交叉する運命
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「おはよ、雪菜」
「おはよ〜日和」
互いにエレベーターホールで鉢合わせし、当たり障りのない挨拶を交わす。
「郁也は??」
試合当日ということもあり、なんとなく感づいていたものの一応と雪菜は尋ねた。
「一人で先に行ったよ」
「相変わらずなんだ」
試合第一優先の郁也は、試合が近づくにつれてピリピリとし始めるのだ。当日、ベストな泳ぎをするために郁也は一人で集中力を高めるのだ。
「雪菜は??緊張してる?」
「そりゃあ緊張してるよ!
初陣だしね」
彼女に顔を向けず前を見据えたまま日和は尋ねる。思わぬ日和の言葉に、最初はキョトンとしている雪菜だったがようやく真意がわかると二カリと太陽のように輝く笑みを浮かべるのだった。
「しょうがないからそんな雪菜と一緒に行ってあげるよ」
そんな彼女の笑みに直視できず、照れを隠すために半分躍起になった日和の緊張を和らげようとした言動はいつも通り。もちろん、その言葉に雪菜は眉をしかめた。
「なにそれ…
自分はまるで緊張なんか一切してませんって言ってるようなもんじゃない」
「あたりまえじゃないか?
雪菜みたいにガチガチになってスタート失敗したことなんかないしね」
「う…っ…中学時代のことを貪り返さないでよ」
ビクリと雪菜は肩が強張った。昔の彼女は、相当のあがり症で試合前は特に緊張してしまい、普段の力を発揮できない試合なんてザラだったのだ。
恥ずかしさと憤りで顔を真っ赤にして頬を膨らませ睨みつける雪菜に、日和はフッと柔らかく笑った。
「そうそう!!
今の雪菜にはそんなの関係ないよね」
その日和の一言で、完全に雪菜の心は静まり返った。昔の自分を知っているからこそ言える発言。過去は過去。今を作るのは今の自分だ。緊張してあがって失敗するようなヘマなんかもうするわけがない。蒼に言って貰いたかった言葉が、逆に日和から言われたことに雪菜は驚きと同時に嬉しさを感じた。
「珍しくいいこと言ってくれるじゃない!!」
ニヤケを隠すように雪菜は肘で日和を小突いた。その突然の行動に、顔を顰める日和に雪菜は小さくありがと…と視線を合わすことなく呟くのだった。その言葉が耳に届いた日和は、小言を喉の奥へ引っ込めた。驚き息を呑んだ日和は滅多に聞くことがない雪菜からの感謝の言葉に人知れずほんのり顔が赤くなってしまうのだった。
「あっれ??お二人さん朝から仲良く会場入りですか??」
会場に着いて茶化すように一緒に並んできた雪菜と日和を見てニヤつくのは寺島だ。
「そりゃあそうだろ??だって二人って…」
その隣にいる寒河江も二人を見てニヤついた笑みを浮かべていた。
そんな彼ら二人の頭上に足音を立てることなく近づいた雪菜が鉄拳を落とす。と、同時に二人の悲鳴があがった。
「だって二人って???」
完全に笑っていない闇に沈んだ琥珀色の目で無表情のまま二人を見て先を促そうとする雪菜に、寺島と寒河江は恐怖の顔を浮かべ震え上がった。
「アメリカ時代のチームメイトだもんな」
「そ…それを言いたかったんだよ」
咄嗟の機転を利かせて寺島が代弁し、それにそうそうと寒河江が頷く。
「そう…」
先ほどのオーラが身体から完全に消え静かに微笑する雪菜に、この話題は禁句だと寺島と寒河江は口に出さないようにしようとない内心思うのだった。
「じゃ…私は準備してこようかな」
他の女子メンバーとロッカーへ行った雪菜の姿が消えた途端、二人の視線はいつの間にか郁也の隣に座っている日和へ向く。そんな視線に気づいた日和は、若干アハハと顔を引き攣らせた。
「で??実際はどうなんだよ!!遠野」
凝りもせずに根掘り葉掘り聞こうと身体を前のめりにする二人に日和は苦笑しながら答えるのだった。
「雪菜が言ったとおりだよ
別に僕たちの関係はこれ以上もこれ以下もないよ」
*****
今日は、関東地区大学対抗新人水泳競技大会。大学生になった1年生のみが参加する彼らにとって最初の試合。
「えっと…ここか」
「真琴…早く行こ!!」
焦るように会場に入ったのは真琴と蒼。今頃、観客席に腰を落ち着かせて観戦している予定だったのだが、予想だにしない出来事が起こってしまったのだ。
「そうだね…とりあえず貴澄に連絡しないと
あ…貴澄〜?」
真琴は、急かす蒼をなだめながら携帯を取り出し待ち合わせ相手に連絡ととった。
『真琴、何してるの??』
「ごめん…電車が遅れちゃって」
『早くしないとハルと旭の試合始まっちゃうよ?』
その言葉に、誰よりも早く蒼が反応する。切羽詰まった表情で、蒼は真琴から携帯をかっさらった。
「えぇ!!それは不味い!!
