交叉する運命
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蒼と別れた真琴は遙達と合流。そして、”まろん”という旭の姉がやっている喫茶店に来ていた。
そして席についた彼らは時間を埋めるように話に花を咲かせていたのだが、その最中旭が取り出してきた写真のアルバムを皆で眺めていた。
高校の仲間
中学の九州時代の仲間
そして、中学時代の貴澄や真琴・遙
アルバムからは沢山の写真が出てきた。
「あ!!これ郁弥だ!!
どうしてるんだろ?今」
貴澄が指差した写真。そこには放課後の校舎をバックに映る4人の姿があった。
懐かしそうに表情を緩ます貴澄。対して、他の3人は浮かない表情を浮かべていた。
「あれ?どうしたの?」
「あ…いや
俺郁弥に引っ越すってちゃんと言えないまま転校しちゃったから…」
不思議そうに旭の顔を覗き込む貴澄。それに答えるように旭はバツが悪そうに首に手をあて口を開くのだった。
「郁弥、中2から夏也先輩についてアメリカに行ったんだよね…
でも、今は東京にいるらしいよ」
ポツリと呟かれた真琴の言葉に、3人は眼を見開いた。
「真琴…郁弥と連絡とってるの?」
「そうなのか!?
今も水泳やってるのか!!」
貴澄と旭は身を乗り出す。遙も隣にいる真琴を凝視した。が、そういえばそこまでは聞いていなかったと困った表情を真琴は浮かべながら首を横に振った。
「俺じゃなくて…蒼がね
水泳は今もやってるみたい」
「そうか!アオちゃんって、アメリカにいたんだもんね」
蒼のことを知っている遙と貴澄は納得といった表情を浮かべる。対して、蒼とまだあったことがない旭は全く彼女の人物像が浮かばず首を傾げる。
「蒼って、さっき真琴の電話に出た奴だっけか?」
「うん、そうだよ」
「二人は大学一緒だもんね~」
旭の問に真琴が小さく頷くと、情報を付け足すようにニコニコとした貴澄が口を開いた。が、その後すぐガバッと上半身を真琴に前のめりにした旭が他の者が口を挟めないくらいの怒涛の勢いで彼に声をあげた。
「ってか、なんで連れて来なかったんだよ!!
真琴の彼女、どんな子か拝みたかったぜ」
「えぇ!?うぇ!!」
旭の勢いに押され、真琴が顔を真っ赤にさせ後ろめりになる。咄嗟に遙に助けを求めようと横を向くが、見て見ぬふりをされてしまう。
「へぇ〜、真琴くんに彼女ね…
今度連れてきてね」
更にもう一押しと言わんばかりに旭の姉がカウンター越しから愉し気に笑みを浮かべ、連れてきたらサービスするからと付け加える。久々の冷やかしに真琴の頭の沸点はオーバーしてしまう。何回されても慣れないこのパターンに真琴は頭を抱えるのだった。
一方、その頃…
「はぁぁ〜〜、酷いよ〜」
ある喫茶店で、蒼は机に打っ潰して項垂れていた。
そんな彼女の真向かいには優雅にパンケーキを堪能する雪菜の姿があった。
「何よ?不満??」
「普通、一番高いものを奢らせる!?」
「そのくらいのことはやったつもりよ?
なんてたって、蒼の背中を押したのは私だからね」
「まぁ、そうだけどさ」
蒼は不貞腐れながらも頷く。
確かに雪菜に対しては多大なる御恩はある。
夢を見つけられたのも...
真琴に対する気持ちに気づけたのも...
彼女のお陰なのだから。
そうはわかっているものの、果たしてそれだけのためにこんな仕打ちを食らわせるのか?他に何かあって八つ当たりをとばっちりに食らってるのではないか?
こう感じられずには蒼はいられなかったのだ。
「ねぇ?雪菜?」
「何?」
「何かあった?」
一瞬真の抜けた表情になる雪菜だが、ヤハリ何かあるのか苦虫を噛み潰したような表情に。
「オオアリよ!!」
聞いてもらいたかったのか?
