀬の常套手段さ
気に入らない、力が均衡している一族を闇に葬っていく
そうやって名瀬は確実にこの一帯の名家としての地位を確立させた」
蓮の口から吐き出される抑揚のない淡々とした声が、嘘だと願いたかった博臣に現実味を帯び立たせた。
「坊ちゃんには酷な話だったか?
でも名瀬に恨みを持っている奴らなんかゴロゴロいるぜ」
呆然と立ち尽くす博臣を嘲笑うように蓮は見下した態度を取った。名家の名瀬一族。異界士の端くれなら知らない者はいない。そんな彼らは異界士協会と対等に張り合える権力を握っていた。権力がある者ほど反感を抱かれやすい。嫉まれる。恨めしがられるのだ。
そして現に目の前にいる蓮もその一員だ。
力は有しているのに権力がない残念な一族
周囲の他の異界士に影で悪口を言われ続けた。凄い肩身が狭い思いを過ごしてきた。だからこそ必然の内に彼の心の底では名瀬に対する怒りが構築されていっていたのだ。
例えそれが目の前の彼のせいでないにしろ
己を睨む紅色の鋭い眼差し。その裏に潜むのは憎悪だった。その色を垣間見た博臣は力なく笑みを溢した。
これでも一応は名瀬の幹部である。多少の名瀬の事情も反感を買っていることも知っていると自負していた。だが、これは博臣自身も予想だにしない一族の深い闇事情だった。恐らく自分や美月の耳には入れないようにしていたのだろう。
「なるほど…事情はわかった」
「なんだ?やけに潔いな??」
呆気からんと身体を力を抜いた博臣に蓮は拍子抜けする。ここから怒涛の攻撃の展開を予想していたからだ。じゃあ逆に素直にくたばってくれるのかと思いきや蓮の瞳に映るのは、凛とした立ち姿の博臣だった。
「俺がその闇を払拭してやる」
「はぁ??お前正気か??」
蓮は己の耳を疑った。だが、目の前の彼は生半可な気持ちで言い切ったわけではなかった。視線を逸らすことなく真っ直ぐに真剣な面持ちを見せる彼の姿は先ほど坊ちゃんと茶化していたものと比べ物にならないくらいデカい存在に蓮は見えてしまったのだ。
「当たり前だ
今は何も力がないが、いずれは…」
途中で言葉を区切った博臣は視線を志帆に向ける。一瞬彼女に向けた表情は決意を決めている凛々しい男の顔。その表情に呆気にとられる蓮に視線を戻すと博臣は啖呵を切った。
「名瀬の闇も古い風習もなくしてやる!!」
「へぇ~?お前がか??
名瀬の闇は根深いぜ
それに古い風習を簡単に変えられるとは俺には思えないな」
「わかってるさ
それでも俺はやり切る
大切な存在を守り切るためにな」
勘繰るように眼光を光らせた蓮の眼差しを博臣は視線を逸らすことなく言い切った。そのまっすぐな言葉に、強い決意の塊に、蓮はハハッと小さな笑みを溢しながら、天井を仰いだ。
コイツは本気でやろうとしている
正直イカレている。このままその地位を権力を保っていればいいものをそれをあえて根本から崩そうとしているのだから。
「なんだ?俺には出来ないと言いたいのか?」
「いや…わりぃ…その逆だ」
不自然に笑いだす蓮に博臣は怪訝な表情を浮かべた。その彼に笑いながら軽く謝りの言葉をかけると蓮は視線を戻しニヤリと口角を上げた。
「お前にかけてみたくなった」
「……!?」
「っーわけで…」
蓮はポケットから銀色に光るものを取りだすと、博臣の足元に投げ捨てた。そして驚く彼の脇を通り抜けた。
「返すよお前の大切なもの
その代わり…
今言い切った言葉忘れんじゃねーぞ
達成しなかったら今度こそお前らを襲ってやるからな」
扉の前で立ち止まり、ぶっきらぼうに吐き捨てると蓮は強張らせていた頬を緩ます。そして悪かったなと静かに最後の言葉を言い残してこの場から姿を消すのだった。
その背を茫然と見送った博臣は地面に転がった鍵と指輪を拾い上げて、志帆の元へ向かった。
