交叉する運命
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「えっと…桐島郁弥…
あ…あった
霜狼学院大学…」
真琴が大会のパンフレットのページを捲っていく。そのパンフレットには各大学の選手の種目エントリー等が書かれているのだ。そこから、真琴は郁也の名前を見つけた。
真琴の一声に見守っていた遙と旭と貴澄がパンフレットを覗き込んだ。こうなった経緯はつい数分前。レースから戻ってきた遙と旭が郁也らしき人物を見て追いかけたが見失ったと慌てて真琴たちの元に戻ってきたことから始まった。
一行は、郁也のエントリー種目を確認する。が、そこに書かれている種目を見た途端彼らは表情を曇らせてしまうのだった。
「混メだけしかエントリーしてないみたいだな」
「混メ??」
「個人メドレーのことだ」
皆の気持ちを代弁するように旭が口を開く。それに唯一水泳部に所属していない貴澄が聞き覚えの無いフレーズに頭にハテナが浮かぶ。そんな貴澄のために旭が混メをわかりやすく言い直した。
「リレーはもう泳いでないのか」
その隣では遙が少し淋しげな声を漏らした。そんな遙を横目に見ていた真琴は、何か聞き覚えのある大学名に考えこんでいた。そして、ようやくハッと真琴はするのだった。
「そういえば霜狼学院って、雪菜ちゃんが行ったところだ」
「雪菜ちゃんって??」
聞き覚えのなり名前に貴澄は誰??と聞き返す。遙と真琴は彼女とは交流があるが、貴澄と旭は知らないのだ。そんな彼らに真琴は簡潔にわかりやすい言葉で彼女らの関係性を表現するのだった。
「蒼のアメリカ時代に出来た友達なんだ」
「そういえば真琴の彼女何処行ったんだよ?
今日来てるんだろ?」
蒼…
その言葉に旭はピクリと眉を動かした。周囲を見渡せばその人らしい人物の姿は見当たらない。自分だけ会っていないことにムシャクシャする旭は思わず真琴に詰め寄った。
そんな旭に紹介できなくて申し訳ないと真琴は苦笑いを浮かべて後頭部に手をやった。
「アハハ、さっき勢いそのまま飛び出しちゃって...」
「そうそう!
さっきまでここに居たんだよ〜、旭」
「一言も無し!!
真琴!!不安になんねぇーの!?」
先程の光景を思い出しながら経緯を説明する真琴と貴澄の言葉に旭は目を見開いた。誰にも行く場所を言わずに飛び出す奴がいるのかと…。が、旭の慌てぶりをよそに彼ら3人は全く心配などしていなかったのだった。
「蒼の行く場所は一つしかない
そうだろ?真琴」
「流石ハル!」
「え?ど、どこだよ?」
「今から雪菜ちゃんのレースが始まるから、霧狼学院のとこだよ」
「で?応援席はどこなんだ??」
蒼の居場所がわかっているが、実際の場所がわからない。キョロキョロ見渡す旭の言葉に真琴達は喉を詰まらせて考え込んでしまった。
そんな彼らを助けるように、話を聞いていたのか男性がゆっくりとした足取りで彼らに歩み寄り、その場所を指差すのだった。
「霜学は癖のある選手が多い、応援席はあの辺りだ」
*****
「ひ〜よ〜り〜!!」
蒼は霧狼学院の応援席で盛大に日和に詰め寄っていた。周囲のメンバーは急に現れた日和と親しげに話しかける彼女を興味津々に眺めていた。が、日和はその視線など気にする素振りを見せることはなかった。
「なぁーに?蒼」
「次、雪菜の試合だよ〜!!」
「言われなくてもわかってるよ?」
「じゃもっと気合入れてさ、応援しようよ!!」
蒼はニコニコと笑みを浮かべて日和を促す。が、そんな彼女を見て日和は苦笑するのだった。
「相変わらず何に関しても全力だよね?蒼って」
「そりゃあね!!