それとも捌け口が欲しかったのか?
パクパクとやけ食いのようにパンケーキを頬張りながら連連と言葉を投げていく。
「多大なる譲歩をして、あの二人と大学が一緒なのはいいの!
別に、全部知ってた蒼を今更怒る気はない」
「絶対まだ根に持ってるでしょ」
「当たり前でしょ!!
黙って反応を楽しげに見るなんて、日和ぐらいで十分」
刺々しい雪菜の言動に蒼は深く息をつく。が、この態度にヤケクソと言わんばかりにパクパクと食べている雪菜が気づくことがなかった。そんな雪菜を横目で見ながら、蒼はこのままでは埒が明かないと先を促す。
「はぁ...それで?」
「大学は、強豪校だからしょうがない、しょうがないけど!!
なんで住まいまで一緒なわけ?
しかも同じ階だなんて!!」
「へぇ!?一緒なの!凄いじゃん!!」
手を止めずにしゃべる雪菜の言葉を聞き洩らさぬように蒼は自身の目の前にあるグラスに入れられているストローを銜えて紅茶を飲む。が、衝撃な事実に口を挟むことを回避していたのに思わず喉に押しとどめていた言葉を出してしまうのだった。案の定、それに雪菜はジロッと蒼を睨みつけた。
「全然良くない!!
なんでアイツラと毎朝顔を合わせないと行けないの!」
「別にいいじゃん、そんなの」
「良くないから言ってるの!わかる??」
「......はぁ」
もう言い返すのすらメンドクサイと蒼は適当に相槌を入れる。ここで言い返しても良くなったためしが全くないからだ。完全に呆れかえっている蒼に対し、完全に相手にされていないと気づいた雪菜は不貞腐れたように大きな声をあげた。
「あぁあ~!!蒼にはどうせわかんないよね〜」
「わかりませんよ!
雪菜がなぜこうも意地を張りまくるかね」
ムカッときてしまった蒼は思わず言い返す。互いにもう開き直ってしまった彼らは睨みあいながら言葉を投げ合った。
「意地なんか張ってない!!」
「そう言い返してる時点で認めてるんじゃない?」
「蒼の癖に鋭く突っ込んでくるじゃない?」
「だって、私にはそう見えるんだもん」
ムッとしながら真っすぐな菫色の眼差しを向けてくる蒼に雪菜はウッと言葉を詰まらせた。もうこうなってしまったらこの言い合いの軍配は蒼に上がったのは明白。もちろん、それがわかっている蒼はニヤリと悪戯っぽい笑みを浮かべる。が、このままで終わらないのが雪菜だった。
「あっそ...
で??蒼は新婚生活は順調?」
「し...新婚生活じゃないし!!」
「おっと失礼...同棲生活だったね」
「雪菜、わざとでしょ?」
「さぁ〜、どうかしら?」
今度は愉快そうに雪菜が口角を上げた。予想だにしていなかった切り返しに蒼はうわづった声を上げてしまう。歯切れが悪い言葉で必死に否定する蒼に雪菜はやんわりとごめんごめんと笑いながら訂正する。が、雪菜がわざとそう言い現わしたのは明白。紅潮させた顔で蒼は雪菜を睨むが、優勢にたった雪菜は飄々とした態度でそれを受け流した。
「で??どうなの??」
「すごく楽しいよ」
「...ふーん」
「何?!」
「いや?
なんかホントに幸せそうだなあって思ってさ」
揶揄ってやろうと思って尋ねた雪菜の追及に蒼は満面の笑みで答えた。それに頬杖をついた雪菜は蒼をジッと見つめた。こんな蒼を見れたことを雪菜は純粋に良かったと思えたのだ。それと同時にはにかみながら嬉しそうに頬を染める蒼が羨ましいと思えた。
「うん!!」
「あ~ぁ…
あーだこーだ問い詰めてやろうと思ったのに拍子抜けしたよ
ご馳走さま、お蔭でお腹いっぱいだよ」
存分に色々と問いただしてやろうと思ったのに、一瞬で幸せオーラが伝わってしまった雪菜はやめだやめだと大きく息を吐きながら椅子の背もたれにもたれかかった。そんな彼女を蒼は不思議そうに見つめた。
「パンケーキそんなに多かった!?」
「そういう意味じゃ...