「…志帆!!」
「博臣…」
急いで彼女に架せられた手錠を外し、肌蹴た制服を正すと博臣は彼女を強く抱き寄せた。ビクリと一瞬身体を強張らせるが、直ぐに安心しきったのか彼女は博臣に身を預けた。
さきほど言い寄られていた嫌悪感とは全く違う、博臣の温もりと匂いに包まれた志帆は彼の腕の中でそっと目を閉じた。
「ありがと、助けに来てくれて」
「無事でよかった…
美月に呼ばれていった場所に志帆がいなくて肝が冷えた」
安堵する志帆に対して、ようやく志帆が無事だったとこを実感した博臣は震える声を発した。心臓が止まりそうになった。襲撃してきた相手だけならまだしもその者と対峙していた志帆の姿が見えないことに。
「ごめん、心配かけた」
「いい
志帆が無事ならそれでいい」
申し訳なさそうに呟く志帆に、博臣は抱く力を緩めて彼女の顔を見て答えた。目尻を下げる博臣に志帆は頬を緩ました。が、先ほど彼が言い切った言葉には内心困惑していた。
「博臣、本気なの??」
「何がだ??」
「あの…さっき言った言葉」
心配そうに見つめる志帆に対して博臣はキョトンとした表情をする。が、ようやく彼女が何を言いたいのか分かった博臣は、フッと息をつき真剣な面持ちを浮かべた。
「本気だ
今はまだ無理だが、いつかはぶち壊してやる」
「そ…そっか…」
ニヤリと不敵に口角を上げる博臣に対して志帆は不安感が押し寄せる。もしこの古の風習がなくなったら私の立ち位置はどうなるのだろうかと。側近として仕えられなくなったら彼の側にいられなくなるのではないかと思ったのだ。
「だから待っててくれ」
「へぇ!?」
「俺が変えてやるから、志帆は待ってろ」
だが、志帆の不安を払拭させるような真っ直ぐな言葉を博臣は落としていった。その言葉に志帆の胸は高鳴った。
信じてもいいのだろうか?
少しは望みを抱いていいのだろうか?
遠回しな言い方に高揚と不安が入り混じる中、志帆は小さく頷くのだった。
未来がどうなるかはわからない。
ずっとこの先彼の隣に入れるとは限らないのは重々承知だ。
それでも今は名瀬のために出来る限りのことはしようと、志帆は気を引き締めるのだった。
「帰るぞ、美月が心配してる」
伸ばされた手を志帆は掴み取り立ち上がり歩き出す。その手の指には既にいつも彼女が身につけている指輪が戻っていた。
帰ったら泣きじゃくる美月から一言二言小言を言われ、暫く解放されないであろう遠くない未来に顔を引き攣らせながら、強く握ってくれる彼の手を握り返すのだった。
「立て込み中なんだけど…
今じゃないとダメかな?名瀬のお坊ちゃん」
「…何が立て込み中だ
志帆を返してもらおうか」
爆音とともに姿を現したのは博臣。探し回った博臣は肩で息をしながらあの時出会った不審人物を睨みつけた。そんな博臣の視界に映るのは彼の背後で身体を震わす志帆だった。彼女の銀色の髪は乱れていて、着ている制服は肌蹴ていた。
「志帆に触れた落とし前…つけさせてもらうぞ!!」
志帆の姿を見た途端博臣は目の色を変えて、彼の懐に飛び込んだ。
「へぇ~やれるもんならやってみろよ!!」
彼はニヤリと好戦的な眼差しを向けると同様に飛び掛かった。その瞬間に二人の攻撃の一手がぶつかり合い、その衝撃波が円状に広がった。
「何が目的だ!?」
「偉ぶってる名瀬にちょっかいでも出そうかなと思ってたんだが…」
憤りをぶつける様に睨みを利かす博臣に対して青年は不敵な笑みを溢す。
「考えが変わった
あの子俺にくんねぇ?」
よくよく間近で見たらめちゃ美人じゃん。俺、欲しくなっちゃった。と、クスクスと笑みを溢す青年の言葉に博臣はゾクリと背筋が粟立つのを感じた。
「…ざけんな」
