虚ろの影
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「どう?最近の様子は?」
「毎日襲撃しているようですが…」
あの出来事から一週間…
未来はことある毎に秋人に攻撃を仕掛けていた。
「そう…流石に厳しいわね」
「やはり、弱まってるところを狙うしかないんじゃないでしょうか?」
「そうね。暫くは手を引かせましょう。後、彼と仲良くしないようにと伝えたほうがいいわね」
「......そうですね」
そう返事をするものの、志帆は後半の方は無理だろうと感じていた。
なんたって眼鏡少女大好き秋人だ。未来がどんなに距離を取ろうと詰め寄ってくるに違いないのだからだ。でも、仲良くなると後で痛い思いをするのは未来自身だ。同じことは己自身にも言えるのだが、時既に遅い。秋人の中にいるものは討伐しなければいけない対象なのを知ってたのは、既に仲良くなった後だったのだから。
「引き続き監視よろしくね」
「はい…泉様」
とある一室…
志帆はある人物に報告をしていた。その人物は、名瀬泉
名瀬家は、長月市一帯のこの土地に強大な権力を持つ異界士の名門でありそこの大地主。そして、志帆の目の前にいる名瀬泉は、名瀬家を統括している当主だった。
対して代々名瀬家の当主の側近として仕えているのは瀬那家。
今は、長女である志帆が務めているのだ。
志帆は泉に1礼をしその部屋を出る。
そして、静かに扉を閉め一息ついた彼女の瞳に映るのは正面の壁に腕を組み寄りかかって立っている人物。4月にも関わらず、マフラーを首に巻く黒髪の青年は、志帆を待っていたかのように瞑っていた瞼を開け、柳緑色の瞳を覗かせる。
志帆はそんな彼に人知れず小さくため息を吐いた。
「…何してるんですか??博臣様?」
「ちょっとコッチ来い」
彼は志帆の言葉に顔を顰め、盛大に舌打ちすると志帆の手を掴みズンズンと引っ張り歩き始める。
「ちょ…ちょっと!!」
力づくで引っ張られた先は、彼の自室。
彼は自室の扉を押し開けると、志帆を放り投げる。そして扉を思い切り閉めた。
ようやく開放された志帆は苛立つ彼を訝しげに見る。
「どうしたんですか??」
「…それ」
視線を合わせることなく小さく言葉を発する彼。
対して志帆は、へぇ!?と剽軽な声を上げる。
「言い方!!どうにかならないのか!!」
何に苛立っているのかわからない様子の志帆に詰め寄る彼は、名瀬家の長男の名瀬博臣。
志帆にいたっては博臣は一応敬うべき対象。いくら昔からずっと一緒にいた幼馴染でも、家柄的にわきまえて接していたつもりの志帆にとっては、彼の苛立ちの理由が理由で思わず小さく吹いた。
「アハハ…そういうことね」
先程と表情を一変させ涙目になりながら笑う志帆に博臣は拍子抜けする。
「…笑いすぎだ」
「だって……博臣がこれで苛立つなんて…思わなくて…」
「慣れないんだよ…志帆にそう呼ばれるの…」
少し顔を赤く染めた博臣は恥ずかしそうに目をそむけながら言う。
その仕草にからかいすぎたかと志帆は微笑む。
「ごめん…博臣がそう言うなら二人きりの時だけ気をつけるよ」
そう言うと志帆はこの話は終わりと勢いよく部屋にあるソファーに座ると真剣な面付きで博臣を見る。
「で…なんか用??」
志帆の様子に気づき、博臣も表情を戻すと真剣味を帯びた声を発する。
「何話してたんだ…泉ねぇさんと」
「言うと思う??」
「…思わないな。でも…」
「気になるって??でも教えられないな…
教えてほしければさっさと博臣が当主になることね」
正当な言葉をつらつら述べる志帆に、博臣は言い返す言葉が思い浮かばず拳を握りしめる。
実は、先日の秋人が未来に襲われる場面を偶然博臣は目撃していたのだ。その日以降、普段学校を休む志帆が登校し始めた。そして何かしらの泉への報告…
名瀬家の書庫で調べてもこれらが意味する本質を掴めないでいたのだ。
「泉ねぇさんがいるからな…」
「名瀬家の長男の口からでた言葉とは思えないね
いつまでも姉の背中を見ているだけじゃ駄目なんじゃないの?」
弱気な彼の言葉に志帆は活を入れるように言葉をかける。
「......志帆の言う通りだな。」
目を閉じ小さく息をつくと、彼女の隣に座り抱きつくよう腕を回す。
異能力の弊害により極度の冷え性の彼から感じるヒンヤリとした体温にゾワゾワしながらも念の為にと志帆は話を切り出す。
「え〜と...これはなに?」
「決まってるじゃないか!
