境界の彼方
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カキン!カキン!!
真夜中に響き渡るのは、甲高い音。
互いにその音を鳴らし距離を取る志帆と藤真。だが、睨み合う両者の状況は真逆であった。
「あれぇ?さっきの威勢の良さはどこに行っちゃったんですか?」
「う...ッ、うるさい!!」
まだまだ余裕そうな藤真に対して、志帆は身体中ボロボロの満身創痍な状態なのだ。
「まだまだこれからですよ?
もっと僕を楽しませてください」
「…ッ!言われなくても!!」
グッと唇を噛み締めると、志帆は藤真に向かって飛び込んでいった。
*****
「まだ食い足りないようですね
境界の彼方がそれだけ強い妖夢なのか??
それとも栗山未来の意志がそれだけ強いのか??
どう思います??志帆さん??」
「……グッ!!!」
胸ぐらを掴まれて、宙ぶらりんになるまで持ちげられた志帆は息苦しさで顔を顰めた。全く歯がたたなかった。ほとんど無傷な藤真との力の差に、志帆は息ができない苦しさよりも不甲斐ない自分への悔しさがこみ上げてきた。最後の力を振り絞って、己の胸ぐらを掴む手を振り払おうとするが、もうそこまでの力は残っていなかった。せめて、口だけでもと抗う姿勢を見せようと志帆は挑発的に笑いかける。
「後者に決まってるでしょ?」
「へぇ??いい男じゃない
私の好みじゃないけどね
二人が頑張ってくれてるお陰で力が少しくらい戻ってきたみたい
さっさと志帆を離しなさい!!」
突如として空から声が聞こえてくる。それは、空中から拳を藤間へ向けて叩き落とそうとしていた雫が発した声だった。それを避けるために藤真は宙へ飛ぶ。その最中にもう用済みの志帆を放り投げるのだった。
「…お前じゃない」
冷たく言い放つと藤真は雫へ向けて畳み掛けるように大量の放つ。一方、放り投げられた志帆は真っ逆さまに落ちていた。落ちている身体の浮遊感に志帆は己の今の状況を知った。薄っすらと瞼を開けると志帆の視界に映るのは夜空に浮かぶ境界の彼方だった。もう指一本動かず、受け身の体勢を取れない中、地面に叩きつけられたらどうなるだろうか?打撲や骨折だけじゃ済まないだろうなと志帆は他人事のように考えていた。
矛にも盾にもなれなかった
結局、瀬那家の長女として、側近として、名瀬の力になれなかった己の力不足を嘆く。と同時に、脳裏に浮かぶのは3ヶ月前に突き放してしまったアイツの悲しげな表情だった。
こんな結末になるなら素直に想いを吐露すればよかった。
博臣の想いを聞けて嬉しかったのに、拒絶してしまった。あれから全く会っていない。いや、気まずくて会うのを避けていただけなのだが。
大好きだよ...博臣...
最後くらいいいだろうと小さく紡いだのは心にずっと秘めていた想い。そんな彼女の言葉は、咄嗟に宙に檻を何度も張りそれを足場とすることでここまで来ていた彼の耳に確実に届いていたのだった。
「…ッ!!志帆!!」
彼は必死に手を伸ばして飛び込む。そして、落下してきた志帆の身体を受け止めそのまま胸の中に閉じ込めるのだった。
「えっ…博臣??」
突如聞こえてきた馴染みがありすぎる彼の声。と、同時に浮遊感が全くなくなり、空が見えていた目に映るのは脳裏に浮かんでいた彼の顔だった。こんなことがあるのだろうか?でも紛れもなく宙から真っ逆さまに落ちている自分の元に駆け寄り助けてくれたのは博臣だった。夢心地のまま彼の名を志帆は紡ぐ。そんな彼女を博臣は呆れた表情で見下ろした。
「……俺以外に誰がいるんだ」
「ウッ…博臣!!」