どんな言葉よりも先に博臣の口から出たのはその言葉だった。怒りを押し殺し、振り絞られたその声は自分が出したとは思えないほど重たく低い声だった。その怒りを滲ませている声音に青年は冷や汗を感じながら口端を釣り上げた。
「へぇ~そんなに大事な奴なのか??」
「あぁ」
「じゃあ猶更返したくねーな」
即答する博臣に青年は愉し気に喉を鳴らした。
「だったら力づくで奪い返すまでだ!!」
そう言い切った博臣はマフラーを薙ぎ振るった。その威勢の良さに青年は口笛を吹きながら宙に跳びあがり回避した。
「へへ…ちょっとは楽しめそうだな」
好戦的な眼差しを宿した青年は口角を上げると、建物の側面の壁を蹴り上げて一気に間合いを詰める。ビリビリと電気を纏わす青年に対して博臣は咄嗟に檻を張る。
「…電気!?」
「あぁ…そっか自己紹介がまだだったな」
驚きと困惑を滲ませる表情を浮かべる博臣に、青年は攻撃の手をやめると彼に向き合った。
「太古の昔に名瀬によって歴史の闇に葬られた数多の一族の中の末裔……雷迅蓮だ!」
声を張り上げて言い切った蓮は、未だに困惑する博臣にあっそっかと剽軽な声を溢した。
「雷迅一族は、ご覧の通り雷を扱う一族さ」
そう言うと蓮はパチンっと指を鳴らし、ビリッと電気を指に纏わせてみせた。その蓮の言い方は誇らし気。だがその一方で彼の表情は影を落としていた。
「歴史に葬られたってどういうことだ?」
「なんだ?お前知らねーの??」
意味が分からないと顔を顰める博臣に、蓮は心底驚いた表情を浮かべた。
「名瀬の常套手段さ
気に入らない、力が均衡している一族を闇に葬っていく
そうやって名瀬は確実にこの一帯の名家としての地位を確立させた」
蓮の口から吐き出される抑揚のない淡々とした声が、嘘だと願いたかった博臣に現実味を帯び立たせた。
「坊ちゃんには酷な話だったか?
でも名瀬に恨みを持っている奴らなんかゴロゴロいるぜ」
呆然と立ち尽くす博臣を嘲笑うように蓮は見下した態度を取った。名家の名瀬一族。異界士の端くれなら知らない者はいない。そんな彼らは異界士協会と対等に張り合える権力を握っていた。権力がある者ほど反感を抱かれやすい。嫉まれる。恨めしがられるのだ。
そして現に目の前にいる蓮もその一員だ。
力は有しているのに権力がない残念な一族
周囲の他の異界士に影で悪口を言われ続けた。凄い肩身が狭い思いを過ごしてきた。だからこそ必然の内に彼の心の底では名瀬に対する怒りが構築されていっていたのだ。
例えそれが目の前の彼のせいでないにしろ
己を睨む紅色の鋭い眼差し。その裏に潜むのは憎悪だった。その色を垣間見た博臣は力なく笑みを溢した。
これでも一応は名瀬の幹部である。多少の名瀬の事情も反感を買っていることも知っていると自負していた。だが、これは博臣自身も予想だにしない一族の深い闇事情だった。恐らく自分や美月の耳には入れないようにしていたのだろう。
「なるほど…事情はわかった」
「なんだ?やけに潔いな??」
呆気からんと身体を力を抜いた博臣に蓮は拍子抜けする。ここから怒涛の攻撃の展開を予想していたからだ。じゃあ逆に素直にくたばってくれるのかと思いきや蓮の瞳に映るのは、凛とした立ち姿の博臣だった。
「俺がその闇を払拭してやる」
「はぁ??お前正気か??」
蓮は己の耳を疑った。だが、目の前の彼は生半可な気持ちで言い切ったわけではなかった。視線を逸らすことなく真っ直ぐに真剣な面持ちを見せる彼の姿は先ほど坊ちゃんと茶化していたものと比べ物にならないくらいデカい存在に蓮は見えてしまったのだ。
「当たり前だ
今は何も力がないが、いずれは…」
途中で言葉を区切った博臣は視線を志帆に向ける。一瞬彼女に向けた表情は決意を決めている凛々しい男の顔。その表情に呆気にとられる蓮に視線を戻すと博臣は啖呵を切った。
「名瀬の闇も古い風習もなくしてやる!!」
「へぇ~?お前がか??
