凪
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「チッ!!」
鎖に動きを封じられた博臣の脇を優雅に通りすぎ藤真はその場から姿を消す。それをみすみすと見逃してしまった博臣は、盛大に舌打ちをし、その元凶とも言える人物を睨みつけた。だが、目の前の彼は悪気は全くあるわけがなく飄々と涼しい表情を浮かべていた。
「わりぃな...そう言う口約束で手を組んだからな
まぁ心配すんな、これ以上アイツとつるむことはねぇかなよ」
悠はそう軽口を飛ばすと、パチンと指を鳴らす。
「...グッ!!」
途端に博臣に緩く絡み付く鎖が、ピンと張られる。引っ張られる感覚に博臣は思わず顔を歪ます。
「さてと、本心はサッサと能力を解いてやりたいのだが、まだ俺は用事があるんでね...
もう少し付き合ってくれ博臣」
地面から出る鎖にこれ以上もないくらい四肢を引き伸ばされ抵抗すら出来ない博臣に、悠はゆっくりと歩み寄った。
「何の用事があるんって言うんだ!」
鋭い眼光でジッと見る博臣に、悠は目を細めた。鋭く研ぎ澄まされた空気に圧倒される博臣に、悠は迫るような低い声で尋ねた。
「名瀬家の幹部である名瀬博臣に聞く
幹部以上の重鎮達の機密事項が書いてある書類は何処にある?」
「....!?!?」
「あるだろ?それの居場所を吐いてくれればすぐにでもそれを解いてやる」
「誰が!!...ァア!!」
うたうように言葉を発する彼に対して博臣は、話すものかと声を上げる。しかし、博臣の言葉を拒絶するように悠は引っ張る鎖の力を強める。
「サッサとしろ
悠長に待ってられるほど気は長くないんでね」
呻き声を上げる博臣に悠は冷めた瞳を向ける。そして痛みで悶絶する博臣を縛る鎖を少し緩めた。それで痛みが多少和らいだ博臣は肩で息をしながら尋ねる。
「な...何に使う気だ」
「教えるわけ無いだろ?」
「だったら尚更言う義理は無い」
流石に幹部だけあり、頑固にその機密を死守しようとする博臣に感服しながらも悠は盛大にため息を吐いた。
このままでは埒が明かないと...
「ハァァ...頑固だな
でも良いのか?」
「何がだ?」
「”境界の彼方”が何処にいるかお前は知った。そして泉がやろうとしている事も」
突然の話題の変わりように博臣は困惑しながら尋ねた。
「...何が言いたいんだ」
「どう展開されようと、志帆は自分を責めるぞ...これ以上もないくらいにな
神原秋人が殺されようが...
呪われし血の一族が身代わりになってもな」
「志帆だって覚悟は出来てる」
力強く言う博臣の言葉に対して、悠は複雑な表情を浮かばせた。
そして、嘆くように口を開いた。
「意味合いがちげぇーんだ
俺達一族の能力は、”境界の彼方”さえも封印出来るんだ。だがな、志帆にはまだその力は無い。
もしその力を持ってすれば誰も犠牲にならないんだがな」
「悠兄ならできるとでも?」
その言葉に、申し訳無さそうに悠は肩を竦める。
「イヤ、残念ながら俺にもそんな力は無い。
でも、確実にアイツは自分の無力さを嘆くだろうな
さて...どうする?」
博臣は猛烈に悠の言葉に迷った。
このまま、時間を稼げば何とか打開する事ができ書類を死守できるかもしれない
だが、このままここに居たら確実に志帆の傍に行くことは不可能だ。恐らく、秋人の行方を知ってる志帆の眼の前で未来の選択がなされるであろう。そのどちらに転がっても志帆は独りで静かに自分の非を嘆くに違いない。
名瀬家の幹部としての判断をすべきか?
ただ個人的な感情のままに行動すべきか?