それに雪菜の初戦、精一杯応援してあげたいし!!」
エッヘンと蒼は腰に手を当てる。その間にプールサイドにおいて雪菜を含めた選手たちが整列し始める。
「日和は違うの??」
「別に…僕は……」
「日和って雪菜に関しては意地っ張りだよね」
蒼は反応がない日和に純粋な菫色の瞳を向ける。それを見ていられず日和はそっぽ向く。が、そんな彼に蒼は不貞腐れた声を漏らした。
「意地張ってるように見える??」
「……見える」
いつもと同じように軽い気持ち日和は尋ねる。それに蒼はニコニコと笑みを絶やすことのない日和から目線を逸らすことなく頷いた。毎度のことながら日和は凄いと思う。どんなときでも自分のほんとうの気持ちを表に露わにすることなんかないんだから。自分自身すら偽るように仮面を被る日和に蒼は掴みかかってしまいそうなのをグッとこらえた。
そんな蒼の心情など知らない日和は相変わらず乾笑しながらとぼけた声を漏らす。
「そう?
まぁ僕いつもこんなだから今更変えたら逆に変でしょ?
それに……」
「それに??」
「僕が応援の声かけたら逆に雪菜の調子狂っちゃうよ」
ポツリと表情を一変させた日和が嘆く。その日和の言葉にわかっていないなと蒼は小さく息をついた。
「……そんなことないと思うんだけどなぁ」
「あるよ。
まぁ、雪菜なら平気っしょ」
日和は蒼の言葉をバッサリ切り捨てると、プールに目を移す。その日和の横顔を未だ納得がいっていない蒼はハッと息を呑む。なぜかというと、日和の眼差しがとても柔らかかったからだ。こんな風に見ているんだ、雪菜のことを。蒼はこの表情を崩したくないと口を挟むのをやめて日和を見習いプールに視線を向ける。そして、雪菜の名を精一杯叫ぶのだった。
*****
「あの!!すみません!!桐島郁弥くんっていますか?」
雪菜の試合が終わり暫く経った頃、霧狼学院の応援席に聞き覚えがありすぎる声が聞こえビクリと蒼は身体を強張らせた。恐る恐る蒼はそちらに視線をやる。するとそこにいたのは予想通りの人物達だった。もちろん郁也のことを尋ねてきた真琴はすぐに蒼を見つける。そして、蒼の視線に気づいたのか真琴は小さく彼女に向けて微笑むのだった。
「あっれ〜、賑やかだね?」
いつそっちに行こうかとタイミングを伺っている蒼の背後から新たな声。急いで蒼は振り向くと彼女に駆け寄るのだった。
「……雪菜!!1位おめでと!!」
「ヤッホ、蒼!応援ありがと」
イェーイ!!
軽く手を上げた雪菜と蒼はハイタッチを交わした。
「で?なんで遙くん達がコッチにいるの??」
「雪菜と蒼って彼らと知り合いなの?」
怪訝な表情を雪菜は浮かべた。蒼がコッチの応援席にいて日和の横に腰掛けているのは理解できるが、遙達がここにいる訳がわからないのだ。蒼が事情を話そうと口を開いたタイミングで、傍観者の立場だった日和が面白くなさそうな声を上げて遮った。
「ちょっと日和、今私が質問してるんだけど?」
「別に良いでしょ?」
「「………」」
「まぁまぁちょっと二人共…」
蒼が危惧していた通りの展開になり、蒼は深く息をつく。そして啀み合う二人をまぁまぁと蒼はなんとか宥めようと務めるのだった。その間、遙達のサイドでは…
「なんだ〜お前ら」
寒河江達は突然現れた真琴達へ訝しげな表情を向けた。一体彼らは桐島郁也に何の用なのかと。そんな彼らに向かって旭が意気揚々と答える。
「郁弥の中学の時のダチだ」
「あ…さっきのフリー100でめちゃくちゃ速かったやつ」
「確か岩鳶にいた七瀬遙か?」
「あぁ」
寒河江と寺島は一行の顔を見渡して遙の存在を認識するのだった。それに対して遙は小さく頷いた。その最中、ジッと口をつぐんでいた旭がハッと閃いたように目を見開くと手前に座っている寺島を指差すのだった。
「あ!!思い出した!!
