凪
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「鍵がかかってるわ」
「戻った気配はないな。」
秋人の家の扉の前、未来のメールに対して一目散に外に飛び出した博臣と美月は運悪く誰かが呼びこんだA級の妖夢と対峙してしまい直ぐに駆けつけられなかったのだ。その間に事態は急変した。凪の影響でが寝込んでいた秋人は、その間に妖夢化してしまったのだ。その情報を博臣と美月が知ったのは妖夢を消滅させた後に来た泉からの簡潔なメール。それを確認した二人は泉と未来と合流した。
周囲を見回りしてきた博臣が階段を上がって戻ってきたのを確認すると未来が渋々と己の血を駆使して扉の鍵を開けるのだった。
「でも、どうして秋人が妖夢化を?」
部屋に入り、美月がふとした疑問を口にする。凪の影響で妖夢の部分が弱まるはずなのに妖夢が表に出るのは考えにくいのだ。その美月の疑問に未来が先程教えてもらった事実を声を振り絞りながら答えた。
「先輩が倒れたとき彩華さんが言ってました。人間の部分も極端に弱ってるって
多分、凪によって弱ってる妖夢の部分よりも、人間の部分がさらに弱くなったせいで。」
「結果、妖夢の部分が前に出てしまうことになった。」
博臣の指摘に未来は小さく頷いた。
「だから、さっき妖夢化した秋人君は以前に比べて弱かったのね。」
「それで逃げた。」
泉と美月の声を聞きながら未来は机に置いてあるものを手にとろうとする。が、その下に置いてあったものが手を触れた拍子に床に落ちてしまうのだった。
「あ、あー。すみません。No.135?」
慌てて未来は元に戻そうと拾うのだが、本の題が気になりふとした興味心でページを開く。それを美月も一体なんなのだろうと覗き込んだ。
「寸評83点
眼鏡美少女特有の何かを内包した神秘性はありつつも表情は作りすぎており自然さに欠ける」
「不愉快です」
怪訝な表情を浮かべながら美月がメイド服の写真の隣に書かれている秋人の字を読み上げた。未来も一体何をしているんだと眼鏡を曇らせた。その二人の引き気味の様子にベッドに腰掛けていた博臣は小さく笑うとある箱を指差した。
「箱の中にも見てみろ」
その博臣の言葉通りに箱を覗き込むと似たような本が沢山収納されていた。
「変態!」
「これは世界でもレアな半妖の正体とは悲しすぎるわね」
「勝手に家探ししておいて、変態呼ばわりはどうかと思うぞ」
「ですけど!!これは?!」
悲鳴を上げた未来がとあるものに気づき腰を屈めた。そこにあったのは眼鏡の雑誌。表紙にはグレー色の紙の栗山さんと書かれていた。それを未来は手に取るとページを開く。そこには栗山さん誕生日、色違い有ととある眼鏡の紹介の場所に貼られていた。未来は秋人が自分の誕生日プレゼントを選んでいたのだと知りハッと息を呑んだ。その瞳から今にも溢れ出しそうな涙をグッと堪えるように未来はその雑誌に顔を埋めて不愉快ですと嘆くのだった。
「一応誰かきたら分かるようにはしておく」
その後姿を表情を曇らせて見ていた博臣が右手の掌を上にして能力を施し立ち上がった。
「何!?また別の妖夢!?」
そんな一行に地響きが襲い掛かる。グラっと揺れたことに驚く中、扉が開きある人物が姿を現すのだった。
「泉様!!」
「…志帆?今まで何処に!?」
「案内して」
泉の名を呼んで部屋に入ってきたのは志帆だった。驚く博臣達を横目に志帆は泉に指示されていた内容を報告する。実は志帆は別行動で秋人の行方を追っていたのだ。その志帆が先導する形で一行はある森の中に入るのだった。
「4人とも戦う準備はしておいてね。いるかもしれない」
「もちろんです…」
「はい…」
志帆は俯きながら答える未来を心配しつつもハッキリと答えた。その後ろでは兄弟の攻防戦が繰り広げられる。
