新たな脅威
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いい加減にしてください!!
今、貴方様がぶっ倒れたら身も粉もないんですから!!!
休むことなく指示を出していた博臣。そんな彼を見ていられないと志帆はたまらず彼に詰め寄った。当主の体調管理も側近の役目。目尻を吊り上げ声を荒げた志帆は、博臣を対策本部から追い出したのだった。
志帆により強制的に外された博臣は自室に入り身体の力を抜く。だが、博臣は予想だにしない人物を視界に捉えると身体を強張らせた。博臣の目の前にはソファーに寝っ転がる、白銀の髪を持つ人物がいたのだ。一体どうして彼がこんなところにいるのか。驚きで言葉を失う博臣の視線の先で、横になっていた彼は瞑っていた瞼をゆっくりと開けた。そして藍色の瞳が覗かせた彼はニヤリと口角を上げ、親しげに手を上げるのだった。
「よぉ?忙しそうじゃないか」
「なぁっ!?どうしてココに!!」
「ちょっとお邪魔させてもらってるぜ
それにしても大変そうだな」
驚く博臣を他所に、二カリと笑った悠はひょっとソファーに座り直した。
「別に大したことはない」
悠の労う言葉に対して、博臣は眉をピクリと動かしたものの表情を変えることなく淡々と吐き捨てた。そんな平然とする博臣の態度に悠は呆れた様子で彼を見た。悠から見たら、博臣は強がっているふうにしか見えなかったのだ。その表情を裏側には疲労感が垣間見えていた。
「そんなことはないだろ?
現に疲れ切った表情を浮かべてるしな
そんな顔してたら志帆が悲しむぞ」
悲しげに悠は眉尻を下げた。そしてサッと立ちあがった悠はいつの間にか博臣との距離を詰めていた。一瞬で目の前に来た悠に博臣は手も足も動かせなかった。
「少し安め
身体に良くないぞ」
フッと息をついた悠は目尻を下げて頬を緩ます。その悠の声音は疲れ切った博臣の鼓膜を優しく揺らした。そして、悠の藍色の眼差しに博臣は吸い込まれる感覚に陥った。緊張感を緩めたつもりはないのに段々と博臣の瞼は重たくなっていった。フゥッと意識が遠のいた博臣は身体の力が抜けバタッと重力に従って前に倒れそうになる。そんな意識を失った博臣の身体に悠は手を伸ばした。
「おっと…」
倒れ込んできた博臣を難なく受け止めた悠は、そのまま彼を横抱きして立ち上がるのだった。
*****
うっ....
夢心地のままゆっくりと博臣は身じろぎして意識を取り戻した。が、途端に違和感を覚えた。
一体どうして眠っていたのだろうか。どうしてこんな場所にいるのだろうか。博臣は眠る前の記憶を手繰り寄せた。そして博臣は思い出す。自室に悠が居た事を。ハッと完全に意識を取り戻した博臣はガバッと隣を見る。するとそこには案の定片手でハンドルを握り運転する悠の姿があった。助手席で音がしたことに気づいた悠は前を見ながらおどけた口調で話しかけた。
「お?ようやくお目覚めか!」
「これはどういうつもりだ」
呆気からんとした悠の人懐っこい表情に博臣は困惑しながらもドスを利かせた声を発した。だが、悠はその凄みを利かせた声を飄々と受け流した。
「別にとって食ったりしねぇよ、今はな……」
「だが、あの時は...」
驚きの余り博臣は言葉を失った。だが、どう見ても今の悠には敵意を感じる事ができなかった。一体どういう風の吹き回しだと困惑する
博臣を悠は一瞬一瞥した。が、悠は博臣から視線を前に戻すとギュッと眼を細め、ハンドルを握る力を強めた。その彼の藍色の瞳には、怒りの色が込められていた。
「確かに俺は名瀬が、どうしょうもなく憎い。」
怒りを押し殺した低い悠の言葉はどっしりと重たく、博臣は息を呑んだ。
「だがな、お前らは別だ」
フッと息をついて、博臣を見て言った悠の言葉の質は先程と真逆。
愛おしげに表情を緩めて博臣を見つめていた。そんな悠の優しい瞳に射抜かれた博臣は呆気に取られた。
「......!?」
「なんだかんだ気に入ってるんだお前らのこと。
大切な弟だと思ってる。
だから、困ってる弟に手を差し伸べてやろうかと思ってな」
皮肉混じりに博臣をからかうように最後のセリフを悠は悪人面の表情で言う。
「......余計なお世話だ」
その悠の言葉に対して博臣はぶっきらぼうに言い捨てた。だが、恥ずかしそうにそっぽ向く博臣の頬はほんのりと赤らめていた。悠はそんな反応をする博臣に愉しげに口角を上げる。
「ヘェ~、それならいいんだが?」
「何か情報持ってるのか?」
悠のもったいぶった言葉。それに悠は何かしらの情報を持っているのではないかと博臣は鋭く切り込みを入れた。そのようやく聞けた言葉に悠は軽笑いを零した。
「お?ようやく聞く気になったか?」
「今は、どんな手を使ってでも情報が欲しいからな」
「フン!可愛くない野郎だな」
鼻を鳴らす悠に、今度は仕返しとばかりに博臣が言い返す。
「でも、大切な弟なんだろ?」
「相変わらず食えない野郎だな」
「どうとでも言え」
「藤真の事、覚えてるか?」
誂う調子だった悠の表情が険しくなる。彼から発せられる空気が変わったことに気づいた博臣は名瀬の当主らしい真剣な目つきになる。
「あぁ...
