境界の彼方
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
境界の彼方が秋人から引き抜かれ、未来が消えて3ヶ月経った。
いつの間にか季節は夏から秋に移り変わっていた。
未だに眼を覚まさない秋人。
そんな彼の病室には毎日誰かしらが訪ねてきていた。
「もう…3ヶ月経つのね…」
誰もいない早朝、窓から差し込む朝日の光が病室を明るく照らす。その病室に1人の人物が人知れずに訪れていた。面会時間外だが誰にも会いたくない志帆はそっと侵入していたのだ。
「今日も起きないか…」
目を閉じたまま横たわる秋人を暫く見てた志帆だが、もうそろそろ行かないとと立ち上がり背を向ける。その時、背後で呻き声が聞こえるのだった。
「…秋人!!」
慌てて志帆が振り向くとそこにはうっすらと瞼を開ける秋人がいた。
「…志帆」
己を覗き込む相手が知人だと判別できた秋人は、大きく目を見開いてガバッと勢いよく起き上がった。そのまま呆気にとられる志帆の肩を思い切り掴んで揺り動かした。
「栗山さんは?栗山さんはどこだ!」
切羽詰まった秋人の声音に志帆は悲しげな表情を浮かべて押し黙ってしまうのだった。
「なぁ?志帆は知ってるだろ?
教えてくれよ」
彼女の表情に確信を得た秋人は縋るように声を絞り出した。そんな彼にこれから残酷なことを知らせなければいけないことが凄く志帆は心痛まれた。でも、未来によろしくとお願いされた。もう目の前の彼から罵倒中傷されることは覚悟していたことだ。志帆は意を決し覚悟を決めると、懐からある物を取り出した。
「…栗山未来はもういない」
「……ッ!?」
志帆の口から漏れ出た言葉を秋人は最初呑み込めなかった。だが、彼女はその言葉と共に取り出した見覚えのある赤色の眼鏡を視界にとらえた瞬間、秋人は目の色を変えた。そして、秋人は掻っ攫うように志帆の手からその眼鏡をひったくると胸の前で抱えこんだ。
「…なに馬鹿なこと言ってるんだよ
志帆まで悪い冗談言うなよ」
眼鏡を握りしめながら秋人は顔を上げて半笑いする。だが、目の前の志帆は俯いたままで小さく身体を震わしていた。
「なぁ!!!」
「…秋人」
悲痛な顔を浮かべる秋人に、志帆は真剣な眼差しを向けた。そして彼に現実を突きつけるのだった。
「栗山さんは貴方を救うために自分の血を全部使って消えたの
貴方の中にいる境界の彼方っていう妖夢と共に」
秋人は衝撃のあまりに眼鏡を落としてしまう。それは幸いなことに柔らかい布団の上に落ちる。が、落としたことさえも気づけていない秋人の瞳孔は開ききっていた。絶句し言葉を失う秋人に、志帆はポツポツと話し始めた。
「栗山未来は、泉さまに呼ばれてここにやってきたの
貴方の中にいる境界の彼方を倒すためにね」
秋人を直視できず志帆は目を伏せながら話を続ける。秋人の中ににいる妖夢の正体が”境界の彼方”。その妖夢は人の怨嗟が飽和状態になると数千年に一度この現し世に現れると言われている。そして人類がその怨嗟の渦の中で存在する目的を見失った時、世界のどこかで発生して、人の世を初期化するように仕組まれた自然の摂理だと言われている妖夢だった。この妖夢がいたから秋人は”不死身”だった。そして現に”境界の彼方”を抜かれた秋人は3ヶ月昏睡状態だったことから伺える。
そこで一呼吸を置いた志帆は呆然とする秋人に投げかける。
「ほら、最初のこと思い返してごらん?