お前!!寺島 湖太郎だな!!
鳴門の鉄砲魚寺島!!」
「俺をその名で呼ぶな!!!」
「寺島の前でその二つ名は禁句だ」
言われた本人寺島はピクリと眉を動かし、額に青筋を立てるとガバッと立ち上がり旭に詰め寄った。憤りを露わにする寺島の隣では寺島がこの光景を楽しんでいた。
だが、言い返された旭は怨めしそうに寺島を睨み返し叫んだ。
「…ッ…二つ名があるだけいいじゃねぇーか
俺なんか自分でつけた
げんかいカジキマグロって
誰も呼んでくれねぇーんだぞ!!」
「うっわ…だっせ…」
「なんだとコラ!!」
「自分でつけてそのセンスはねーだろ?」
悲鳴を上げる旭の言葉に寺島は呆れた口調を漏らした。その態度に旭は更にムキになり喧嘩腰の口調に。そんな今にも殴りかかりそうな旭を真琴は羽交い締めにすることで必死に止めた。
「ちょっと旭、喧嘩しにきたわけじゃないだろ?」
「アンタも煽る発言しないの!」
「いって!!」
低レベルな言い争いに見ていられないと雪菜は寺島の頭上に拳を叩き落とした。その痛みに寺島は両手を頭に当てて呻き声を上げた。そんな彼を見ていい気味だと口角を上げた雪菜だが真琴達には先程の表情が嘘のように爽やかな表情を向けるのだった。
「ごめんねぇ〜、ウチのメンバーが」
「こっちこそごめんね、雪菜ちゃん」
「お詫びの代わりにこの子返すんで」
そう言った雪菜はポカンと突っ立っている蒼を真琴の前に突き出すように背中を押した。そんな雪菜に蒼は振り向きながら異議を唱える。
「ちょっと、人をモノ扱いしないでよ〜
って、君!!旭くんって!!」
異議を唱えていた蒼はピタリと動きを止める。蒼が見つけたのは先程遙の隣でフリーを泳いでいた人物だった。もしやもしやと目を輝かせ始める蒼に、旭は若干押され気味に。だが、すぐに旭は調子を取り戻す。
「お…おう
ってお前か!?蒼ってやつ!!」
「そうそう!!
よろしくね旭くん」
「よろしくな!蒼!」
「あ!貴澄くんと旭くんは初めてだよね!
彼女は私の友達の雪菜だよ!」
ガッチリと握手を交わし終えた蒼は、ハッと思い出したように雪菜のことを紹介する。それに雪菜は慌てたように笑顔を振りまき自己紹介を始めるのだった。
そんな彼らの背後へ一つの影が近づく。その影は、雪菜の真後ろで足を止めるのだった。
「雪菜、蒼
郁弥はいないのか?」
「郁弥ならいないよ
見ればわかるでしょ?ほら次の試合始まっちゃうよ
自分の席で応援したほうがいいんじゃない?」
遙の問いに答えたのは、雪菜の真後ろの位置をとった日和。遙達、郁也を探しに来たメンバーにニコリと胡散臭い笑みを浮かべていた。
その日和の表情をチラリと見上げ確認した雪菜は、『あぁ〜、やってしまったか』とめまいを覚えてこめかみを抑えた。
一方の蒼はどうして日和が初対面相手にこのような態度をとるのかと不思議そうに首を傾げていた。
「一先ず、遙くん達出直してくれないかな?」
これ以上ここに彼らが留まるのは得策ではないと雪菜が重たい口を開いた。申し訳ないと表情を曇らす雪菜に対して真琴も眉尻を下げる。
「そ…そうだよね。いつまでもこの場にいちゃ迷惑だよね」
「ごめんね、折角来てくれたのに…
蒼もあっちで見なよ」
「う…うん。そうする…」
雪菜の言ったことに蒼は戸惑いながらも頷くと真琴の元へ。そして渋々と遙達一行は郁也に会うことが叶うことなく元いた座席に引き返すのだった。
あ…あった
霜狼学院大学…」
