新たな脅威
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
『あぁ…そうだ、それともう一つ』
立ち尽くす志帆は眩い光に顔を上げる。すると目の前のスクリーンには再び藤真の姿があったのだった。
『この妖夢はその姿を見たものに乗り移る力を持っているんです…
一度見られればその闇は増幅し広がっていく…
さぁ!!この闇があらゆる異界士を飲み込み、妖夢と共にこの世界の全てを塗り替えるのです!!』
せせ笑う藤真から告げられる言葉の数々。そしてそれが終わると同時にスクリーンを破るように土埃の煙から未来が現れた。だが、彼女のキレイな髪も瞳も真っ黒に染まっていた。
志帆は目を白黒させた。
だが、ぐしゃぐしゃな頭でも今優先することは明白だ。グッと志帆は拳を握りしめると、手すりを跨いで飛び降りるのだった。
*****
美月が飛びかかってくる未来に向けて檻を張る。が、あっさりとその檻は破られてしまう。それにハッと息を呑んだ彼らの前で、未来の身体に見覚えのある橙色の鎖が纏わりつくのだった。
「これは…!?」
「志帆!!」
「大丈夫?皆?」
驚く一同の前に飛び降りてきた志帆が現れる。後ろにいる美月が大丈夫なことを一瞥して確認するとホッと胸を撫でおろす。そして、志帆は鋭い視線を前にやり、目の前の未来に意識を集中させた。だが、予想以上の彼女の力に志帆は徐々に押されていくのだった。
「グッ……」
志帆は破られないように鎖に力を込めていく。
が、未来が血の剣に力を少し込めただけで、バリンっと音が響き鎖は星屑のように消えてしまうのだった。その衝撃で志帆は後ろへ遠くに飛ばされる。
直ぐに叩きつけられる衝撃に備え、志帆はギュッと眼を瞑るが予想していた痛みはこなく、代わりに大好きな匂いに包まれる。
「……?!」
志帆は恐る恐る眼を開ける。するとそこに居たのは己を腕に抱えてまっすぐ前を見据える博臣だった。
「...ひ、博臣様」
「帰れと言ったよな?」
心配そうな柳緑色の瞳は向けられることなく、怒りを押し殺した彼の低い声に、志帆自身ビクリと体を震わしながらも思っている事を述べた。
「そんなの...無理ですよ
だって、皆戦ってるのに私だけ蚊帳の外なんて御免です」
フニャリと力なく笑う志帆に、博臣は困ったように肩をすくめた。
どんなに危険から遠ざけても彼女は果敢に飛び込んでくる
コッチの気も知らないで
「志帆、悪かった」
グシャリと博臣は志帆の髪を撫でる。
お互いに異界士同士
当主と側近、互いにケガも死も纏わりついてくる
だからこそお前だけ安全領域に居ろと突き放すなんて最初から無理な話だったのだ
じゃあ自分は何をすべきなのか…
遠ざけるだけではダメだ。一緒に互いを守り合いながら前へ突き進まないといけないのだ。
「遅いよ、バカ」
博臣の滅多に聞けない謝罪に志帆は目を白黒させる。が、たった一言、それだけで十分博臣の気持ちは伝わったのだ。志帆は目を細めて笑うと、久々に博臣に向かって軽口を叩くのだった。その軽口に博臣は驚きながらも口端を吊り上げるのだった。
「後は任せろ…」
その言葉に安心したように小さく志帆は頷くのだった。
*****
志帆を突き飛ばした未来の剣は秋人の体を抉るように突き刺した。
倒れた秋人の身体から夥しい血が溢れ赤い湖が広がる。
痛みに悶絶する秋人がそこにはいた
境界の彼方を…殺す…
そう呟く未来の瞳からは涙が流れる。
肩を震わせ、相反する感情と戦う未来だが、ようやく感情を押し鎮めると無表情で秋人に歩み寄り始める。
そんな彼女の背からは禍々しい黒い死神のような羽が無数に生えていた。
「ごめん。私、私にもっと力があれば…力が。」
何もできない己の弱さを嘆き美月は悔しそうに涙を流す。その背に力強い言葉が掛けられた。
「違う」
嘆き悲しむ美月にそっと優しく語りかけたのは、博臣だった。
「美月は美月のままで良いんだ
お前は弱くない」
顔を上げた美月の視界には博臣の大きい背が映る。その姿を見て美月は涙を流しながら彼の名を紡いだ。
「…お兄ちゃん」
博臣はゆっくりと振り向き表情を緩ますと抱きかかえていた志帆をそっと地面に下ろした。
「志帆のこと頼んだぞ」
美月にそう言い残した博臣は未来に向かって走り出す。
カキン!!