秋人は散々栗山さんに襲われまくったでしょ?」
「で…でも…
栗山さんは妖夢の実践経験はないって…」
狼狽する秋人に志帆は眉を顰めながら答える。
「それは本当
だけど、栗山さんは異界士としてこの地に来たの
呪われた血の一族である栗山さんにしか境界の彼方を倒せないから」
「じゃあなんで俺は死んでないんだ!?
志帆の言うことが正しければ栗山さんが境界の彼方を倒して、僕が消えてるってことだろ!!
でも現に僕は…ッ」
「栗山さんがそれを望まなかった!!」
「え…」
「殺したくないって栗山さんは拒絶したの
だから泉様がもう一つの案を提示したの
秋人を殺さない方法をね」
その言葉に秋人はカッと目を見開いて身を乗り出した。
「ふざけんなよ!!
じゃあ栗山さんはその方法を使って消えたってことかよ!?」
「そうよ!!
栗山さんは境界の彼方を秋人から引きずり出して一緒に消滅したの!!」
秋人の声につられる形で志帆は声を荒げた。その彼女の胸倉を秋人は掴み己に引き寄せた。
「なんで止めなかった!!
志帆はわかってたろ!!
栗山さんがその方法を選ぶことを」
「わかってたよ!
でも止めれなかった!
彼女の気持ちが痛いほど私はわかるから!!」
「…なんで…どうして…
僕は栗山さんに生きていて欲しかったのに…」
「秋人……」
ギュッとシーツを握りしめる秋人に対して志帆は掛ける言葉が見当たらなかった。手を伸ばそうとする志帆。だが、その手をギュッと胸元に戻した。
秋人を慰める資格なんかないのだ
自分は目の前にいながらただ見ていることしかできなかった。
双方の気持ちがわかりながら最善の策が見当たらずにただ指を咥えていただけで
栗山未来を見殺しにしてしまった
世界の平穏と引き換えに
「暫く1人にしてくれ」
「うん…」
俯いたままの秋人の言葉に志帆は小さく頷くと彼の居るベッドから離れた。そして最後にこの場から離れる前に志帆は秋人に振り向いた。そして、ゴメンねと言い残すのだった。その志帆の小さなか細い声にハッと秋人は顔を上げる。思考がグシャグシャの中、秋人が見たのは、申し訳ないと全ての責任を負っているように顔を悲痛そうに歪める志帆だった。
*****
いつものように、学校帰りに美月が秋人の病室を訪ねた。すると、そこにいたのはベッドに寝ている秋人でなく、窓の外の景色を訝しげに見ている秋人だった。
「秋人!!」
驚きながらも美月は秋人に嬉しそうに駆け寄った。
「良かった、気がついたのね!」
だが駆け寄った美月が見たのは、光を失った虚ろな瞳をコチラに向ける秋人だった。
「…美月」
ポツリと彼女の名を呟いた秋人に美月は目を見開いた。なぜなら彼の手には赤いメガネが握られていたからだ。驚く美月は思わずその眼鏡の事を尋ねる。それに対してギュッとそれを強く握りしめた秋人はポツリと一人の少女の名前を紡ぐのだった。
「秋人、それはどうしたの!?」
「…志帆」
「え!?志帆!?!?」
俯いた秋人が漏らした志帆の名に未だに事情が呑み込めない美月はオウム返しで聞き返す。それにコクリと力なく頷いた秋人を確認すると急いで美月は博臣を呼ぶのだった。
そして博臣も混じえて二人は秋人から今朝起こった出来事を知るのだった。それを聞き終えると博臣は深くため息を吐きだした。そんな彼に秋人は怪訝な眼差しを向けた。
「…なんだよ」
「アッキーには会いに来てたんだなと思ってな」
嘆くように呟かれた言葉に秋人の眉間に更にシワが寄る。その事情がわからない秋人に対して美月が重たい口を開いた。