真琴が大会のパンフレットのページを捲っていく。そのパンフレットには各大学の選手の種目エントリー等が書かれているのだ。そこから、真琴は郁也の名前を見つけた。
真琴の一声に見守っていた遙と旭と貴澄がパンフレットを覗き込んだ。こうなった経緯はつい数分前。レースから戻ってきた遙と旭が郁也らしき人物を見て追いかけたが見失ったと慌てて真琴たちの元に戻ってきたことから始まった。
一行は、郁也のエントリー種目を確認する。が、そこに書かれている種目を見た途端彼らは表情を曇らせてしまうのだった。
「混メだけしかエントリーしてないみたいだな」
「混メ??」
「個人メドレーのことだ」
皆の気持ちを代弁するように旭が口を開く。それに唯一水泳部に所属していない貴澄が聞き覚えの無いフレーズに頭にハテナが浮かぶ。そんな貴澄のために旭が混メをわかりやすく言い直した。
「リレーはもう泳いでないのか」
その隣では遙が少し淋しげな声を漏らした。そんな遙を横目に見ていた真琴は、何か聞き覚えのある大学名に考えこんでいた。そして、ようやくハッと真琴はするのだった。
「そういえば霜狼学院って、雪菜ちゃんが行ったところだ」
「雪菜ちゃんって??」
聞き覚えのなり名前に貴澄は誰??と聞き返す。遙と真琴は彼女とは交流があるが、貴澄と旭は知らないのだ。そんな彼らに真琴は簡潔にわかりやすい言葉で彼女らの関係性を表現するのだった。
「蒼のアメリカ時代に出来た友達なんだ」
「そういえば真琴の彼女何処行ったんだよ?
今日来てるんだろ?」
蒼…
その言葉に旭はピクリと眉を動かした。周囲を見渡せばその人らしい人物の姿は見当たらない。自分だけ会っていないことにムシャクシャする旭は思わず真琴に詰め寄った。
そんな旭に紹介できなくて申し訳ないと真琴は苦笑いを浮かべて後頭部に手をやった。
「アハハ、さっき勢いそのまま飛び出しちゃって...」
「そうそう!
さっきまでここに居たんだよ〜、旭」
「一言も無し!!
真琴!!不安になんねぇーの!?」
先程の光景を思い出しながら経緯を説明する真琴と貴澄の言葉に旭は目を見開いた。誰にも行く場所を言わずに飛び出す奴がいるのかと…。が、旭の慌てぶりをよそに彼ら3人は全く心配などしていなかったのだった。
「蒼の行く場所は一つしかない
そうだろ?真琴」
「流石ハル!」
「え?ど、どこだよ?」
「今から雪菜ちゃんのレースが始まるから、霧狼学院のとこだよ」
「で?応援席はどこなんだ??」
蒼の居場所がわかっているが、実際の場所がわからない。キョロキョロ見渡す旭の言葉に真琴達は喉を詰まらせて考え込んでしまった。
そんな彼らを助けるように、話を聞いていたのか男性がゆっくりとした足取りで彼らに歩み寄り、その場所を指差すのだった。
「霜学は癖のある選手が多い、応援席はあの辺りだ」
*****
「ひ〜よ〜り〜!!」
蒼は霧狼学院の応援席で盛大に日和に詰め寄っていた。周囲のメンバーは急に現れた日和と親しげに話しかける彼女を興味津々に眺めていた。が、日和はその視線など気にする素振りを見せることはなかった。
「なぁーに?蒼」
「次、雪菜の試合だよ〜!!」
「言われなくてもわかってるよ?」
「じゃもっと気合入れてさ、応援しようよ!!」
蒼はニコニコと笑みを浮かべて日和を促す。が、そんな彼女を見て日和は苦笑するのだった。
「相変わらず何に関しても全力だよね?蒼って」
「そりゃあね!!