貴澄くんどこいるの!?!?」
『あ…アオちゃん
2階の中央の客席だよ
階段上がってくれれば見えるよ』
「わかった!!すぐ行くね!!」
貴澄の言葉を聞き終えると蒼はすぐに通話を切った。そんな彼女に困り顔で真琴が声をかける。
「もう…勝手にとらないでよ」
「別にいいじゃん!!ほら行こ!!」
キョロキョロと辺りを見渡した蒼は階段を見つけ、真琴の手を引っ張って駆け出した。後方から歩いてくる郁也の存在に気づくことなく…
「セーフ!!!」
「よかった…間に合った」
大慌てで観客席にいる貴澄の元に到着した二人は息をつきながら席に腰かけた。
「ふたりとも、お疲れ」
そんな彼らにねぎらいの言葉をかけると貴澄はプールサイドに目を移す。そこには既にスタート体制に入ろうとする旭と遙の姿があった。
「旭の泳ぎ見るの中学以来かも…」
「俺もだよ」
ポツリと声を漏らす彼らの視線を蒼は追う。そして、ようやく旭という人物を目撃するのだった。
「ハルの隣にいる人が、旭くんっていう人??」
真琴の裾を引っ張りコッチに向かせた蒼は、念の為の確認をとる。それに忘れていたとばかりに二人は目を見開いた。すっかり旭と蒼をあわせた気分で二人はいたのだ。
「そっか、アオちゃんは電話越しで旭と話しただけだもんね」
「もう…悪ふざけがすぎるよね!!
ハルじゃなくてびっくりしたんだから!!」
「それは俺もだよ
心臓止まるかと思った」
「アハハ!旭がどうしてもやるって聞かなくてさ!!」
事態を間近で見ていた貴澄が小さく笑みを零す。3人仲良く同じ大学ということで再会した遙達。だが、旭はいつも遙の隣にいる真琴がいないことに気づき、真琴のことを尋ねたのだ。そして真琴も東京にいると知った旭は、あることを思いついてしまったのだ。遙のスマホで遙の声を真似て出たら幼馴染の真琴は別人だと判別することができるのかと。
「まぁ僕の勘だけどさ〜、旭とアオちゃん…
すぐに意気投合すると思うよ?」
「ホントに!!」
「うん!ホント!」
「うわぁ!!楽しみ!!早く会いたくなってきちゃった!!」
「蒼!少し落ち着いて!!」
ニッコリと貴澄はプンプンする蒼に笑いかけた。互いに性格が似ている者同士惹かれ合うものがあると貴澄は思ったのだ。その言葉に蒼は機嫌をすっかり直し、キラキラと菫色の瞳を輝かせて喰い付いた。そんな興奮気味の蒼を落ち着かせるのは大変なのを知っている真琴は、げんなりとしながらも必死にはしゃぐ蒼を落ち着かせようと躍起になるのだった。そんな彼らを貴澄は微笑ましげに眺めていた。が、蒼が大人しくなったところでふと口を開いた。
「そういえば、どっちが勝っても負けてもここで規定のタイムを上回れば全日本選抜に出られるんだよね?」
「残念なことに今日は新人戦だから、どんなにいいタイムを出しても反映されないんだって!!」
「でも…大学のチームでの初めての試合
ハルと旭にとって記念すべきデビュー戦だ」
真剣な表情になった彼らはこの試合を見届けるために視線をプールサイドに落とす。誰が一番先に泳ぎ切るか、3人が固唾を呑んで見守る中…遙と旭のデビュー戦の開始を知らせる笛が鳴るのだった。
「あ…そういうことか」
