徐々に動き出す歯車
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「ウッ....ここは??」
薄っすらとまだ重たい瞼を開けると、志帆の視界に映ったのは、見覚えのないコンクリートの天井。
ずっと同じ姿勢で寝ていたからか、ひんやりと冷たいコンクリートの硬い床のせいで背中が痛く、志帆は早くその痛みから逃れるために起き上がろうとする。
ジャラリ...
何故か違和感を覚える音が鳴り響く。と、同時に起き上がりにくかったなとふと手元を見る。寝起きの悪い志帆の霧がかった視界には、ぼんやりと両手首を繋ぐ銀色の鎖が入る。
「え???」
いやいやまさか??と腕を横に伸ばそうと手首をとりあえず引っ張るとカシャンと甲高い音が鳴るだけ。両手一杯に伸ばすことできず眼の前にある己の手。
流石に危機感を覚え、血相を変えるように辺りを見ると、窓一つないコンクリートの壁で囲まれた薄暗い部屋だとようやく気づく。そして己の両手には簡単に外れることのない金属製の手錠がかけられており、その手錠に繋がったある程度の長さを持つ太い鎖はコンクリートの壁に続いていた。
サーッと志帆の顔から血の色が失せていく。
が、このまま呆然と座り込んでいても状況が悪化する一方だと志帆は何時も携帯している物を不器用な手で探すのだが...
「...流石に没収されてるか」
誘拐した相手がそこまで馬鹿ではなかったらしく用意周到にピッキングのために入れてる物も携帯電話も鉄扇に変わる指輪も無かった。
なら、異能で手錠の鎖を破壊して両手を自由に動かせるようにするしかない
荒業を使おうと両手に意識を集中する。が、一向にいつものような淡い橙色の光が灯ることなく盛大に肩を落とした。
「やっぱり、異能無効化の手錠」
志帆は忌々しげに己の自由と力を奪う元凶の手錠を睨みつけた。
状況を把握した志帆はようやく回りだした思考を巡らしだす。
ここはどこなのか?
青年の目的はなんなのか??
考えだしたらキリがない。逃げ出すすべもなく、青年の目的が分からない今志帆が取るべき行動は何もなかった。
「おっ!?ようやくお目覚めか?」
薄暗い部屋に一筋の光が差し込める。急に明るくなった視界にまぶしすぎて志帆は目を細めて不自由な両手で光を遮った。唯一の出入り口である扉。そこからおどけた声と共に入ってきたのは志帆自身をこの場に攫い閉じ込めている元凶だった。
「貴方の目的はなに??
名瀬にでも恨みがあるの??」
「まぁそうだな…」
睨みを利かせる志帆に悠々とゆっくりとした足取りで近づいた青年は、もったいぶるように言葉を区切ると口角を上げるのだった。
「最初は確かにそうだ
名瀬に虐げられた恨みを晴らそうと思っていた」
「……思っていた??」
じゃあ今は!?と志帆が彼の真意が掴めず困惑していると、目の前の青年はグッと志帆との距離を縮めた。一瞬で距離を縮められ、間近にある胡散臭い笑みを浮かべる青年に志帆は顔を顰めた。そんな志帆のことなど気にもせずに青年は口を開いた。
「気が変わったんだよ…
俺はアンタが欲しい
風魔一族のお嬢さん」
そう言うと熱を帯びた紅色の瞳を彼は細めると手を伸ばす。が、ゾッと背筋が粟立ち嫌悪感を抱いた志帆は顔に伸びてくる手を振り払い、眼光を光らせた。
「いきなり攫って拘束しといて私が欲しい!?
戯言を抜かさないで!
それに私は瀬那一族よ!!」
目の前の彼の言っていることが一ミリもわからないと志帆は声を荒げた。その反応に彼は目を白黒させ、盛大にため息を吐いた。
「アンタそれ本心で言ってるのか??」
「さっきから何意味わからないことを言ってるの?」
「そりゃあコッチのセリフだ」
心底呆れかえった表情を浮かべる彼は深い息を吐いた。目の前の彼女の一声で事情は呑み込めた。恐らく彼女は何も知らされていないのだろうと。ヤレヤレと肩を竦めると彼は懐から取り出した銀色の指輪を指で弾く。弾き飛ばされたその指輪は志帆の目の前で再び彼の掌に収まった。
「…ッ!!返して!!」
ガシャン!!
形相を変えて志帆は彼に噛みつこうとするが、壁に繋がれている鎖がそれを拒み、虚しい金属音が鳴り響いた。その血相を変えた志帆の表情に彼は目の色を変えて口端を釣り上げた。
「いいねぇ~
その表情そそられるわ」
「…ウッ!!」
ガシッと掴まれ志帆は壁に背を打つ。その衝撃で鎖の金属音が鳴る。背を打った志帆は痛みで呻き声を上げる。そんな彼女にグッと青年は顔を近づけた。
「可哀想に…
なんも自分のことを知らされてないなんてな…
いや待てよ…敢えて聞かされてなかったのか?」
自分を見つめるのは憐みの色を滲ませる紅色の眼差し。その眼差しは、志帆が困惑するには十分だった。
「貴方は私の何を知ってるの??」
「少なくともアンタが今疑問に抱いていることに関してなら教えてあげられるぜ?」
ゴクリと唾を呑んだ志帆は真っ直ぐ彼を見つめた。その志帆に彼は色っぽい笑みを浮かべながら微笑むと、志帆の顎を指でクイッと持ち上げた。
「まぁ?ただしアンタが俺の物になったらの話だがな」
「……!?!?」
「さぁ~どうする??風魔一族の血を持つお嬢さん??」
グッと志帆は唇を噛んだ。答えはもちろん否だ。だが、すぐに彼の誘惑を拒絶できなかった。彼が知っている己のことを知りたいという興味深と葛藤していたのだ。そんな躊躇する志帆に構うことなく冷めた目つきで彼は見下ろした。
「まぁ答えがどうあれ奪うまでだがな」
ハッと息を呑んだ志帆は視界が一転する。志帆は一瞬で床に縫い付けられていたのだ。ほくそ笑んだ彼は志帆の制服に手を伸ばした。その行動に志帆は目の色を変え必死に逃れようと身じろぐ。が、手錠で繋がれた両手は頭上で一括りにされており拒むことが叶わなかった。
「い…いや!!」
「喚くな!アンタには拒否権なんかねぇーんだからよ」
さて、楽しませていただこうかとペロッと出した舌で下唇をなめる。が、背後で聞こえた爆音で寸止めを喰らわせられるのだった。