あ~もういいや
説明するのもダルい」
相変わらず純粋な蒼に雪菜はめんどくさいと匙を投げると色んな気持ちを吐き出すようにため息を溢して天井を見上げるのだった。
「あ~あ...
なんで真琴君みたいな人を好きにならなかったんだろ」
「急にどうしたの!?雪菜」
「だってさ、真琴君普通に優しくて包容力あってイケメンじゃん」
驚きの声を上げる蒼に雪菜は思ったまんまのことを口にする。少し頼りないところはあるが、いざって時はしっかりと男の表情を浮かべる。普通に気がかりなのはそれだけで優良物件だ。高身長なのに加えて誰に対しても物腰が低く優しい性格なのだから。
「日和は違うの??」
「アイツは何というか....
あぁ〜!!考えただけでムシャクシャしてきた!!
やめだやめ!!この話は終わり!!」
が、雪菜の言葉に蒼は決して自慢するような態度を決して取らなかった。逆に雪菜がそういう風に思っていたことに蒼は驚きを見せたのだ。そして驚きながらも蒼は切り返す。その切り返しのせいで雪菜は思い浮かべたくない日和の顔を浮かべてしまう。あんな性格が捻くれた奴のどこが…と心底嫌な表情を浮かべる雪菜だが、同時に彼の優しさも知っているため完全に全否定することが出来ず、考えるのを放棄した。
「すみませ~ん!!」
もうやけ食いだと奢りなのをいいことに雪菜は手を上げて店員を呼ぶ。それにまだ食べるのかと呆れた表情を蒼は浮かべ悲鳴にも似た声を上げた。
「まだ頼むの〜!!」
「良いじゃん!!
蒼は、全部の費用を真琴君と割り勘何だからさ!!」
「まぁそうだけど...
ハァ......」
溜め息を漏らしながら蒼はチラッと財布を開きそっと閉じるとウッ潰しの状態になりながら、バイトでも始めるべきか?と本気で考え込んでしまうのだった。
「取り敢えず気持ち切り替えよっと」
頼んだものが運ばれてくると嬉しそうに雪菜はスプーンを手に取った。今更愚痴をこぼしてもこの状況を変えることが出来ないのだからと、鬱憤を晴らした雪菜の表情から不機嫌さは消え去っていた。
「直近の試合っていつなの??」
「来週の新人戦かな」
「応援行くね!」
「ありがと」
雪菜から新人戦の試合の日程を聞いた蒼はすぐに予定表を開くと目立つように書き込んでいく。が、ふと水泳の話になったことでこの前の寂し気な真琴の顔が蒼の脳裏でよぎった。
「あ...そういえばさ私ついこの前知ったんだけど」
「んん?」
もったいぶった蒼の言葉に興味を示した雪菜はパフェを食べる手を止めて顔を上げた。
「真琴とハルの中学時代のチームメイト、郁也なんだって!!
ビックリだよネ」
「ヘェ~
郁也とね〜」
「だからさ、ハル達と郁也に何かあったんじゃないかな?」
「まぁ生きてればすれ違いとか、あるでしょ
現に私達も少し前までそうだったしね」
「何とかならないかな?」
「それは彼ら達次第でしょ」
意外に世間って言うのは狭いものだ。
誰が彼らを昔のチームメイトだと思うだろうか?
1人で必死になってタイムを追求する郁也と、心底から泳ぐことを楽しんでいる遙達を
それとも昔は郁也もそうだったのだろうか?
そしてふとしたすれ違いで修復できないような亀裂が生じてしまったのだろうか?