「美月は下がっていろ。」
「分かった…ってこたえると思う?」
「遊びじゃないんだぞ!」
「危険を感じたらちゃんと逃げるわ。
それより、もし戦うことになったらどうするの?」
博臣の言葉に素直に従うことを美月はしなかった。ここまで来て蚊帳の外なんてまっぴらごめんだったからだ。でも美月は戦闘になった時のことを考えると表情を曇らした。
「特に…
今までと変わりはないさ。アッキーだって、覚悟はしてるはずだ。」
「でも秋人のお母さん言ってたわよね…凪に注意しろと。
前のように戦って、前のように秋人を傷付けたら。秋人は…」
美月の言葉に耳を傾けながら志帆は、隣にいる未来の心情を落ち着かせようと手を握って歩いた。
泉を先頭に通路を歩いていたが、目の前の視界が開ける。そしてその惨状に驚きの声を漏らすのだった。
「なんですか?コレ?!」
「秋人がやったものと思われます」
「まだ近くに??」
「わからないわ。博臣…檻を」
泉は博臣に指示を出すとクーデターと化している地面に足を踏み入れた。そのゆったりとした背に未来は戸惑いながら問いを投げかけた。
「あの…先輩探さなくていいんですか?」
「そうね…コレはあくまでも私の個人的な考え
従う必要も強制力もない
でもそれが一番いいと思うから言うの
栗山さん…秋人くんを発見次第…殺しなさい」
ゆっくりと未来に振り向くと泉はそう語りかけるのだった。その言葉に未来はウッと感情を見せないように俯いた。
その未来に追い打ちをかけるように泉は言葉を続けるのだった。
「凪によって秋人くんの中の人間と妖夢のバランスが完全に狂ってしまった
このまま凪が終われば、表層に出ている妖夢の部分が秋人くんの人間の部分を駆逐し制圧してしまうと考えるのが自然よ
そうなったらその存在は不死身の特性を持つ強力な妖夢と一緒
秋人くんは半妖でも人間でもなく妖夢として忌み嫌われ続けることになる
もちろん全て憶測よ必ずそうなるとは限らない
でももし今言ったとおりになったら
誰も止められない
決断するなら今しかないの
凪の間なら不死身の特性も失われている
凪の間なら秋人くんを……」
その泉の言葉に博臣は眉間に皺を寄せる。そして、志帆は感づいているのだろうかと視線をやる。すると、この泉の行動を知っていたのか志帆は浮かない顔をしていたのだった。
*****
「また報告??」
廊下の柱に腕を組んでもたれかかり眼を瞑っていた博臣は祖父への報告を終え、扉に能力で鍵をかける泉の背に声をかけた。
「えぇ…名瀬家も大きくなりすぎたわね
色々うるさくって
早く寝なさい」
ため息混じりに泉は吐き出すように呟くとそのまま博臣の眼の前を通り過ぎていく。
そんな彼女に博臣は不信感露わに真意を尋ねた。
「栗山未来を使って何をするつもりだ??
最初は信じてなかったが彼女への接し方を見て考えが変わった
明らかに誘導している…”アッキーを殺すように”
アッキーの妖夢化についてもなぜ人間の部分が極端に弱ったのか原因が見当たらない
泉姉さんが凍結界でアッキーに人間の部分を弱らせたからじゃないのか?」
確信とも言える博臣の言葉に泉は何も答えることなく、このまま立ち去っていく。その姿に腕を組んでいた博臣は持たれていた柱から身体を離して泉の背に叫んだ。
「はっ!!泉姉さん!!」
「気をつけなさい
異界士協会は名瀬家の失墜を企てているのよ」
「泉様…」
カツカツと遠ざかっていく泉を悔しげに博臣は見ていると、志帆が泉を呼ぶ声が聞こえた。志帆は遠くに見える博臣を一瞥する。がそれも一瞬で視線を逸らした志帆は泉の耳元に囁いた。
「………ご苦労さま」
泉は志帆の報告に労いの言葉をかけると再び歩き出す。志帆は泉の背を追うように見た後、博臣を再び見るが彼に何か声をかけるわけではなくそのまま踵を返すように博臣に背を向けるのだった。