「実は私達会ってないの、志帆に
3ヶ月一度も…」
「え…そ…そうだったのか…」
憂いを滲ませる二人の表情に秋人は眉を顰めた。朝早くにどうしているのだろうとは思ったが、まさか3ヶ月博臣にも美月にも会っていないとは思わなかったのだ。
「まぁ気にするな
それより志帆はどうだった??」
秋人だけ会ったことに多少の嫉妬は感じたもののそれを一先ず棚に上げて博臣は尋ねる。だが、その言葉に秋人は顔を強張らせた。その表情にただ事ではないと二人は固唾を呑んで秋人が口を開くのを待った。その二人の痛い視線に逃げ出したいが、やってしまったことは仕方がないと重たい口を秋人は開いた。
「…ごめん
志帆を泣かせちゃった」
カッとなってしまった自分は相手のことを考えずに言い過ぎてしまったと罪悪感を滲ませた表情で秋人はポツリと呟いた。その彼の言葉にわかっていたかのようにやはりなと博臣はため息混じりに漏らした。
「なんだよ、わかってたのかよ」
「憶測だけで確証はなかったがな」
目を伏せて博臣は答えた。ずっと隠してきた、未来を敢えて助けずに秋人が救われる道を選んだ志帆は払拭できない罪悪感を抱えてきただろう。そして恐らく秋人に事実を話すのは己の役目だと勝手に決めつけた。秋人に罵られるのも覚悟の上で。
「アッキーが志帆を泣かせたことを今更咎める気はない
だがな、志帆は板挟み状態で誰よりも苦しんだはずだ」
博臣は志帆が言っていないだろう事を話した。
側近としての命令と友の命を天秤にかけないといけない立場。異界士として冷静に時には冷酷に対処しないといけない。だが、情に深い志帆は双方の心情を知り葛藤した。それと同時に、誰も犠牲が出ない方法を使えない自分の力の無さを呪った。
意識を失った秋人を腕に抱えて暴走する志帆が漏らした本音を博臣は秋人にもわかって欲しいと思いながら話すのだった。
*****
「……この音はなんだ?」
秋人の耳に突如としてずっしりとした重みのある金属音が聞こえてきた。それを不思議に思った秋人は尋ねるが、博臣と美月にはそれは聞こえていなかった。
「音??
俺には何も聞こえなかったが?」
不思議そうな表情を浮かべて博臣は立ち上がり、秋人の隣まで行き外を見る。
「ほら??この音だ」
「兄貴…」
秋人にしか聞こえない音の現象。
美月は立ち上がると、真剣な面付きで博臣を見た。
「アッキー
俺を見て何か変わったところ…」
秋人は振り向くと即座に博臣の首を指差した。
その反応に博臣は満足げに深く椅子に座り直した。
「そう、この俺がマフラーをしていない
つまり冷え症が改善されたということだ」
「だからなんだっていうんだよ」
「俺の極端の冷え症は異能の力の影響によるものだ
それが改善したということは、俺の力が弱まってるんだ
何かがおかしい…
その音とも関係があるかもしれん」
ジト目で睨む秋人に博臣は淡々と事実を述べ、窓の外を仰ぎ見た。だが、ココに居ても現状を把握することはできないと、退院手続きを済ませた秋人を連れて、3人は彩華のもとを訪ねるのだった。
「お待たせしましたー!追加のオムライスと大盛りオムライスです!」
愛が運んできた料理。
秋人は直様それに手をつけるとバクバクと食べていく。
次々にテーブルに空き皿が積み上がっていくのを隣のテーブルに居た博臣と美月と彩華は呆然と見ていた。
「まぁ、3ヶ月間何も食べてなかったからな。
で、妖夢としてはどう思う?
