終止符を
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「……??」
久々に志帆の部屋に足を踏み入れた博臣は些細な変化に気づき怪訝な表情を浮かべた。生活感ありふれていたその空間は妙に整理整頓されていて、荷物が減っていた。頻繁に出入りしていなければわからない些細な変化。その変化に妙に勘が鋭い博臣は気づいてしまった。
「博臣?どーかした??」
そんな彼を不思議そうに思いながら志帆は窓を開けた。夏真っ盛りの夜だが、冷房を入れる前に換気が必要だと取った行動。だが、窓から入ってくるのは昼間に随分と熱せられた生暖かい夏風だった。
「やっぱり暑いな…」
この環境下に鬱陶し気に嘆いた志帆はふと振り返る。すると半袖なのにマフラーを首に巻いている見るからに暑苦しそうな博臣。その矛盾する姿に志帆はげんなりとした眼差しを向けた。その視線に、はて?と博臣は首を捻った。
「…どーした?」
「いや…
見慣れててもその姿は暑苦しと思って…」
見ているだけで暑さ倍増だと、志帆は手で扇いだ。そんな彼女に呆れた眼差しを博臣は向ける。
「暑いのを俺のせいにするな
そんなに暑いなら鉄扇で扇げばいいだろう」
「そんなそよ風みたいな風を作れれば苦労しません」
彼の冗談交じりの言い返しに志帆は盛大に肩を竦めて見せた。
一振りすれば意図も簡単に生み出される暴風
だが、その風は力加減はできないものだった
「はぁ…ホントに暑い…
なんとかならない??」
この暑苦しさから脱したいと、何かいい案を志帆は求める。だが、それに対して密かに博臣は不敵な笑みを溢した。
「…あるぞ」
「えっ?なに??」
「こうすればいい…」
ズンズンと近寄った博臣は、呆ける志帆を颯爽と担ぐとすぐ傍にあったベッドに放り込んだ。スプリング音と共に、柔らかい感触。投げ込まれてもどこか他人事のように感じていた志帆だが、後に続く形でベッドに上がってきた博臣の姿に目を白黒させた。
「えっ…ちょ…ま…」
己の目の前でマフラーを取り、上着を脱ぎ上半身を露わにした博臣に流石にまだ早いとアタフタとしだす志帆。だが、そんな彼女の反応など想定範囲内だと博臣は構うことなく起き上がろうとした志帆を押し倒した。
「…待てない」
「いや…せめて…お風呂に…」
「却下だ」
せめてさっぱりさせてくれと顔を赤くしながら目の前の逞しい胸板を志帆は押す。しかし全く彼の身体は動くことなかった。そんな可愛らしい彼女の制止を博臣はバサリと斬り捨てると彼女の唇に噛みついた。
「んっ…」
「どれだけ我慢させられていると思ってるんだ
ただでさえ、周囲の目を気にして触れることすらできないのに…」
吸いつく度に甘い吐息を漏らす志帆に熱い柳緑色の眼差しを博臣は向けた。その彼の自分を求める瞳に志帆の心臓は大きな脈を打った。彼が触れる度にヒンヤリとした冷たい心地よいものを感じるのだが、それは一瞬。彼が触れてくれるとわかった途端、その場所は熱を帯びた。
どうせ彼のことだ
自分を使って涼めばいいと考えたのだろう
だが、涼めるわけがない
暑かった身体は増々火照って熱くなってしまった
この火照りは冷房を入れただけでは収まってくれそうにない熱さだった
「博臣のせいで凄い熱いッ!!」
なんてことしてくれるのだと潤んだ青い眼差しで志帆は恨めし気に飄々としている彼を睨み上げた。
「全然涼しくない!