志帆で暖を取ってるんだ」
「十分この部屋...暖房効いてるよね?」
「俺の冷え性には、志帆の体温が一番効くんだよ」
「...........へぇ〜?」
棒読みで志帆が反応すると何処からともなく橙色に光る鎖が出現。あっという間にそれは博臣に絡みつく。
「...!?」
「.........変態」
反吐を吐き出すように志帆はいい捨てた。
動きが取れなくなった博臣から抜け出した志帆の右手は鎖の色と同じ淡い光を発していた。
志帆の能力は、空間から鎖を出現させ結界を張ったり拘束したりできるのだ。
「志帆?照れてるのか?」
「断じてそれはない!」
「俺はただ志帆に温めて貰おうと思っただけなのだが?」
「だったら、もう一枚羽織るか、暖房を上げればいいでしょ!!」
通常運転すぎる博臣にため息を付きながら、志帆は室内の暖房を上げる。
そして、そのまま部屋の外へ出る扉に手をかける。
「もう帰るのか?」
「....疲れたから帰る」
「泊まってってもいいんだぞ?」
「余計に疲れるからヤダ」
「相変わらず、志帆はツンデレだな」
誰のせいだと思ってんだと志帆は心の中でため息を吐く。と、同時に彼の妹の美月が不憫すぎると同情する。
「じゃあね」
もうこの場にいる用事もないので早々に退散しようとするのだが、名前を呼ばれ立ち止まる。
なんだと志帆は振り返るのだが....
「帰る前にコレは外せよ?」
博臣の言葉にすっかり忘れていたと志帆は固まった。
コレとは志帆が放った鎖。
「ゴメンゴメン」
完全に忘れていたと平謝りしながら志帆は解除する。
ようやく自由の身になった博臣は、直ぐ様立ち上がるとスタスタと志帆の脇を通り抜け、部屋の扉を開ける。
予想外の博臣の行動に、思考が追いつかない志帆に博臣は振り返る。
「早く行くぞ」
「??どこに?」
「帰るんだろ?送ってく」
サラリと言いのける博臣の言葉でようやく彼の行動の意図を志帆は理解する。
紳士的な彼の行動に志帆は内心、キュンとしながらも表情に出すことなく頷く。
この想いは決して表に出してはいけない。
いずれ当主になるであろう彼と
その当主の側近として仕える私
抱いてはイケない密かな想い
叶うことがない想いに志帆は今日も独り、強く蓋をするのだった。
「毎日襲撃しているようですが…」
あの出来事から一週間…
未来はことある毎に秋人に攻撃を仕掛けていた。
「そう…流石に厳しいわね」
「やはり、弱まってるところを狙うしかないんじゃないでしょうか?」
「そうね。暫くは手を引かせましょう。後、彼と仲良くしないようにと伝えたほうがいいわね」
「......そうですね」
そう返事をするものの、志帆は後半の方は無理だろうと感じていた。
なんたって眼鏡少女大好き秋人だ。未来がどんなに距離を取ろうと詰め寄ってくるに違いないのだからだ。でも、仲良くなると後で痛い思いをするのは未来自身だ。同じことは己自身にも言えるのだが、時既に遅い。秋人の中にいるものは討伐しなければいけない対象なのを知ってたのは、既に仲良くなった後だったのだから。
「引き続き監視よろしくね」
「はい…泉様」
とある一室…
志帆はある人物に報告をしていた。その人物は、名瀬泉
名瀬家は、長月市一帯のこの土地に強大な権力を持つ異界士の名門でありそこの大地主。そして、志帆の目の前にいる名瀬泉は、名瀬家を統括している当主だった。
対して代々名瀬家の当主の側近として仕えているのは瀬那家。
今は、長女である志帆が務めているのだ。
志帆は泉に1礼をしその部屋を出る。
そして、静かに扉を閉め一息ついた彼女の瞳に映るのは正面の壁に腕を組み寄りかかって立っている人物。4月にも関わらず、マフラーを首に巻く黒髪の青年は、志帆を待っていたかのように瞑っていた瞼を開け、柳緑色の瞳を覗かせる。
志帆はそんな彼に人知れず小さくため息を吐いた。
「…何してるんですか??博臣様?」
「ちょっとコッチ来い」
彼は志帆の言葉に顔を顰め、盛大に舌打ちすると志帆の手を掴みズンズンと引っ張り歩き始める。
「ちょ…ちょっと!!」
力づくで引っ張られた先は、彼の自室。
彼は自室の扉を押し開けると、志帆を放り投げる。そして扉を思い切り閉めた。
ようやく開放された志帆は苛立つ彼を訝しげに見る。
「どうしたんですか??」
「…それ」
視線を合わせることなく小さく言葉を発する彼。
対して志帆は、へぇ!?と剽軽な声を上げる。