ようやくこれは現実であると受け止めた志帆の青い瞳から涙が溢れ出た。呆れながらも優しい口調の博臣の声に、抑えていた恐怖心が一気に流れ込んできたのだ。少しでも彼が傍にいることを実感したくて、抱きしめたくて頑張って手を伸ばそうとするが、全く指一本も動くことなくただた志帆が泣きじゃくるだけしかできなかった。そんな志帆を博臣はわかっていると力を込めて抱きしめた。
「…馬鹿野郎」
校舎から見えた光の元へ向かう途中で見えたのは、一筋の銀色。直様、足を止めた博臣が見たのは真っ逆さまに落ちていく志帆だった。十分肝が冷えた。志帆の身体を受け止めるまで生きた心地がしなかった。もし間に合わなかったらと、最悪な未来が頭の中を過ぎったからだ。でも、その事態は回避でき志帆を受け止めた博臣が見たのはボロボロな彼女。絹のようにキレイな銀色の髪は土埃のせいで普段の光沢は失われ、彼女の白い肌には無数の傷が広がっていた。散々罵りたかった。ここまでなるまで一人で戦ったことに、ずっと一人で抱え込んでいることに、そして想っている癖に勝手に他人の幸せを考えて自分の想いを踏みにじり拒絶したことに。でも、志帆の瞳から流れた涙で一気に考えていた言葉のフレーズは消し飛んだ。代わりに様々な想いを集約して博臣が紡いだのはたった一言。一先ず無事で良かったと柔らかく微笑む紡いだ博臣に、志帆はただ御免と泣きながら謝るのだった。
一方、志帆を投げ出した藤真は泉と対峙していた。
「随分強くなったでしょ
貴女のところにあった虚ろの影を頂いてやっと様になってきましたよ」
不敵な笑みを浮かべながら藤真は持っている鎌を見せびらかした。その背後から雫が拳を突き出す。それを瞬間的に避けた藤真は彼女に振り返ると鬱陶しそうに彼女へと攻撃の手を切り替える。雫は藤真の攻撃を交わしながら彼の腕を掴むとシメたと口角を上げて力をありたけ込めた。淡白い光が藤真の腕を駆け上がっていく。が、それを無表情で見つめていた藤真は先にそのまま自身の力で腕ごと爆発させるのだった。至近距離で気づいた雫は避けられないと咄嗟に両手を前に出してガードし爆風に備える。が、一向に衝撃は来ず恐る恐る雫が目を開けると見覚えのある檻が張られていた。
「悪いが俺は妹と志帆にちょっかいを出したやつは死ぬまでストーキングする主義でな
それにお前にはやられた貸しがあるしな」
雫の前に出たのは傷だらけの志帆を抱える博臣だった。怒気を含んだ低い声を発し目の前の藤真を睨みつけた。
「3対1ですか??」
「いいえ…4対1よ」
「…美月」
「末っ子という理由で小さいころからお留守番専門だったのよ
いい加減卒業させて貰います」
「同意
あの鎌は元々私が預かったもの
責任は私にもある」
だが、そこにいるのは泉・雫・博臣だけではなかった。泉の背後から美月と桜が姿を現した。
「まったく…随分仲良くなったようですね」
藤真は小さくため息をつくと足元から淡い紫色の光を放ちだした。それは一瞬にして藤真と泉を飲み込むのだった。
「兄貴、行って!!
ここで泉姉様に任せていたら今までと一緒よ
何も変わらないわ」
「わかったよ…お兄ちゃんに任せなさい!!」
外側から藤真が作ったものを崩そうと檻の力を込めていた博臣と美月。だが、埒が明かないと美月は博臣に中に行くように促した。泉任せのままでは駄目だと。最初は美月を残していくことを渋っていた博臣だが、美月の意思を汲み取ってこの場を任せて中に飛び込んだ。そこで博臣は衝撃的な事実を知ることになる。
「なぜ、そんなに焦ってるんです?そう、その顔。貴女のそんな顔が見たかった。恐怖に怯え焦りなにか、取り繕いながら僕を倒そうとする姿!!」
「黙れ!」
「そんなに怖いですか??
あぁ…ひょっとして僕のことが好きだとか?
それとも自分の過去を兄妹に知られたくないとか?」
「黙れ!妖夢に屈した異界士が!」
「何を言ってるんです?