こうなったのアンタのせいなんだから
ちゃんと責任取ってッ!」
その同意ともとれる志帆の悪態に、待ってましたと博臣は口角を上げた。
「もちろん端からそのつもりだ」
餌に狙いを定める猛獣のように柳緑色の瞳を細めた博臣は、馴れた手つきで志帆の服の中に手を入れてフックを外すのだった。
*****
「たく…激しすぎ…」
ぐったりとした重い身体を起こした志帆は深く息を吐きだした。ふと隣に視線を投げるとそこにはスヤスヤと寝息をたてる博臣がいた。そんな彼を愛おしそうに志帆は眺めた。
あぁ…やっぱり好きだな
そっと手を伸ばした志帆は彼の頭をゆっくりと撫でていく。が、何度か撫でたその手は名残惜しそうに離れる。その手を離した志帆は淋し気に微笑んでいた。
「…!?」
ベッドサイドを離れようとする腰を上げようとした志帆。だが、それを拒むように彼女の腕は強い力で掴まれた。
「…どこに行く気だ?」
志帆の腕を掴んだ博臣は暗闇の中、真っ直ぐに彼女を見据えた。そのハッキリとした彼の眼差しにもう既に起きていたのだなと察した志帆は困ったように目尻を下げると、ゆっくりと噤んでいた口を開いた。
「ねぇ、博臣…」
「なんだ??」
「私達、別れようか?」
サラリと自然な流れで言語化された言葉に博臣は言葉を失った。目の前で悲し気に微笑する彼女の真意が掴めなかったのだ。グッと唇を噛みしめ俯いた博臣は離したら何処かに行ってしまいそうな彼女の手をしっかりと掴み直した。
「…愛想つかしたか?」
「まさか?」
彼女の言おうとする続きの言葉に声を震わした博臣を志帆は軽く笑い飛ばした。珍しく狼狽する彼の姿に驚きながらも志帆は彼の頬に手を伸ばした。
「愛想つかすわけないじゃん。
もう抑えきれないほど愛おしいと思う気持ちは膨らむ一方だよ」
「じゃ…なんで…」
「もうこれ以上博臣の傍にいれなくなったからだよ」
触れた感触に顔を上げた博臣は優しい声音で紡がれる言葉に困惑する。それに構わず柔らかく微笑んだ志帆はグッと身を乗り出した。その反動でギシッと体重が乗せられたベッドが軋んだ。
「…志帆??」
目の前にいるのは妙に色っぽく妖艶に微笑む志帆。だが普段と違う彼女に博臣の脳裏では警笛が鳴り響いていた。
一体彼女は何を抱えていて、何をしようとしているのだろうか…
真意を探ろうと口を開こうとする博臣。だが、それは志帆により噤まれてしまった。
「ゴメン…博臣」
両手で彼の頬を包み込み、か細い声で謝罪の意を口にした志帆が唇を重ねてきたのだ。
「....?!」
強引に入ってきた固形物に直観的に嫌な予感を感じた博臣は直ぐに身を逸らそうとする。が、離れようとする博臣を逃がさないとばかりに志帆は彼をベッドに押し倒し縫い付けた。そのまま拒む彼に無理やり唾液と共にその固形物を飲ませるのだった。
飲ませ終えた志帆は彼から離れようとする。しかし、このままやられっぱなしは性に合わないと博臣は、彼女の後頭部に手を回した。
こうなったらやけ糞だ
仕返しとばかりに博臣は用は済んだと出ていこうとする彼女の舌に噛み付くように強引に絡ました。
そのまま両者は互いに互いを求め合うように舌を絡めあった。
息が続く限りに何度も何度も。
互いに乱れる吐息と唾液音をたてた二人は、名残惜しそうに離した。その二人の口元からは銀の糸が引いた。
「ハァ...ハァ...」
暫くしてようやく離れた二人は酸素不足を解消しようと肩で息をする。そんな二人の頬は互いにほんのりと赤く高潮していた。だが、博臣の視界は鈍器で殴られたかのようにグラっと歪んだ。
「…ッ!?」
「大丈夫だよ、ただの強力な睡眠薬だから」
「…いッ…行くな…志帆」
「大好きだよ、博臣…
私、博臣に会えて幸せだったよ」
意識が遠くなっていくなか必死に彼女を繋ぎとめようと声を出す。だが、彼の意識に反して瞼は重くなった。そんな彼が最後に見たのはまるで最後の別れとでも言わんばかりに哀し気に微笑む志帆の姿だった。