全て憶測でしかないが、目の前の彼女が随分なお人好しなのは明白だ。
当事者同士の問題に関して何も知らない私達が口を突っ込むことはできないのだから。
干渉できる事ではないと赤の他人事のように吐き出した雪菜の小さく冷たい言葉は、彼女自身が掻き回したグラスに入ってる氷の音でかき消されるのだった。
そして席についた彼らは時間を埋めるように話に花を咲かせていたのだが、その最中旭が取り出してきた写真のアルバムを皆で眺めていた。
高校の仲間
中学の九州時代の仲間
そして、中学時代の貴澄や真琴・遙
アルバムからは沢山の写真が出てきた。
「あ!!これ郁弥だ!!
どうしてるんだろ?今」
貴澄が指差した写真。そこには放課後の校舎をバックに映る4人の姿があった。
懐かしそうに表情を緩ます貴澄。対して、他の3人は浮かない表情を浮かべていた。
「あれ?どうしたの?」
「あ…いや
俺郁弥に引っ越すってちゃんと言えないまま転校しちゃったから…」
不思議そうに旭の顔を覗き込む貴澄。それに答えるように旭はバツが悪そうに首に手をあて口を開くのだった。
「郁弥、中2から夏也先輩についてアメリカに行ったんだよね…
でも、今は東京にいるらしいよ」
ポツリと呟かれた真琴の言葉に、3人は眼を見開いた。
「真琴…郁弥と連絡とってるの?」
「そうなのか!?
今も水泳やってるのか!!」
貴澄と旭は身を乗り出す。遙も隣にいる真琴を凝視した。が、そういえばそこまでは聞いていなかったと困った表情を真琴は浮かべながら首を横に振った。
「俺じゃなくて…蒼がね
水泳は今もやってるみたい」
「そうか!アオちゃんって、アメリカにいたんだもんね」
蒼のことを知っている遙と貴澄は納得といった表情を浮かべる。対して、蒼とまだあったことがない旭は全く彼女の人物像が浮かばず首を傾げる。
「蒼って、さっき真琴の電話に出た奴だっけか?」
「うん、そうだよ」
「二人は大学一緒だもんね~」
旭の問に真琴が小さく頷くと、情報を付け足すようにニコニコとした貴澄が口を開いた。が、その後すぐガバッと上半身を真琴に前のめりにした旭が他の者が口を挟めないくらいの怒涛の勢いで彼に声をあげた。
「ってか、なんで連れて来なかったんだよ!!
真琴の彼女、どんな子か拝みたかったぜ」
「えぇ!?うぇ!!」
旭の勢いに押され、真琴が顔を真っ赤にさせ後ろめりになる。咄嗟に遙に助けを求めようと横を向くが、見て見ぬふりをされてしまう。
「へぇ〜、真琴くんに彼女ね…
今度連れてきてね」
更にもう一押しと言わんばかりに旭の姉がカウンター越しから愉し気に笑みを浮かべ、連れてきたらサービスするからと付け加える。久々の冷やかしに真琴の頭の沸点はオーバーしてしまう。何回されても慣れないこのパターンに真琴は頭を抱えるのだった。
一方、その頃…
「はぁぁ〜〜、酷いよ〜」
ある喫茶店で、蒼は机に打っ潰して項垂れていた。
そんな彼女の真向かいには優雅にパンケーキを堪能する雪菜の姿があった。
「何よ?不満??」
「普通、一番高いものを奢らせる!?」
「そのくらいのことはやったつもりよ?
なんてたって、蒼の背中を押したのは私だからね」
「まぁ、そうだけどさ」
蒼は不貞腐れながらも頷く。
確かに雪菜に対しては多大なる御恩はある。
夢を見つけられたのも...
真琴に対する気持ちに気づけたのも...
彼女のお陰なのだから。
そうはわかっているものの、果たしてそれだけのためにこんな仕打ちを食らわせるのか?他に何かあって八つ当たりをとばっちりに食らってるのではないか?
こう感じられずには蒼はいられなかったのだ。
「ねぇ?雪菜?」
「何?」
「何かあった?」
一瞬真の抜けた表情になる雪菜だが、ヤハリ何かあるのか苦虫を噛み潰したような表情に。
「オオアリよ!!」
聞いてもらいたかったのか?
それとも捌け口が欲しかったのか?