観客席で遙の泳ぎを見ていた雪菜はようやく違和感の正体に気づく。フリーを泳ぐ遙の泳ぎと郁也の泳ぎのフォームが全くではないが似ていたのだ。少し前の彼女ならなんで?と不審がるのだが、この前、蒼が教えてくれた二人の接点を知っていたからこそ合点がいった。
「なぁ〜にあれ…
ただの…
郁弥の劣化コピーじゃん」
隣で頬杖しながらつまらなそうに見ている日和の様子に、雪菜は顔を顰めた。日和が何処まで知っているのか雪菜は見当がつかない。自分だって、中学時代のチームメイトとしか知らない。でも、どっちが憧れを抱いたのかは容易に想像がついた。だからこそ、なんとなくだがわかる。日和は面白くないのだろう。遙が郁也の泳ぎに影響を与えていることに。
はぁ……
人知れず雪菜は溜息をつく。
やな予感しかしなかった。中学時代に蟠りを抱えたまま離れたのであろう遙達は恐らく郁也に会いに来る。もちろん、郁也に対して過保護な日和はなにかしらするに違いないと雪菜は踏んでいたのだった。
遙と旭のレースは、遙に軍配があがる。だが、このレースの序盤から最後まで先頭を泳いで他の選手を突き放した泳ぎをした彼らは一気に注目を浴びるのだった。
レースを終え、悔しそうに隣を歩く遙を横目に見ながら地団駄を踏む。いつも余裕そうで表情を変えない遙に旭がムキになる中、遙は視界の端を通り過ぎた人影に目を見開いて立ち止まるのだった。
「…どうしたハル??」
唐突に足を止めた遙に少し前を歩いていた旭が振り返て尋ねる。そんな彼に遙は未だに己が見たのが信じられないという表情でポツリとある名前を呟くのだった。
「…郁也??」
「おはよ〜日和」
互いにエレベーターホールで鉢合わせし、当たり障りのない挨拶を交わす。
「郁也は??」
試合当日ということもあり、なんとなく感づいていたものの一応と雪菜は尋ねた。
「一人で先に行ったよ」
「相変わらずなんだ」
試合第一優先の郁也は、試合が近づくにつれてピリピリとし始めるのだ。当日、ベストな泳ぎをするために郁也は一人で集中力を高めるのだ。
「雪菜は??緊張してる?」
「そりゃあ緊張してるよ!
初陣だしね」
彼女に顔を向けず前を見据えたまま日和は尋ねる。思わぬ日和の言葉に、最初はキョトンとしている雪菜だったがようやく真意がわかると二カリと太陽のように輝く笑みを浮かべるのだった。
「しょうがないからそんな雪菜と一緒に行ってあげるよ」
そんな彼女の笑みに直視できず、照れを隠すために半分躍起になった日和の緊張を和らげようとした言動はいつも通り。もちろん、その言葉に雪菜は眉をしかめた。
「なにそれ…
自分はまるで緊張なんか一切してませんって言ってるようなもんじゃない」
「あたりまえじゃないか?
雪菜みたいにガチガチになってスタート失敗したことなんかないしね」
「う…っ…中学時代のことを貪り返さないでよ」
ビクリと雪菜は肩が強張った。昔の彼女は、相当のあがり症で試合前は特に緊張してしまい、普段の力を発揮できない試合なんてザラだったのだ。
恥ずかしさと憤りで顔を真っ赤にして頬を膨らませ睨みつける雪菜に、日和はフッと柔らかく笑った。
「そうそう!!
