番外編
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「朝だよ、起きて!!」
「……」
夢見心地の中、薄っすらと開く青年の新緑色の瞳に映るのは寝ている己を上から覗き込み声を掛ける、愛おしい彼女の姿。まだ眠い彼は無意識のうちに手を伸ばす。そして布団から出た彼の手はそのまま彼女の腕を掴んだ。
ガサッ…
「ちょっ…ちょっと!!」
「もう少し寝かせてよ…」
「…じっ…時間がっ…」
「んっ…丁度いい枕」
全く構えていなかった彼女は小さく悲鳴を上げ、そのまま呆気なくベッドに引きずりこまれる。そして彼女は一瞬のうちに青年の逞しい腕の中に収まった。モゾモゾと小動物のように動き、可愛らしい抵抗をする彼女に、青年はクスッと嬉しそうに笑みを浮かべた。そのままギュッと彼女を抱きしめた青年は安心しきり再び眠りにつこうとする。
だが……
「………て」
彼の睡眠を拒むかのように頭上から声が降り注ぐ。その声は、うまく聞き取れなかったものも今まさに抱きしめた彼女の声だった。
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不思議に感じた青年の頭にハテナが浮かび上がる。そんな彼は今度こそはっきりと聞き取ろうと耳を研ぎ澄まそうとする。
すると今度は…
「…起きて!!真琴!!」
先程よりもはっきりとした大声がした。
それとともに急激に凍てつくような寒気が彼に襲いかかってきたのだった。
*****
「んっ…」
眠たげに新緑色の瞳を瞬かせた真琴の視界一面に映るのは蒼の姿。
この光景さっき……
そう思いながら真琴は夢見心地のまま彼女に手を伸ばそうとする。
しかし…
「…さむっ!!」
身体に襲いかかる寒さで眠気は一気に吹き飛ぶ。ブルっと身体を震わせた真琴は慌ててガバっと上半身を起こした。そんな彼の姿に、蒼はケラケラと楽しげに笑いながら、持っていたものを彼へ放った。
「アハハ!
おはよー真琴」
「……おはよ、蒼」
放られたものを受け取った真琴は挨拶を返すも、訝しげな表情を浮かべた。そんな彼の予想通りの様子に、蒼はニコッと笑みを浮かべ、開口一番に突発的なことを言い出すのだった。
「とりあえず出かけるから支度して」
「へぇ!?こんな朝早くから?!」
「いいから早く早く!!
間に合わなくなっちゃう!!」
「間に合わなくなるって…なにに…」
「行けばわかるって」
楽しげに菫色の瞳を細める蒼の姿に、真琴は肩を竦め追求の口を噤んだ。そして、急かされる形で放り投げられた自分の私服に手を伸ばすのだった。
*****
「蒼…真っ暗なんだけど…」
「そりゃーそうだよ!こんな時間だし!」
「……こんな時間ね」
彼女に突かれる形で外に出た真琴。だが一面と広がる真っ暗闇に愕然とする。それはそのはず。時刻は現在、午前4時なのだから。
いったいどこに連れて行きたいのだろうか…
全く検討がつかない真琴。そんなを横目に、蒼はさらに彼が予想だにしなかったものを連れてきた。それを視界の端に捉えた真琴は頓狂な声を上げ、あたふたと慌てだした。
「え…あ…えっ!!
ちょっ!!ちょっと!!!!蒼!!!」
「なに?真琴??」
「どこから持ってきたの!?そのバイク!!」
「今日のために借りてきた!」
「借りてきたって…
そもそも免許証持ってるの?!」
「持ってるよ〜」
視界の端に映ったのは小柄で華奢な彼女に釣り合わないバイク。驚きながらも矢継ぎ早に質問をする真琴に対して、蒼は間延びした声で返答しながら免許証を提示してみせた。それをマジマジと見て確認し終えた真琴は未だに信じられないと目を白黒させた。
「いっ…いつ取ったの…」
「ついこの前!」
「俺の知らない間に!?」
「雪菜とね!」
トドメを刺した蒼は、魂が抜けかけている真琴を放置しバイクに跨りヘルメットを取り出す。
「ほら!真琴!!乗って!!」
「乗ってって…
蒼、本当に運転するの?」
「もちろん!」
「危ないよ!!」
胸を張った蒼に対して、真琴は慌てた様子で詰め寄った。そんな彼に蒼は不服げに見上げた。
「真琴は心配しすぎ」
「だっ…だって…
万が一事故に巻き込まれたり起こしたりしたら…」
「大丈夫!