パクパクとやけ食いのようにパンケーキを頬張りながら連連と言葉を投げていく。
「多大なる譲歩をして、あの二人と大学が一緒なのはいいの!
別に、全部知ってた蒼を今更怒る気はない」
「絶対まだ根に持ってるでしょ」
「当たり前でしょ!!
黙って反応を楽しげに見るなんて、日和ぐらいで十分」
刺々しい雪菜の言動に蒼は深く息をつく。が、この態度にヤケクソと言わんばかりにパクパクと食べている雪菜が気づくことがなかった。そんな雪菜を横目で見ながら、蒼はこのままでは埒が明かないと先を促す。
「はぁ...それで?」
「大学は、強豪校だからしょうがない、しょうがないけど!!
なんで住まいまで一緒なわけ?
しかも同じ階だなんて!!」
「へぇ!?一緒なの!凄いじゃん!!」
手を止めずにしゃべる雪菜の言葉を聞き洩らさぬように蒼は自身の目の前にあるグラスに入れられているストローを銜えて紅茶を飲む。が、衝撃な事実に口を挟むことを回避していたのに思わず喉に押しとどめていた言葉を出してしまうのだった。案の定、それに雪菜はジロッと蒼を睨みつけた。
「全然良くない!!
なんでアイツラと毎朝顔を合わせないと行けないの!」
「別にいいじゃん、そんなの」
「良くないから言ってるの!わかる??」
「......はぁ」
もう言い返すのすらメンドクサイと蒼は適当に相槌を入れる。ここで言い返しても良くなったためしが全くないからだ。完全に呆れかえっている蒼に対し、完全に相手にされていないと気づいた雪菜は不貞腐れたように大きな声をあげた。
「あぁあ~!!蒼にはどうせわかんないよね〜」
「わかりませんよ!
雪菜がなぜこうも意地を張りまくるかね」
ムカッときてしまった蒼は思わず言い返す。互いにもう開き直ってしまった彼らは睨みあいながら言葉を投げ合った。
「意地なんか張ってない!!」
「そう言い返してる時点で認めてるんじゃない?」
「蒼の癖に鋭く突っ込んでくるじゃない?」
「だって、私にはそう見えるんだもん」
ムッとしながら真っすぐな菫色の眼差しを向けてくる蒼に雪菜はウッと言葉を詰まらせた。もうこうなってしまったらこの言い合いの軍配は蒼に上がったのは明白。もちろん、それがわかっている蒼はニヤリと悪戯っぽい笑みを浮かべる。が、このままで終わらないのが雪菜だった。
「あっそ...
で??蒼は新婚生活は順調?」
「し...新婚生活じゃないし!!」
「おっと失礼...同棲生活だったね」
「雪菜、わざとでしょ?」
「さぁ〜、どうかしら?」
今度は愉快そうに雪菜が口角を上げた。予想だにしていなかった切り返しに蒼はうわづった声を上げてしまう。歯切れが悪い言葉で必死に否定する蒼に雪菜はやんわりとごめんごめんと笑いながら訂正する。が、雪菜がわざとそう言い現わしたのは明白。紅潮させた顔で蒼は雪菜を睨むが、優勢にたった雪菜は飄々とした態度でそれを受け流した。
「で??どうなの??」
「すごく楽しいよ」
「...ふーん」
「何?!」
「いや?
なんかホントに幸せそうだなあって思ってさ」
揶揄ってやろうと思って尋ねた雪菜の追及に蒼は満面の笑みで答えた。それに頬杖をついた雪菜は蒼をジッと見つめた。こんな蒼を見れたことを雪菜は純粋に良かったと思えたのだ。それと同時にはにかみながら嬉しそうに頬を染める蒼が羨ましいと思えた。
「うん!!」
「あ~ぁ…
あーだこーだ問い詰めてやろうと思ったのに拍子抜けしたよ
ご馳走さま、お蔭でお腹いっぱいだよ」
存分に色々と問いただしてやろうと思ったのに、一瞬で幸せオーラが伝わってしまった雪菜はやめだやめだと大きく息を吐きながら椅子の背もたれにもたれかかった。そんな彼女を蒼は不思議そうに見つめた。
「パンケーキそんなに多かった!?」
「そういう意味じゃ...