それに雪菜の初戦、精一杯応援してあげたいし!!」
エッヘンと蒼は腰に手を当てる。その間にプールサイドにおいて雪菜を含めた選手たちが整列し始める。
「日和は違うの??」
「別に…僕は……」
「日和って雪菜に関しては意地っ張りだよね」
蒼は反応がない日和に純粋な菫色の瞳を向ける。それを見ていられず日和はそっぽ向く。が、そんな彼に蒼は不貞腐れた声を漏らした。
「意地張ってるように見える??」
「……見える」
いつもと同じように軽い気持ち日和は尋ねる。それに蒼はニコニコと笑みを絶やすことのない日和から目線を逸らすことなく頷いた。毎度のことながら日和は凄いと思う。どんなときでも自分のほんとうの気持ちを表に露わにすることなんかないんだから。自分自身すら偽るように仮面を被る日和に蒼は掴みかかってしまいそうなのをグッとこらえた。
そんな蒼の心情など知らない日和は相変わらず乾笑しながらとぼけた声を漏らす。
「そう?
まぁ僕いつもこんなだから今更変えたら逆に変でしょ?
それに……」
「それに??」
「僕が応援の声かけたら逆に雪菜の調子狂っちゃうよ」
ポツリと表情を一変させた日和が嘆く。その日和の言葉にわかっていないなと蒼は小さく息をついた。
「……そんなことないと思うんだけどなぁ」
「あるよ。
まぁ、雪菜なら平気っしょ」
日和は蒼の言葉をバッサリ切り捨てると、プールに目を移す。その日和の横顔を未だ納得がいっていない蒼はハッと息を呑む。なぜかというと、日和の眼差しがとても柔らかかったからだ。こんな風に見ているんだ、雪菜のことを。蒼はこの表情を崩したくないと口を挟むのをやめて日和を見習いプールに視線を向ける。そして、雪菜の名を精一杯叫ぶのだった。
*****
「あの!!すみません!!桐島郁弥くんっていますか?」
雪菜の試合が終わり暫く経った頃、霧狼学院の応援席に聞き覚えがありすぎる声が聞こえビクリと蒼は身体を強張らせた。恐る恐る蒼はそちらに視線をやる。するとそこにいたのは予想通りの人物達だった。もちろん郁也のことを尋ねてきた真琴はすぐに蒼を見つける。そして、蒼の視線に気づいたのか真琴は小さく彼女に向けて微笑むのだった。
「あっれ〜、賑やかだね?」
いつそっちに行こうかとタイミングを伺っている蒼の背後から新たな声。急いで蒼は振り向くと彼女に駆け寄るのだった。
「……雪菜!!1位おめでと!!」
「ヤッホ、蒼!応援ありがと」
イェーイ!!
軽く手を上げた雪菜と蒼はハイタッチを交わした。
「で?なんで遙くん達がコッチにいるの??」
「雪菜と蒼って彼らと知り合いなの?」
怪訝な表情を雪菜は浮かべた。蒼がコッチの応援席にいて日和の横に腰掛けているのは理解できるが、遙達がここにいる訳がわからないのだ。蒼が事情を話そうと口を開いたタイミングで、傍観者の立場だった日和が面白くなさそうな声を上げて遮った。
「ちょっと日和、今私が質問してるんだけど?」
「別に良いでしょ?」
「「………」」
「まぁまぁちょっと二人共…」
蒼が危惧していた通りの展開になり、蒼は深く息をつく。そして啀み合う二人をまぁまぁと蒼はなんとか宥めようと務めるのだった。その間、遙達のサイドでは…
「なんだ〜お前ら」
寒河江達は突然現れた真琴達へ訝しげな表情を向けた。一体彼らは桐島郁也に何の用なのかと。そんな彼らに向かって旭が意気揚々と答える。
「郁弥の中学の時のダチだ」
「あ…さっきのフリー100でめちゃくちゃ速かったやつ」
「確か岩鳶にいた七瀬遙か?」
「あぁ」
寒河江と寺島は一行の顔を見渡して遙の存在を認識するのだった。それに対して遙は小さく頷いた。その最中、ジッと口をつぐんでいた旭がハッと閃いたように目を見開くと手前に座っている寺島を指差すのだった。
「あ!!思い出した!!
