凪
夢小説設定
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「ねぇ、悠兄さんの言った事どう思う??」
「正直、信じられないな」
廃墟と化した建物を出たころには、夕日で照らされていたオレンジ色の空は既に日が落ちて漆黒の闇に染まっていた。外に出た志帆はその空を遠い目で見つめていたが、懐にしまい込んだ端末が鳴っていることに気づきそれを一瞥した。そしてその内容を確認し終えると志帆は二人に断りをいれて立ち去ってしまった。一方で志帆と別れた博臣と美月は、車両基地に移動していた。そこにある無人列車に乗り込むと、わかっていたように美月が外部の空間を遮断するように檻を乗り込んだ一両に張った。
檻を張ったことで誰にも聞かれることがない環境を創り出すと二人は緊張の糸を少し解いて、通路を隔てて座席に腰かけた。
ようやく落ち着いたところで美月が先ほどのことに関して口火を切った。正直未だに美月は先ほどの話に関して呑み込められなかったのだ。信憑性が計り知れない中、志帆に話すわけにもいかず今回ばかりは彼女がこの場にいないことにホッとしていた。
だが、呑み込めていないのも博臣も同じ。ずっとだんまりしていた博臣は遠い目をしながら重たい口を開いた。脳裏に呼び起こされるのは過去の記憶とは見違える悠の姿。殺気は確実に名瀬に向いていた。いくら悠の言葉での鵜呑みするわけにはいかない。でも、改めて思考を巡らしていた博臣は薄々気づいていた。
「でも…」
「でも??」
「あの悠兄が嘘を吐くとは思えないな」
歯切れが悪い博臣の次の言葉を曇らせた表情の美月が黙って待つ。そして博臣は伏せていた視線を上げるとため息混じりに言葉を吐露するのだった。
自分が知る瀬那悠は、口は悪いが義理堅い人だった。異界士としての風貌も力もあり、氷のように冷たい泉とは全く対照的。気配りができ、ふさぎ込む自分によく寄り添ってくれ良き相談相手になってくれていた。年を重ねることで近寄りづらくなった実の姉とは違い、悠は全く変わることがなかった。そのためか悠に対しては、自分も含めて美月も懐いていた。
そんな彼が果たして名瀬にわざと盾突こうとするような嘘を吐くだろうか?
「じゃ…じゃあやっぱり…
悠兄さんの言った通り
あれは事故じゃない…」
「鵜呑みにしたくはないがそれが真実なんだろうな」
吐息と共に博臣が複雑そうな表情で言葉を漏らした。博臣の頭に咄嗟に浮かび上がったのはこの前の一件だ。古くに闇に葬られた雷迅一族の雷迅蓮だ。彼の一族と同じように志帆と悠の両親も名瀬によって葬られた。彼の話と身近で親しい者とを結びつけただけで博臣は虫唾が走るのを感じた。
「それじゃあ理由は??」
「さぁーな
そればかりは調べてみないとなんともいえない」
深く腰をかけなおした博臣は深くため息を溢した。もしかしたら、友好関係を築いているように表面上には見えても奥深くでは二つの一族は亀裂が入っていたのかもしれない。それもつい最近ではなく、もっとずっと前から。
そこまで考えが纏まった段階で博臣の中で不安要素が残るのはやはり志帆の存在だった。志帆がその事件の事実を、悠の科博を知ったときに彼女は完全に板挟み状態だ。
「美月、志帆の耳には今は入れるなよ」
「…ッ、兄貴に言われなくてもわかってるわよ」
釘を刺す博臣の言葉に美月は声を上げて言い返した。その後、美月は車内で息を潜めて聞いていた内容について疑問を口にした。
”境界の彼方”
”栗山未来”
藤真によると、娘の唯が殺されたことを知った伊波家は栗山未来を殺そうとしたのだ。そしてそれを止めたのが名瀬泉だという。
一体これらの話が繋がるのだろうか?
名瀬泉が秘密裏に何かを進めるために、栗山未来を救ったのか?
そしてそれらを知ったうえで藤真弥勒は何を企てているのだろうか?
それだけならまだしも悠の企てが悩みの種として厄介なものが加わってしまった。
博臣は頭を盛大に抱え込みたい気持ちにさらされたが、妹の美月の前と言うこともあり、顔に出すことをせずに僅かに残っている可能性について言及した。
「この一帯での名瀬家の権力は絶対的だ。
敵対戦力の内部の亀裂を狙ってこうゆう揺さぶりをかけてくるのは今までも良くあったことだ」
「じゃあ、藤真弥勒が言っていたことは全て嘘だと言うの?」
「そうは言ってない」
美月の言葉に対して、全部を真っ向から否定するわけではないと、諭すかのように言葉を紡いで一先ず美月を落ち着かせると、博臣は言葉を続けた。
「ただその可能性が否定できない
以前異界士協会には注意するよう、泉姉さんにも言われたことがある。
恐らく、名瀬家と敵対している組織なんだろう。」
「前は、栗山さんが異界士協会のことを言っていた時は無視したくせに」
その言葉に対して美月は顔を窓にやりそっぽ向いた。自分だけまた蚊帳の外だと機嫌を損ねる美月に、ここにきて初めて隣の美月に視線をやった博臣は困ったように眉を下げた。
「そんな情報言うわけないだろ?
それに、詳しいことについては俺も聞かされていない…」
その言葉を聞き終えると美月は何か決意を秘めた表情を浮かべスッと立ち上がった。
「泉姉様のところに言ってくる」
「シラを切られて終わりだぞ」
やんわりと遠回しにやめとけと諭す兄の言葉に、ムカッときた美月は彼にジト目を向けた。
「なんとかしなさいよ。実の姉でしょ!」
「そのことは自分に返ってくるだけだぞ」
だが、声を上げた美月に自分はただ事実を述べただけだと博臣は困ったように肩を竦めてそっくりそのまま言葉を返すのだった。
そんな二人の端末が同時にバイブレーションを鳴らした。その音に気づき二人は端末を取り出しメールの内容を確認した。
「栗山さんからよ…
兄貴のところにも?」
「アッキーが…」
その内容は、二人にとって驚愕することだった。