元々は同じあなのむじな。妖夢を体に飼う同士じゃないですか。
知ってました?弟さん??」
飛び込んだ博臣は目の当たりにしたのは、激情に身を任せて薙刀を振るう余裕の欠片もない泉だった。その彼女を挑発するように煽る言動を投げかけていった藤真は博臣が来たことを視界に捉え、ニッコリと笑みを浮かべて博臣に投げかけるのだった。
「泉姉さん。」
博臣はそれが果たして事実なのか信憑性を確かめるように彼女の名を呼ぶ。対して、泉は振り返って博臣がいることを知り絶対に知られなたくない事実を知られてしまい血相を変えて豪快に笑う藤真に今まで以上に薙刀を振るった。
「黙れ黙れ黙れ!」
そして泉は藤真の鎌の柄を薙刀でへし折った。そしてそれによってできた一瞬の隙をついて藤真の腹に薙刀を突きつけるのだった。
「確かに同じかもしれない
でも私はまだ人間としての誇りを捨ててはいない
貴方と一緒にしないで」
「くだらないことを言わないでくださいよ」
鼻につくような下衆な笑いとともに藤真は自爆し、彼らの前から跡形もなく消滅した。それと同時に藤真が作り出した空間も爆発して消えてなくなった。その爆風は美月が作った檻のおかげで防がれていた。
その檻の中では、未だに呑み込めていない博臣に起き上がった志帆はふらつきながらも駆け寄ろうとする。それに気づきた博臣は千鳥足の志帆に駆け寄り引き寄せるのだった。
*****
「貴方にもいずれわかるときがくる
ごめんなさい」
空に浮かんできた””境界の彼方”が消滅した。それにより、夜中だったにもかかわらず明るかった周囲が静寂さを取り戻した。その中、ずっと静かに立っていた泉は誰にも視線を合わすことなく重たい口を開いた。その申し訳無さそうに呟く泉の背に博臣は自分の思いの丈を伝えた。
「泉姉さん
俺はずっと姉さんに憧れて…
姉さんの様になろうと思ってやってきた
けどやめる
俺は姉さんの様にならない
わかったんだ!!
理想を持って行動し決してそれが上手くいかなくても理想を失ってしまったらそこからは何も生まれない!」
そして力強い声で言葉を付け加えた。
「自分も大切な人も愛する人も守れない!!」
博臣は抱え直した志帆を強く抱き寄せた。その言葉に泉は無意識に口元を緩めた。
「強くなったのね…博臣
志帆、博臣のことよろしくね」
博臣の決意を聞き取った泉は何もそれ以上は言うことはなく静かに姿を消すのだった。
真夜中に響き渡るのは、甲高い音。
互いにその音を鳴らし距離を取る志帆と藤真。だが、睨み合う両者の状況は真逆であった。
「あれぇ?さっきの威勢の良さはどこに行っちゃったんですか?」
「う...ッ、うるさい!!」
まだまだ余裕そうな藤真に対して、志帆は身体中ボロボロの満身創痍な状態なのだ。
「まだまだこれからですよ?
もっと僕を楽しませてください」
「…ッ!言われなくても!!」
グッと唇を噛み締めると、志帆は藤真に向かって飛び込んでいった。
*****
「まだ食い足りないようですね
境界の彼方がそれだけ強い妖夢なのか??
それとも栗山未来の意志がそれだけ強いのか??
どう思います??志帆さん??」
「……グッ!!!」
胸ぐらを掴まれて、宙ぶらりんになるまで持ちげられた志帆は息苦しさで顔を顰めた。全く歯がたたなかった。ほとんど無傷な藤真との力の差に、志帆は息ができない苦しさよりも不甲斐ない自分への悔しさがこみ上げてきた。最後の力を振り絞って、己の胸ぐらを掴む手を振り払おうとするが、もうそこまでの力は残っていなかった。せめて、口だけでもと抗う姿勢を見せようと志帆は挑発的に笑いかける。
「後者に決まってるでしょ?」
「へぇ??いい男じゃない
私の好みじゃないけどね
二人が頑張ってくれてるお陰で力が少しくらい戻ってきたみたい
さっさと志帆を離しなさい!!」
突如として空から声が聞こえてくる。それは、空中から拳を藤間へ向けて叩き落とそうとしていた雫が発した声だった。それを避けるために藤真は宙へ飛ぶ。その最中にもう用済みの志帆を放り投げるのだった。
「…お前じゃない」
冷たく言い放つと藤真は雫へ向けて畳み掛けるように大量の放つ。一方、放り投げられた志帆は真っ逆さまに落ちていた。落ちている身体の浮遊感に志帆は己の今の状況を知った。薄っすらと瞼を開けると志帆の視界に映るのは夜空に浮かぶ境界の彼方だった。もう指一本動かず、受け身の体勢を取れない中、地面に叩きつけられたらどうなるだろうか?打撲や骨折だけじゃ済まないだろうなと志帆は他人事のように考えていた。
矛にも盾にもなれなかった
結局、瀬那家の長女として、側近として、名瀬の力になれなかった己の力不足を嘆く。と同時に、脳裏に浮かぶのは3ヶ月前に突き放してしまったアイツの悲しげな表情だった。
こんな結末になるなら素直に想いを吐露すればよかった。
博臣の想いを聞けて嬉しかったのに、拒絶してしまった。あれから全く会っていない。いや、気まずくて会うのを避けていただけなのだが。
大好きだよ...博臣...
