徐々に動き出す歯車
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「久しぶりに一緒にやらない??」
異界士証を返して貰った未来は、嬉しそうにお金を稼ごうと部室を慌ただしく出ていった。
その後志帆は何を思ったのか博臣に誘い文句を言った。虚ろの影の1件は別枠として捉えると、彼と一緒に妖夢を討伐しに夜の街に繰り出したのはいつだっただろうか?と思ったからだ。
もちろん志帆のお誘いに博臣が首を横に振るはずがなく、嬉しそうに頬を緩ますのだった。
「で??何か目星は付けているのか??」
日が落ちて街に繰り出した博臣は、隣にいる志帆に尋ねた。
「もちろん!!」
志帆はニヤリと口角を上げながら懐から紙を見えるように出す。
「泉姉さんからか?」
「あったり!」
「なんか最近お騒がせの妖夢が長月市に流れ込んできたらしくてね。ちょっと行ってきてって言われてさ」
アハハっと空笑いする志帆に、博臣は肩を落とす。泉からの仕事なら一筋縄ではいかないと知っているからだ。
「...帰っていいか?」
1抜けするために踵を返そうとする博臣を当然志帆が逃がすわけなくガシリと彼の腕を掴んだ。
「駄目に決まってるでしょ?」
確かに博臣と久しぶりに一緒に妖夢討伐したいのもあるが、一番の目的は彼の力を頼ることなんだから。
ニコリと不敵に笑みを浮かべた志帆の表情に、博臣は逃げられないと小さく抵抗する身体の力を抜くのだった。
「はぁ...終わったら今晩泊まるからな」
「そのくらいお安いご用ですよ」
まんまと思い通りに事がいったことに、志帆はしてやったりの顔を浮かべるのだった。
*****
「………これか」
「恐らく……」
「想像とだいぶ違うがサッサと片付けるか」
目の前に対峙する妖夢を一瞥し深く息をついた博臣はパッと纏わす空気をガラリと変え真剣な面持ちで首元に巻かれているマフラーに手をかける。その隣で志帆は鉄扇を具現化させた。
「行くぞ、志帆」
「りょーかい!!」
目つきを変えた博臣の一声と共に、志帆は跳びあがり扇を広げた鉄扇を豪快に横に薙ぎった。その途端にこの一帯に風が吹き荒れる。その鋭利な攻撃の一手をガタイが大きいながらも目の前の妖夢は器用にそれをかわした。その動く先をあらかじめ予測していた博臣が檻を張り閉じ込めようとする。が、寸で避けられてしまう。一気に片をつけようと思っていた博臣は小さく舌打ちをした。その彼に大きな鋭い爪が襲い掛かる。
「…クッ!!」
その攻撃を博臣がかわすと同時に、橙色の鎖がその妖夢の手に何重にも絡みついた。が、その鎖も妖夢の力ですぐに強引に引き裂かれる。
「あ~ぁ」
「図体がデカくて腕っぷしが強いのにすばしっこい…
厄介だな」
落胆する志帆の隣に博臣が着地する。そして一癖も二癖もある妖夢に対して双方は苦虫を潰した表情を浮かべた。
「さて…どうする??」
「一先ずなんとか檻の中に入れないと…」
「まぁ入れてしまえば
俺と志帆の力で押し切れば終いだからな…」
怒り狂う妖夢の攻撃をかわしながら次なる策を練る。妖夢を檻の中に入れてしまえばゴリ押しで収縮させて消滅させればいい。問題は、どうやってそこまで持っていくかだ。
「……私が引き付ける」
意を決すると志帆は鉄扇を構えなおしキンッと金属音を響かせた。檻を張るのに博臣は集中する必要がある。だったら少しでも彼から注意を逸らさないといけない。だったらその役を買って出るしかないと志帆は目を細め口角を上げた。そんな彼女を不安そうに博臣が見つめる。
「…平気か??」
「誰にもの言ってるの?余裕よ」
強気な志帆の口調と彼女の瞳に宿る炎に、心配は野暮だったなと博臣は口元を緩めた。
「じゃ任せたぞ」
「出来るだけ早めに頼むね」
互いに目線をかちあわせた後、二人は散る。一気に駆け出した志帆は妖夢の目の前へ。そして手元に橙色の光を浮かび上がらせた志帆はその手を前に振りかざした。
「…クッ!!」
途端に妖夢の四肢に強固な鎖が絡みつく。その鎖の長さは更に伸びていき身体を締め上げる。それに対して妖夢は呻き声を上げながら体を左右に揺り動かす。もう鎖が長く持たないことを重々把握している志帆はすぐさま鉄扇の扇を広げて鋭利な風を妖夢にぶつけまくった。宙に舞ったまま何度も何度も。そして極め付きには妖夢の脳天を鉄扇を突き刺した。
「…博臣!!」
「わかってる!!」
再び飛び上がった志帆からの張り上げた一声と共に、博臣が淡い青色の光を纏わした両手を前に突き出した。途端に巨大な檻が完成する。その周囲にすぐさま志帆が橙色の鎖を纏わした。そして志帆は博臣の隣にふわりと着地する。二人は真っ直ぐ抵抗する妖夢を見据えながら力を加えていく。
「「グッ!!」」
二人はタイミングを合わせて拳を握りしめて己の方へ引く動作をする。それに合わせて檻は一気に収縮。毬玉のように圧縮された檻はパチンと妖夢と共に弾けるように消え、淡い青と橙色の残光が辺りに残るのだった。その光景を見ながら二人はふぅーと深く息をつくと顔を見合わせて拳を合わせるのだった。一先ずホッと胸を撫でおろす二人。だが、パチパチと手を叩く音が聞こえハッと二人は緊張した面持ちで背後を振り向くのだった。
「いやぁ~お見事お見事…」
薄暗い場所から感嘆の声を上げて歩いてくる一人の青年。そして街灯の光に照らされたことで青年の姿がハッキリと浮かび上がった。全身を真っ黒のスーツで引き締めた青年の髪は金色の短髪、その頭には黒のサングラスをかけており、深紅の瞳がうす気味悪く輝きを放っていた。そんな彼の急な登場に博臣と志帆は険しい面持ちをし目線を鋭くする。
「…何者だ」
「いやだなぁ~そんな警戒しないでくださいよ
キミたちと同じ異界士ですよ」
笑みを絶やさずまま彼は警戒心を解こうと異界士証を懐から取り出し二人に見えるように前に突き出す。確かにそれは紛れもなく本物であったため二人は不審に思いながらも少し警戒心を緩める。
「なにか御用ですか??」
「いや?
偶々通りかかったら鉄扇を振りかざす貴女を目撃してね…
少し興味を抱いただけです」
口端を釣り上げた彼は深紅色の瞳を細めて不敵に笑みを浮かべる。そして恭々しく胸に手を当てて頭を下げて意味深な言葉を吐くのだった。
「貴女にお会いできて光栄です
もし次があったらゆっくりと二人で語らいたいものです」
「…え??」
「お…おい!!」
頭を下げた彼がほくそ笑む。その彼が纏う雰囲気がガラリと変わったこと、そして彼が言った言葉の真意に博臣が噛みつこうとする。が、既にその場からは彼の姿は消えていたのだった。
「一体、何者??」
「志帆、気をつけろよ
絶対アイツは何か企んでる」
「わかってるよ…」
結局、突如現れた青年の目的はわからぬまま。そのまま蟠りを残したまま二人は帰路につくのだった。