新たな脅威
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黒い車が行き着いたのは、今にも崩れ落ちそうな廃墟と化した建物。
エンジンを止めて車から降りた悠は志帆の手を引き、上階の方から建物へ入った。緊張した面持ちで歩く二人。そんな彼らの目の前には吹き抜けの開けた場所が広がった。志帆は手すりに手を置き、下の方を覗き込んだ。すると1階には秋人と美月と雫の姿が確認できた。慌てて志帆は合流しようと飛び降りようとする。が、突如役者を待っていたかのように目の前のスクリーンが明るくなったことで志帆は行動を止めざる負えなかった。
『誰が…誰が…来たんですか??』
足を止めた志帆の耳にはもう一生聞きたくなかった薄汚い高笑い声が入る。その声に青ざめた顔を浮かべた志帆は恐る恐る真正面に顔を上げる。するとスクリーンに映っていたのは不気味に笑う藤真弥勒だった。
『博臣さん??美月さん??志帆さん??
それとも神原秋人くんかな?
確認出来なくて残念ですよ…
僕はもうこの世にはいないのでね…』
愉快に愉しげな声を上げる藤真。そんな彼を形相な顔で睨みつけていた志帆と、手すりに凭れかかって腕を組み成り行きを見守っていた悠は、衝撃的な言葉にハッと息を呑んだ。それは下にいた秋人たちも同じだった。そんな彼らの思考が追い付かぬまま、スクリーンでは藤真が嬉しそうに言葉を綴っていたのだった。
『やっと…想いを果たせたんです…
ずっーと前、泉さんに初めて妖夢を入れた時、僕も自身に同じものを取り込みその時がきたらいつでも彼女の身体に移れるようにしていたんです
そして…彼女の手によって、僕は彼女の中に迎い入れられた
もう…僕は一人じゃないんです
僕は…
僕を否定し受け入れなかった奴が…
皆…
全員…
大嫌いです…
だから、僕と泉さんだけの世界にしようと思った…
そのためにこの妖夢を使ったんです
この妖夢は眼をそらし逃げたいと思っている心の闇を引きずりだし、そしてそれを幻に変えて付き纏い
不安と恐怖から幻に責められ攻撃されていると錯覚させるんです
ここにいるのはそうやって闇に魅せられた者たちの果ての姿…
どうです??皆幸せそうにしているでしょ??』
「そんなの…アンタのエゴじゃないの!!」
怒りの籠もった雫の声が響き渡るが、残念ながら答えるものはもうこの世にいなく、ただ彼女の声が木霊するだけだった。
「最後の最後まで気色悪い奴だったな……」
ふと漏らした悠の言葉に、志帆は彼に顔を向ける。
が、彼の顔に後悔の念が見られ志帆は言葉を失った。
「悠兄さん??」
「俺は、泉の心の支えになれなかったらしいな」
自嘲気味に笑う悠の脳裏にあの時の頃の記憶が呼び起こっていた。
*****
それは寒くて雪が降り注ぐ冬の季節だった…
優しい瞳でスヤスヤと幸せそうに眠る弟と妹の部屋をそっと覗き込んだ泉は彼らの姿を目に焼き付けると静かにドアを閉めた。そして、決意の持った眼で何処かに行こうとしていた…
「何処行くんだ??」
思わず壁に凭れ掛かって成り行きを見ていた悠が口を挟んだ。だが、泉は悠を突き飛ばすような冷たい視線を向ける。
「悠には関係ないでしょ?」
「これでも当主の側近なんでね…で?」
確かにこれから泉が何処で何をしようが関係ない。だが、最近の思いつめている泉を見ていて不安を覚えた。彼女がどこか遠くに行ってしまいような気がしたから。
からかい混じりに肩をすくめて尋ねてくる悠に、泉は返答に困ったように眼を反らす。
「力を求めに行く…
このままでは大切な人たちを守れないから」
そう言い残し立ち去ろうとする泉。だがこのまま行かせてはいけないと、思わず悠は彼女の腕を掴んだ。
「そんな簡単につくものなら誰も苦労しねぇーぞ!!
何、後ろめたい事をしようとしてるんだ…」
「悠には決してわからないわ…私の気持ちなんて…」
泉は悲痛な顔で悠の手を振り切るとそそくさと立ち去った。
悠は空を切った手を呆然と見つめていた。
そして数年後、悠は藤真に会うことで泉が当時にしたことを知った。
妖夢を毛嫌いしている泉が己の体に妖夢を入れたことを……
「俺は気づけなかった…
泉が抱えている闇を、そして一人で背負わしてしまった。
ずっと傍にいたのになぁ…」
そう呟く悠の表情は、悲しげで志帆は思わず胸に手を置いた。
胸が締め付けられた。志帆自身も、同じ事をしてしまってるから。
傍にいても肝心な時には頼ってもらえない。どうして、当主たるものはこうも一人で抱え込もうとするのだろうか?
