徐々に動き出す歯車
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「まずはこれを見てくれ」
博臣が部室の机に広げたのは持ってきたHND48のCD。だが、どのCDにも悲惨なほどにヒビが入りぶっ壊れていた。
「事故…ではないな
まさかここにあるCD全部!?」
見せつけられた秋人も思わず驚きの声を上げる。
「……前兆はあった
一昨日の夜、ふと音楽を聞こうと携帯プレーヤーを起動したら
中身が全て、アイドルからCDドラマ全裸リーマンシリーズに変わっていた」
昨日のことを思い出し悔しげに博臣は嘆く。
「犯人は美月だ
そんな必要な嫌がらせする人物アイツしか存在しない
何をした!!」
「美月に内緒でHND48の書類審査に応募しただけだ」
サラリと言いのけた博臣の言葉に秋人は何を殺ってんだと言わんばかりに冷たい眼差しを向ける。
「どうして本人に確認を取らなかった」
「家族が勝手に応募しちゃって…とか
よくある話だろ?」
が、ブレない博臣はため息混じりにそう嘆くとグッと勢いよく立ち上がった。
「想像してみろ!!
大人数に囲まれてセンターでかわいい制服に身を包み、マイクスタンドに跨る妹の姿を!!」
「メ…眼鏡をかけていいか??」
「……細かいことは気にしないさ」
「……壮観だなぁ」
「だろ??」
博臣の妄想に釣られるように秋人も脳裏でアイドルを思い浮かべる。二人揃って瞼を閉じて妄想を拗らせる姿に、部室に遅れて入ってきた志帆と美月は思い切り顔を引き攣らせた。
「そこの変態ども」
「ぬぁ!!!」
「栗山さんはどうしたの??」
が、今更これをどうこう口を挟むのは面倒だと美月は一向に二人の入室に気づかない彼らの近くの椅子に座りノートパソコンを開き、志帆は窓際の椅子に腰掛ける。
急に美月の声がしたことに秋人と博臣は同時に驚きの声を上げて仰け反る。そんな二人に対して、志帆はもう1人いない彼女の存在を気にかけて尋ねる。
「え…あ…さぁ??」
「今日はうどんの日だから多分…」
博臣が首を傾げる中、秋人は何か思い当たる節があるのか考え込む。そんな秋人から出た”うどんの日”を聞いたことがない一行は首を捻る。
「「うどんの日??」」
「うどん屋八兵衛の月I度の恒例行事さ
150円で釜揚げうどん食べ放題!」
「ふぅーん
ところでそこの盆栽…そろそろどうにかしてもらいたいんだけど」
「随分増えたなぁ〜」
美月の言葉で論点がうどんの日から盆栽に移る。いままで何も置かれていなかった箇所にいつの間にか未来が持ってきた盆栽が増えていたのだ。その美月のご尤もな意見に秋人は相槌をする中…
カキーン
オーライオーライ!!
野球をする音。バットにキレイに当たったのか高い金属音が響くと、何故かそのボールが開いている窓から侵入。そして文芸部の至るところを跳ね跳ぶとそのボールは置いてある盆栽に直撃する。
その直後、怒涛の足音が廊下で響き渡り文芸室の扉が勢いよく開き、形相な表情を浮かべる未来が入ってくるのだった。
「コラ〜!!
こんなところで野球をするなと言ってるだろうが!!」
「…雷親父」
「……不愉快です」
秋人の冷静な指摘に小声で未来は嫌そうに答えると、急いで掃除道具を取り出して後始末を開始する。が、盆栽に目がいった未来はあることに気づいてしまう。
「あぁ!!脇枝が!!」
「…手伝おうか?」
悲しそう気に目に涙を溜めて折れてしまった脇枝を手に取る未来に、気の毒に思った秋人が声を上げる。しかし、大丈夫だと未来は丁重にお断りをしようと口を開いたところでタイミングが悪く未来はくしゃみをしてしまうのだった。
「大丈夫で……グシュん!!」
「なぁ?うどん屋だっただろ?」
「ホントだ」
「みたいだな」
「え…わぁ!!ふ…不愉快です!!」
未来が盛大にくしゃみをしたことにより、彼女の鼻から麺らしきものがチラリと顔を見せる。それを冷静に分析している3人の視線に未来は慌てて恥ずかしそうに赤面して鼻を押さえるのだった。
「って…言われてもな」
「ほら、栗山さん…」
慌てて志帆は救いの手を断固拒否する未来を無視して差し伸べる。そんなどんちゃん騒ぎを繰り広げる文芸室に扉を開けた一人の人物は呆れた表情を浮かべて眺めていたのだった。
「相変わらずね」
その人物は文芸部の顧問を受け持っている雫だった。珍しい来客に一同は不思議そうに彼女を見る。
「…ニノさん
珍しいね
どうしたの?なにかあった??」
「アッキー…デリカシーがないぞ
ニノさんがここに来るときは大抵男の愚痴だろ?」
「おお…そうか!!!」
秋人と博臣の一声に雫は即座にツッコミを入れる。
「……違うわよ!!」
「「違うだと!!」」
「あなた達意外と息あってるわね」
二人の息のあった返答に、雫は息を吐くと、早速ここに来た本題に入るのだった。そんな雫から告げられたのは、伊波桜が転入してくるという情報。秋人伝いで桜と未来に関係を聞いていた雫は一応と未来に聞きに来たのだ。断らなければ、このままでは明後日には転入してくる。それを防ぐには、裏技だが泉に頼めばそれを阻止できる。
だが、選択肢を与えられた未来はそれを転入を拒む選択肢をとらなかったのだった。
*****
「おぉ!!男の喘ぎ声を聞かせるな!!」
博臣が携帯プレーヤーに入っている全裸リーマンのドラマCDを無理やり聞かせようと秋人の耳にイヤホンを強制的に入れ込む。
そんな二人のやり取りを呆れながら見つめていた美月と志帆が不安げに静かな未来に視線をやる。
「本当に良かったの?」
「はい
ここで転入を止めても一緒じゃないかって
外でも襲おうと思えば襲えるわけですし」
「まぁ、そりゃあそうだけど…」
未来のご尤もな言葉に二人は顔を歪めた。
「真面目は損よ
あの二人を見ているといつもそう思うわ
ねぇ?志帆」
美月は嘆くように呟くと同意を求めるように志帆に投げかけた。その前方では秋人と博臣が片耳ずつにイヤホンを入れて嫌そうにしていたのが嘘のように全裸リーマンについて語り合い始めていた。
「結局何する会社?これ?」
「いいところに気がついたな」
そんな二人を見て志帆は苦笑いを浮かべる。美月がわざと自分に問いかけてきたのは、少しは息を抜けという裏の意味が込められていることを志帆は感づいていたからだ。
「まぁ、そうだね」
「ああ見えて真面目ですよ?おふたりとも」
「そう?」
「下手なんです
私は…生きるのが」
視線を下にやりながら未来はポツリと呟く。それに美月も志帆も何を彼女に言う言葉が見当たらなかった。そんな中、未来は慌てたように声を上げる。
「あ!!いけない!!定期学校に忘れてきちゃいました
先帰っててください!!」
この場から逃げるように一目散に去っていく未来に、全裸リーマンに夢中になっていた秋人と博臣は首を傾げるのだった。
「何かあったのか??」
「さぁ〜ね」
美月も志帆の挙動不審な未来に首を捻るのだった。