名瀬の闇は根深いぜ
それに古い風習を簡単に変えられるとは俺には思えないな」
「わかってるさ
それでも俺はやり切る
大切な存在を守り切るためにな」
勘繰るように眼光を光らせた蓮の眼差しを博臣は視線を逸らすことなく言い切った。そのまっすぐな言葉に、強い決意の塊に、蓮はハハッと小さな笑みを溢しながら、天井を仰いだ。
コイツは本気でやろうとしている
正直イカレている。このままその地位を権力を保っていればいいものをそれをあえて根本から崩そうとしているのだから。
「なんだ?俺には出来ないと言いたいのか?」
「いや…わりぃ…その逆だ」
不自然に笑いだす蓮に博臣は怪訝な表情を浮かべた。その彼に笑いながら軽く謝りの言葉をかけると蓮は視線を戻しニヤリと口角を上げた。
「お前にかけてみたくなった」
「……!?」
「っーわけで…」
蓮はポケットから銀色に光るものを取りだすと、博臣の足元に投げ捨てた。そして驚く彼の脇を通り抜けた。
「返すよお前の大切なもの
その代わり…
今言い切った言葉忘れんじゃねーぞ
達成しなかったら今度こそお前らを襲ってやるからな」
扉の前で立ち止まり、ぶっきらぼうに吐き捨てると蓮は強張らせていた頬を緩ます。そして悪かったなと静かに最後の言葉を言い残してこの場から姿を消すのだった。
その背を茫然と見送った博臣は地面に転がった鍵と指輪を拾い上げて、志帆の元へ向かった。
「…志帆!!」
「博臣…」
急いで彼女に架せられた手錠を外し、肌蹴た制服を正すと博臣は彼女を強く抱き寄せた。ビクリと一瞬身体を強張らせるが、直ぐに安心しきったのか彼女は博臣に身を預けた。
さきほど言い寄られていた嫌悪感とは全く違う、博臣の温もりと匂いに包まれた志帆は彼の腕の中でそっと目を閉じた。
「ありがと、助けに来てくれて」
「無事でよかった…
美月に呼ばれていった場所に志帆がいなくて肝が冷えた」
安堵する志帆に対して、ようやく志帆が無事だったとこを実感した博臣は震える声を発した。心臓が止まりそうになった。襲撃してきた相手だけならまだしもその者と対峙していた志帆の姿が見えないことに。
「ごめん、心配かけた」
「いい
志帆が無事ならそれでいい」
申し訳なさそうに呟く志帆に、博臣は抱く力を緩めて彼女の顔を見て答えた。目尻を下げる博臣に志帆は頬を緩ました。が、先ほど彼が言い切った言葉には内心困惑していた。
「博臣、本気なの??」
「何がだ??」
「あの…さっき言った言葉」
心配そうに見つめる志帆に対して博臣はキョトンとした表情をする。が、ようやく彼女が何を言いたいのか分かった博臣は、フッと息をつき真剣な面持ちを浮かべた。
「本気だ
今はまだ無理だが、いつかはぶち壊してやる」
「そ…そっか…」
ニヤリと不敵に口角を上げる博臣に対して志帆は不安感が押し寄せる。もしこの古の風習がなくなったら私の立ち位置はどうなるのだろうかと。側近として仕えられなくなったら彼の側にいられなくなるのではないかと思ったのだ。
「だから待っててくれ」
「へぇ!?」
「俺が変えてやるから、志帆は待ってろ」
だが、志帆の不安を払拭させるような真っ直ぐな言葉を博臣は落としていった。その言葉に志帆の胸は高鳴った。
信じてもいいのだろうか?
少しは望みを抱いていいのだろうか?
遠回しな言い方に高揚と不安が入り混じる中、志帆は小さく頷くのだった。
未来がどうなるかはわからない。
ずっとこの先彼の隣に入れるとは限らないのは重々承知だ。
それでも今は名瀬のために出来る限りのことはしようと、志帆は気を引き締めるのだった。
「帰るぞ、美月が心配してる」
伸ばされた手を志帆は掴み取り立ち上がり歩き出す。その手の指には既にいつも彼女が身につけている指輪が戻っていた。
帰ったら泣きじゃくる美月から一言二言小言を言われ、暫く解放されないであろう遠くない未来に顔を引き攣らせながら、強く握ってくれる彼の手を握り返すのだった。