真琴よりは運転上手いよ!」
「………」
痛いとこを突かれた真琴は返す言葉が見当たらず黙り込む。そんな彼に蒼はほらっとヘルメットを差し出した。
「早くして!
ホントに間に合わなくなっちゃうから!」
「…わかったよ」
大きく息を吐き出した真琴は渋々とヘルメットを受け取り彼女の後ろに跨った。そしてエンジンをかける蒼の腰におっかなびっくりに手を回すのだが、そんな彼の頼りない乗り方に対して蒼が手を出す。
「真琴、しっかり腰に回して」
「へぇ?!」
「こうやってちゃんと掴んでて!」
「わ…わかった」
蒼の指示に従い真琴は、今度こそ彼女の腰にしっかりと手を回す。だが、ビビリな彼は不安そうに蒼に声をかける。
「ね…ねぇ…」
「なに?」
「だっ…だいじょうぶ…だよね」
「へーきへーき」
「ゆっくり安全に走ってよね…」
「安全には走るけど…
時間ないから
アクセル全開で行くね!」
「うっ…うわぁぁぁ〜〜〜!!」
ビクビクする真琴の不安を一層煽る容赦ない言葉が突きつけられる。その言葉で真琴の顔は更に青褪めてしまう。だが、お構いなく蒼は一気にアクセルを上げ、道路へと飛び出した。構えていなかった真琴は振り落とされないように慌てて蒼にしがみつくと、情けない声を上げた。
だが残念なことに、真琴の悲鳴はバイクのエンジン音に掻き消されてしまうのだった。
*****
「とーちゃーく!!」
「死ぬかと思った…」
「そんな大げさな〜」
「大げさじゃないって!!」
ようやく止まったバイクから降りられた真琴は乗っていただけなはずが全速で走った後のようにハァハァと肩で息をした。そんなげんなり疲れ切った表情を浮かべる真琴とは対照的に蒼は元気いっぱいでケラケラと彼を見て笑いながら彼の手をとった。
「いっそげー!!」
「ちょ…そんな急がなくても」
「駄目!間に合わない!」
真琴の息が整うのを待たず蒼は駆け出す。当然のように真琴は引きづられる形で走りだした。
バタバタと慌ただしく駆け出す二人。その彼らの頭上の空は薄っすらと明るくなり始めていた。それを視界の端に捉えた真琴の耳に聞こえてくるのは波。その音が浜辺に打ち寄せる波の音だと気づいた真琴はようやく彼女の真意に気づく。
「も…もしかして…」
「さぁ〜ついたよ〜」
足を止めた蒼はゆっくりと振り返った。その彼女の背後には広大な海が広がっていた。
「間に合わないって…そういうだったのね」
「そ!
朝日、見せたかったんだよね!」
合点がいったとホッと胸を撫で下ろし腰を下ろす真琴に対して、嬉しげに蒼はその隣に腰掛けた。そんな二人の目の前でゆっくりと朝日が昇り始めた。
「ど?キレイでしょ??」
嬉しげに屈託のない笑顔を振りまく蒼。
その振り返った彼女の姿を、水平線から顔を覗かせた朝日が照らす。
海から吹き付ける潮風が蒼の黒髪をふわぁっと浮き上げる。
降り注ぐ朝日の光が、絹のように細い黒い髪の毛をなお一層キレイに輝かせる。
…キレイだ
その姿に真琴は嬉しそうに目を細めた。
対して真琴と同様、連れてきた蒼も
朝日が映り込んでキレイに輝く新緑色の瞳に
自分だけを見つめる優しい眼差しに
惹き込まれていた。
よかった…連れてきて…
真琴の喜んでいる様子に蒼は頬を緩める。その彼女の菫色の瞳に映る真琴の手が伸びる。その手はゆっくりと蒼の頬に添えられた。
「ありがと、蒼」
目尻を下げ、そっと言葉を紡いだ真琴は逆の手を蒼の腰に回すと彼女との距離を近づけた。そして、抱き寄せた真琴はゆっくりと唇を落とした。
「Happy Birthday 真琴」
少し顔を離す両者。だが今度は蒼が真琴の首に両手を回し、顔をグッと近づけた。そして、嬉しげに大事に言葉を紡ぐと、自ら本日の主役に口づけをする。
そんな彼らを祝福するかのように、昇り始めた朝日が優しく照らすのだった。
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