だが、アイツはあの時...」
「死んだらしいな...まぁ別に俺には関係ないが...」
博臣の言葉を遮る形で悠は深く息を吐きながらゆったりとした口調で言葉を吐き捨てた。結局のところ悠はあの後藤真がどういう末路を辿ろうが知ったこっちゃでは無かったのだ。藤真の件に関してはただの風の噂で知ったに過ぎなかった。
運転する手を止めずに悠は深く座り直す。その悠が唐突に切り出した藤真弥勒の話題。悠のもったいぶった言葉に対して博臣は眉間に皺を寄せた。
「何が言いたい?」
「アイツは凄く執念深い。
だが特に泉に対しての執着心は尋常じゃなかった。」
「.......」
ポツリポツリと吐き出される悠の言葉。それを一言も漏らすまいと博臣は黙って聞いていた。
「加えて、藤真はそこそこ頭の回転が速い。そんなヤツが何も策を練ってないと思うか?
絶対に何か裏があるはずだ」
「藤真弥勒が生きていると?」
「さぁーな、そこまでは俺にもわからんが...
泉を手に入れたい...一緒になりたい...という執念を持った藤真は何をしでかすか...
怨霊になって、泉に取り憑いてたとしても俺は驚かないな」
「笑えない冗談だな」
悠の言葉には現実味がなさすぎると博臣は腕を組み直してため息混じりに言葉を吐き出した。が、言い出した悠は真剣な面持ちを浮かべたままだった。
「冗談ではじゃないぞ?
現に泉は行方知らずなんだろ?
それにアイツは藤真の提案を受け入れて妖夢を入れたらしいしな
何が起こっても可笑しくはない」
「まさか!?」
悠が提示した可能性に博臣は驚きの声を上げた。そんなことがあり得るのかと動揺する博臣を悠は落ち着くように促した。
「あくまで、ただの俺の推測だ」
淡々と述べる悠は冷静なつもりが無意識にハンドルを握る力を強めていた。
一方で同時刻、家に残ってた志帆の耳にとんでもない一報が入る。それは先程、フードを被った人物に殺されてしまった異界士からの証言だった。
「ホントに、そう言ってたんですか?
はい…わかりました」
苦虫を潰した表情をしながら通話を切った志帆は、慌てて博臣の自室へ。
「博臣様!!ってへぇ!?!?」
バタンと緊急事態のため遠慮せずドアを開けたのだが、モノケノから状態。
「一体どこに……」
そう思いながらも、志帆は一目散に外へ駆け出した。
悠長にしている場合ではないのだ…
秋人が襲撃を受けていることが彼に付けた鎖から感じ取れたのだ。
どうか間に合って!!
志帆は能力を展開させ急いで秋人の元へ向かうのだった。
...!?!?
空間の些細な歪みを感じ取った博臣はハッとした表情を浮かべ、運転席にいる悠に視線を投げた。
「悠兄!!」
「言われなくてもわかってる!!」
同じものを感じ取った悠は博臣の鋭い声と同時に急ブレーキをかけながらハンドルを思い切り、切り返し始める。悠は車をものすごいスピードで180度反転すると、そのままアクセルを踏み加速した。
「運転荒すぎだろ!」
勢いで傾く車体に、博臣はアシストグリップを咄嗟に握って衝撃に耐えた。が、そのまま異次元のスピードで加速しだす悠に博臣はたまらず悪態をついた。
「博臣!舌を噛みたくなかったら、口を噤んで歯、食いしばれよ」
刻は一刻を争う
悠は博臣の言葉に対してニヤリと不敵な笑みを零す。そして、悠は一種の忠告を告げると博臣の有無にお構いなくギアを加速させるのだった。