最後くらいいいだろうと小さく紡いだのは心にずっと秘めていた想い。そんな彼女の言葉は、咄嗟に宙に檻を何度も張りそれを足場とすることでここまで来ていた彼の耳に確実に届いていたのだった。
「…ッ!!志帆!!」
彼は必死に手を伸ばして飛び込む。そして、落下してきた志帆の身体を受け止めそのまま胸の中に閉じ込めるのだった。
「えっ…博臣??」
突如聞こえてきた馴染みがありすぎる彼の声。と、同時に浮遊感が全くなくなり、空が見えていた目に映るのは脳裏に浮かんでいた彼の顔だった。こんなことがあるのだろうか?でも紛れもなく宙から真っ逆さまに落ちている自分の元に駆け寄り助けてくれたのは博臣だった。夢心地のまま彼の名を志帆は紡ぐ。そんな彼女を博臣は呆れた表情で見下ろした。
「……俺以外に誰がいるんだ」
「ウッ…博臣!!」
ようやくこれは現実であると受け止めた志帆の青い瞳から涙が溢れ出た。呆れながらも優しい口調の博臣の声に、抑えていた恐怖心が一気に流れ込んできたのだ。少しでも彼が傍にいることを実感したくて、抱きしめたくて頑張って手を伸ばそうとするが、全く指一本も動くことなくただた志帆が泣きじゃくるだけしかできなかった。そんな志帆を博臣はわかっていると力を込めて抱きしめた。
「…馬鹿野郎」
校舎から見えた光の元へ向かう途中で見えたのは、一筋の銀色。直様、足を止めた博臣が見たのは真っ逆さまに落ちていく志帆だった。十分肝が冷えた。志帆の身体を受け止めるまで生きた心地がしなかった。もし間に合わなかったらと、最悪な未来が頭の中を過ぎったからだ。でも、その事態は回避でき志帆を受け止めた博臣が見たのはボロボロな彼女。絹のようにキレイな銀色の髪は土埃のせいで普段の光沢は失われ、彼女の白い肌には無数の傷が広がっていた。散々罵りたかった。ここまでなるまで一人で戦ったことに、ずっと一人で抱え込んでいることに、そして想っている癖に勝手に他人の幸せを考えて自分の想いを踏みにじり拒絶したことに。でも、志帆の瞳から流れた涙で一気に考えていた言葉のフレーズは消し飛んだ。代わりに様々な想いを集約して博臣が紡いだのはたった一言。一先ず無事で良かったと柔らかく微笑む紡いだ博臣に、志帆はただ御免と泣きながら謝るのだった。
一方、志帆を投げ出した藤真は泉と対峙していた。
「随分強くなったでしょ
貴女のところにあった虚ろの影を頂いてやっと様になってきましたよ」
不敵な笑みを浮かべながら藤真は持っている鎌を見せびらかした。その背後から雫が拳を突き出す。それを瞬間的に避けた藤真は彼女に振り返ると鬱陶しそうに彼女へと攻撃の手を切り替える。雫は藤真の攻撃を交わしながら彼の腕を掴むとシメたと口角を上げて力をありたけ込めた。淡白い光が藤真の腕を駆け上がっていく。が、それを無表情で見つめていた藤真は先にそのまま自身の力で腕ごと爆発させるのだった。至近距離で気づいた雫は避けられないと咄嗟に両手を前に出してガードし爆風に備える。が、一向に衝撃は来ず恐る恐る雫が目を開けると見覚えのある檻が張られていた。
「悪いが俺は妹と志帆にちょっかいを出したやつは死ぬまでストーキングする主義でな
それにお前にはやられた貸しがあるしな」
雫の前に出たのは傷だらけの志帆を抱える博臣だった。怒気を含んだ低い声を発し目の前の藤真を睨みつけた。
「3対1ですか??」
「いいえ…4対1よ」
「…美月」
「末っ子という理由で小さいころからお留守番専門だったのよ
いい加減卒業させて貰います」
「同意
あの鎌は元々私が預かったもの
責任は私にもある」
だが、そこにいるのは泉・雫・博臣だけではなかった。泉の背後から美月と桜が姿を現した。
「まったく…随分仲良くなったようですね」
藤真は小さくため息をつくと足元から淡い紫色の光を放ちだした。それは一瞬にして藤真と泉を飲み込むのだった。
「兄貴、行って!!