「言い方!!どうにかならないのか!!」
何に苛立っているのかわからない様子の志帆に詰め寄る彼は、名瀬家の長男の名瀬博臣。
志帆にいたっては博臣は一応敬うべき対象。いくら昔からずっと一緒にいた幼馴染でも、家柄的にわきまえて接していたつもりの志帆にとっては、彼の苛立ちの理由が理由で思わず小さく吹いた。
「アハハ…そういうことね」
先程と表情を一変させ涙目になりながら笑う志帆に博臣は拍子抜けする。
「…笑いすぎだ」
「だって……博臣がこれで苛立つなんて…思わなくて…」
「慣れないんだよ…志帆にそう呼ばれるの…」
少し顔を赤く染めた博臣は恥ずかしそうに目をそむけながら言う。
その仕草にからかいすぎたかと志帆は微笑む。
「ごめん…博臣がそう言うなら二人きりの時だけ気をつけるよ」
そう言うと志帆はこの話は終わりと勢いよく部屋にあるソファーに座ると真剣な面付きで博臣を見る。
「で…なんか用??」
志帆の様子に気づき、博臣も表情を戻すと真剣味を帯びた声を発する。
「何話してたんだ…泉ねぇさんと」
「言うと思う??」
「…思わないな。でも…」
「気になるって??でも教えられないな…
教えてほしければさっさと博臣が当主になることね」
正当な言葉をつらつら述べる志帆に、博臣は言い返す言葉が思い浮かばず拳を握りしめる。
実は、先日の秋人が未来に襲われる場面を偶然博臣は目撃していたのだ。その日以降、普段学校を休む志帆が登校し始めた。そして何かしらの泉への報告…
名瀬家の書庫で調べてもこれらが意味する本質を掴めないでいたのだ。
「泉ねぇさんがいるからな…」
「名瀬家の長男の口からでた言葉とは思えないね
いつまでも姉の背中を見ているだけじゃ駄目なんじゃないの?」
弱気な彼の言葉に志帆は活を入れるように言葉をかける。
「......志帆の言う通りだな。」
目を閉じ小さく息をつくと、彼女の隣に座り抱きつくよう腕を回す。
異能力の弊害により極度の冷え性の彼から感じるヒンヤリとした体温にゾワゾワしながらも念の為にと志帆は話を切り出す。
「え〜と...これはなに?」
「決まってるじゃないか!
志帆で暖を取ってるんだ」
「十分この部屋...暖房効いてるよね?」
「俺の冷え性には、志帆の体温が一番効くんだよ」
「...........へぇ〜?」
棒読みで志帆が反応すると何処からともなく橙色に光る鎖が出現。あっという間にそれは博臣に絡みつく。
「...!?」
「.........変態」
反吐を吐き出すように志帆はいい捨てた。
動きが取れなくなった博臣から抜け出した志帆の右手は鎖の色と同じ淡い光を発していた。
志帆の能力は、空間から鎖を出現させ結界を張ったり拘束したりできるのだ。
「志帆?照れてるのか?」
「断じてそれはない!」
「俺はただ志帆に温めて貰おうと思っただけなのだが?」
「だったら、もう一枚羽織るか、暖房を上げればいいでしょ!!」
通常運転すぎる博臣にため息を付きながら、志帆は室内の暖房を上げる。
そして、そのまま部屋の外へ出る扉に手をかける。
「もう帰るのか?」
「....疲れたから帰る」
「泊まってってもいいんだぞ?」
「余計に疲れるからヤダ」
「相変わらず、志帆はツンデレだな」
誰のせいだと思ってんだと志帆は心の中でため息を吐く。と、同時に彼の妹の美月が不憫すぎると同情する。
「じゃあね」
もうこの場にいる用事もないので早々に退散しようとするのだが、名前を呼ばれ立ち止まる。
なんだと志帆は振り返るのだが....
「帰る前にコレは外せよ?」
博臣の言葉にすっかり忘れていたと志帆は固まった。
コレとは志帆が放った鎖。
「ゴメンゴメン」
完全に忘れていたと平謝りしながら志帆は解除する。
ようやく自由の身になった博臣は、直ぐ様立ち上がるとスタスタと志帆の脇を通り抜け、部屋の扉を開ける。
予想外の博臣の行動に、思考が追いつかない志帆に博臣は振り返る。
「早く行くぞ」
「??どこに?」
「帰るんだろ?送ってく」
サラリと言いのける博臣の言葉でようやく彼の行動の意図を志帆は理解する。
紳士的な彼の行動に志帆は内心、キュンとしながらも表情に出すことなく頷く。
この想いは決して表に出してはいけない。
いずれ当主になるであろう彼と
その当主の側近として仕える私
抱いてはイケない密かな想い
叶うことがない想いに志帆は今日も独り、強く蓋をするのだった。