新たな脅威
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「これで良し」
弥生はそっと横たわる彩華と志帆の肩に優しく手を触れるとゆっくりと立ち上がった。
「あっくん…」
空に浮かぶものを見上げ弥生はそっと息子の名を紡いだ。
そして、視線を兄妹に囲まれて横たわる泉に眼を向ける。
「そっちはどう?」
「意識はまだ…」
「ずいぶん、深いところまで潜っちゃったからねー。」
そう言いながら弥生は泉の前に行きかがみ込んで彼女を見て微笑んだ。
「でも大丈夫。必ず戻ってくるわよ。妖夢だとか異界士だとか、そんなの本当は関係ないんだよね。自分が何者かなんてことも。ただ素直に大切な人のことを思って、その人のそばにいれば。
皆を見ててそう思った。」
ゆっくりと立ち上がった弥生は二人を見て柔らかく微笑む。
「貴女は…」
「一様これでも2つの世界の門番として、結構前からこの世界を見てきてるのよ。」
「あっ、それは…」
弥生の言葉に博臣は息を呑む。
「て、言ったら信じる?」
間髪入れずに弥生はそう言いあどけない笑みを浮かべ片目を瞑って見せた。
そんな弥生を見て小さく息をつくと博臣は空に浮かぶ境界の彼方に眼をやった。
地平線に一直線に浮かび青白く輝いていた。
「またいずれ現れるんですか?」
「まぁね。でも平気よ。憎しみを超える愛情を持ってすれば必ず封じられるものだから。」
「ウッ…ッ…」
聞こえてくるうめき声。それは志帆から発せられたものだった。
その声に気づいた博臣は慌てて志帆に駆け寄った。
「志帆!!」
そして彼女の後頭部に手を差し込むと、ゆっくりと上体を起こし、志帆を見る。
「...ひ、ひろおみ??」
微かに瞼を開けながら焦点の合わない瞳で、志帆は博臣を見上げる。
そんな彼女を博臣はギュッと力強く抱きしめた。
「ちょっと...痛いよ」
志帆は小言を言い、引き離そうと力を込めるのだが一向にビクトもしない。仕方なく彼の顔色を伺ってやろうとするのだが、彼の顔は志帆の肩に埋もれていたため、出来なかった。
無理やり離れることだって出来た。
でも、志帆は出来なかった。
「たく...独りで抱え込みすぎないでよ」
小刻みに震える博臣の背にゆっくりと手を回すと力強く抱きしめた。
ココに自分はいる...大丈夫だと博臣に伝わるように。
そんな二人に、暖かい朝日が射し込める。
そっと志帆と博臣は、抱きしめる力を緩め空に目を移した。
「「あっ」」
ただ単純に夜が明けただけ。
そんな空を二人は目を細めて見上げていた。
隣に大好きな人がいる。
それだけで幸せだった。
「……博臣」
「どうした?」
「…いい朝日だね」
「そうだな」
「他愛のない景色なのに…
こんなに色鮮やかに見えるのはなんでだろう…」
「そんなの決まってるだろ」
ボンヤリと空を眺めて志帆は小さな声を紡ぐ。その声に対して、目を細めた博臣はクルリと志帆の身体を反転させるのだった。
「……?!」
驚く志帆。その彼女の口元に唇を落とした博臣はニヤリと口角を上げていたのだった。
「隣に俺がいるからだ」
「ちょ…人前で!!」
ビシッと言い切る博臣。だが、それに反して志帆は顔を赤面させて慌てふためいた。その志帆の視界の先では、美月達が笑っていたのだった。
「あら!青春ね!!」
「へぇ~、兄貴もやるじゃない」
冷やかし混じりの言葉が飛び交う中、志帆は恥ずかしさのあまり博臣から離れようと身じろぐ。が、博臣は許すことせずに腕に込める力を強めるのだった。
「なぜ逃げようとしてるんだ?」
「アンタが急に変な事をするからでしょ!!」
「変な事って…
ただキスしただけだろ?」
「だ…だって…」
「別に変な事じゃないだろ?
なんたって俺は志帆の彼氏なんだからな」
不敵な微笑の笑みを浮かべて博臣は、恥ずかし気に顔を赤らめる志帆をジッと見つめた。その熱が籠った柳緑色の眼差しを、志帆は逸らすことができなかった。
「今のままでいい…
志帆はそのままでいてくれ」
フッと息をつき柔らかく微笑むと博臣は再び顔を近づける。紡がれた言葉に対し志帆は罪悪感を覚えながらも彼の口づけに応じるようにそっと瞼を閉じた。
優しい彼の口づけに甘い痺れが走る
それでも脳裏に思い起こされるのは寂し気な悠の後ろ姿
今のままでいたい…
でも本当にこのままでいいのだろうか…
志帆はグルグルと思考の渦に呑み込まれていくのだった。が、ふと目を開けた志帆の瞳に、遠くから仲良く歩いてくる二人のシルエットが映りこむ。それにハッとした志帆は博臣に気づけと軽く背を叩いた。それに応じて顔を上げ視線をやった博臣と、遅れて視線を投げた美月がようやく近づいてくる秋人と未来に気づくのだった。気づいた3人の表情は無意識の内に緩んだ。
一目散に美月は二人の元へ走り出す。
後から、追うように博臣と志帆も走り出した。
美月は駆け出したそのままの勢いのまま未来に思い切り抱きつく。ギュッと未来の背に手を回し静かに涙を流す美月。それに戸惑いながら未来は応じるようにそっと手を背に回した。
その二人の様子を隣で微笑ましげに見ていた秋人。だが、勢いよく飛び込んできた博臣によりバランスを崩し押し倒されてしまった。
そして毎度のごとく博臣は、秋人の脇に両手を差し込む。
「やめぃ!!」
小言を言いながら乱暴に退かそうとする秋人はうつ伏せの状態から博臣の顔を見ようと後ろに向ける。
「……!?!?」
が、いつもの軽々しい博臣がそこにいなく秋人は思わず息を呑み驚きで眼を見開いた。そして、仕方ないかと慈愛の籠もった表情になった秋人は、腕をそっと下ろした。
その横では、嬉しそうに表情を緩ます志帆がいたのだった。