空から音がするっていうアッキーの話だが…」
博臣は視線を彩華に向けると、さっきの秋人にしか聞こえない音の正体についての見解を彩華に求めた。
「もともと神原君の中にあったのは境界の彼方。そんなとんでもないもんが、なんぼ外に出たからと言って私らには聞こえへんその音が聞こえるんやとしたら、境界の彼方の影響としか考えようがないなぁ」
だが、彩華からは確証を得た答えが返ってくることはなかった。
いつの間にか季節は夏から秋に移り変わっていた。
未だに眼を覚まさない秋人。
そんな彼の病室には毎日誰かしらが訪ねてきていた。
「もう…3ヶ月経つのね…」
誰もいない早朝、窓から差し込む朝日の光が病室を明るく照らす。その病室に1人の人物が人知れずに訪れていた。面会時間外だが誰にも会いたくない志帆はそっと侵入していたのだ。
「今日も起きないか…」
目を閉じたまま横たわる秋人を暫く見てた志帆だが、もうそろそろ行かないとと立ち上がり背を向ける。その時、背後で呻き声が聞こえるのだった。
「…秋人!!」
慌てて志帆が振り向くとそこにはうっすらと瞼を開ける秋人がいた。
「…志帆」
己を覗き込む相手が知人だと判別できた秋人は、大きく目を見開いてガバッと勢いよく起き上がった。そのまま呆気にとられる志帆の肩を思い切り掴んで揺り動かした。
「栗山さんは?栗山さんはどこだ!」
切羽詰まった秋人の声音に志帆は悲しげな表情を浮かべて押し黙ってしまうのだった。
「なぁ?志帆は知ってるだろ?
教えてくれよ」
彼女の表情に確信を得た秋人は縋るように声を絞り出した。そんな彼にこれから残酷なことを知らせなければいけないことが凄く志帆は心痛まれた。でも、未来によろしくとお願いされた。もう目の前の彼から罵倒中傷されることは覚悟していたことだ。志帆は意を決し覚悟を決めると、懐からある物を取り出した。
「…栗山未来はもういない」
「……ッ!?」
志帆の口から漏れ出た言葉を秋人は最初呑み込めなかった。だが、彼女はその言葉と共に取り出した見覚えのある赤色の眼鏡を視界にとらえた瞬間、秋人は目の色を変えた。そして、秋人は掻っ攫うように志帆の手からその眼鏡をひったくると胸の前で抱えこんだ。
「…なに馬鹿なこと言ってるんだよ
志帆まで悪い冗談言うなよ」
眼鏡を握りしめながら秋人は顔を上げて半笑いする。だが、目の前の志帆は俯いたままで小さく身体を震わしていた。
「なぁ!!!」
「…秋人」
悲痛な顔を浮かべる秋人に、志帆は真剣な眼差しを向けた。そして彼に現実を突きつけるのだった。
「栗山さんは貴方を救うために自分の血を全部使って消えたの
貴方の中にいる境界の彼方っていう妖夢と共に」
秋人は衝撃のあまりに眼鏡を落としてしまう。それは幸いなことに柔らかい布団の上に落ちる。が、落としたことさえも気づけていない秋人の瞳孔は開ききっていた。絶句し言葉を失う秋人に、志帆はポツポツと話し始めた。
「栗山未来は、泉さまに呼ばれてここにやってきたの
貴方の中にいる境界の彼方を倒すためにね」
秋人を直視できず志帆は目を伏せながら話を続ける。秋人の中ににいる妖夢の正体が”境界の彼方”。その妖夢は人の怨嗟が飽和状態になると数千年に一度この現し世に現れると言われている。そして人類がその怨嗟の渦の中で存在する目的を見失った時、世界のどこかで発生して、人の世を初期化するように仕組まれた自然の摂理だと言われている妖夢だった。この妖夢がいたから秋人は”不死身”だった。そして現に”境界の彼方”を抜かれた秋人は3ヶ月昏睡状態だったことから伺える。
そこで一呼吸を置いた志帆は呆然とする秋人に投げかける。
「ほら、最初のこと思い返してごらん?
秋人は散々栗山さんに襲われまくったでしょ?」
「で…でも…
栗山さんは妖夢の実践経験はないって…」
狼狽する秋人に志帆は眉を顰めながら答える。
「それは本当
だけど、栗山さんは異界士としてこの地に来たの
呪われた血の一族である栗山さんにしか境界の彼方を倒せないから」
「じゃあなんで俺は死んでないんだ!?