お前!!寺島 湖太郎だな!!
鳴門の鉄砲魚寺島!!」
「俺をその名で呼ぶな!!!」
「寺島の前でその二つ名は禁句だ」
言われた本人寺島はピクリと眉を動かし、額に青筋を立てるとガバッと立ち上がり旭に詰め寄った。憤りを露わにする寺島の隣では寺島がこの光景を楽しんでいた。
だが、言い返された旭は怨めしそうに寺島を睨み返し叫んだ。
「…ッ…二つ名があるだけいいじゃねぇーか
俺なんか自分でつけた
げんかいカジキマグロって
誰も呼んでくれねぇーんだぞ!!」
「うっわ…だっせ…」
「なんだとコラ!!」
「自分でつけてそのセンスはねーだろ?」
悲鳴を上げる旭の言葉に寺島は呆れた口調を漏らした。その態度に旭は更にムキになり喧嘩腰の口調に。そんな今にも殴りかかりそうな旭を真琴は羽交い締めにすることで必死に止めた。
「ちょっと旭、喧嘩しにきたわけじゃないだろ?」
「アンタも煽る発言しないの!」
「いって!!」
低レベルな言い争いに見ていられないと雪菜は寺島の頭上に拳を叩き落とした。その痛みに寺島は両手を頭に当てて呻き声を上げた。そんな彼を見ていい気味だと口角を上げた雪菜だが真琴達には先程の表情が嘘のように爽やかな表情を向けるのだった。
「ごめんねぇ〜、ウチのメンバーが」
「こっちこそごめんね、雪菜ちゃん」
「お詫びの代わりにこの子返すんで」
そう言った雪菜はポカンと突っ立っている蒼を真琴の前に突き出すように背中を押した。そんな雪菜に蒼は振り向きながら異議を唱える。
「ちょっと、人をモノ扱いしないでよ〜
って、君!!旭くんって!!」
異議を唱えていた蒼はピタリと動きを止める。蒼が見つけたのは先程遙の隣でフリーを泳いでいた人物だった。もしやもしやと目を輝かせ始める蒼に、旭は若干押され気味に。だが、すぐに旭は調子を取り戻す。
「お…おう
ってお前か!?蒼ってやつ!!」
「そうそう!!
よろしくね旭くん」
「よろしくな!蒼!」
「あ!貴澄くんと旭くんは初めてだよね!
彼女は私の友達の雪菜だよ!」
ガッチリと握手を交わし終えた蒼は、ハッと思い出したように雪菜のことを紹介する。それに雪菜は慌てたように笑顔を振りまき自己紹介を始めるのだった。
そんな彼らの背後へ一つの影が近づく。その影は、雪菜の真後ろで足を止めるのだった。
「雪菜、蒼
郁弥はいないのか?」
「郁弥ならいないよ
見ればわかるでしょ?ほら次の試合始まっちゃうよ
自分の席で応援したほうがいいんじゃない?」
遙の問いに答えたのは、雪菜の真後ろの位置をとった日和。遙達、郁也を探しに来たメンバーにニコリと胡散臭い笑みを浮かべていた。
その日和の表情をチラリと見上げ確認した雪菜は、『あぁ〜、やってしまったか』とめまいを覚えてこめかみを抑えた。
一方の蒼はどうして日和が初対面相手にこのような態度をとるのかと不思議そうに首を傾げていた。
「一先ず、遙くん達出直してくれないかな?」
これ以上ここに彼らが留まるのは得策ではないと雪菜が重たい口を開いた。申し訳ないと表情を曇らす雪菜に対して真琴も眉尻を下げる。
「そ…そうだよね。いつまでもこの場にいちゃ迷惑だよね」
「ごめんね、折角来てくれたのに…
蒼もあっちで見なよ」
「う…うん。そうする…」
雪菜の言ったことに蒼は戸惑いながらも頷くと真琴の元へ。そして渋々と遙達一行は郁也に会うことが叶うことなく元いた座席に引き返すのだった。