境界の彼方
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「…何をしているのかしら」
「やぁ…志帆さんこんばんは
よくここがわかりましたね」
全身に纏った殺気立ったオーラを発し、志帆が冷酷な瞳を向けるのは空を見上げる藤真。とあるカーブがさしかかった道路。ガードレール際には、桜が持っていた鎌が異様な形になり果て立てかけられていた。その鎌にはコードが繋げられていてそれはボンネットが開けられた剥き出し状態のエンジンに接続されていた。
志帆の言葉にゆっくりと振り返った藤真は眼を見開きながらも口角を上げていた。
「…どうしてだと思います??」
「知りたいですねぇ〜そのからくりを」
「あの時に探査用の鎖をつけさせてもらったのよ」
志帆はパチンと指を鳴らす。すると、藤真の右手首に浮かび上がるのは淡い橙色の光を放つ細いチェーンだった。
「…いつの間に?!」
「万が一にと思って付けといてよかったわ」
「僕は何もしてませんよ??」
「どっからどう見てもこれから何かしでかす気満々にしか見えませんよ」
とぼける藤真に志帆は眼光を鋭くさせゆっくりと彼に近づき始める。ずっとずっとこの3ヶ月、念には念を入れて志帆は藤間の動向を追っていたのだ。暫く何も行動を起こさなかった藤真がこのタイミングで不審な行動をとった。でも、一体彼が何をしようとしているのかは、志帆にもわからなかった。
「……一体何をする気かしら」
「はぐらかすことは出来なそうですね」
藤真は小さく肩をすくめると車にもたれかかった。そして、志帆を試すかのように言葉を投げかけた。
「今起こっている摩訶不思議な現象…貴女はどう思ってますか??」
「……検討がつきません」
「ではお答えしましょう
貴女も含めて、名瀬の連中は呪われた血が消滅した時点で、事態は収束したと考えていますがそれは違います」
意気揚々と話し始める藤真から放たれた衝撃の事実に志帆は思考が停止した。
未来が命がけでやった行為は無駄であったと言っているようなものだったから。
「…境界の彼方が消滅してないと??」
「えぇ…してませんよ
神原秋人の身体から引きずり出された境界の彼方は栗山未来の血と融合したことで消滅を免れていたんです。
そして、弱体化しつつも栗山未来と今も戦っているのです。」
「栗山さんと境界の彼方が戦っていると?!」
「そうです
そしてその戦いに勝つため境界の彼方は、多くの妖夢や異能の力を引き寄せ吸収し力を増幅させ栗山未来を倒そうとしている
隔絶された空間を作り出してね」
藤真はそう言うと空のある一点を見つめる。まるでそこに境界の彼方があるとわかっているかのように。つられるように志帆もそこに眼をやった。
「さて、志帆さんに質問です。
その力を更に増幅させたらどうなると思いますか??」
不敵に笑い志帆に問いを投げかける藤真に、志帆は警戒心を更に強める。
あの物騒な鎌。そこからコードのように車に繋げられている。これらから志帆はある可能性をはじき出した。
「境界の彼方に貴方は力を与えようとしている。
そして、栗山さんとの戦いに勝たせようとしてるとでも??」
「まぁそんな感じです」
肯定とでも捉えられる発言に、志帆は指輪を外し鉄扇に変える。そして、半歩下がると口角を上げる。
「この場にいる私がさせると思います??」
「思いませんね??」
「やぁ!!」
言い終わらないうちに志帆は鉄扇を藤真がいる場所に叩きつけた。土埃が起こり、そこから飛び上がった藤真が姿を現す。そんな彼に畳み掛けるように志帆は突っ込んでいく。
「せっかちすぎません??」
「ここで貴方を食い止める。
栗山さんに不利益になるようなことはさせない」
まだまだ全力でやれる程の力は志帆にだってない。理由はわからなかったが、ようやく藤真の一言で志帆は合点がいった。全ては、境界の彼方が未来に勝つために起こった現象であると。それでも、志帆は眼の前の相手を食い止めたいという意志で異能力を使う。
「へぇ〜この状況下でこれだけの力を出せるなんて...
流石風魔の血を引いてるだけはある」
「何ゴチャゴチャ言ってるの!!」
鉄扇を開き、志帆が振りかざすと突風が巻き起こる。それを藤真は触手を出し防御する。完全に余裕そうな顔をする藤真に志帆は苛立ちがこみ上げていく。
「そういえば考えて頂けました??
僕が投げかけた事」
ふと思い出したように藤真は志帆に問いかける。その問に対してすでに答えを導き出していた志帆は大きく叫ぶ。
「嘆くか?抗うか?の話なら.......
答えは両方よ!!」
「両方ですか??」
予想外の答えに藤真は目を丸くする。
対して、志帆は打って変わって顔を歪めて俯く。
「最初は誰だって不幸を嘆く
変えられない定めだって....」
生まれた時から纏わりつく家柄・立場…
己の不甲斐ない力不足…
どうして??と嘆いた場面はいくらでもあった。
それでも、身近に抗おうとする人たちがいた。
志帆は拳をギュッと握りしめて、心の奥底から叫んだ。
「でも!!
抗って変えられるのならそりゃあ全力で藻掻く!!
あの二人を見てそう思ったんだ」
「なるほど、そう言う答えもあるんですね」
「だから栗山さんが生きてるとわかった今、もし助けられるなら私は全力でアンタを叩く!!」
ギラギラとした目で藤真を睨み、志帆は鉄扇を構えなおす。臨戦態勢の志帆に対して、藤真は表情を崩すことなく逆に不敵な笑みを浮かべる。
「なるほど
ですが貴女一人で僕を倒せますか?」
「私の力では貴方を倒せないとでも??