志帆の言うことが正しければ栗山さんが境界の彼方を倒して、僕が消えてるってことだろ!!
でも現に僕は…ッ」
「栗山さんがそれを望まなかった!!」
「え…」
「殺したくないって栗山さんは拒絶したの
だから泉様がもう一つの案を提示したの
秋人を殺さない方法をね」
その言葉に秋人はカッと目を見開いて身を乗り出した。
「ふざけんなよ!!
じゃあ栗山さんはその方法を使って消えたってことかよ!?」
「そうよ!!
栗山さんは境界の彼方を秋人から引きずり出して一緒に消滅したの!!」
秋人の声につられる形で志帆は声を荒げた。その彼女の胸倉を秋人は掴み己に引き寄せた。
「なんで止めなかった!!
志帆はわかってたろ!!
栗山さんがその方法を選ぶことを」
「わかってたよ!
でも止めれなかった!
彼女の気持ちが痛いほど私はわかるから!!」
「…なんで…どうして…
僕は栗山さんに生きていて欲しかったのに…」
「秋人……」
ギュッとシーツを握りしめる秋人に対して志帆は掛ける言葉が見当たらなかった。手を伸ばそうとする志帆。だが、その手をギュッと胸元に戻した。
秋人を慰める資格なんかないのだ
自分は目の前にいながらただ見ていることしかできなかった。
双方の気持ちがわかりながら最善の策が見当たらずにただ指を咥えていただけで
栗山未来を見殺しにしてしまった
世界の平穏と引き換えに
「暫く1人にしてくれ」
「うん…」
俯いたままの秋人の言葉に志帆は小さく頷くと彼の居るベッドから離れた。そして最後にこの場から離れる前に志帆は秋人に振り向いた。そして、ゴメンねと言い残すのだった。その志帆の小さなか細い声にハッと秋人は顔を上げる。思考がグシャグシャの中、秋人が見たのは、申し訳ないと全ての責任を負っているように顔を悲痛そうに歪める志帆だった。
*****
いつものように、学校帰りに美月が秋人の病室を訪ねた。すると、そこにいたのはベッドに寝ている秋人でなく、窓の外の景色を訝しげに見ている秋人だった。
「秋人!!」
驚きながらも美月は秋人に嬉しそうに駆け寄った。
「良かった、気がついたのね!」
だが駆け寄った美月が見たのは、光を失った虚ろな瞳をコチラに向ける秋人だった。
「…美月」
ポツリと彼女の名を呟いた秋人に美月は目を見開いた。なぜなら彼の手には赤いメガネが握られていたからだ。驚く美月は思わずその眼鏡の事を尋ねる。それに対してギュッとそれを強く握りしめた秋人はポツリと一人の少女の名前を紡ぐのだった。
「秋人、それはどうしたの!?」
「…志帆」
「え!?志帆!?!?」
俯いた秋人が漏らした志帆の名に未だに事情が呑み込めない美月はオウム返しで聞き返す。それにコクリと力なく頷いた秋人を確認すると急いで美月は博臣を呼ぶのだった。
そして博臣も混じえて二人は秋人から今朝起こった出来事を知るのだった。それを聞き終えると博臣は深くため息を吐きだした。そんな彼に秋人は怪訝な眼差しを向けた。
「…なんだよ」
「アッキーには会いに来てたんだなと思ってな」
嘆くように呟かれた言葉に秋人の眉間に更にシワが寄る。その事情がわからない秋人に対して美月が重たい口を開いた。
「実は私達会ってないの、志帆に
3ヶ月一度も…」
「え…そ…そうだったのか…」
憂いを滲ませる二人の表情に秋人は眉を顰めた。朝早くにどうしているのだろうとは思ったが、まさか3ヶ月博臣にも美月にも会っていないとは思わなかったのだ。
「まぁ気にするな
それより志帆はどうだった??」