「泉は名瀬の長女として…
幼い弟妹を守るために…
大切な存在を守りたいがために...
力を求めた
バカだよなぁ…不器用すぎるぜ…全く…
でもそれ以上に俺は俺自身が不甲斐ない」
悠は悲しげに眉を顰める。
そして嘆き終えた悠は、やれやれと力なく肩をすくめた。
「そんなことない!!」
静かに聞いていた志帆は思わず声を張り上げた。
その志帆の力強い言葉に対し、悠は真剣な眼差しを向けて答える。
「あるんだよ…志帆
俺たち一族はホントに支えられているのか?
一緒に戦えているのか?
結局、俺達はアイツラと対等な立場として居られないんだよ」
「…兄さん」
志帆自身に自問自答させるように悠は語りかけた。
その言葉に志帆は驚き目を見開いた。志帆の青色の瞳に映る悠は、彼女に真正面に向き直るとゆっくりと重たい口を開くのだった。
「志帆…
俺はこの悲惨な扱いを受ける俺たち一族の待遇を変えるために戦う。
そのためにずっと俺は生きてきた」
何時になく真剣な表情で訴える悠。だが、どの言葉も志帆にはピンと来ることはなく、志帆は怪訝な表情で聞き返した。
「なに言ってるの??兄さん?」
「志帆…真実を教えてやる。
俺たちの母さんと父さんは名瀬に殺されたんだ…
俺も殺されかけた」
悠の言葉は軽々しくなく真剣味を帯びていて志帆は驚きで言葉を失いかけながらも尋ねる。
「……事故じゃないの!?」
「あぁ…事故に見せかけて消されたんだ」
怒りに満ちた悠の藍色の瞳。
志帆は、憤り奥歯を噛みしめる悠を動揺しながら見つめた。
「志帆?お前はどうする??
考える時間をやる…どっちに付くか
決意が固まったらこれに連絡を寄こせ」
置き土産のように悠は志帆に言い残すと彼女の手にそっと紙切れを握らせるのだった。
カツカツ……
茫然と立ち尽くす志帆。そんな彼女を一瞥すると、悠は静かにその場を立ち去るのだった。
エンジンを止めて車から降りた悠は志帆の手を引き、上階の方から建物へ入った。緊張した面持ちで歩く二人。そんな彼らの目の前には吹き抜けの開けた場所が広がった。志帆は手すりに手を置き、下の方を覗き込んだ。すると1階には秋人と美月と雫の姿が確認できた。慌てて志帆は合流しようと飛び降りようとする。が、突如役者を待っていたかのように目の前のスクリーンが明るくなったことで志帆は行動を止めざる負えなかった。
『誰が…誰が…来たんですか??』
足を止めた志帆の耳にはもう一生聞きたくなかった薄汚い高笑い声が入る。その声に青ざめた顔を浮かべた志帆は恐る恐る真正面に顔を上げる。するとスクリーンに映っていたのは不気味に笑う藤真弥勒だった。
『博臣さん??美月さん??志帆さん??
それとも神原秋人くんかな?