マフラーと剣が交わる音が響く。
そして互いに間を取った両者。先に動いたのは博臣。マフラーを使い、未来の持つ剣を飛ばす。
だが、瞬時に未来は新たな剣を血で作ると博臣に向けて振り落とした。
バチン!!バチン!!
博臣が横に避けることで空を切る未来の剣。だが、三発目で博臣は避けるために宙に飛び上がる。
無防備状態の彼に未来は黒い物体で攻撃を畳み掛ける。
その攻撃を博臣は檻を張ることで回避していく。そして宙で一回転し体勢を戻し、地面に降り立った博臣はかかってくる黒い物体をかわしながら、未来の懐に走り込む。
そして未来の近くで避けきれない攻撃を檻を張り防ぐと、力を込めて拳を握り未来に向けて突き出した。
二人のぶつかりあった力は相殺される形散り散りに、そして衝撃を物語るように煙が巻き上がった。
ハァハァハァ…
息を整えながら博臣は秋人の名を呼んだ。
「アッキー!」
呼ばれた秋人はゆっくりと痛みに顔を歪ませながら立ち上がった。
そして、彼らは未来が居るはずの煙の向こうを見据えるのだが、今度は別の場所から建物を揺るがす音が響き土煙が巻き上がる。
天井のガラスがガランガランと壊れ落ちてくる。と、同時に姿を現したのは眼を閉じ気を失っている大きな白い妖狐。
「……ぁ…彩華さん!」
妖夢状態になった彩華が落ちてきたのだ。
地面に叩きつけられる彩華。その衝撃波は、そこにいる皆に伝わる。
飛ばされないように、志帆を抱えて衝撃に耐えていた美月。
だが、ふと顔を上げた美月に動揺が走った。
「ぁッ…泉姉様」
彩華の上に乗って立っていたのは泉だったからだ。
正面に対峙するように居るのは泉と未来。
彼らを正気に戻すために二人は立ち上がる。
「博臣!泉さんは任せたぞ!
栗山さんは僕が。」
その言葉にフッと息を吐き口角を上げた博臣は泉に向かって飛び上がった。だが、泉が振り回した薙刀が当たり、博臣は宙に突き飛ばされる。そして畳み掛けるように泉は博臣に向かって飛び出す。
煙に包まれる中、両者は武器と武器が鍔迫り合いに。
歯を食いしばり力を込める泉に博臣は悲痛な表情で心のなかで思っていたことを吐き出す。
泉に想いが伝わるように。
「姉さん!
俺は、姉さんを追いかけてきた。
ずっと、背中を追いかけようとしてきた。
でも、違う!」
博臣はそう言い切るとマフラーに力を込めて、泉を弾き飛ばす。
そして互いに地面に距離を取る形で着地した。
「アァー!」
泉は声を上げて凄い形相で博臣に突っ込んでくる。そんな彼女を顔を上げて見据えると瞳に浮かぶ涙を振り切るように博臣は力を込めて泉の武器を弾き飛ばした。
そして得物をなくし、前のめりになる泉の手を掴む。
もう離さまいと力強く掴み、力が抜けた泉の身体を引き上げる。
「違ったんだ!!
その傷を知り、闇を共にし、一緒に歩かなければいけなかったんだ!」
訴えるように泉に心の声を叫ぶ博臣の瞳から、涙の滴が溢れる。
その滴は、ポタリと泉の頬に落ちるのだった。