ここで泉姉様に任せていたら今までと一緒よ
何も変わらないわ」
「わかったよ…お兄ちゃんに任せなさい!!」
外側から藤真が作ったものを崩そうと檻の力を込めていた博臣と美月。だが、埒が明かないと美月は博臣に中に行くように促した。泉任せのままでは駄目だと。最初は美月を残していくことを渋っていた博臣だが、美月の意思を汲み取ってこの場を任せて中に飛び込んだ。そこで博臣は衝撃的な事実を知ることになる。
「なぜ、そんなに焦ってるんです?そう、その顔。貴女のそんな顔が見たかった。恐怖に怯え焦りなにか、取り繕いながら僕を倒そうとする姿!!」
「黙れ!」
「そんなに怖いですか??
あぁ…ひょっとして僕のことが好きだとか?
それとも自分の過去を兄妹に知られたくないとか?」
「黙れ!妖夢に屈した異界士が!」
「何を言ってるんです?
元々は同じあなのむじな。妖夢を体に飼う同士じゃないですか。
知ってました?弟さん??」
飛び込んだ博臣は目の当たりにしたのは、激情に身を任せて薙刀を振るう余裕の欠片もない泉だった。その彼女を挑発するように煽る言動を投げかけていった藤真は博臣が来たことを視界に捉え、ニッコリと笑みを浮かべて博臣に投げかけるのだった。
「泉姉さん。」
博臣はそれが果たして事実なのか信憑性を確かめるように彼女の名を呼ぶ。対して、泉は振り返って博臣がいることを知り絶対に知られなたくない事実を知られてしまい血相を変えて豪快に笑う藤真に今まで以上に薙刀を振るった。
「黙れ黙れ黙れ!」
そして泉は藤真の鎌の柄を薙刀でへし折った。そしてそれによってできた一瞬の隙をついて藤真の腹に薙刀を突きつけるのだった。
「確かに同じかもしれない
でも私はまだ人間としての誇りを捨ててはいない
貴方と一緒にしないで」
「くだらないことを言わないでくださいよ」
鼻につくような下衆な笑いとともに藤真は自爆し、彼らの前から跡形もなく消滅した。それと同時に藤真が作り出した空間も爆発して消えてなくなった。その爆風は美月が作った檻のおかげで防がれていた。
その檻の中では、未だに呑み込めていない博臣に起き上がった志帆はふらつきながらも駆け寄ろうとする。それに気づきた博臣は千鳥足の志帆に駆け寄り引き寄せるのだった。
*****
「貴方にもいずれわかるときがくる
ごめんなさい」
空に浮かんできた””境界の彼方”が消滅した。それにより、夜中だったにもかかわらず明るかった周囲が静寂さを取り戻した。その中、ずっと静かに立っていた泉は誰にも視線を合わすことなく重たい口を開いた。その申し訳無さそうに呟く泉の背に博臣は自分の思いの丈を伝えた。
「泉姉さん
俺はずっと姉さんに憧れて…
姉さんの様になろうと思ってやってきた
けどやめる
俺は姉さんの様にならない
わかったんだ!!
理想を持って行動し決してそれが上手くいかなくても理想を失ってしまったらそこからは何も生まれない!」
そして力強い声で言葉を付け加えた。
「自分も大切な人も愛する人も守れない!!」
博臣は抱え直した志帆を強く抱き寄せた。その言葉に泉は無意識に口元を緩めた。
「強くなったのね…博臣
志帆、博臣のことよろしくね」
博臣の決意を聞き取った泉は何もそれ以上は言うことはなく静かに姿を消すのだった。