随分と見くびってくれるじゃないですか」
「だって僕は今まで本気を出していませんからね」
「へぇ~…
わざと意図的に攻撃を仕掛けなかったとでも?」
「そういう契約でしたからね…悠さんと」
「やはり兄さんと繋がっていたのですね
何故、近づいたの?」
藤真の口から出てきた悠の名前に志帆は驚くことはなかった。初対面時の対話で薄々とだが感づいていた。でも、悠がそんな事するはずがないと志帆はその可能性を消したのだ。だが、名瀬家から奪われてしまった虚ろの影の妖夢石の一件で悠が絡んでいる可能性を否定できなくなったのだ。だって、虚ろの影自身を厳重に守っていたのは志帆自身の異能力。それを解除できるのは瀬那家しかいないのだから。
「ただ単に彼と利害が一致したからですよ」
そう言った藤真の脳裏では初めて彼に会った時の光景が浮かび上がってきた。
「貴方ですか?最近協会に入り浸っている人って??」
最初に聞いたのは単なる噂話だった。それはここ最近、瀬那の人物が協会にしょっちゅう顔を出しているという噂。単純に興味を持った。名瀬の側近として忠実に仕えるはずの人物がどうしてこのような行動をと…
「えぇ…初めまして瀬那悠と申します
どうぞお見知りおきを…」
律儀正しく頭を下げる彼。そんな彼の瞳は、この世界の絶望を知り尚且つ見返してやるといった復讐心の色が垣間見えた。藤真は思わず胸の高鳴りを覚えた。
そして、純粋に興味が湧いた藤真は彼の背後関係や関連のある出来事について調べたのだ。ようやく彼に何があったかその真実にたどり着いた藤真は取引を持ち掛けたのだ。
「瀬那さん…僕と取引しませんか??」
「取引??」
案の定、悠は顔を顰めた。そんな警戒心剥き出しの彼に藤真はお互いに利害遂行のために手を組もうと持ち掛けたのだ。所謂、互いに干渉をしあわないビジネスパートナーとして。
「いいだろう…引き受けてやる
ただし……」
悠は立ち上がり、握手を交わした藤真を今にも殺しそうな猛獣のような瞳で睨めつけた。
「俺の妹…志帆に手を一切出すな
それが条件だ」
腹の奥底から突き上げるように言い放った悠の瞳に、藤真は思わず恐怖で震え上がった。だからこそ、この条件だけは忠実に守ったのだった。
「結局貴女は守られていたんですよ…お兄さんにね
でももうそれは無くなった....
つまり僕はもう貴女に対して何をしても良いわけですよ」
不気味に笑い口角を上げると藤真は体中から触手を出し、志帆に向けて放った。
ハッとして志帆は、大きく後方へ飛び上がり回避する。が、着地しようと地面に降り立った瞬間に足元を掬われる。
「...ッ!!」
「駄目ですよ?一瞬でも気を抜いちゃ」
志帆は悔しそうに唇を噛み締めた。そんな彼女の足首には触手が纏わりついていた。
地面にひれ伏す志帆を一瞥すると藤真はゆっくりとした足取りで背を向ける。彼女と遊ぶ前にすべきことが藤真にはあったからだ。
「ま...待て!!」
「しばらく大人しくしててくださいね
後でたっぷりお相手してあげますから」
愉快げに笑った藤真が向かったのは車の運転席。そして腰掛けた藤真は鍵を差し込みエンジンをかけた。
「さぁーて…泉さん
よーく見ててくださいね」
結局何も出来なかった…
耳障りな藤真の笑い声を聞きながら志帆は悔しそうに、立てられた鎌に集まった紫色の光が空に一直線に放たれる様子を見つめていた。
ズドン!!
大きな地響きが起こり、空には大きな球状の物体が現れた。志帆はその光景に呆気に取られた。スケールが大きすぎると。
そんな彼女の顔に影が被さる。急に暗くなった視界に、志帆はその原因の人物を見上げ睨んだ。
「泉さんには及びませんが、志帆さんも美しいですよね」
うっとりと自分をなめるように見る藤真の瞳に、志帆は悪寒が走った。キュッと眉間にシワを寄せ悔しそうに己を睨む志帆を見下ろしていた藤真はゆっくりと彼女の顔の前で屈むと顎に手をやり持ち上げた。
「汚らしい手で触るな、下衆」
「そう毒を吐く志帆さんも素敵ですよ」
「………貴方、そうとうの変態ね
イヤ…それ以前に、泉様をしつこく狙うストーカーか」
反吐が出ると吐き捨てる志帆に、藤真はニコニコと笑う。
「その言葉は僕にとってお褒めの言葉ですよ?」
「あっ…そうですか!!!」
志帆は、声を荒げて自分の顎を掴む藤真の手に己の手を伸ばす。が、彼女の変化を察した藤真は間一髪でそれを飛び上がって交わし、立ち上がった。
「あの人と同じで喰えない性格ですねぇ〜」
「これ以上ない嬉しいお言葉です」
せっかくチャンスを狙っていたのに内心思いながらも、目の前にいる藤真から出た言葉に対して志帆は口角を上げる。
「お相手してくださるんですよね?」
「えぇ……存分に痛みつけて差し上げましょう」
互いに腹の底を探るように不敵な笑みを浮かべると、同時に地面を蹴り上げるのだった。