新たな脅威
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「お、お前は…」
秋人は、急に空から現れてフードを被った人物を瞳を揺らしながら尋ねる。
「まだ理解していないのだな。教えてやる。呪われた血の一族よ。」
だが、その人物の視線は秋人ではなく未来だった。彼女を見据えたまま機械じみた声でフードの人物は語り始める。
「呪われた?」
「お前が背負う宿命を」
話しかけながら、フードの人物は両手に持っていた得物を一つに結合させる。
「やめろ!」
秋人が叫び声を上げるが、フードの人物は薙刀を振り回すと、未来に向かって一直線に襲いかかってきた。慌てて秋人は、未来を抱えてその攻撃をかわしていく。が、何度も何度も襲いかかってくる薙刀の刃が何度目かで秋人の足首が当たってしまうのだった。
「アッ!」
秋人の足首から血飛沫が吹き出て、彼は未来とともに地面に落下してしまった。地面に落ち秋人は自分の状況を把握すると懇願するように彼女の名を紡いだ。
「逃げろ、栗山さん。栗山さん。」
「せ、先輩」
「はやく逃げろ!」
「でも、こんなに…!」
震えながら未来が秋人の足元を見る。切られた秋人の足首の先がなくなっていたのだ。これを見て未来は1人逃げる事ができなかった。
逃げてほしい秋人、だが未来もそんな彼を放っておけず二人は押し問答を繰り返した。そんな二人の元にフードを被った不審人物が追いつく。その人物は倒れている秋人に目をくれずに未来に向かって突っ込んでいくのだった。
「ッ!」
反射的に未来が血の剣でその薙刀を受け止めた。その衝撃で血の剣から血しぶきが飛び散る。その血はフードにもかかり、その部分は溶けていった。
「ハァハァ…」
未来は肩で息をしながら崩れ落ちる。
「血か…」
対して、そう口に漏らしたフードの人物はその煙がこみ上げるフードを脱ぎ捨てる。
フードから立ち込める紫色の煙…
そこからゆっくりと姿を現したのは予想だにしない人物で、秋人は思わず眼を疑った。だが、紛れもなく見覚えのある人物。秋人は動揺しながら彼女の名を叫んだ。
「ハッ!い、泉さん。」
「呪われた血よ、教えてやる。お前が何者か。何を成すべきか。」
だが、秋人に反応を示すことなく泉は一瞬で未来との差を詰めるとしゃがみ込み、へたり込んでいる未来の口元を掴んで未来の顔を見つめるのだった。そして恐怖に震える未来にそっと眼を近づけた泉の瞳は薄気味悪く紫色に光った。
「やめろー!」
「ッ!」
慌てて秋人は必死に声を張り上げると未来に駆け寄ろうと立ち上がる。対して、未来は脳裏に流れてくる映像に困惑していた。その映像に脳が追いつけず未来は意識を失い、力が抜けた彼女の身体は重力に従い落ちていく。そんな彼女をジット見ていた泉。だが、突如背後から殺気を感じ振り返った。と、同時に彼女が居た場所に放たれたのはマフラーだった。マフラーを放った人物は目の前にいる彼女の名を複雑な表情を浮かべて呼んだ。
「姉さん」
「お前」
一方で未来を抱き寄せた秋人は、顔を上げ博臣を心配そうに見る。そんな彼に博臣は鋭い小さな一声を放つと、厳戒態勢に入った。
「アッキーは下がっていろ」
「博臣、ッ!」
博臣を見た泉は一瞬だがハッとした表情になるが、途端に眼を抑えて苦しみだす。
「泉姉さん」
その様子に博臣は、緊張を少し解いて彼女の名を呼ぶ。
が、泉は悶絶しながらも博臣に向かって飛び出してきた。懐に入り込み、顔面に回し蹴りを仕掛けようとする泉。それに緊張の糸を解いた博臣は反応に遅れてしまう。だが、蹴られると思った彼を懸命に呼びながら現れたのは志帆だった。