今の雪菜にはそんなの関係ないよね」
その日和の一言で、完全に雪菜の心は静まり返った。昔の自分を知っているからこそ言える発言。過去は過去。今を作るのは今の自分だ。緊張してあがって失敗するようなヘマなんかもうするわけがない。蒼に言って貰いたかった言葉が、逆に日和から言われたことに雪菜は驚きと同時に嬉しさを感じた。
「珍しくいいこと言ってくれるじゃない!!」
ニヤケを隠すように雪菜は肘で日和を小突いた。その突然の行動に、顔を顰める日和に雪菜は小さくありがと…と視線を合わすことなく呟くのだった。その言葉が耳に届いた日和は、小言を喉の奥へ引っ込めた。驚き息を呑んだ日和は滅多に聞くことがない雪菜からの感謝の言葉に人知れずほんのり顔が赤くなってしまうのだった。
「あっれ??お二人さん朝から仲良く会場入りですか??」
会場に着いて茶化すように一緒に並んできた雪菜と日和を見てニヤつくのは寺島だ。
「そりゃあそうだろ??だって二人って…」
その隣にいる寒河江も二人を見てニヤついた笑みを浮かべていた。
そんな彼ら二人の頭上に足音を立てることなく近づいた雪菜が鉄拳を落とす。と、同時に二人の悲鳴があがった。
「だって二人って???」
完全に笑っていない闇に沈んだ琥珀色の目で無表情のまま二人を見て先を促そうとする雪菜に、寺島と寒河江は恐怖の顔を浮かべ震え上がった。
「アメリカ時代のチームメイトだもんな」
「そ…それを言いたかったんだよ」
咄嗟の機転を利かせて寺島が代弁し、それにそうそうと寒河江が頷く。
「そう…」
先ほどのオーラが身体から完全に消え静かに微笑する雪菜に、この話題は禁句だと寺島と寒河江は口に出さないようにしようとない内心思うのだった。
「じゃ…私は準備してこようかな」
他の女子メンバーとロッカーへ行った雪菜の姿が消えた途端、二人の視線はいつの間にか郁也の隣に座っている日和へ向く。そんな視線に気づいた日和は、若干アハハと顔を引き攣らせた。
「で??実際はどうなんだよ!!遠野」
凝りもせずに根掘り葉掘り聞こうと身体を前のめりにする二人に日和は苦笑しながら答えるのだった。
「雪菜が言ったとおりだよ
別に僕たちの関係はこれ以上もこれ以下もないよ」
*****
今日は、関東地区大学対抗新人水泳競技大会。大学生になった1年生のみが参加する彼らにとって最初の試合。
「えっと…ここか」
「真琴…早く行こ!!」
焦るように会場に入ったのは真琴と蒼。今頃、観客席に腰を落ち着かせて観戦している予定だったのだが、予想だにしない出来事が起こってしまったのだ。
「そうだね…とりあえず貴澄に連絡しないと
あ…貴澄〜?」
真琴は、急かす蒼をなだめながら携帯を取り出し待ち合わせ相手に連絡ととった。
『真琴、何してるの??』
「ごめん…電車が遅れちゃって」
『早くしないとハルと旭の試合始まっちゃうよ?』
その言葉に、誰よりも早く蒼が反応する。切羽詰まった表情で、蒼は真琴から携帯をかっさらった。
「えぇ!!それは不味い!!
貴澄くんどこいるの!?!?」
『あ…アオちゃん
2階の中央の客席だよ
階段上がってくれれば見えるよ』
「わかった!!すぐ行くね!!」
貴澄の言葉を聞き終えると蒼はすぐに通話を切った。そんな彼女に困り顔で真琴が声をかける。
「もう…勝手にとらないでよ」
「別にいいじゃん!!ほら行こ!!」
キョロキョロと辺りを見渡した蒼は階段を見つけ、真琴の手を引っ張って駆け出した。後方から歩いてくる郁也の存在に気づくことなく…
「セーフ!!!」
「よかった…間に合った」
大慌てで観客席にいる貴澄の元に到着した二人は息をつきながら席に腰かけた。
「ふたりとも、お疲れ」
そんな彼らにねぎらいの言葉をかけると貴澄はプールサイドに目を移す。そこには既にスタート体制に入ろうとする旭と遙の姿があった。
「旭の泳ぎ見るの中学以来かも…」
「俺もだよ」
ポツリと声を漏らす彼らの視線を蒼は追う。そして、ようやく旭という人物を目撃するのだった。
「ハルの隣にいる人が、旭くんっていう人??」
真琴の裾を引っ張りコッチに向かせた蒼は、念の為の確認をとる。それに忘れていたとばかりに二人は目を見開いた。すっかり旭と蒼をあわせた気分で二人はいたのだ。
「そっか、アオちゃんは電話越しで旭と話しただけだもんね」
「もう…悪ふざけがすぎるよね!!