博臣は究極の選択を迫られた。
「さぁ?どうする...名瀬博臣
まぁと言っても十分優しい選択肢を俺は与えてるつもりなのだが...」
「...ッ!!どこかだ!!」
「ほら?サッサと答えを出せ
返答によっては、妹を預けられないな」
もうこの選択を与えた時点で、博臣が出す答えなんて造作もなくわかる悠は楽しげに喉を鳴らす。
そんな彼の掌で踊らされている気がしてならない博臣。だが、釈然としなくても博臣が今この時点で優先する事は明白だった。
「.........その書類を渡せばいいのか?」
博臣は、苦渋に満ちた顔で喉奥から声を絞り出した。
「あぁ、渡してくれればすぐにでも志帆のとこに行かせてやる」
「......わかった。
渡すからコレを外してくれ」
暫くの躊躇いの後、ガクリと項垂れた博臣は、悠の要求に了承する。
その言葉を聞いた悠は能力を解除した。自由になった彼に釘を刺すことを忘れずに。
「妙な真似はすんなよ」
「わかってる」
ようやく解放された博臣は、書物庫の奥へ。そこにある厳重そうな金庫に手を翳す。博臣の手から出た淡い青い光で、その扉に紋様が出現し鍵が解除された。
「なるほどねぇ、ここだったか」
「ほらよ!ご所望の物だ!!」
関心している悠に、博臣は乱雑にその書類を投げた。
「ど~も」
悠はそれを軽々しく受け取り目を通す。目的のものだと確認を終えると悠は顔を上げた。だが、複雑な表情をしている博臣を見て悠は悲しげに眉を顰めた。
「ホントに...何する気なんだ?」
「そんな顔すんな...
ここを居心地の良いとこに変えるだけだ
別に潰そうなどは思ってねぇーから」
悲痛な表情で俯く博臣をあやすように悠は彼の頭を優しく叩くともう用済みだと踵を返した。
「博臣...
志帆のこと頼んだぞ」
少し歩いて立ち止まった悠は、俯いたままの博臣に背を向けたまま一言言い残すと、その場から姿を消すのだった。
*****
悠が消えた後、博臣は直ぐ様に端末を取り出し通話を繋げた。
『もしもし』
繋げた相手は数コールですぐに出た。
「今どこにいる?」
『逆にどこにいると思う??』
クスクスと小さく笑い己を試すような返しに、博臣は顔をしかめながら答える。
「アッキーのところか」
『御名答!』
「栗山さんの本来の目的は、アッキーの中にいる境界の彼方を倒すこと。そして、志帆は監視と彼女の手助けが役回りだったんだな」
ツラツラと述べられる言葉に通話口の先にいる志帆は感服しながら嘘偽りが無いことを博臣に告げた。
『流石だね、博臣
見事な推理だよ』
「どうして言ってくれなかった?」
『言ってどうなるの??
博臣達に相談したといても何も変わらなかったよ』
ボヤくように志帆は嘆くと、悲痛な表情で通話を切った。
今、志帆の視界の先で起こっているのは未来と秋人の戦闘だ。妖夢化した秋人は即座に纏わりつく鎖を引きちぎると未来達に襲ってきたのだ。
攻撃を防ぎつつ、回避しつつ未来と志帆は秋人との間合いを取った。
距離が開いた双方は互いに見つめ合う膠着状態が続いた。
そんな中、未来が遂に行動を起こした。
「志帆先輩、預かってもらっていいですか?」
未来はそう言うと赤縁メガネを外し、志帆に差し出した。
「……やるんだね」
「はい、だから先輩が眼を醒ました時に渡してほしいんです」
「わかった」
志帆は未来からメガネを受け取ると、そのまま彼女を抱き寄せた。
「ごめん…私にもっと力があれば…」
無意識的に抱きしめる力が強くなる志帆。悔しげにグッと力を込めた志帆の身体は小刻みに震えていた。
そんな彼女に未来は、フッと柔らかく微笑んだ。
「謝らないでください
これは、私が決めた道です」
「後悔はしない?」
「私の手で先輩を救えるんです、後悔はしません」
志帆から離れると未来は剣を構え直す。
そして、秋人に向けて剣を突き出した。
すると秋人が声を上げると、紫色の波紋が一帯に広がる。その空間だけ、切り取られたかのように。
そして秋人の傷口から黒い物体が吹き出てそれは未来の身体へ。どんどん、それは吸収されていき、未来の身体を真っ黒に染め上げる。
そして、未来は塵のようにどこかへ消えていってしまったのだった。
境界の彼方を引き剥がされた秋人は力なく倒れ込む。それと同時に一帯に広がったものが戻り、先程の風景へ。
だが、そこにはもう未来はいなく、志帆は倒れている秋人に駆け寄ると彼を抱き寄せて泣き叫ぶのだった。