「博臣!!!」
志帆は博臣に飛び込み押し倒す。志帆により地面に倒れ込んだ博臣が見たのは泉の蹴りを受け身なしで受ける志帆の姿だった。まともに攻撃を受けた志帆は、衝撃で吹き飛ばされ地面に叩きつけられてしまう。そんな彼女を心配して博臣は彼女の声を叫んだ。
「志帆!!」
直様立ち上がった博臣は志帆の元に行こうとするが行く手を阻むように間髪入れずに泉の蹴りが降り掛かってきた。
「ッ!」
博臣はその蹴りを顔面に喰らい、体勢を仰け反らせることになる。が、直ぐに博臣は体勢を立て直すと泉の足元を掴んだ。そして悲痛で顔を歪ませながら博臣は力を込め始める。
「はぁぁぁぁ!!!」
博臣の周囲に広がった光が一気に泉の足元に集約される。それは紋章となり泉の足へ消えていった。
「イッ!」
泉は痛みに堪えながら、掴まれた足で博臣を蹴り上げる。とっさに受け身体勢をとった博臣は衝撃で後ろへ。ようやく解放された泉だが、痛みで膝を折り崩れ落ちてしまう。
「これでもう逃げられない。
どこに行ってもその呪詛が行き先を教えてくれる。」
口に溜まった血を吐き出した博臣は口を拭いながら、泉を見下ろした。
表情を歪ませ、呪詛のつけられた足を押さえる泉だが、地面に落ちている薙刀を持ち立ち上がると博臣に向かって走り出す。
その行動に慌てて博臣は檻を展開させるが、その頃には泉の姿は消えてしまっていたのだった。
「消えた」
「いや……逃げた」
そう呟いた彼らの場所は、時間が動き始めたかのように舞い散る桜が動き出したのだった。
*****
「栗山さん、今日のところは帰るんだ。
また日を改めて話をしよう。」
追撃をなんとか振り切った彼らは未来の家の前に移動していた。
納得がいかないと不服そうな顔をしていた未来だが、博臣の言葉に渋々頷いた。
「はい」
そして未来は自宅に入るとそっと扉を閉めた。それを確認した博臣は秋人に何も言うことなく踵を返し歩き始める。
「追うのか?」
そんな彼の後ろ姿に秋人は声をかける。
「あー」
小さく一言返した博臣。
だが、次の瞬間にサッと秋人の背後に移動し彼の脇に両手を突っ込んでいた。
「ッ!やめい!」
いつもの調子で嫌そうに秋人は距離を取って、顔を上げる。
しかし、そこに居たのはいつもの博臣ではなく悲痛で今にも泣き出しそうな顔をしている博臣だった。
「なぁ」
「ん?」
「良かったのか?志帆を置いてきて」
あの後、博臣は意識を取り戻した志帆を突き放すような言い方をして遠ざけたのだ。
「博臣様!!私も行きます」
「来んな」
「なぜですか?」
「これは俺の問題だ…帰れ」
「なんで一人で抱え込もうとするんですか……
それじゃあ、私がいる意味がないじゃないですか」
数分前のやり取りを思い出しながら博臣は遠い目をしていた。
「あれでいいんだ…」
重たい口を開いた博臣が絞り出した声は微かに震えていた。その弱々しい声に秋人はこれ以上何も言えなかった。
「じゃあ、博臣は幸せって何だと思う?」
そんな彼に秋人はずっと考えていた疑問を投げかけた。
「1人1人捉え方の異なるもの。だからこそ、何であるかなんて言いきれるではない。ただ、そんなことを理屈で考えて自分の気持ちを偽り続けているのなら、もう真の幸せなんて感じることなどできないんじゃないか?」
秋人に向けて吐き出すように言ったセリフ。
だが、これは自分にも当てはまることで、博臣の脳裏に先程の瞳に涙を浮かべながら叫ぶ志帆の顔が浮かび上がるのだった。