徐々に動き出す歯車
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「そういえば美月と二人っきりって久しぶりだよね」
「何時も変態兄貴が傍にいるからね」
放課後カフェで久しぶりの一時を堪能した志帆と美月は肩を並べて帰路についていた。他愛ない話をしながら歩く二人。だが、彼女達の遥か後方からコツコツと二人に迫りよる足音が近づいていた。その人物はニヤリと不気味な笑みを浮かべていた。
「......志帆」
「何??」
二人は誰にも気付かれないようにアイコンタクトをとる。伊達に異界士を名乗ってるわけではない。二人はしっかりと迫りくる不審者を感づいていたのだ。
妖夢か??
それともただのストーカーか??
幾つもある可能性。だが、確実にこれは手慣れた犯行。加えて、最近感じる何か獲物を狙うための機会を伺うような嫌な視線に心当たりがあった志帆はある一つの結論に達した。
名瀬に恨みがある異界士!!
ハッとする志帆。だが、それと同時に地面を振動させながら強烈な勢いで何かが襲いかかってっくる気配。慌てて二人は左右に飛び上がって回避した。着地の衝撃を和らげながら、二人は警戒心を露わに後方を振り返った。
すると、そこには美月にとっては知らない人物・志帆にとっては直近で顔を見たことがある人物が居たのだった。
「あれ?不意をついたんだけどな?」
「誰??」
「私達に何か御用??」
キョトンと驚き目を見開く金髪の男性に、志帆は険しい表情を浮かべた。そんな彼女の表情なんて気にすることなく、彼は胡散臭い笑みを浮かべながら近づいてきた。
「いやぁ...偶々お見かけしたんでご挨拶しようと」
「奇襲の間違えじゃない??」
「間違えじゃないですよ
名瀬美月さん」
「とんだ挨拶の仕方ね」
「名家のご令嬢と統括に仕える側近ならば容易く避けられる攻撃でしょ?」
美月と志帆から放たれる棘のある言葉に対して、彼は飄々と返答していく。そして彼は遂に彼女達の目の前まできて足を止めた。
すかさず志帆は美月を背後に隠すように前に出る。
「別に取って食いはしませんよ?」
「不意をついた攻撃をしてきた貴方の口がそれを言いますか??」
いつでも動けるように志帆は目の前の彼を睨みながら態勢を整える。そんな警戒心剥き出しの彼女達を見て彼は大きくため息を漏らした。
「チッ……ミスったな...
完全に一発で仕留めるべきだったか」
ヤレヤレと肩をすくめると彼は、一瞬で化けの皮が剥がれたように悪面を浮かべていた。丁寧な口調を一気に崩した彼は盛大に舌打ちをする。
そんな彼が纏うオーラに、ジリっと志帆は後ずさりしながら美月にだけ聞こえるように耳元に小さく囁いた。
「美月…
私が時間を稼ぐからその間に応援呼んできてくれない??」
「一人で大丈夫??」
「誰にもの言ってるの??」
「わ…わかったわ
気をつけてよね」
1…2…3!!!
互いにアイコンタクトで合図を送ると、美月は勢いよく背を向け走り出す。
「逃がすかよ!!」
彼が慌てて手を横に薙るが、当然のように志帆がそれを手首を掴んで防いだ。
「私の存在忘れてませんか??」
ニヒリと口角を上げた志帆は、掴んだ手に力を集めようとする。が、危険を察した彼はとっさにその手から逃れるように振り払った。
「もちろん…忘れてないぜ」
パタパタと可動を確認するように手首を動かしながら、志帆を見据えて不気味な笑みを浮かべた。
この彼の表情に対して、志帆は訝しげに眉を顰めた。目的である美月を逃したことで逆上して襲いかかってくると思ったのにその気配がまるでない。逆にこの状況を望んでいた様に志帆は思えて仕方がなかった。
「計画を崩したのにどうして貴方は余裕そうな表情を浮かべてるの??」
「まぁ確かに名瀬のご令嬢を逃したのは痛いが
俺の当初の目的はお前だからな」
ニヤリと不気味に笑う彼は、両手からバチリと黄色い火花を散らす。
まさかの事実に志帆は言葉を失う。が、呆けている暇を与えられることはもちろん無かった。
「......!?」
視界に映る彼が一瞬で消えたと思ったら目の前に居たのだ。志帆は、慌てて目の前に鎖の壁を作る。
「そう簡単にはいかないか」
悔しそうに彼は舌打ちするとサッと飛び上がり宙で志帆に向けて両手を翳す。
バチバチバチ
両手に集まった黄色い光は稲妻のように。そして一直線で志帆に向けて無數の稲妻が放たれた。
舌打ちしたいのはこっちだ!!
志帆は指輪を鉄扇に変えるとそれをすぐさま翻す。
空中で突風と稲妻がぶつかり合い爆風が巻き起こる。
志帆はその爆風で飛ばされないように鎖で壁を作りながら思考をめぐらした。
おそらく彼の異能は電気を自在に編みだすこと。それを応用して走る速度も加速できるのだろう。そんな彼は接近戦が得意に見えた。対して、自分はどちらかというと中遠距離攻撃を得意としてる。1対1の戦いでは圧倒的に不利。完全に懐に入られたらお終いだ。
とりあえず一定の距離を保って、応援が来るまで場を持たせよう
志帆がそう結論に至った所で、風が収まる。ここからだと身を引き締め、鎖の壁を解除し眼の前にいるであろう彼に鉄扇を構えたのだが、志帆の視界にその姿を捉えることは出来なかった。
「考えが甘いな、侮りすぎだ」
ハッと気づいたときには志帆の眼の前には彼がいて手首を思い切り掴まれてる状態。そして耳元に囁かれたその言葉と同時に志帆の首元にビリっと痛みが走った。
視界が揺れ瞼が重くなりゆっくりと遠のく意識の中、志帆が見たのは真黒な笑みを浮かべる彼。
「....ひ...ひろおみ」
志帆は声になったのかなどうかすらもうわからない状態で博臣の名を呼んだ。
ここでさっそうと現れたらカッコいいのに
志帆はそんな夢物語みたいなことを考えるなんて相当重症だと自嘲しながら、意識を失った。
そんな彼女が力なく倒れ込んだ先は、彼の胸元。地面に倒れないように支えた彼は、銀色の髪をかき上げると志帆の顔を覗き込む。
色白で端正な顔立ち。彼女が先ほどまで覗かせていた青い瞳は今は固く閉ざされていて、まるで眠り姫のよう。
そんな彼女を彼はゆっくりと丁寧に落とさないように両腕に抱えた。
「...軽!!」
見かけ以上に華奢で軽い志帆をよいっと抱え直した彼は、バチッと指を鳴らした。
軽快な音が響き終わると同時に彼は瞬間移動したかのように忽然と姿を消すのだった。