秋人だけ会ったことに多少の嫉妬は感じたもののそれを一先ず棚に上げて博臣は尋ねる。だが、その言葉に秋人は顔を強張らせた。その表情にただ事ではないと二人は固唾を呑んで秋人が口を開くのを待った。その二人の痛い視線に逃げ出したいが、やってしまったことは仕方がないと重たい口を秋人は開いた。
「…ごめん
志帆を泣かせちゃった」
カッとなってしまった自分は相手のことを考えずに言い過ぎてしまったと罪悪感を滲ませた表情で秋人はポツリと呟いた。その彼の言葉にわかっていたかのようにやはりなと博臣はため息混じりに漏らした。
「なんだよ、わかってたのかよ」
「憶測だけで確証はなかったがな」
目を伏せて博臣は答えた。ずっと隠してきた、未来を敢えて助けずに秋人が救われる道を選んだ志帆は払拭できない罪悪感を抱えてきただろう。そして恐らく秋人に事実を話すのは己の役目だと勝手に決めつけた。秋人に罵られるのも覚悟の上で。
「アッキーが志帆を泣かせたことを今更咎める気はない
だがな、志帆は板挟み状態で誰よりも苦しんだはずだ」
博臣は志帆が言っていないだろう事を話した。
側近としての命令と友の命を天秤にかけないといけない立場。異界士として冷静に時には冷酷に対処しないといけない。だが、情に深い志帆は双方の心情を知り葛藤した。それと同時に、誰も犠牲が出ない方法を使えない自分の力の無さを呪った。
意識を失った秋人を腕に抱えて暴走する志帆が漏らした本音を博臣は秋人にもわかって欲しいと思いながら話すのだった。
*****
「……この音はなんだ?」
秋人の耳に突如としてずっしりとした重みのある金属音が聞こえてきた。それを不思議に思った秋人は尋ねるが、博臣と美月にはそれは聞こえていなかった。
「音??
俺には何も聞こえなかったが?」
不思議そうな表情を浮かべて博臣は立ち上がり、秋人の隣まで行き外を見る。
「ほら??この音だ」
「兄貴…」
秋人にしか聞こえない音の現象。
美月は立ち上がると、真剣な面付きで博臣を見た。
「アッキー
俺を見て何か変わったところ…」
秋人は振り向くと即座に博臣の首を指差した。
その反応に博臣は満足げに深く椅子に座り直した。
「そう、この俺がマフラーをしていない
つまり冷え症が改善されたということだ」
「だからなんだっていうんだよ」
「俺の極端の冷え症は異能の力の影響によるものだ
それが改善したということは、俺の力が弱まってるんだ
何かがおかしい…
その音とも関係があるかもしれん」
ジト目で睨む秋人に博臣は淡々と事実を述べ、窓の外を仰ぎ見た。だが、ココに居ても現状を把握することはできないと、退院手続きを済ませた秋人を連れて、3人は彩華のもとを訪ねるのだった。
「お待たせしましたー!追加のオムライスと大盛りオムライスです!」
愛が運んできた料理。
秋人は直様それに手をつけるとバクバクと食べていく。
次々にテーブルに空き皿が積み上がっていくのを隣のテーブルに居た博臣と美月と彩華は呆然と見ていた。
「まぁ、3ヶ月間何も食べてなかったからな。
で、妖夢としてはどう思う?
空から音がするっていうアッキーの話だが…」
博臣は視線を彩華に向けると、さっきの秋人にしか聞こえない音の正体についての見解を彩華に求めた。
「もともと神原君の中にあったのは境界の彼方。そんなとんでもないもんが、なんぼ外に出たからと言って私らには聞こえへんその音が聞こえるんやとしたら、境界の彼方の影響としか考えようがないなぁ」
だが、彩華からは確証を得た答えが返ってくることはなかった。