確認出来なくて残念ですよ…
僕はもうこの世にはいないのでね…』
愉快に愉しげな声を上げる藤真。そんな彼を形相な顔で睨みつけていた志帆と、手すりに凭れかかって腕を組み成り行きを見守っていた悠は、衝撃的な言葉にハッと息を呑んだ。それは下にいた秋人たちも同じだった。そんな彼らの思考が追い付かぬまま、スクリーンでは藤真が嬉しそうに言葉を綴っていたのだった。
『やっと…想いを果たせたんです…
ずっーと前、泉さんに初めて妖夢を入れた時、僕も自身に同じものを取り込みその時がきたらいつでも彼女の身体に移れるようにしていたんです
そして…彼女の手によって、僕は彼女の中に迎い入れられた
もう…僕は一人じゃないんです
僕は…
僕を否定し受け入れなかった奴が…
皆…
全員…
大嫌いです…
だから、僕と泉さんだけの世界にしようと思った…
そのためにこの妖夢を使ったんです
この妖夢は眼をそらし逃げたいと思っている心の闇を引きずりだし、そしてそれを幻に変えて付き纏い
不安と恐怖から幻に責められ攻撃されていると錯覚させるんです
ここにいるのはそうやって闇に魅せられた者たちの果ての姿…
どうです??皆幸せそうにしているでしょ??』
「そんなの…アンタのエゴじゃないの!!」
怒りの籠もった雫の声が響き渡るが、残念ながら答えるものはもうこの世にいなく、ただ彼女の声が木霊するだけだった。
「最後の最後まで気色悪い奴だったな……」
ふと漏らした悠の言葉に、志帆は彼に顔を向ける。
が、彼の顔に後悔の念が見られ志帆は言葉を失った。
「悠兄さん??」
「俺は、泉の心の支えになれなかったらしいな」
自嘲気味に笑う悠の脳裏にあの時の頃の記憶が呼び起こっていた。
*****
それは寒くて雪が降り注ぐ冬の季節だった…
優しい瞳でスヤスヤと幸せそうに眠る弟と妹の部屋をそっと覗き込んだ泉は彼らの姿を目に焼き付けると静かにドアを閉めた。そして、決意の持った眼で何処かに行こうとしていた…
「何処行くんだ??」
思わず壁に凭れ掛かって成り行きを見ていた悠が口を挟んだ。だが、泉は悠を突き飛ばすような冷たい視線を向ける。
「悠には関係ないでしょ?」
「これでも当主の側近なんでね…で?」
確かにこれから泉が何処で何をしようが関係ない。だが、最近の思いつめている泉を見ていて不安を覚えた。彼女がどこか遠くに行ってしまいような気がしたから。
からかい混じりに肩をすくめて尋ねてくる悠に、泉は返答に困ったように眼を反らす。
「力を求めに行く…
このままでは大切な人たちを守れないから」
そう言い残し立ち去ろうとする泉。だがこのまま行かせてはいけないと、思わず悠は彼女の腕を掴んだ。
「そんな簡単につくものなら誰も苦労しねぇーぞ!!
何、後ろめたい事をしようとしてるんだ…」
「悠には決してわからないわ…私の気持ちなんて…」
泉は悲痛な顔で悠の手を振り切るとそそくさと立ち去った。
悠は空を切った手を呆然と見つめていた。
そして数年後、悠は藤真に会うことで泉が当時にしたことを知った。
妖夢を毛嫌いしている泉が己の体に妖夢を入れたことを……
「俺は気づけなかった…
泉が抱えている闇を、そして一人で背負わしてしまった。
ずっと傍にいたのになぁ…」
そう呟く悠の表情は、悲しげで志帆は思わず胸に手を置いた。
胸が締め付けられた。志帆自身も、同じ事をしてしまってるから。
傍にいても肝心な時には頼ってもらえない。どうして、当主たるものはこうも一人で抱え込もうとするのだろうか?
「泉は名瀬の長女として…
幼い弟妹を守るために…
大切な存在を守りたいがために...
力を求めた
バカだよなぁ…不器用すぎるぜ…全く…
でもそれ以上に俺は俺自身が不甲斐ない」
悠は悲しげに眉を顰める。
そして嘆き終えた悠は、やれやれと力なく肩をすくめた。
「そんなことない!!」
静かに聞いていた志帆は思わず声を張り上げた。
その志帆の力強い言葉に対し、悠は真剣な眼差しを向けて答える。
「あるんだよ…志帆
俺たち一族はホントに支えられているのか?
一緒に戦えているのか?
結局、俺達はアイツラと対等な立場として居られないんだよ」
「…兄さん」
志帆自身に自問自答させるように悠は語りかけた。
その言葉に志帆は驚き目を見開いた。志帆の青色の瞳に映る悠は、彼女に真正面に向き直るとゆっくりと重たい口を開くのだった。
「志帆…
俺はこの悲惨な扱いを受ける俺たち一族の待遇を変えるために戦う。
そのためにずっと俺は生きてきた」
何時になく真剣な表情で訴える悠。だが、どの言葉も志帆にはピンと来ることはなく、志帆は怪訝な表情で聞き返した。
「なに言ってるの??兄さん?」
「志帆…真実を教えてやる。
俺たちの母さんと父さんは名瀬に殺されたんだ…
俺も殺されかけた」
悠の言葉は軽々しくなく真剣味を帯びていて志帆は驚きで言葉を失いかけながらも尋ねる。
「……事故じゃないの!?」
「あぁ…事故に見せかけて消されたんだ」
怒りに満ちた悠の藍色の瞳。
志帆は、憤り奥歯を噛みしめる悠を動揺しながら見つめた。
「志帆?お前はどうする??
考える時間をやる…どっちに付くか
決意が固まったらこれに連絡を寄こせ」
置き土産のように悠は志帆に言い残すと彼女の手にそっと紙切れを握らせるのだった。
カツカツ……
茫然と立ち尽くす志帆。そんな彼女を一瞥すると、悠は静かにその場を立ち去るのだった。