あ~もういいや
説明するのもダルい」
相変わらず純粋な蒼に雪菜はめんどくさいと匙を投げると色んな気持ちを吐き出すようにため息を溢して天井を見上げるのだった。
「あ~あ...
なんで真琴君みたいな人を好きにならなかったんだろ」
「急にどうしたの!?雪菜」
「だってさ、真琴君普通に優しくて包容力あってイケメンじゃん」
驚きの声を上げる蒼に雪菜は思ったまんまのことを口にする。少し頼りないところはあるが、いざって時はしっかりと男の表情を浮かべる。普通に気がかりなのはそれだけで優良物件だ。高身長なのに加えて誰に対しても物腰が低く優しい性格なのだから。
「日和は違うの??」
「アイツは何というか....
あぁ〜!!考えただけでムシャクシャしてきた!!
やめだやめ!!この話は終わり!!」
が、雪菜の言葉に蒼は決して自慢するような態度を決して取らなかった。逆に雪菜がそういう風に思っていたことに蒼は驚きを見せたのだ。そして驚きながらも蒼は切り返す。その切り返しのせいで雪菜は思い浮かべたくない日和の顔を浮かべてしまう。あんな性格が捻くれた奴のどこが…と心底嫌な表情を浮かべる雪菜だが、同時に彼の優しさも知っているため完全に全否定することが出来ず、考えるのを放棄した。
「すみませ~ん!!」
もうやけ食いだと奢りなのをいいことに雪菜は手を上げて店員を呼ぶ。それにまだ食べるのかと呆れた表情を蒼は浮かべ悲鳴にも似た声を上げた。
「まだ頼むの〜!!」
「良いじゃん!!
蒼は、全部の費用を真琴君と割り勘何だからさ!!」
「まぁそうだけど...
ハァ......」
溜め息を漏らしながら蒼はチラッと財布を開きそっと閉じるとウッ潰しの状態になりながら、バイトでも始めるべきか?と本気で考え込んでしまうのだった。
「取り敢えず気持ち切り替えよっと」
頼んだものが運ばれてくると嬉しそうに雪菜はスプーンを手に取った。今更愚痴をこぼしてもこの状況を変えることが出来ないのだからと、鬱憤を晴らした雪菜の表情から不機嫌さは消え去っていた。
「直近の試合っていつなの??」
「来週の新人戦かな」
「応援行くね!」
「ありがと」
雪菜から新人戦の試合の日程を聞いた蒼はすぐに予定表を開くと目立つように書き込んでいく。が、ふと水泳の話になったことでこの前の寂し気な真琴の顔が蒼の脳裏でよぎった。
「あ...そういえばさ私ついこの前知ったんだけど」
「んん?」
もったいぶった蒼の言葉に興味を示した雪菜はパフェを食べる手を止めて顔を上げた。
「真琴とハルの中学時代のチームメイト、郁也なんだって!!
ビックリだよネ」
「ヘェ~
郁也とね〜」
「だからさ、ハル達と郁也に何かあったんじゃないかな?」
「まぁ生きてればすれ違いとか、あるでしょ
現に私達も少し前までそうだったしね」
「何とかならないかな?」
「それは彼ら達次第でしょ」
意外に世間って言うのは狭いものだ。
誰が彼らを昔のチームメイトだと思うだろうか?
1人で必死になってタイムを追求する郁也と、心底から泳ぐことを楽しんでいる遙達を
それとも昔は郁也もそうだったのだろうか?
そしてふとしたすれ違いで修復できないような亀裂が生じてしまったのだろうか?
全て憶測でしかないが、目の前の彼女が随分なお人好しなのは明白だ。
当事者同士の問題に関して何も知らない私達が口を突っ込むことはできないのだから。
干渉できる事ではないと赤の他人事のように吐き出した雪菜の小さく冷たい言葉は、彼女自身が掻き回したグラスに入ってる氷の音でかき消されるのだった。