徐々に動き出す歯車
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「アッキー、
イヤ…変質者と呼ぶべきか?」
雫が言ったように数日後、伊波桜が未来のクラスに転入してきた。そしてある日のプールの授業。気になって仕方がない秋人が驚くべき行動をとっていたのだ。
「だから監視だと言ってるだろ!」
「どこからどう見ても屋上から双眼鏡でプールサイドを見るなんて
変質者にしか見えないよ」
「だから監視だって言ってるだろ!!
だいたい僕はプールが好きじゃない」
校舎の屋上にて双眼鏡を手にプールサイドを眺める秋人に、博臣と志帆は冷たい目線を向けていた。秋人が未来のことを心配しているのはわかる。が、もう少しやり方ってものはないのだろうかと。そんな彼らの皮肉を込めたセリフに秋人は断じて変な目で見てないと否定した上で、プールは好きではないと言い返した。
そのセリフに博臣と志帆は揃えて首を捻る。
「「なぜ?」」
「眼鏡が似合う栗山さんも
メガネが似合う1年女子も
皆メガネを取ってしまうんだぞ」
「…水中メガネがあるじゃないか?」
「あれはゴーグルだ」
博臣の指摘に秋人は口調を強めて言い直す。それに志帆は呆れながら秋人に尋ねる。
「眼鏡もゴーグルも一緒の括りじゃないの?」
「断じて違う!!
あんな形状のものが水中メガネと呼ばれることに僕は怒りを禁じえない」
志帆の問いに秋人は双眼鏡を外すと怒りを滲ませて啖呵を切るのだった。そんな秋人に志帆と博臣は顔を見合わせてこりゃあ駄目だと首を捻るのだった。
一方で未来も彼女なりにある決意を固めていた。最初は桜に殺されるべきだと思っていた。でも、虚ろの影を倒してわかったのだ。後悔は変わらないのだと。人を殺すことは…誰かを死に追いやることは取り返しのつかないことなのだと。だからこそ未来は桜に誰かを殺めることはしてほしくなかった。親友の唯のためにも。
そして現在、未来は桜と水道で決闘を繰り広げていた。しかし、虚ろの影の時に戦ったときとは違うことがあった。前回は未来は虚ろの影を倒すために力を温存していたのだ。だから今回は圧倒的に未来が優位だった。
圧倒的な差を見せつけられた桜は地面に膝をつく。そんな彼女を飲み込むように桜が持っていた鎌が变化するのだった。薄紫色の触手は異能を持たない桜を取り囲んだのだ。それを未来は必死に桜を助けたのだった。
力がほしいと羨む桜、しかし未来も唯も力を持たない桜を逆に羨んでいたのだ。その事実を桜は未来の口から知るのだった。
迷い戸惑い、自分を見失って
必死になって藻掻き
大切なものがどこにあるなんて本当はわかっていたのに…
帰る場所を教えてもらってやっと気づけた…
ここで生きていこう…
桜は未来の言葉でようやく決心を固められることができたのだった。そんな二人が消えた水路に響くのは2人分の足音だった。
「よっと…」
桜が落としていった鎌の目の前でその足音を止めるとかがんで拾い上げた。
「子どもをたぶらかすのは趣味じゃなかったんですけどね…」
「お前がそれを言うか?!」
肩をすくめる藤真に対して、もう一人一緒に来ていた人物が訝しげに彼を見た。
藤真と対して変わらない高身長の男は、白銀の髪を持ち藍色の瞳で中性的な顔つきをしていた。
「そんな表情したらせっかくの顔が台無しですよ?」
「うっせーよ」
爽やかに笑みを浮かべる藤真に不機嫌そうに眉を顰め、ぶっきらぼうに言葉を吐き捨てる。
「まぁ…これだけ食えば十分でしょ」
「たく...ここまで子供にやらせるか?
普通」
「まだ言いますか?」
「言うぜ
一歩間違えたら彼女は死んでたんだからな」
おどける藤真に、彼は今にも殺しそうな空気を纏い眼光を光らせた。
「まぁいいじゃないですか
結果的に彼女はピンピンとしてますし、和解できたんですから」
「ハァァ...」
楽観的な考えの藤真に、彼は理解できないとは肩をすくめた。
そんな彼の気持ちなど気にする素振りも見せず藤真は歩き始める。
「さて、そろそろ虚ろの影を回収させていただきますか
お願いしますね?悠さん」
「......わっかってるよ!!」
一歩前を歩く藤真に、悠と呼ばれた男は多少の苛立ちをぶつけるように声を荒げると、藤真の後を追うように歩き始めるのだった。
その日の夜、長月市一帯にはある物が近づいていた。それは、まるで時の時間を止めるように広がっていく。
「どうしたんだ??」
妖夢退治を終えた志帆と博臣は、何故か志帆の家にいた。先に風呂でさっぱりした志帆は険しい表情で開けた窓の外を見ていたのだ。その光景に風呂から上がったばかりの博臣は濡れた髪を乱雑にタオルで拭きながら志帆に近づいた。
「あ...博臣」
博臣の声にビクリと反応した志帆は振り向くのだが、彼の格好に眉間にシワを寄せた。
「って服着てよ」
「別にいいだろ?」
「目のやり場に困るって言ってるのがわからない??」
完全に呆れ返っている志帆に、これ以上はやめとくかと素直にスウェットを手に取った。
「で??外に何が見えるんだ?」
サッと志帆の背後に立つと博臣は窓から外を見る。すると途端に状況を察した博臣の表情は険しくなった。
「凪か...」
いつになく低い博臣の声が静かな部屋に響く。志帆はその言葉に俯きながらコクリと頷く。
「大丈夫だ
何も起こさせはしない」
博臣は安心させようと志帆の肩を抱き引き寄せ、髪をクシャリと撫でた。
「...そうだね」
そう呟いた志帆は博臣の胸に身を預けて目を閉じた。
凪が来た。この事実に何も起こらない訳がないと知っている志帆の心は複雑だった。
今隣の彼にぶち撒けられたらどんだけ楽だろうか?
それでも巻き込みたくない。こんな想いをするのは私と栗山さんだけで十分なんだから
「凪がくる…」
夜更けの時間帯、廊下を歩いていた美月は窓際から外を見ている泉の嘆いた言葉をオウム返しのように聞き返した。
「凪??」
「全てが止まる停滞の時
そして…
境界の彼方」
窓から視線を逸らすことなく紡がれた泉の言葉に、美月の不信さは募っていく。
美月が泉の言葉の真意を知ったときはもう全てが終わった頃だとこの頃の彼女が知る由もない無かった。
「志帆??」
暫く彼女からの反応がなく、不思議に思った博臣が名を呼ぶが応答がない。気になった博臣は自分の胸に凭れ掛かる彼女を覗き込むと、スヤスヤと眠る志帆がいた。
そんなあどけなく眠る志帆に、一気に拍子抜けした博臣はしょうがないなと柔らかく微笑むと起こさないようにそっと彼女の膝裏に手を通して横抱きに抱える。
そのまま博臣は彼女をベッドに運ぶと、丁寧に彼女を下ろして布団を掛ける。そして無防備な彼女の額に唇を落とすと、平然と当たり前のように彼女の隣に潜り込むのだった。