ハルじゃなくてびっくりしたんだから!!」
「それは俺もだよ
心臓止まるかと思った」
「アハハ!旭がどうしてもやるって聞かなくてさ!!」
事態を間近で見ていた貴澄が小さく笑みを零す。3人仲良く同じ大学ということで再会した遙達。だが、旭はいつも遙の隣にいる真琴がいないことに気づき、真琴のことを尋ねたのだ。そして真琴も東京にいると知った旭は、あることを思いついてしまったのだ。遙のスマホで遙の声を真似て出たら幼馴染の真琴は別人だと判別することができるのかと。
「まぁ僕の勘だけどさ〜、旭とアオちゃん…
すぐに意気投合すると思うよ?」
「ホントに!!」
「うん!ホント!」
「うわぁ!!楽しみ!!早く会いたくなってきちゃった!!」
「蒼!少し落ち着いて!!」
ニッコリと貴澄はプンプンする蒼に笑いかけた。互いに性格が似ている者同士惹かれ合うものがあると貴澄は思ったのだ。その言葉に蒼は機嫌をすっかり直し、キラキラと菫色の瞳を輝かせて喰い付いた。そんな興奮気味の蒼を落ち着かせるのは大変なのを知っている真琴は、げんなりとしながらも必死にはしゃぐ蒼を落ち着かせようと躍起になるのだった。そんな彼らを貴澄は微笑ましげに眺めていた。が、蒼が大人しくなったところでふと口を開いた。
「そういえば、どっちが勝っても負けてもここで規定のタイムを上回れば全日本選抜に出られるんだよね?」
「残念なことに今日は新人戦だから、どんなにいいタイムを出しても反映されないんだって!!」
「でも…大学のチームでの初めての試合
ハルと旭にとって記念すべきデビュー戦だ」
真剣な表情になった彼らはこの試合を見届けるために視線をプールサイドに落とす。誰が一番先に泳ぎ切るか、3人が固唾を呑んで見守る中…遙と旭のデビュー戦の開始を知らせる笛が鳴るのだった。
「あ…そういうことか」
観客席で遙の泳ぎを見ていた雪菜はようやく違和感の正体に気づく。フリーを泳ぐ遙の泳ぎと郁也の泳ぎのフォームが全くではないが似ていたのだ。少し前の彼女ならなんで?と不審がるのだが、この前、蒼が教えてくれた二人の接点を知っていたからこそ合点がいった。
「なぁ〜にあれ…
ただの…
郁弥の劣化コピーじゃん」
隣で頬杖しながらつまらなそうに見ている日和の様子に、雪菜は顔を顰めた。日和が何処まで知っているのか雪菜は見当がつかない。自分だって、中学時代のチームメイトとしか知らない。でも、どっちが憧れを抱いたのかは容易に想像がついた。だからこそ、なんとなくだがわかる。日和は面白くないのだろう。遙が郁也の泳ぎに影響を与えていることに。
はぁ……
人知れず雪菜は溜息をつく。
やな予感しかしなかった。中学時代に蟠りを抱えたまま離れたのであろう遙達は恐らく郁也に会いに来る。もちろん、郁也に対して過保護な日和はなにかしらするに違いないと雪菜は踏んでいたのだった。
遙と旭のレースは、遙に軍配があがる。だが、このレースの序盤から最後まで先頭を泳いで他の選手を突き放した泳ぎをした彼らは一気に注目を浴びるのだった。
レースを終え、悔しそうに隣を歩く遙を横目に見ながら地団駄を踏む。いつも余裕そうで表情を変えない遙に旭がムキになる中、遙は視界の端を通り過ぎた人影に目を見開いて立ち止まるのだった。
「…どうしたハル??」
唐突に足を止めた遙に少し前を歩いていた旭が振り返て尋ねる。そんな彼に遙は未だに己が見たのが信じられないという表情でポツリとある名前を呟くのだった。
「…郁也??」