凪
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泉姉さんがアッキーを殺させようとしているのは間違いない
だが、理由はなんだ?
その一件から一夜明け、放課後に即座に家に戻った博臣は能力により鍵で閉め切られている名瀬家の書室に入り、報告書をペラペラとめくっていた。
アッキーを殺すことで名瀬家に利益があるのか?
不死身の半妖の排除?
いやそれだけでこんな複雑なことをする必要をする必要は…
その時博臣の脳裏でとある現象が浮かび上がる。それは最近見るようになった摩訶不思議な現象だった。
あ…あの現状
境界の彼方の一部だというあの現象
ここで博臣は、ハッとした。
まさか…
境界の彼方はその一部しか出現していない
ということは残りが何処かに存在しているということだ
それは恐ろしく強力で圧倒的な力を持っている
世界を破滅に導く最強の妖夢
それが存在しているとしたら…
そんなやつはアイツしかいない!!
持っていた紙束をギュッと握りしめ、博臣は無我夢中で紙をめくっていく。そして最後の報告書のページに目を通した。
『以上から半妖、神原秋人の内部にいる妖夢は【境界の彼方】であると推定される』
少しずつ読めてきた泉の思惑に博臣は唇を噛みしめた。その場に段々と近づく不穏の影に気づくことなく。
足音を立てることなく彼らは博臣が居る場所の脇を通りぬけある一角へ。その本棚を開けた先にある空間には不気味に紫色に光る妖夢石。それを守るように、厳重に幾重にも橙色の鎖が張り巡らせられていた。
「何笑ってるんですか?」
「いや...妹の成長が感慨深いと思ってな」
バナナオレを飲んでいた藤真は、隣にいる悠を凝視する。凝視された悠は、小さく笑みをこぼしていたのだ。目の前に広がる鎖を施したのは妹の志帆しかいない。自分の知らないうちに、志帆自身が成長している事実が垣間見れて悠は嬉しかったのだ。
「今更、この封印を解けないと言わないでくださいよ」
「誰にものを言ってるんだ。
兄の俺が解けないわけがないだろ?」
おどける藤真に、悠は一言吐き捨てるように言うとニヤリと楽しげに口角を上げながら片手を前に翳す。
その手から淡い橙色の光が溢れると、みるみるうちに目の前の鎖が消えていき、その空間には星屑のように残滓が広がった。
「貴様!」
空間の微妙な変化に気づいた博臣が、二人を発見し声を上げた。
今にも飛びかかってきそうな殺気立った博臣の眼の前に行方を阻むように薄紫色の触手が張り巡らせれた。
「ご心配なく。今日は虚ろな影の妖夢石を回収させていただくだけですから。」
「おい、爆破させるような事はしないでくれよ?」
「おっと...それは失礼しました」
あくまで傍観者の悠が、藤真のやりそうな事を先読みして冷たい瞳を向ける。
「それじゃ、僕の用事は済んだんで...
後はお願いしても?」
「あぁ
まだ俺の用事は残ってるしな」
「では、博臣さん。
僕は帰らせて頂きますね」
「あ!?おい!!...ッ!!」
触手が消えた途端、追いかけようとする博臣。だが、動こうとした博臣の身体に鎖が巻き付きその行動を拒んだ。
「おっと!
一応そういう約束なんでな」
驚く博臣の前には、悠が藍色の瞳を鋭くさせていた。その彼が博臣に向けて出した掌からは淡い橙色の光が漏れ出していた。
一方……
「妖夢である以上凪の影響で境界の彼方といえども弱ってるはずよ
貴女の血と力全てを使えば、秋人くんの命を奪わずに表層に現れている境界の彼方を引きずりだすができるはず
ただ、それは貴女の全てが境界の彼方に侵されるということ」
メールで呼び出された未来はカフェに来ていた。
目の前には泉、その隣には志帆が座っていた。未来が着席して注文の品が届くと泉は世間話を挟むことなく口火を切った。
その泉の口から発せられたのは警告とも言える言葉、でもそれは未来にとって一筋の希望の光でもあった。
ゴクリと唾を呑み込んだ未来は噤んでいた口を開く。
「でも、先輩は助かるんですよね」
「もう…決めているのね」
未来の覚悟を宿した瞳を見て、泉はもう彼女が考えを変えることはないと悟った。
「はい」
「秋人くんの居場所は、志帆に聞いて
いずれ眼を覚ます。本気で秋人くんを助けるつもりなら早いほうがいい」
「志帆先輩…お願いします」
未来は泉の言葉に頷くと、席から立ち上がった。その立ち上がった未来が自分に向けた言葉に対して小さく頷いた志帆も立ち上がる。
「栗山さん…」
志帆を連れて外に出ようとする未来の背に泉は語りかけるように口を開いた。
「秋人くんは貴女に生きてほしいのよ
”自分を殺した貴女に生きてほしい”
間違いなくそう思ってるのよ」
「…ですよね」
視線を向けずに前を向いたまま未来は苦笑いしながら返答した。そんな彼女に最終確認と言わんばかりに泉が言葉を投げかけた。
「それでも貴女は秋人くんを助けるの?」
「はい
きっと先輩、怒ると思います
私がこんなことをしたって聞いたら
なんにもわかってないって
あの時みたいに……」
そして振り返った未来は、泉に振り返ると笑みを零しこのセリフを残すのだった。
「ざまぁーみろです!!」
ハッと息を呑んだ泉の脳裏に残像を残した未来は躊躇することなくカフェを後にするのだった。
「……志帆先輩」
「わかってる
行こうか」
カフェを出た志帆は未来に促される形で能力を展開させた。すると彼女が作り出した淡い橙色の光が周囲に広がった。それを確認すると志帆が走り出す。その後を追って未来が来たのは森の中だった。
そこで未来が見たのは奥には大きな鎖の結界。志帆はその結界の前に立つと躊躇なく手を翳した。それにより結界は解かれ星屑のように消え去った。それと同時に1人のシルエットが未来の視界に浮かび上がった。
「先輩……」
それは結界の中で眠るように座っている秋人だった。それを見て未来は大きく息を呑むのだった。